運動量という物理量を知っているか?運動エネルギーとの違いはわかるかな?
かなり昔に、このエネルギーと運動量をめぐっていわゆる[活力論争」が繰り広げられたんです。しかも、何十年もの長きに渡ってだ!

運動量という物理量を理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/eastflower

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。長年の「活力論争」の激しい議論の結果を教科書は数行で終える、これでは面白さをあまり感じなくても仕方がないかもしれない…。

運動量とはなにか

image by iStockphoto

かつては物体が運動しているとき、物体は「力」を持つと考えられていた時期もあったのです。今から考えると奇妙な感もする物体のもつ「力」?(後に「活力」= 物体の持つ勢いのようなもの)をどのようにあらわすのか、という科学史でも有名な論争が行われました。これが、いわゆる「活力論争」で、この論争は100年近くも続けられたのです。

まず、16世紀後半にデカルトが提唱した、運動する物体の持つ「力」・・・後に「活力」・・・は 質量×速さ mv で示すべきであるという考えを示しました。(当時はまだ物理概念が今ほど明確ではなく、力や質量といった概念もまだ不明瞭でした)

それに対して、ライプニッツが、活力を表すには 質量×速さ2   mvが適当であるとしたことから始まります。なぜ速度の二乗かというと、物体を打ち上げたときその上昇する高さは初速度の二乗に比例することが知られていたからです。この論争はその後、ダランベールにより一応の決着を見ることになりました。

皆さんご存知だと思いますが、前者は運動量、後者はエネルギーの原型ということができます。

運動量と力積

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さて、ニュートン運動の第2法則から考えてみましょう。
ニュートン運動の第2法則は ma = F で示されますね。ここで、運動の式を考えて見ます。加速度 a 、初速度 Vo として、t 秒後の速度 V とする式から、加速度 a を ma = F に代入してみましょう。

image by Study-Z編集部

そうすると左辺に mV が現れました。これこそが、デカルトのいう「活力」だったのです。いっぽう、他の運動の関係式から次のようにも変形が可能ですね。

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この式の左辺には 1/2 がつきますがライプニッツの主張である 質量×速さ2 が表れています。

これは右辺を見れば 力×時間(F×t)、力×距離(F×x)の違いということですね。 F×t のときに質量×速さ が変化し、F×x の時には (質量×速さ2 )/2 が変化するといっているのです。すなわち、ニュートンの運動方程式から変形したのですから、どちらも正しいといえるでしょう。現代では前者を「運動量」、後者を「運動エネルギー」とよんでいます。

また、力×時間(F×t)を力積、力×距離(F×x)を仕事 と呼ぶことにしました。つまり、力積を加えると物体の運動量が変化し、仕事を加えると物体の運動エネルギーが変化するといっているわけです。

\次のページで「運動量保存則」を解説!/

では運動量と力積について具体的に示します。次の図を見てください。

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質量mの物体が力Fを t 秒間受けています。このとき、その速度はVからVoに変化しました。
そうすると

mV - mVo = Ft 

が成り立つということです。

運動量保存則

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次に2つの物体が一直線上で衝突する場合を考えます。
図にあるように、質量m1・速度V1の物体が質量m2・速度V2 の物体に衝突し、その結果、同一直線上で速度V1'および速度V2'になったとしましょう。外部から物体を押したり引いたりする力はかかっていません。

この2物体が接触する時間を t としましょう。このとき、二つの物体は衝突時にお互いに t 秒間力 F を及ぼしあいます。質量m1の物体は進行方向反対向きに F の力を受けるとするならば、作用反作用の法則から質量m2の物体は進行方向に F の力を受けることになるのです。

では、それぞれ物体について、独立に運動量と力積の式を立ててみましょう。その上で辺々足してやります。

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最後に得られた式

m1V1 + m2V2 = m1V1’ + m2V2’ 

つまり、質量m1の物質とm2の物体をひとまとめにして考える場合、衝突の前後でそれぞれの物体の運動量を足し合わせたものがイコールである(すなわち保存されている)ということを意味しているのです。これを運動量保存則といいます。

このとき、作用反作用の法則が必ず成り立っている必要があることに注意してください。でなければ右辺が 0 になりません。もう一つ大事なことがあります。それは、作用反作用の力はお互いにまったく同時にはたらかなければならないということです。つまり相手がへこんでから反撃するというようなタイムラグがありません。でないとこの保存法則は成り立たないでしょう。
さらに、

運動量保存則は外部から系に力がはたらかない限りどのような場合も成立するということです。それは先ほどの式変形において、お互いの力積の和が作用反作用により常に0になってしまうことから明白ですね。ですので、カチーンとはねる場合もグニャッと当たる場合も必ず運動量の総和は保存されています。

注意ですが、速度はベクトル量なので運動量(mV)も力積(Ft)もベクトル量です。問題を解く上ではベクトル量であることを考えて正負に気をつけてください。

また、ビリヤードの玉突きのような平面上の衝突についても運動量保存則は成り立っています。この場合は、x-y 方向に分解して考えるか、ベクトル図で考えてください。

分裂時の運動量保存則

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物体が爆発したり、分裂するようなときも運動量保存則は成り立っています。

では、静止していた物体が爆発して2つに分裂した場合の運動量保存の式を立てて見ましょう。

\次のページで「運動量は保存する!」を解説!/

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このとき静止していたのだから最初の運動量は0ですね。図の右向きを + とした場合次の式が成り立ちます。

0 = -m1V1 + m2V2

爆発の具合がどうであろうとこの運動量総和は必ず0のままです。また、分裂前に運動していた場合は、左辺の 0 の代わりに分裂前の運動量を入れてください。

運動量は保存する!

系に外力が作用しない限り、運動量は必ず保存する。

系(対象にする世界)を広げてもかまわないので、極端に言えば宇宙全体の運動量総和は保存されています。いままで、運動量保存則に反する事例は見つかっていません。

昔、β崩壊という現象を観察しているときに、運動量保存法則が破れているのが見つかったのですが、後に新たな粒子(ニュートリノ)が運動量を持ち去っていることがわかりました。というか、運動量保存則やエネルギー保存則が成り立つように考えたら新しい粒子の可能性に気が付いたといってもいいかもしれません。

現在、科学者たちは広大な宇宙から極微な世界においても運動量保存則は自然を支配する根本法則だと考えていますが、これから先、反例は見つかるでしょうか。

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物理物理学・力学理科

「運動量保存の法則」はこの世の掟か?理系ライターがわかりやすく解説

運動量という物理量を知っているか?運動エネルギーとの違いはわかるかな?
かなり昔に、このエネルギーと運動量をめぐっていわゆる[活力論争」が繰り広げられたんです。しかも、何十年もの長きに渡ってだ!

運動量という物理量を理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/eastflower

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。長年の「活力論争」の激しい議論の結果を教科書は数行で終える、これでは面白さをあまり感じなくても仕方がないかもしれない…。

運動量とはなにか

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かつては物体が運動しているとき、物体は「力」を持つと考えられていた時期もあったのです。今から考えると奇妙な感もする物体のもつ「力」?(後に「活力」= 物体の持つ勢いのようなもの)をどのようにあらわすのか、という科学史でも有名な論争が行われました。これが、いわゆる「活力論争」で、この論争は100年近くも続けられたのです。

まず、16世紀後半にデカルトが提唱した、運動する物体の持つ「力」・・・後に「活力」・・・は 質量×速さ mv で示すべきであるという考えを示しました。(当時はまだ物理概念が今ほど明確ではなく、力や質量といった概念もまだ不明瞭でした)

それに対して、ライプニッツが、活力を表すには 質量×速さ2   mvが適当であるとしたことから始まります。なぜ速度の二乗かというと、物体を打ち上げたときその上昇する高さは初速度の二乗に比例することが知られていたからです。この論争はその後、ダランベールにより一応の決着を見ることになりました。

皆さんご存知だと思いますが、前者は運動量、後者はエネルギーの原型ということができます。

運動量と力積

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さて、ニュートン運動の第2法則から考えてみましょう。
ニュートン運動の第2法則は ma = F で示されますね。ここで、運動の式を考えて見ます。加速度 a 、初速度 Vo として、t 秒後の速度 V とする式から、加速度 a を ma = F に代入してみましょう。

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そうすると左辺に mV が現れました。これこそが、デカルトのいう「活力」だったのです。いっぽう、他の運動の関係式から次のようにも変形が可能ですね。

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この式の左辺には 1/2 がつきますがライプニッツの主張である 質量×速さ2 が表れています。

これは右辺を見れば 力×時間(F×t)、力×距離(F×x)の違いということですね。 F×t のときに質量×速さ が変化し、F×x の時には (質量×速さ2 )/2 が変化するといっているのです。すなわち、ニュートンの運動方程式から変形したのですから、どちらも正しいといえるでしょう。現代では前者を「運動量」、後者を「運動エネルギー」とよんでいます。

また、力×時間(F×t)を力積、力×距離(F×x)を仕事 と呼ぶことにしました。つまり、力積を加えると物体の運動量が変化し、仕事を加えると物体の運動エネルギーが変化するといっているわけです。

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