現代物理学は20世紀にはいってから急激に発展したんですが、あのアインシュタイン、ボーア、ハイセンベルク、シュレーディンガー、ド・ブロイ・・・キラ星のごとく天才たちの活躍した時代だったんです。

そんな天才たちの業績の中から、今回はルイ・ド・ブロイ が提唱した物質波について理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。

ルイ・ド・ブロイはどんな人?

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By 不明 - http://www.physics.umd.edu/courses/Phys420/Spring2002/Parra_Spring2002/HTMPages/whoswho.htm, パブリック・ドメイン, Link

ルイ・ド・ブロイという人をご存知ですか?アインシュタインは誰しもその名前を聞いたことがあるでしょう。ド・ブロイはそれほど有名な人ではないかもしれませんが、ノーベル物理学賞を受賞している高名な物理学者です。

ド・ブロイはその名前についている「ド」が示すようにフランス貴族階級の出身なのですが、ちょっと変わった経歴の持ち主で最初は歴史を勉強していました。その後、兄の影響で物理学に強い興味を持ち、大学で学びなおしたのです。

祖父は、フランスの首相を務めた人物でもあります。まあ、世間でよく言う名門の出といっていいでしょう。彼の兄は実験物理学者でしたが、彼は理論物理学の分野で活躍しました。二人は自宅に研究室を設置して物理学の研究に励んだといいます。

ド・ブロイの功績

ド・ブロイの研究内容を理解するにはアインシュタインによる光量子仮説を理解する必要があります。アインシュタインは波であるとされていた光に対して、粒子性を仮定し見事に「光電効果の実験の謎」を解いたのです。これが物理学が大きな発展を遂げるキッカケとなりました。

ド・ブロイは何を研究してノーベル賞をもらったのでしょうか?

ド・ブロイのノーベル賞受賞理由は「電子の波動性の発見」1929年。それまで粒子であることを誰も疑わなかった電子に波動性があることを発見したのです。

このあたりのことについては、以下の記事が参考になります。

電子の波動性に伴う波とは

image by iStockphoto

少しだけ式を使って考えていきましょう。

まず、アインシュタインの光量子仮説からです。
アインシュタインは「光電効果」の研究から、光子に粒子性があることを提唱しました。そのとき、振動数νの光子1個のもつエネルギーEは

image by Study-Z編集部

と示されます。これは光子のエネルギーはその振動数が高いほど大きいといっているのです。( h はプランク定数という定数)

また、光子の運動量pは光速をc、光子エネルギーをEとして、

image by Study-Z編集部

ということがわかっています。
ところで、光の振動数νと波長λの間には c=νλ の関係があり、波動一般における関係式です。したがって、

image by Study-Z編集部

ですね。

では次にド・ブロイの考えた電子波についてみていきます。
速さv、質量mである電子の運動量は mv です。

この電子の運動量を示す式を光子の運動量の式へ代入します。
そうすると、

image by Study-Z編集部

となります。ド・ブロイは、電子がこのλを波長とする波動性を持つと予言したのです。当時は、電子が粒子であるとことに疑いがないと考えられていました。

この仮説はド・ブロイの博士論文として提出されたものでしたが、指導教官たちには判断がつかなかったのでしょう、アインシュタインにこの論文を送り意見を求めています。

この電子の波動性ですが、後にデビッソン・ガーマーらがニッケルの結晶に電子を照射する実験を行い、波動性を示す回折・干渉模様を得ました。これらの実験により、もはや電子の波動性が疑いのないこととなったのです。

この電子の波動性は電子顕微鏡としていかされています。
光学顕微鏡は光の波長が 10-7 m 程度ですから、それ以下の物質をみるとぼやけてしまいうまく見えません。しかし、電子の波長は λ=h/mv であるので電子の速さvを大きくすればするほど短くなります。したがって、電子の速さをコントロールすることで、さらに分解能をあげることができるのです。

\次のページで「物質波とは」を解説!/

物質波とは

image by iStockphoto

他の粒子、中性子・陽子についてはどうでしょうか。実際、全ての粒子は波を伴います。さらに、質量と速さの積でプランク定数を割ったものが波長ですから、すべての物質は同様に波を伴うのです。これらは物質に伴う波であることから物質波、ド・ブロイ波といわれています。また、このときの波長 λ をド・ブロイ波長と呼ぶのです。

ということはわれわれの体も全て物質からできているわけですから、波動性を持つはずですね。つまり、私たちの体もすべて波からできているということです。

ところで、物質波となんでしょうか。このことについては現在でも議論が続けられており、いまのところみなさんが思い描けるような直感的イメージはありません。

不思議な量子の世界

先ほど述べたように、電子の波動性を示す実験はニッケルの結晶に電子をあてて、その回折・干渉像を得たことです。

みなさんはこう考えるかもしれません。電子が波動性を持つので、二つ以上の電子がその個々の波動性により干渉しているのではないか、と。

しかし、実際は全く違うものなのです。

電子による二重スリット実験

日立の研究員であった外村彰氏は電子の波動性の実験の追試に成功しています。電子の波動性の実験はすでに行われていますが、外村氏の実験はさらに驚くべき現象をみせてくれました。これはいわゆる二重スリットの実験といわれるものです。

ヤングの実験を覚えていますか。これは二重スリットを通った光がその波動性によりスクリーンに干渉縞を生じるものです。これにより光の波動性が確かなものとして認められたものでした。

これと同様な実験を電子でやろうというのです。

Double-slit.svg
By 原画(原紙)(原文): NekoJaNekoJa Vector: Johannes Kalliauer - File:Double-slit.PNG, CC 表示-継承 4.0, Link

外村氏は電子の二重スリットの実験において、スリットに向けて電子を飛ばすとき、装置の中にそのときどきでたった1個の電子しかない状態を作り出しました。そうすると、電子はポツリ・ポツリとスクリーン上にその痕跡を示していきます。ポツリというのはまさしく電子が粒子性を見せているということです。

これでは、さすがに干渉しないだろうと思われるかもしれません。電子1個は二つあるスリットのどちらかを通ったに違いないと考えられるからですね。しかし、不思議なことに長い間電子を飛ばし続けてやると最初はランダムに見えたスクリーン上の電子の痕跡が、見事な縞模様を見せるのです。

次の図をみてください。最初はポツリポツリと姿を見せていた電子が、その数が多くなるにつれ干渉模様を描き出していく様を捉えています。

Doubleslitexperiment results Tanamura 1.gif
By Dr. Tonomura, CC 表示-継承 3.0, Link

電子はたった1個だけが装置内にあるようにして送り込まれていることを忘れないでください。ですので二個以上の電子同士が干渉したのではありません。

これは1個の電子が両方のスリットを通り、干渉したとしか考えられない現象です。

\次のページで「二重スリットの不思議」を解説!/

二重スリットの不思議

次に、電子を1個飛ばすごとに、スリットを片方だけ開け他は閉じるという操作を交互に行い、同様の実験をやってみると、とたんに干渉模様は消失してしまいます。

では、スリットは二つあけておいて、検知器をスリットのところに設置し、電子がどちらのスリットを通ったかを観測してやればどうでしょうか。

残念ながらやはり干渉模様は消失してしまいます。

干渉縞を観測するには、スリットを二つあけて電子を飛ばし、さらに見ないように(観測しないように)する必要があるのです。

これは観測することで電子に影響を与えてしまうからだとされています。
しかし、光でも何でも電子に当てないことには観測はできませんね。結局電子の振る舞いというのはすべてを正確に観測することは不可能ということになるのです。

まとめ

世の中の物質はその質量と速さに関係した波を伴っています。これが物質波、ド・ブロイ波です。

プロ野球選手の投げるボールにも、ド・ブロイ波が付随するのですが、日常われわれの世界のオーダーでは全く観測することはできず、したがって影響はありません。

われわれのすむ日常の世界ではニュートン力学で十分なのです。しかし、極微の世界ともなるともはや量子力学を適用しないと現象を理解することはできません。半導体技術は量子力学の賜物なのです。

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物理理科

3分で簡単「物質波」!ド・ブロイが提唱した物質波を理系ライターがわかりやすく解説


現代物理学は20世紀にはいってから急激に発展したんですが、あのアインシュタイン、ボーア、ハイセンベルク、シュレーディンガー、ド・ブロイ・・・キラ星のごとく天才たちの活躍した時代だったんです。

そんな天才たちの業績の中から、今回はルイ・ド・ブロイ が提唱した物質波について理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。

ルイ・ド・ブロイはどんな人?

ルイ・ド・ブロイという人をご存知ですか?アインシュタインは誰しもその名前を聞いたことがあるでしょう。ド・ブロイはそれほど有名な人ではないかもしれませんが、ノーベル物理学賞を受賞している高名な物理学者です。

ド・ブロイはその名前についている「ド」が示すようにフランス貴族階級の出身なのですが、ちょっと変わった経歴の持ち主で最初は歴史を勉強していました。その後、兄の影響で物理学に強い興味を持ち、大学で学びなおしたのです。

祖父は、フランスの首相を務めた人物でもあります。まあ、世間でよく言う名門の出といっていいでしょう。彼の兄は実験物理学者でしたが、彼は理論物理学の分野で活躍しました。二人は自宅に研究室を設置して物理学の研究に励んだといいます。

ド・ブロイの功績

ド・ブロイの研究内容を理解するにはアインシュタインによる光量子仮説を理解する必要があります。アインシュタインは波であるとされていた光に対して、粒子性を仮定し見事に「光電効果の実験の謎」を解いたのです。これが物理学が大きな発展を遂げるキッカケとなりました。

ド・ブロイは何を研究してノーベル賞をもらったのでしょうか?

ド・ブロイのノーベル賞受賞理由は「電子の波動性の発見」1929年。それまで粒子であることを誰も疑わなかった電子に波動性があることを発見したのです。

このあたりのことについては、以下の記事が参考になります。

電子の波動性に伴う波とは

image by iStockphoto

少しだけ式を使って考えていきましょう。

まず、アインシュタインの光量子仮説からです。
アインシュタインは「光電効果」の研究から、光子に粒子性があることを提唱しました。そのとき、振動数νの光子1個のもつエネルギーEは

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