今回は超電導について解説していきます。
超電導はある種の金属を極端に冷却すると、電気抵抗がなくなってしまうなど特異な性質を示す状態です。今日では様々な分野でその特徴が応用され、活かされている。

今回は超電導に詳しい理系ライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は素粒子実験にも応用されている超電導についてまとめた。

超電導とは?

image by iStockphoto

ニオブやアルミニウムといった、ある種の金属が液体ヘリウムなどを用いて極度に低い温度に冷やされると、ある温度(臨界温度と呼びます)を境に電気抵抗が急激に減少していき、ついには0になってしまいます。この状態が超電導状態です。

超電導状態では電気抵抗がないため、一度電流を流すと半永久的にそれが流れ続けます。またそれ以外にもマイスナー効果やピン止め効果といった特徴があるのですが、同様の性質は通常の金属のような常電導体では見られません。

どうしてそのようなことが起きるのでしょうか。

電気抵抗の正体

導線に電流が流れている場面を想像してみましょう。導線中では、プラスの電気を帯びた金属原子が格子状に並んだ状態で存在しており、そこを電子の集団が流れていきます。この電子が電流です。格子状の金属原子は、温度の影響によりバネのように振動しています。

そこに電子の集団がやってくると、どうなるでしょうか。

当然電子は、プラスの電気を持つ金属原子に引き寄せられるのですが、金属原子の振動の影響を受けて弾き飛ばされてしまいます。すると、電流の役割を担っていた電子が失われるため、電流が減ってしまいますね。これが電気抵抗の正体です。

なぜ電気抵抗がなくなってしまうのか

電気抵抗の正体が分かると、絶対零度(0K)なら電気抵抗が0になる、と予測できます。しかし、例え温度が0になったとしても、金属原子と電子がぶつかることで金属は振動してしまうため、結局、電気抵抗は完全に無くなりません。

この結論は、超電導が見せるものとは全く異なった姿です。では、電気抵抗が完全になくなってしまう原因はなんなのでしょうか。

これは流れていく電子をペアで考えると解決できるのです。金属原子に電子が当たってエネルギーを与えた時、格子状に並んだ金属原子はわずかにですが歪みます。するとこの瞬間、プラスの電気を帯びた領域が偏った状態になるはずです。ここに後からやってきた電子が流れ込むと、多めの正電荷の影響を受けて加速します。これはちょうど、一つ目の電子が失ったエネルギーを二つ目の電子が奪い返した形です。全体で見ればエネルギーを失うことなく電子が流れていくのが分かります。これが電気抵抗は0になる理由です。

マイスナー効果とは

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超電導体に磁石などを近づけ外から(一定値以下の)磁場をかけると、超電導体はこの磁場を完全に遮蔽して、内部の磁束密度が0になります。これがマイスナー効果と呼ばれる性質です。見方を変えると、超電導体は外部の磁場をちょうど打ち消すだけの磁化を持つということでもあるので、「完全反磁性」とも言います。

ではその理由について考えていきましょう。

超電導体の表面には、磁場の変化によって誘導電流が流れます。もちろん、超電導なので一度流れ始めた電流はずっと同じ強さで流れ続けるのですが、この電流の作る磁場がちょうど外からの磁場と逆向きになるため、マイスナー効果が現れるのです。

このマイスナー効果の見える実験として、浮き磁石の実験というものがあります。使うものは超電導になる金属と永久磁石です。常電導体になっている金属の上に永久磁石を置いて、そこに液体ヘリウムなどを使い、温度を下げていきます。すると、常電導体がある温度を下回り超電導体になった瞬間、それまで常電導体に乗っていた磁石が、マイスナー効果により磁場が排除されることで浮かび上がるのです。

一見すると磁石同士でも同じような現象ができそうに思えますが、実際には磁石はひっくり返ろうとしてしまうため、うまくいきません。浮かんだ状態で安定するのは、超電導ならではの性質なのです。

\次のページで「ピン止め効果とは」を解説!/

ピン止め効果とは

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先ほどのマイスナー効果は、実はある一定の値よりも大きい磁場をかけると超電導体が常電導体になってしまい、成立しません。この時の磁場の大きさを臨界磁場と言い、臨界磁場を超えた瞬間に超電導体から常電導体になるような物質を第一種超電導体と呼びます。

これとは別に2種の金属からなる超電導体などでは、臨界磁場が二つの値を持つのですが、低い方の臨界磁場を超えた場合に生じるのは、超電導体と常電導体が入り混じった状態です。そのような超電導体を第二種超電導体と呼びます。第二種超電導体は合金である場合が多く、常電導体が混じるのは内部にある不純物や欠陥などが原因です。

ピン止め効果はこの常伝導体の部分にだけ、外部からの磁場が入り込み、超電導体をピンで止めたように固定される現象を呼びます。この状態が成り立っていると、浮き磁石の実験を行っても、ある一定の高さで安定し、それ以上超電導体と磁石を近づけられません。これは常電導体の部分が磁性体になるため、磁力による反発が働くためです。また横方向に動かそうとしても同じ位置に戻ろうとします。これは磁束によるピン止めがあるためです。

超電導の応用

超電導の発見以降、様々な超電導体が研究されてきました。近年では、液体窒素の温度(-196度)付近で超電導を示す高温超電導物質が次々と見つかっています。従来は液体ヘリウム(-269度)を用いなければ超電導を作ることはできませんでした。しかし、比較的高い温度でも超電導を実現できるようになり、様々な分野で応用されるようになってきました。

超電導で走るリニアモーターカー

image by PIXTA / 49537503

リニアモーターカーは時速500kmで走る次世代の鉄道車両です。そして、その走行原理には超電導が用いられています。では、それがどのようになっているのか見ていきましょう。

リニアモーターカーの「リニアモーター」は、回転式のモーターを切り開いて直線状に引き伸ばしたもの、という意味です。このリニアモーターはN極とS極が交互に並んでいて、それが車両側とレール側の両方に取り付けられています。

---N----S----N----S--(レール側)

N----S----N----S----(車両側)

車両側のS極に注目しましょう。上のように互い違いに並ぶと、このS極はレール側のN極から吸引され、同時にS極から反発力を受けます。すると前向きに力が働くことになり、結果、車両が進む力となるのです。ですが、車両は相当な重量を持っているため、当然動かすためには非常に強力な磁力が必要となります。

ここで登場するのが、超電導です。リニアモーターカーでは超電導体に電流を流し、それによって生まれる磁力を用いています。常伝導体で同じことをしようとすると、電気抵抗のため熱が生じ必要以上にエネルギーを失ってしまう上に、莫大な電力も消費しなければなりません。

リニアモーターカーは超電導を利用し無駄なくエネルギーを磁力に変換することで、従来を遥かに超える時速500kmの高速移動を実現するのです。

\次のページで「宇宙からの電波を超電導でつかまえる」を解説!/

宇宙からの電波を超電導でつかまえる

南極点望遠鏡
By Amble - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

宇宙には様々なエネルギーを持った電波が漂っています。中には、宇宙の創世期に生成されたものもあるのですが、そういった電波は非常に弱く、簡単には捉えることができません。そこでこの微弱な電波を捕まえるために、超電導を利用した検出器が開発されました。今回はその中の一つ、TESを取り上げます。

TESはTransition Edge Sensorの頭文字を取ったものです。訳すと「転移端センサー」となります。これは超電導状態と常伝導状態の境界領域を利用することが由来です。単純には「超高感度の温度計」なのですが、どういった原理で動作するのか見ていきましょう。

TESを動作させるのは、超伝導に転移する温度付近です。この温度帯は常伝導体から超伝導体に転移する領域なので、わずかな温度変化でも抵抗値の変化が急激に起きます。もし何らかの電波をTESが受け取ったとしましょう。電波のわずかなエネルギーはTESに渡り、温度をほんの少しだけ上昇させます。すると、TESの抵抗が急激に上昇するのです。抵抗と温度の関係はあらかじめわかっています。なので、抵抗の値を知ることでTESが受け取ったエネルギーの量が分かり、最終的に電波の周波数などの情報が手に入るというわけです。

TESは非常に微弱な信号を検出することができるので、多くの電波望遠鏡で利用されています。電波望遠鏡はチリのアタカマ砂漠や南極などに設置されており、日々、宇宙誕生の際に生成された電磁波のなごりを観測し、わずかな変動から遥か遠方にある銀河を見つけるようとしているのです。

色々な形で活かされる「超電導」

超電導はその特異な性質からいろんな工業から科学、医療といった広い分野に利用されています。現在でも高温超電導については開発競争が行われており、研究の盛んな分野です。今後、もっと色々な超電導体が見つかっていくと、さらに私たちの生活にとって身近な現象となっていくかもしれませんね。

" /> 低温で実現する不思議な状態「超電導」を元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
物理理科電磁気学・光学・天文学

低温で実現する不思議な状態「超電導」を元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説

今回は超電導について解説していきます。
超電導はある種の金属を極端に冷却すると、電気抵抗がなくなってしまうなど特異な性質を示す状態です。今日では様々な分野でその特徴が応用され、活かされている。

今回は超電導に詳しい理系ライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は素粒子実験にも応用されている超電導についてまとめた。

超電導とは?

image by iStockphoto

ニオブやアルミニウムといった、ある種の金属が液体ヘリウムなどを用いて極度に低い温度に冷やされると、ある温度(臨界温度と呼びます)を境に電気抵抗が急激に減少していき、ついには0になってしまいます。この状態が超電導状態です。

超電導状態では電気抵抗がないため、一度電流を流すと半永久的にそれが流れ続けます。またそれ以外にもマイスナー効果やピン止め効果といった特徴があるのですが、同様の性質は通常の金属のような常電導体では見られません。

どうしてそのようなことが起きるのでしょうか。

電気抵抗の正体

導線に電流が流れている場面を想像してみましょう。導線中では、プラスの電気を帯びた金属原子が格子状に並んだ状態で存在しており、そこを電子の集団が流れていきます。この電子が電流です。格子状の金属原子は、温度の影響によりバネのように振動しています。

そこに電子の集団がやってくると、どうなるでしょうか。

当然電子は、プラスの電気を持つ金属原子に引き寄せられるのですが、金属原子の振動の影響を受けて弾き飛ばされてしまいます。すると、電流の役割を担っていた電子が失われるため、電流が減ってしまいますね。これが電気抵抗の正体です。

なぜ電気抵抗がなくなってしまうのか

電気抵抗の正体が分かると、絶対零度(0K)なら電気抵抗が0になる、と予測できます。しかし、例え温度が0になったとしても、金属原子と電子がぶつかることで金属は振動してしまうため、結局、電気抵抗は完全に無くなりません。

この結論は、超電導が見せるものとは全く異なった姿です。では、電気抵抗が完全になくなってしまう原因はなんなのでしょうか。

これは流れていく電子をペアで考えると解決できるのです。金属原子に電子が当たってエネルギーを与えた時、格子状に並んだ金属原子はわずかにですが歪みます。するとこの瞬間、プラスの電気を帯びた領域が偏った状態になるはずです。ここに後からやってきた電子が流れ込むと、多めの正電荷の影響を受けて加速します。これはちょうど、一つ目の電子が失ったエネルギーを二つ目の電子が奪い返した形です。全体で見ればエネルギーを失うことなく電子が流れていくのが分かります。これが電気抵抗は0になる理由です。

マイスナー効果とは

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超電導体に磁石などを近づけ外から(一定値以下の)磁場をかけると、超電導体はこの磁場を完全に遮蔽して、内部の磁束密度が0になります。これがマイスナー効果と呼ばれる性質です。見方を変えると、超電導体は外部の磁場をちょうど打ち消すだけの磁化を持つということでもあるので、「完全反磁性」とも言います。

ではその理由について考えていきましょう。

超電導体の表面には、磁場の変化によって誘導電流が流れます。もちろん、超電導なので一度流れ始めた電流はずっと同じ強さで流れ続けるのですが、この電流の作る磁場がちょうど外からの磁場と逆向きになるため、マイスナー効果が現れるのです。

このマイスナー効果の見える実験として、浮き磁石の実験というものがあります。使うものは超電導になる金属と永久磁石です。常電導体になっている金属の上に永久磁石を置いて、そこに液体ヘリウムなどを使い、温度を下げていきます。すると、常電導体がある温度を下回り超電導体になった瞬間、それまで常電導体に乗っていた磁石が、マイスナー効果により磁場が排除されることで浮かび上がるのです。

一見すると磁石同士でも同じような現象ができそうに思えますが、実際には磁石はひっくり返ろうとしてしまうため、うまくいきません。浮かんだ状態で安定するのは、超電導ならではの性質なのです。

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