低温で実現する不思議な状態「超電導」を元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説
宇宙からの電波を超電導でつかまえる
By Amble – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
宇宙には様々なエネルギーを持った電波が漂っています。中には、宇宙の創世期に生成されたものもあるのですが、そういった電波は非常に弱く、簡単には捉えることができません。そこでこの微弱な電波を捕まえるために、超電導を利用した検出器が開発されました。今回はその中の一つ、TESを取り上げます。
TESはTransition Edge Sensorの頭文字を取ったものです。訳すと「転移端センサー」となります。これは超電導状態と常伝導状態の境界領域を利用することが由来です。単純には「超高感度の温度計」なのですが、どういった原理で動作するのか見ていきましょう。
TESを動作させるのは、超伝導に転移する温度付近です。この温度帯は常伝導体から超伝導体に転移する領域なので、わずかな温度変化でも抵抗値の変化が急激に起きます。もし何らかの電波をTESが受け取ったとしましょう。電波のわずかなエネルギーはTESに渡り、温度をほんの少しだけ上昇させます。すると、TESの抵抗が急激に上昇するのです。抵抗と温度の関係はあらかじめわかっています。なので、抵抗の値を知ることでTESが受け取ったエネルギーの量が分かり、最終的に電波の周波数などの情報が手に入るというわけです。
TESは非常に微弱な信号を検出することができるので、多くの電波望遠鏡で利用されています。電波望遠鏡はチリのアタカマ砂漠や南極などに設置されており、日々、宇宙誕生の際に生成された電磁波のなごりを観測し、わずかな変動から遥か遠方にある銀河を見つけるようとしているのです。
色々な形で活かされる「超電導」
超電導はその特異な性質からいろんな工業から科学、医療といった広い分野に利用されています。現在でも高温超電導については開発競争が行われており、研究の盛んな分野です。今後、もっと色々な超電導体が見つかっていくと、さらに私たちの生活にとって身近な現象となっていくかもしれませんね。