平安時代日本史歴史

日本最古の小説『竹取物語』を歴史マニアが5分で解説

竹から生まれたかぐや姫

かぐや姫や桃太郎のように通常ではない生まれ方をする話を「異常出生譚」といいます。そして、このように生まれてくるものは、えてして特異な能力を持つ、あるいは、成長後の英雄譚がつきものです。かぐや姫の場合は、「成長が早い」「尋常ならざる美貌」「月の姫君」が特異点となりますね。

また、かぐや姫が生まれた「竹」も重要なアイテムでした。そもそも竹は古来から日本各地に自生しており、遺跡から竹細工の品が出土していることもあって、昔から生活の中に深く根付いていたことがわかります。七夕の竹やお正月の門松、あるいは地鎮祭で使われたりと現代でも儀式的なところに風習が残っていますね。

竹は冬でも枯れず、成長が早く、さらに繁殖もすさまじいことから繁栄の象徴とされています。「空洞には神様が宿る」と伝承もあり、竹は古くから神聖視されてきたのです。

余談ですが、桃太郎は桃から生まれますよね。桃は魔を払う神聖な果物とされているからなんです。これは『古事記』でイザナギノミコトが黄泉の国から逃げる際に黄泉醜女たちに投げて退けたことに由来します。ついでに、イザナギノミコトの逃亡途中にはタケノコも登場しますので、ここでも竹が活躍しているのです。

異常出生譚に関わる高僧たち

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By Toriyama Sekien – scanned from ISBN 4-0440-5101-1., パブリック・ドメイン, Link

通常ではない生まれ方をしたのが、かぐや姫や桃太郎など100パーセントおとぎ話だけのものかと言うと、そうでもありません。異常出生譚のひとつに「墓中出生譚」というものがあります。懐妊中の母親が亡くなり、お墓の中で子どもが産まれる、というものでちょっとした怪談としても語られてきました。

墓中出生の類話にあるのが「子育て幽霊」。お墓の中で産んだ赤ん坊のため母親の幽霊が飴を買いに出たのをきっかけに出産が発覚するというもの。ただし、この怪談はオチには「子どもは後に高僧となった」と続くものが多いのです。この伝説を持つ僧侶としては天台宗の頭白上人、曹洞宗の通幻寂霊など、実際に存在した僧の名前が上がります。このように、異常な生まれという存在は昔から「特別な人間」が生まれた証左とされてきたのです。

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異常出生譚は世界各地の神話や民話にも多く採用されている。人に理解できない超常的な出産は、特別な子どもが産まれたと周囲に知らしめるんだ。仏教のお釈迦様も異常出生で、母親の腋から生まれた。他にも動物の姿で生まれてくる話(ミノタウロス)なんかもあるぞ。

どうしても結婚したくなかった―求婚難題説話―

image by PIXTA / 47044239

おじいさんに促されながらも、誰とも結婚しなかったかぐや姫。いつまでも諦めずに求婚を続ける五人の貴公子を断ち切るために、かぐや姫は難題をふっかけます。

五人の貴公子たちの正体

あらすじをなるべく簡潔にするために省略したのですが、実は、この五人の貴公子たちは672年の「壬申の乱」に関わった貴族がモデルとなっています。しかも、そのうち三人はそのまま実名で!(現代なら親族から訴えられるかも)

「壬申の乱」は古代日本における最大の内乱とされています。天智天皇の息子・大友皇子が皇位を継ぐのですが、弟の大海人皇子(後の天武天皇)がクーデターを起こして天皇の座を奪い取ってしまうんですね。平安時代初期は壬申の乱からおおよそ100年後。それも乱で戦った子孫たちが朝廷で政権を取っている時代ですから、『竹取物語』が発表された当時は生々しさがあったことでしょう。

モデルとなった阿倍御主人、大伴御行、石上麻呂は実名で、あとのふたりについては江戸時代の国学者・加納諸平が、車持皇子は藤原不比等、石作皇子は多治比嶋(たじひのしま)ではないかと指摘しています。藤原不比等は時の権力者藤原家の家祖、多治比嶋は宣化天皇の血を引いていますから、堂々と書くことができなかったのでしょう。

入手困難な宝を求めて

五人の貴公子から熱烈な求婚を受けたかぐや姫。しかし、彼女は誰を選ぶこともなく、五人の愛情の深さを計るためだと入手困難な宝を探してくるように言い渡しました。このように一筋縄でいかない無理難題を課す求婚話を「課題婚」といい、日本神話にも採用されています。本来なら、難題を課された男性が女性の助けなどを借りることでクリアするのですが、『竹取物語』では真逆をいっていますね。

阿倍御主人には「火鼠の裘」、大伴御行には「龍の首の珠」、石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」、車持皇子には「蓬莱の玉の枝」、石作皇子は「仏の御石の鉢」。どれも聞いたことのないような、あるいは伝説上のアイテムです。これでどうなったかと言うと、阿部御主人は偽物を掴まされ、大伴御行と石上麻呂は脱落、車持皇子と石作皇子は嘘をついてやりこめようとしました。中でも酷いのが車持皇子で、職人に命じて蓬莱の玉の枝を作らせるのですが、その代金を支払わなかったために、もう少しのところで嘘がバレてしまいます。

この章は古代より伝わる課題婚を踏襲しながらも、セオリーを外してくるところにユーモアがあり、またこっそり政治家への批判を織り交ぜているのです。

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