今回は「ノルアドレナリン」についての解説です。副腎髄質から分泌されるホルモン「アドレナリン」とよく似た名前の物質ですが、両者の違いをきちんと説明できるでしょうか?

今回も、生き物のからだに詳しい現役講師兼ライターのオノヅカユウを招いた。ノルアドレナリンについてしっかり学習しよう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ノルアドレナリンの基礎知識

高校で習う生物学で、一度は名前を耳にする「ノルアドレナリン」。副腎から分泌されるホルモンである「アドレナリン」とよく似た名前であるため、混乱してしまう受験生も少なくありません。ノルアドレナリンとはいったいどんな物質なのでしょうか?

ノルアドレナリンができるまで

ノルアドレナリン
By NEUROtiker - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

ノルアドレナリンは、チロシンというアミノ酸からつくられる物質(アミン)の一種です。その姿かたちは、同じくアミンの仲間であるアドレナリンとよく似ています。何を隠そう、アドレナリンはノルアドレナリンの一部が変化してできた物質なんです。

私たちの体内で、チロシン(L-チロシン)というアミノ酸が酵素のはたらきを受け、ドーパ(L-ドーパ)という物質になります。ドーパは、さらに別の酵素によって「ドーパミン」となり、ドーパミンがまた別の酵素によって変化させられた物質が「ノルアドレナリン」です。そして、ノルアドレナリンがもう一段階、酵素によって手を加えられると「アドレナリン」が完成します。

チロシン(L-チロシン)
 ↓
ドーパ(L-ドーパ)
 ↓
ドーパミン
 ↓
ノルアドレナリン
 ↓
アドレナリン

\次のページで「「ノル」=「normal」」を解説!/

もともと材料が同じという点を考えれば、ノルアドレナリンとアドレナリンの構造がそっくりであることも納得できますよね。ノルアドレナリンとアドレナリンは「きょうだい」のような存在、と考えることもできるでしょう。

「ノル」=「normal」

ノルアドレナリンの「ノル」は、「normal(ノルマル)」からきています。化学の命名法では、「ノル」には『正規の化合物』や『基本の化合物』という意味があり、類似した物質の中でもとくにシンプルな構造の物質名に与えられる言葉です。

ノルアドレナリンの構造の一部に「メチル基」というパーツをくっつけたものがアドレナリン。そういった意味では『アドレナリンの原型がノルアドレナリン』というイメージも浮かびます。

ノルアドレナリンのはたらき

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私たちのからだの中で、ノルアドレナリンはおもに「神経伝達物質」としてはたらいています。体内には複数の神経伝達物質が存在しますが、ノルアドレナリンはとくによく使われる物質であり、「三大神経伝達物質」のひとつに数えられるほどです。

神経伝達物質とは?

私たちの体内で迅速な情報のやり取りができるのは、神経細胞(ニューロン)のネットワークのおかげです。

1つの神経細胞の長さはさまざまですが、神経細胞と神経細胞の間には隙間(シナプス)があり、ここで神経細胞間の情報伝達を行っているのが神経伝達物質。神経細胞内でつくられ、次の細胞に向かって放出されることで次の神経細胞を興奮させたり、逆にはたらきを抑制させたりすることができます。

ノルアドレナリンがはたらくのはどんなとき?

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ノルアドレナリンが神経伝達物質として合成・放出されるのは、自律神経系の交感神経。とくに、激しい運動をするときや、ストレスを感じた時に放出され、交感神経が活発にはたらくようになります

交感神経が活発になると、心拍数や血圧の上昇が起こり、体は「いつでも戦える!」「いつでも逃げ出せる!」というような、アクティブな状態に。これって、副腎髄質からアドレナリンが分泌される状況によく似ていますよね。ノルアドレナリンも「闘争や逃走(Fight and Flight)」の場面ではたらく神経伝達物質なのです。

高校の生物の教科書にはあまりはっきりと書かれていませんが、ノルアドレナリンは副腎髄質からホルモンとしても分泌され、血圧の上昇などをもたらします。そう、アドレナリンと同じ場所から、同じような作用をするために分泌されるのです。

ノルアドレナリンとアドレナリンは、良く似た物質であるからこそ、似たようなはたらきをするのでしょう。なお、ヒトの場合は、これらのホルモンが副腎髄質から分泌される場合、アドレナリンのほうがノルアドレナリンよりも多く分泌されます。そのためか、「アドレナリン=ホルモン」「ノルアドレナリン=神経伝達物質」としか紹介されていない参考書も少なくないです。

ノルアドレナリンの過不足はさまざまな病気を引き起こす

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ノルアドレナリンは、現代の私たちが抱える「ストレス」や、日本のみならず世界中で患者が増えている「うつ病」などの疾患と深い関係があることがわかっています。

ノルアドレナリンとストレス

ストレスとは、環境の変化などによって、心や体に通常よりも負荷がかかること。ストレスを受けると、神経伝達物質としてのノルアドレナリンの分泌が高まることが知られています。

皆さんにとってのストレスの原因は「過度な仕事や勉強」「学校や会社での人間関係」などが多いのではないでしょうか?自然界の動物にとっては「敵や捕食者」「不快な環境」などがストレスをもたらす大きな原因。そんなとき、動物はすぐに臨戦態勢をとったり、逃げ出したりしなくてはいけません。ストレスを感じた時にノルアドレナリン分泌が増えるのは、正常なことなんです。適度なノルアドレナリンは、物事に対する集中力を高めたり、積極的な行動を起こしやすくしてくれます。

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ストレスがかかり続け、ノルアドレナリンの分泌が高い状態が続くと、健康にも悪影響。血圧が高く、覚醒したような状態が続き、不眠や攻撃性の増加などの症状が現れます。突然のめまいや動悸に襲われる「パニック障害」は、このノルアドレナリンの過剰によるものといわれているんです。

ノルアドレナリンとうつ病

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ノルアドレナリンの不足も、私たちのからだに深刻な影響をもたらします。前述の通り、適切な量のノルアドレナリンには、集中力を高めたり、積極性な行動を起こすのに役立ちますが、不足すると「やる気」や「集中力」が低下してしまうんです。

ノルアドレナリンの分泌が低下してしまうのは、ノルアドレナリンがうまく合成できなくなることや、分泌したノルアドレナリンが隣の神経細胞へうまく受け渡されないことが原因ではないかといわれています。

これは、日本で何万人もの人が苦しんでいる「うつ病」の原因の一つ。ノルアドレナリンにくわえ、ノルアドレナリンの材料となる「ドーパミン」や、同じくアミンである神経伝達物質「セロトニン」などの分泌量の変化が、このような症状をもたらすと考えられているんです。

ストレスの多い現代、ノルアドレナリンについての知識は大切!

私たちの体内はさまざまなホルモンや自律神経の微妙なバランスの上に成り立っています。そのバランスを維持するのが『恒常性』ですが、これってとてもすごいことなんです。

ノルアドレナリンの過剰・不足がもたらす体の不調は、現代の日本人が悩む数々の疾患につながります。ノルアドレナリンについて知っておくことは、受験生のみならず社会人にとっても重要でしょう。

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単にわかる!「ノルアドレナリン」とはどんなホルモン?特徴や作用を現役講師がわかりやすく解説!

今回は「ノルアドレナリン」についての解説です。副腎髄質から分泌されるホルモン「アドレナリン」とよく似た名前の物質ですが、両者の違いをきちんと説明できるでしょうか?

今回も、生き物のからだに詳しい現役講師兼ライターのオノヅカユウを招いた。ノルアドレナリンについてしっかり学習しよう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ノルアドレナリンの基礎知識

高校で習う生物学で、一度は名前を耳にする「ノルアドレナリン」。副腎から分泌されるホルモンである「アドレナリン」とよく似た名前であるため、混乱してしまう受験生も少なくありません。ノルアドレナリンとはいったいどんな物質なのでしょうか?

ノルアドレナリンができるまで

ノルアドレナリン
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ノルアドレナリンは、チロシンというアミノ酸からつくられる物質(アミン)の一種です。その姿かたちは、同じくアミンの仲間であるアドレナリンとよく似ています。何を隠そう、アドレナリンはノルアドレナリンの一部が変化してできた物質なんです。

私たちの体内で、チロシン(L-チロシン)というアミノ酸が酵素のはたらきを受け、ドーパ(L-ドーパ)という物質になります。ドーパは、さらに別の酵素によって「ドーパミン」となり、ドーパミンがまた別の酵素によって変化させられた物質が「ノルアドレナリン」です。そして、ノルアドレナリンがもう一段階、酵素によって手を加えられると「アドレナリン」が完成します。

チロシン(L-チロシン)
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ドーパ(L-ドーパ)
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ドーパミン
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ノルアドレナリン
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アドレナリン

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