今回はマックスウェル方程式について解説していきます。マックスウェル方程式は電磁気学を勉強する上で基礎となる方程式群です。電磁気学にまつわる現象はどれも、この方程式を用いて説明することができる。

ここからはマックスウェル方程式に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/eastflower

10年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は電磁気学の基本となるマックスウェル方程式についてまとめた。

マックスウェル方程式とは

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マックスウェル方程式は、電場と磁場(両方を合わせて電磁場と呼びます)の振る舞いを記述した4つの方程式からなります。古くから電気と磁力の実験は多く行われ、その度に様々な法則が発見されてきました。そして、それらの法則を4つの方程式という数学的に整った形で整えたのが、マックスウェル方程式です。

それぞれの方程式には名称が別についているのですが、イギリスの物理学者であるジェームズ・クラーク・マックスウェルによりまとめられたため、「マックスウェル」という名前がついています。ちなみにマックスウェルは熱力学第二法則の思考実験「マックスウェルの悪魔」を生んだ人物としても有名です。

Eを電場、Bを磁場とすると、マックスウェル方程式は具体的に次のような式になります。

▽・B(t, x) = 0(磁束保存の式)

▽×E(t, x) + ∂B(t, x)/∂t = 0(ファラデー・マックスウェルの式)

▽・D(t, x) = ρ(t, x)(ガウス・マックスウェルの式)

▽×H(t, x) - ∂D(t, x)/∂t = j(t, x)(アンペール・マックスウェルの式)

ここでtは時間、xは電磁場の座標、D=εE(εは真空の誘電率)、ρは電荷密度、B=μH(μは真空の透磁率)、jは電流密度を示します。

数式がたくさん出てきましたが、その中でも見慣れないものについて簡単に解説していきますね。

まずは「▽・」という数式です。これは別名「div」とも表記し、英語の「Divergence」(訳すと発散)を意味しています。何らかの中心点から四方八方に線が飛び出してくるイメージで、地面から水が湧き出るような場面を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

次に「▽×」という数式について見ていきます。これは「rot」とも書き、「Rotation」(訳すと回転)という意味です。電場Eも磁場Bも向きと大きさを持ったベクトルで表されますが、▽×はそのベクトルの向きに沿って右ネジを巻くような回転を示しています。

磁束保存の式

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これは磁場がどのような構造をもっているのかを示した方程式になります。▽・Bというのは、磁場Bの発散を示しているのですが、磁場Bが発生源から地下水のように湧き出ているところを想像すると分かりやすいでしょう。方程式ではこれが0だと言っています。

すなわち、磁場には電荷のように発生源となるものがない、ということです。さらに言い換えると、磁場には始まりも終わりもなく(永遠にS極とN極が交互に繰り返される)、片方の磁気(SまたはN極)をもったモノポールのようなものが存在しない、ということを表します。

ちなみに、このモノポールは磁気単極子とも呼ばれ、インフレーション理論や素粒子論からその存在が予言されているものの、今だに見つかっていません。もし発見されれば、この方程式の右辺にはなんらかの磁気密度が加わることになります。

\次のページで「ファラデー・マックスウェルの式」を解説!/

ファラデー・マックスウェルの式

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この方程式は、磁場の時間変化と電場の関係を示したものです。少し方程式の形をいじって、磁場の時間変化の項を右辺に移動させましょう。さらに符号を整理すると次のようになりますね。

-▽×E = ∂B/∂t

左辺は電場Eの進む方向とは逆方向に右ネジを巻くような回転を示しています。それと右辺にある磁場の時間変化が等しいということは、電場と逆向きに右ネジを巻くような回転方向に磁場が生じ、その大きさは磁場の時間変化分と同じになる、ということです。

これはファラデーの電磁誘導の法則を方程式にしたものになります。電磁誘導は、磁場が変化する環境に金属のような導体を置くと、その導体に電位差(電圧)が生じ電流が流れる、という現象です。

ガウス・マックスウェルの式

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これは電場と電荷密度の関係を示した方程式です。電荷密度は単位体積あたりの電荷の分布を表しています。この方程式にも▽・Dが登場しますが、磁束保存の式の場合と同じように、電場E(=D/ε)が湧き水のように流れ出している様子をイメージしてみましょう。今回は右辺に電荷密度ρがあります。したがって、電場Eの発生源は電荷である、ということです。

これはガウスの法則を言い換えたものに相当します。ガウスの法則とは次のようなものです。

電場中のある閉曲面を考えると、その曲面を貫く電気力線の総和は、閉曲面内の全電荷量に等しい。

閉曲面の一番簡単な例は球体です。なので、よりシンプルにガウスの法則を言い直すと、ある球体の中心に電荷があった場合、球体の表面を貫く電気力線の数を全て足しあげると中心の電荷と等しくなる、となります。電気力線の総和は電場に他ならないので、まさしくマックスウェル方程式の意味するところと一致しますね。

アンペール・マックスウェルの式

この方程式は電流と電場、磁場の三つの物理量の関係性を示したものになります。電流によって磁場が生じるというアンペールの法則に、変位電流という電場の時間変化により発生した電流を加えた形です。

アンペールは2本の金属棒を用意すると、そこに電流Iを流し、金属棒の間に働く力を観測しました。すると、電流の方向を右ネジの進む方向として右ネジの回る向きに磁場が生じることを発見したのです。さらにそこに電場が加わったとしましょう。電場の時間変化は変位電流を生むので、上手く調整して金属棒に沿って変位電流が流れるようにすると、それがまた磁場を作ります。数式的に表現すると、

▽×B = I + ∂E/∂t

となり、マックスウェル方程式に近い形をとることがわかるでしょう。実際には誘電率εや透磁率μを用いて、マックスウェル方程式のように定式化されます。

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電場+磁場=電磁波

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私たちが暮らしている日常では、色々な電磁波が飛び交っています。この電磁波はテレビや携帯電話、電子レンジのような形で利用されているのですが、そもそも電磁波という概念はマックスウェル方程式から導かれたものなのです。

まず真空中にアンテナのように長い金属棒があるとしましょう。ここに時間によって大きさが変化する電流(交流電流)を流します。すると、この金属棒にはマックスウェル方程式の4つ目、アンペール・マックスウェルの式が適用できますね。この式から真空中には磁場が生じ、さらに交流電流なので磁場も時間変化することが分かります。磁場の時間変化はマックスウェル方程式の2つ目、ファラデー・マックスウェルの式に出てきましたね。これにより真空中にできた磁場が電場を作るわけです。当然、この電場も時間変化するので、電場の時間変化は変位電流を作り、さらにその電流から磁場が作られます。

|(アンテナ)---B---E---B---E---B---E--.......

以後、上に示したように磁場と電場の生成が繰り返されていき、一本の金属棒から生まれた電磁場が波のように遠くに伝わっていくのです。これが電磁波と呼ばれるもので、実際にマックスウェル方程式を変形していくと、波の運動を記述する波動方程式と全く同じ形になります。

電磁気学のあらゆる要素をコンパクトにまとめた「マックスウェル方程式」

マックスウェル方程式は電磁気学において、全ての基礎となる方程式の集まりです。この4つの式から電場と磁場が統一され電磁場となり、さらに電磁場が波の形をとる「電磁波」であり、その伝搬速度が光速と同じであることが導き出されます。この成果はアインシュタインの相対性理論にも影響を与えたと言われており、今日の物理学を形成する上で重要な役割を担っているのです。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

電磁気学のすべてが詰まった「マクスウェルの方程式」を元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説

今回はマックスウェル方程式について解説していきます。マックスウェル方程式は電磁気学を勉強する上で基礎となる方程式群です。電磁気学にまつわる現象はどれも、この方程式を用いて説明することができる。

ここからはマックスウェル方程式に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/eastflower

10年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は電磁気学の基本となるマックスウェル方程式についてまとめた。

マックスウェル方程式とは

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マックスウェル方程式は、電場と磁場(両方を合わせて電磁場と呼びます)の振る舞いを記述した4つの方程式からなります。古くから電気と磁力の実験は多く行われ、その度に様々な法則が発見されてきました。そして、それらの法則を4つの方程式という数学的に整った形で整えたのが、マックスウェル方程式です。

それぞれの方程式には名称が別についているのですが、イギリスの物理学者であるジェームズ・クラーク・マックスウェルによりまとめられたため、「マックスウェル」という名前がついています。ちなみにマックスウェルは熱力学第二法則の思考実験「マックスウェルの悪魔」を生んだ人物としても有名です。

Eを電場、Bを磁場とすると、マックスウェル方程式は具体的に次のような式になります。

▽・B(t, x) = 0(磁束保存の式)

▽×E(t, x) + ∂B(t, x)/∂t = 0(ファラデー・マックスウェルの式)

▽・D(t, x) = ρ(t, x)(ガウス・マックスウェルの式)

▽×H(t, x) – ∂D(t, x)/∂t = j(t, x)(アンペール・マックスウェルの式)

ここでtは時間、xは電磁場の座標、D=εE(εは真空の誘電率)、ρは電荷密度、B=μH(μは真空の透磁率)、jは電流密度を示します。

数式がたくさん出てきましたが、その中でも見慣れないものについて簡単に解説していきますね。

まずは「▽・」という数式です。これは別名「div」とも表記し、英語の「Divergence」(訳すと発散)を意味しています。何らかの中心点から四方八方に線が飛び出してくるイメージで、地面から水が湧き出るような場面を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

次に「▽×」という数式について見ていきます。これは「rot」とも書き、「Rotation」(訳すと回転)という意味です。電場Eも磁場Bも向きと大きさを持ったベクトルで表されますが、▽×はそのベクトルの向きに沿って右ネジを巻くような回転を示しています。

磁束保存の式

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これは磁場がどのような構造をもっているのかを示した方程式になります。▽・Bというのは、磁場Bの発散を示しているのですが、磁場Bが発生源から地下水のように湧き出ているところを想像すると分かりやすいでしょう。方程式ではこれが0だと言っています。

すなわち、磁場には電荷のように発生源となるものがない、ということです。さらに言い換えると、磁場には始まりも終わりもなく(永遠にS極とN極が交互に繰り返される)、片方の磁気(SまたはN極)をもったモノポールのようなものが存在しない、ということを表します。

ちなみに、このモノポールは磁気単極子とも呼ばれ、インフレーション理論や素粒子論からその存在が予言されているものの、今だに見つかっていません。もし発見されれば、この方程式の右辺にはなんらかの磁気密度が加わることになります。

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