今回は、「アドレナリン」のはたらきや特徴についてみていきます。比較的名前をよく耳にするアドレナリンですが、それが体内でどんな役割を果たしているのか、きちんと説明できる人は少ないんじゃないでしょうか?

生き物のからだについて詳しい現役講師ライターのオノヅカユウと一緒に解説していきます。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

アドレナリンの基礎知識

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スポーツ選手がインタビューなどで、「あの場面では、アドレナリンが出ているのを感じた」などということがあります。本当に「感じた」かどうかはわかりませんが、興奮したり、激しく動いたりする場面に関係する物質であるというイメージは、多くの人の中にあるはずです。

アドレナリンはホルモンの一種!

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アドレナリンは、アミノ酸(チロシン)からつくられる物質(アミン)の一種で、人の体内では主にホルモンとしてはたらいています。それぞれのホルモンは、特定の「内分泌腺」でつくられるということを覚えているでしょうか?アドレナリンをつくって放出する内分泌腺は、「副腎」という器官です。

「副腎」とは?

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副腎は、腎臓の上に帽子のように乗っかっている小さな塊ですが、ホルモンの生産や分泌に欠かせない存在。副腎の内側は「副腎髄質」、副腎の外側は「副腎皮質」と呼び分けられます。

まんじゅうを半分に割ってみると、内側にあんこがあり、外側はまんじゅうの生地でぐるりとおおわれていますよね。副腎の髄質と皮質も、このまんじゅうのあんこと生地の位置関係によく似ています。「あんこ=髄質」、「生地=皮質」です。

髄質と皮質では異なる種類のホルモンを放出しており、アドレナリンは、副腎髄質から放出されるホルモンになります。

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アドレナリンは「やばいとき」に出る!

アドレナリンの分泌量が増えるのは、『「闘争(Fight)」や「逃走(Flight)」のとき』とよくいわれます。野生動物であれば以下のような状況が考えられるでしょう。

・捕食対象を見つけて追いかけるとき
・なわばりをめぐってほかの個体や外敵と戦うとき
・攻撃してくる敵から逃げなくてはいけないとき
・危険を感じる場所から急いで移動しなくてはならないとき

上記の例は、いずれも激しい運動が必要になる場面です。少し砕けた言い方をすれば、「やばいとき」といえるかもしれません。このような状況では自律神経系の交感神経がはたらき、アドレナリンの分泌を促します。

スポーツ選手が試合で「アドレナリンが出た感じがする」というのは、あながち間違いではないのでしょう。交感神経が興奮し、実際に少なからずアドレナリンが分泌されているはずです。

アドレナリンが及ぼす主な作用3つ

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では、アドレナリンの放出は具体的にどんな作用をもたらすのでしょうか?アドレナリンの代表的な作用をいくつか見てみましょう。

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#1 心筋の収縮を促進

アドレナリンが血中に放出されると、心臓の筋肉が強く収縮するようになります。血液を送り出す心臓が激しく動くことで、全身をめぐる血液量が増加。筋肉や肝臓など、運動に必要な器官にたくさん血液が送られるようになります。

この作用を利用し、アドレナリンを心停止時の救命薬として使うことがありました。心臓をアドレナリンの力で収縮させることができますが、近年はアドレナリンよりも生存率が高いことがわかった「バソプレシン」という別のホルモンを投与することが多くなっています。

#2 血糖値をあげる

筋肉を激しく動かしたり、頭をフル回転させなければならないとき、必要になるのが細胞の栄養となる糖分です。血液中の糖の量を示す値は「血糖値」と呼ばれますが、アドレナリンが分泌されると、この血糖値を上げることができます。

では、アドレナリンは、いったいどこから糖を生み出しているのでしょうか?私たちが普段の食事で摂りすぎた糖質は、肝臓に蓄えられているんです。アドレナリンは肝臓の細胞に働きかけ、ため込んでいる糖(グリコーゲン)の分解を促進し、血中に糖(グルコース)を増やしてくれます。

#3 瞳孔の拡大

アドレナリンには瞳孔を拡大させる効果もあります。瞳孔が開けば、眼にたくさん光が入るようになりますよね。暗闇の中であってもしっかり外敵や周りの景色を見なくてはならないようなときに効果的な作用でしょう。

アドレナリン発見の裏には激しい競争があった!

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ヒトの体内では数多くのホルモンが働いていますが、このアドレナリンは中でもとりわけ日本人と関係が深く、教科書などでも逸話が紹介されることが多いホルモンです。なぜならば、アドレナリンを世界で初めて結晶化したのが、日本人だったから

科学者の高峰譲吉と、その助手であった上中啓三という二人の化学者が1900年にウシの副腎からアドレナリンを取り出すことに成功し、翌年にはアドレナリンの結晶を手にしたのです。

1900年前後は、世界中でホルモンの研究が一気に盛んになった時期。それまで神経によって支配されていると考えられてきた生物体内の調節システムに、「ホルモン」という物質が関わっていることがわかりはじめていました。新しいホルモンの発見者になること目標に、多くの生物学者がホルモン研究に手を出したのです。

血眼になりながらも、新しいホルモンを探しつづけた生物学者たちの様子は、さながら宝物を探すハンターのよう。ホルモン探しをする研究者を「ホルモンハンター」なんて呼ぶこともあるほどです。

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アドレナリンには別名がある?

このアドレナリン、アメリカでは「エピネフリン」という別の名前で販売されています。そのきっかけを作ったのは、J.J.エイベルという研究者でした。

エイベルは高峰らと同時期にアドレナリンを研究していた人物。ヒツジの副腎を材料として、血圧をあげる“謎の物質”を取り出そうと実験を重ねていました。ある日完成した物質に「エピネフリン」という名前を付けたエイベルでしたが、その後、高峰・上中によってアドレナリンが発見されます。

エピネフリンとアドレナリンは別の物質でしたが、副腎から取り出されたホルモン(らしきもの)という共通点が、エイベルの怒りをかいました。アドレナリンの発見に異論を唱え、「高峰の研究は自分の研究の盗作である」と激しく主張し、アドレナリンの名を使うことを許さなかったのです。

その結果、エイベルの母国・アメリカではアドレナリンがエピネフリンの名でよばれ続けています。

ただし、日本であっても、医療関係者の中では昔からエピネフリンの名を使うことが珍しくなかったため、一部ではエピネフリンのほうが通じやすいこともあるようです。同じ物質を二通りの名前で呼ぶことは混乱を招きかねませんが、その裏の歴史を考えると面白いですよね。

身近だからこそ知っておきたいアドレナリン

普段の生活で、スポーツに励むときや、逃げ出したくなるほど怖い思いをしているとき。そんな場面に出くわしたならば、ぜひ「アドレナリンが分泌されて、戦える(逃げられる)体になっているんだ」ということを意識してみましょう。とくに身近なホルモンだからこそ、その活躍の瞬間を感じられることは少なくないはずです。

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単にわかる「アドレナリン」!主な効果や作用を現役講師がわかりやすく解説!

今回は、「アドレナリン」のはたらきや特徴についてみていきます。比較的名前をよく耳にするアドレナリンですが、それが体内でどんな役割を果たしているのか、きちんと説明できる人は少ないんじゃないでしょうか?

生き物のからだについて詳しい現役講師ライターのオノヅカユウと一緒に解説していきます。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

アドレナリンの基礎知識

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スポーツ選手がインタビューなどで、「あの場面では、アドレナリンが出ているのを感じた」などということがあります。本当に「感じた」かどうかはわかりませんが、興奮したり、激しく動いたりする場面に関係する物質であるというイメージは、多くの人の中にあるはずです。

アドレナリンはホルモンの一種!

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アドレナリンは、アミノ酸(チロシン)からつくられる物質(アミン)の一種で、人の体内では主にホルモンとしてはたらいています。それぞれのホルモンは、特定の「内分泌腺」でつくられるということを覚えているでしょうか?アドレナリンをつくって放出する内分泌腺は、「副腎」という器官です。

「副腎」とは?

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副腎は、腎臓の上に帽子のように乗っかっている小さな塊ですが、ホルモンの生産や分泌に欠かせない存在。副腎の内側は「副腎髄質」、副腎の外側は「副腎皮質」と呼び分けられます。

まんじゅうを半分に割ってみると、内側にあんこがあり、外側はまんじゅうの生地でぐるりとおおわれていますよね。副腎の髄質と皮質も、このまんじゅうのあんこと生地の位置関係によく似ています。「あんこ=髄質」、「生地=皮質」です。

髄質と皮質では異なる種類のホルモンを放出しており、アドレナリンは、副腎髄質から放出されるホルモンになります。

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