アメリカ先住民である「インディアン」。アメリカ大陸に住んでいるのに、どうして「インディアン」よ呼ばれるのでしょうか。「インディアン」という表現はアメリカ大陸を征服したヨーロッパの入植者の立場によるもの。長いあいだ「インディアン」の歴史は歪められて伝えられてきた。

そこじゃ、アメリカ史における「インディアン」の位置づけやその歴史について、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。西部開拓時代のアメリカを見ていくとき「インディアン」その存在を避けて通ることはできない。「インディアン」の歴史は、白人入植者の目線による歴史のなかで歪められてきた。そこで、「インディアン」をキーワードに西部開拓時代の歴史と現代における影響をまとめてみた。

「インディアン」という表現は適切ではない?

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何気ない文章のなかで「インディアン」という表現を目にすることがあります。日本ではあたりまえのようにこの表現が使われますが、現在のアメリカ合衆国ではNG。差別用語とみなされるため要注意。「先住民」を意味するNative AmericansもしくはIndigenous peoplesが正しい呼び名です

新大陸の先住民はみんな「インディアン」と名付けられた

「インディアン」を直訳すると「インド人」。その理由が大航海時代のコロンブスの探検にあります。南北アメリカの中間にあるカリブ諸島に到着したとき、コロンブスはインドに着いたと勘違いして、先住民を「インディオス」と名付けました。

そこから北アメリカ大陸の先住民は英語読みで「インディアン」と総称されることに。つまり「インディアン」は、ヨーロッパの白人の立場からつくられた歴史のなかの呼称。アメリカ大陸に以前から住んでいた先住民の歴史を無視した呼び方であり、現在は改められています。

アメリカに先住する個々の「部族」を尊重

くわえて「インディアン」という呼び方にはもうひとつの問題が。それは先住民と一口で言っても、そこには多種多様な「部族」が含まれていることです。「部族」の数は正式に認められているものだけでも500以上。それぞれに固有の歴史、風習、集団の規律などが根付いています。

便宜上「先住民」と総称することがあっても、それぞれの部族は独立した存在。ひとつのグループにくくることは適切ではありません。「スー族」「アパッチ族」「ダコタ族」というように、それぞれの部族の名前で呼ぶことがベストです。

アメリカの先住民(インディアン)は大まかに3つに分類される

Amerikanska folk, Nordisk familjebok.jpg
By G. Mülzel - Nordisk familjebok (1904), vol.1, Amerikanska folk [1] (the colour version is available in this zip-archive). Nordisk Familjebok has credited the image to Bibliographisches Institut, Leipzig., パブリック・ドメイン, Link

アメリカの歴史で先住民(インディアン)というとき、おおまかに3つのグループが含まれています。それが「インディアン・インディオ」「エスキモー・アレウト」そして「ハワイ原住民」。それぞれまったく異なる文化が形成されています。

南北アメリカに居住する先住民(インディアン・インディオ)

わたしたちが先住民(インディアン)と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのが南北アメリカに住んでいる先住民です。北アメリカは英語読みで「インディアン」。南アメリカはスペイン語読みで「インディオ」となります。

アメリカの西部開拓史のなかで登場する先住民(インディアン)は、この北アメリカに住んでいる人たち。主にイギリス系の開拓者と衝突しました。一方、南アメリカの先住民(インディオ)の居住地はスペインもしくはポルトガルの支配下。そのためことなる経緯をたどります。

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北極圏で暮らす先住民(エスキモー・アレウト)

カナダの北部やアラスカ州などに住んでいる先住民は「エスキモー・アレウト」と呼ばれています。エスキモーという言葉も総称で、正確には「イヌイット」と「ユピック」。主にロシア極東に住んでいる先住民がアウレトに区分されます。

北極圏の先住民は狩猟をしながら移動生活をしました。イグルーと呼ばれるかまくらのような雪の家で生活。移動ではそりが使われました。命をささえたのがあざらしやクジラの肉。極寒の厳しい生活を乗り越えるために一夫多妻の団体的な家族をもつ習慣もありました。

ハワイ島に住んでいる先住民(ハワイ原住民)

現在、ハワイ諸島はアメリカ合衆国の一部ですが、もともとは先住民が暮らす場所でした。1778年にイギリス人のキャプテン・クックがハワイ諸島に来たことをきっかけに、白人の入植者が増えていきます。

3つに分裂していた王国をまとめてハワイ王国をつくったのがカメハメハ1世。白人入植者から武器を譲り受けて統合をなしとげました。その後、1800年代にはいるとイギリスとフランスがハワイをめぐって争い始めます。最終的に1898年、アメリカ合衆国によりハワイが併合されました。

アメリカ国旗の13植民地は先住民(インディアン)を排除して形成

Eight Crow prisoners under guard at Crow agency, Montana, 1887 - NARA - 531126.jpg
By Unknown or not provided - U.S. National Archives and Records Administration, Public Domain, Link

アメリカの愛国の印となるのが「星条旗」。星は現在のアメリカの州の数。青いストライプは最初の入植で形成された13植民地を意味します。13植民地の形成はアメリカの歴史のスタートであると同時に、先住民の住みかを奪うことでした。

土地や契約の概念がなかった先住民(インディアン)

アメリカ大陸に入ってきたヨーロッパの入植者が、いとも簡単に先住民(インディアン)の土地を奪うことができたのは、文化の違いにあります。先住民(インディアン)は、土地の所有や契約の概念を持っていませんでした。

入植者たちは表面的には契約をかわしましたが、その内容は一方的であったと言われています。また、先住民(インディアン)は、ものを貨幣の価値に変えて考える習慣がありません。土地の搾取のかわりに、まったく見合わないものを与えていました。

インディアン移住法の制定がつくったのは「涙の道」

先住民(インディアン)の強制移住を合法化するためにつくられたのが「インディアン移住法」。1830年にジャクソン大統領により制定されました。とくにアメリカ南部の入植を推しすすめるための施策だったようです。

アメリカ南部にはチェロキー族という大きな部族がいました。この部族はヨーロッパの習慣を採用していることから土地をめぐる交渉が難航。そこでチェロキー族を無理やり追い出すために法律を作ってしまったのです。

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先住民(インディアン)は開拓者の前進を阻む存在

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By Siegel, Cooper & Co. - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs division under the digital ID cph.3c12856. This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., パブリック・ドメイン, Link

強制移住により苦汁を強いられた先住民(インディアン)。アメリカの歴史のなかで事実はさまざまに歪められました。その代表的な歴史記述が白人開拓者の前進を阻む存在とみなすものです。

先住民(インディアン)は「野蛮」な存在として位置づけられた

アメリカ史のなかで白人開拓者は「英雄」のような存在。「未開」の地にあらわれる先住民(インディアン)と戦いをくりひろげ、テリトリーを拡大させていきます。それは「野蛮」な人々を退け、その地を「文明化」するという考えでした。

このような考え方は20世紀に入ってからも長く続きます。西部開拓期の映画にでてくる先住民(インディアン)は好戦的で狂暴。その生活も不気味なものとして描かれました。白人開拓者は「文明」、先住民(インディアン)は「野蛮」と対比されたのです。

「よいインディアンは死んだインディアン」

その一方「よいインディアンは死んだインディアン」という見方も浸透しました。そのような見方が出現したのは19世紀から20世紀にかけて。主に西部の生活を描いた小説や映画を通じて広まりました。

ここで登場する先住民(インディアン)は、白人入植者に影響されてキリスト教に改宗。文明化することのすばらしさを知ります。先住民(インディアン)と白人入植者の衝突が勃発。自ら犠牲になる道を選ぶ者が「よいインディアン」の典型でした。

先住民(インディアン)の権利を主張する運動の活発化

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By Tripodero (talk) - New SVG derived from the source PNG image I created, as to restore the original Public Domain attribute. Based on the Flag of the American Indian Movement, author uncertain. このW3C-unspecified ベクター画像Inkscapeで作成されました., パブリック・ドメイン, Link

「フロンティアの消滅」が宣言されたあと、先住民(インディアン)は長らく指定されたインディアン居留地にて、貧しい生活をすることを強いられました。1940年代にはいると、アメリカ国家に対する先住民(インディアン)の貢献と地位向上を主張する動きが出てきます。

アメリカインディアン国民会議(NCAI)がロビー活動を展開

1944年、ワシントンD.C.に設立されたのがアメリカインディアン国民会議(NCAI)。部族の代表たちで構成された組織です。第二次世界大戦における先住民(インディアン)の貢献などから発言力を高めていきました。

NCAIはデモをしないことが方針。活動の場は合衆国議会にとどまりました。先住民(インディアン)に不利な法案を撤廃させるなど、小さい成果をだしています。しかし、人種差別などの根本的な問題を解決することはできませんでした。

アメリカインディアン運動(AIM)は直接的行動を特徴とする

都市部で最下層の生活を強いられる先住民(インディアン)の若者は、デモなどの直接的な行動にでるアフリカ系アメリカ人の公民権運動に刺激をうけるように。そこで設立されたのがアメリカインディアン運動(AIM)です。

AIMは、先住民(インディアン)のアイデンティティーを取り戻す必要性を主張。伝統的な服装や髪形、儀式や風習を復活させることを試みました。また、マスコミが集まるお祭りなどで破壊活動を展開、AIMの存在と主張をアメリカ全土に広めるに至ります。

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アメリカ国内における先住民(インディアン)は多くの矛盾をはらむ

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By Jack Delano - Photo by Jack Delano via Library of Congress website, Public Domain, Link

先住民(インディアン)の権利の回復や地位を向上させる運動がおこるものの、今日に至っても多くの問題は解決していません。アメリカが形成される過程で、先住民(インディアン)のあいまいな位置づけを放置してきたことが原因です。

先住民(インディアン)の自治区は自立できない植民地

先住民(インディアン)が暮らしているのはインディアン居留地。専用の学校、病院、施設などがある自治区です。独自の議会制度もあり、合衆国から切り離された形がとられました。ここから先住民(インディアン)はアメリカ国民とは異なる位置づけであることが分かります。

ここに住むことで優遇されるのが税金や学費。それらを維持するために合衆国の多額の税金が投入されています。居留地のなかでは仕事の機会がとぼしいのが現実。外に出てもいい仕事に就くことはできません。結果的にアメリカ国内に自立できない植民地があるかのような状態になっています。

インディアン居留地では貧困問題が継続

インディアン居留地における問題は、ヨーロッパ人が入植した時期に由来するもの。入植者が持ち込んだウィスキーの影響で、先住民(インディアン)は堕落した生活を送るようになりました。今日も、アルコール中毒の先住民(インディアン)が多いことは深刻な問題となっています。

また居留地内における失業率が約50%という調査結果も。居留地をでた若者の多くは、仕事を得ることができずにホームレスになる、貧困にて病気になることが大部分。さらに貧困の延長からドラッグ中毒になる先住民(インディアン)が多いことも問題視されています。

「インディアン」が教えてくれるのは歴史は「勝者」の立場から書かれていること

アメリカはヨーロッパの人々が入植することから始まった国。先住民(インディアン)を追い払うことでアメリカが形成されたと言ってもいいでしょう。長らくアメリカの歴史は「勝者」の立場から書かれたものが中心。負けた側の歴史はゆがめられた形となっていました。これはアメリカだけではなくどこの国でも存在すること。日本史の場合も、アイヌ民族をどのように位置づけるのかという課題があります。歴史は必ずしも中立ではないことを気に留めながら学んでいくことが大切なんですね。

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アメリカの歴史世界史植民地時代歴史

「インディアン」の現在は?西部開拓時代の消された歴史を元大学教員が徹底わかりやすく解説

アメリカ先住民である「インディアン」。アメリカ大陸に住んでいるのに、どうして「インディアン」よ呼ばれるのでしょうか。「インディアン」という表現はアメリカ大陸を征服したヨーロッパの入植者の立場によるもの。長いあいだ「インディアン」の歴史は歪められて伝えられてきた。

そこじゃ、アメリカ史における「インディアン」の位置づけやその歴史について、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。西部開拓時代のアメリカを見ていくとき「インディアン」その存在を避けて通ることはできない。「インディアン」の歴史は、白人入植者の目線による歴史のなかで歪められてきた。そこで、「インディアン」をキーワードに西部開拓時代の歴史と現代における影響をまとめてみた。

「インディアン」という表現は適切ではない?

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何気ない文章のなかで「インディアン」という表現を目にすることがあります。日本ではあたりまえのようにこの表現が使われますが、現在のアメリカ合衆国ではNG。差別用語とみなされるため要注意。「先住民」を意味するNative AmericansもしくはIndigenous peoplesが正しい呼び名です

新大陸の先住民はみんな「インディアン」と名付けられた

「インディアン」を直訳すると「インド人」。その理由が大航海時代のコロンブスの探検にあります。南北アメリカの中間にあるカリブ諸島に到着したとき、コロンブスはインドに着いたと勘違いして、先住民を「インディオス」と名付けました。

そこから北アメリカ大陸の先住民は英語読みで「インディアン」と総称されることに。つまり「インディアン」は、ヨーロッパの白人の立場からつくられた歴史のなかの呼称。アメリカ大陸に以前から住んでいた先住民の歴史を無視した呼び方であり、現在は改められています。

アメリカに先住する個々の「部族」を尊重

くわえて「インディアン」という呼び方にはもうひとつの問題が。それは先住民と一口で言っても、そこには多種多様な「部族」が含まれていることです。「部族」の数は正式に認められているものだけでも500以上。それぞれに固有の歴史、風習、集団の規律などが根付いています。

便宜上「先住民」と総称することがあっても、それぞれの部族は独立した存在。ひとつのグループにくくることは適切ではありません。「スー族」「アパッチ族」「ダコタ族」というように、それぞれの部族の名前で呼ぶことがベストです。

アメリカの先住民(インディアン)は大まかに3つに分類される

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By G. Mülzel – Nordisk familjebok (1904), vol.1, Amerikanska folk [1] (the colour version is available in this zip-archive). Nordisk Familjebok has credited the image to Bibliographisches Institut, Leipzig., パブリック・ドメイン, Link

アメリカの歴史で先住民(インディアン)というとき、おおまかに3つのグループが含まれています。それが「インディアン・インディオ」「エスキモー・アレウト」そして「ハワイ原住民」。それぞれまったく異なる文化が形成されています。

南北アメリカに居住する先住民(インディアン・インディオ)

わたしたちが先住民(インディアン)と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのが南北アメリカに住んでいる先住民です。北アメリカは英語読みで「インディアン」。南アメリカはスペイン語読みで「インディオ」となります。

アメリカの西部開拓史のなかで登場する先住民(インディアン)は、この北アメリカに住んでいる人たち。主にイギリス系の開拓者と衝突しました。一方、南アメリカの先住民(インディオ)の居住地はスペインもしくはポルトガルの支配下。そのためことなる経緯をたどります。

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