この記事では「背任」と「横領」の違いについてみていきます。どちらも、他人に金銭的な損害を与える行為について使われる言葉ですが、特に「背任」の方は普段耳にする機会も少ないせいか、読み方もわからないという人もいるようです。そこで今回はこれらの言葉について、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

背任と横領の読み方を説明

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まずはじめに、「背任」の読み方について説明しましょう。「背」は音読みで「ハイ」と読み、「任」は音読みで「ニン」と読む字なので、「背任」はどちらも音読みで「ハイニン」と読みます。ついでに「横領」の読みについても確認しておきましょう。「横」は音読みで「オウ」と読み、「領」は音読みで「リョウ」と読むので、「横領」も音読みで読んで「オウリョウ」と言います。

背任と横領のざっくりした違いとは?

次に、「背任」「横領」のざっくりした違いについて説明しましょう。「背任」とは、「与えられた仕事や任務にそむいて、損害を与えること」を意味するのに対し、「横領」とは、「他人の物や財産を自分のものにすること」を意味します。

背任と横領の違いを詳しく解説!

さきほど、「背任」「横領」の違いについて、「背任」「自分の仕事や任務にそむいて、損害を与えること」であるのに対し、「横領」「他人の物を自分のものにすること」だと説明しましたが、ここからはそれぞれの言葉に対する理解を深めるために、「背任」「横領」に使われている漢字やその語源に着目しながら、ていねいに説明していきたいと思います。

背任とは仕事に背くこと

まずはじめに、「背任」「背」について説明しましょう。「背」という字の上にある「北」は、「二人の人が背を向けあっている様子」を、下の「月」は「人の肉体」を意味し、そこから人の体の後ろ側を意味する「背」になりました。また、人は命令などに従いたくないときに、背中をみせて反抗の意思をあらわすことがありますよね?そこから、命令などに従わず、反対する意味の「そむく」という意味としても使われるのです。

つぎに「任」について説明します。「任」の右側の「壬」は、「糸を巻き取る道具」が元になっていて、「物の真ん中が太くなる」イメージを持つ形です。そのような「壬」と、「にんべん」とを組み合わせて作られた「任」は、任された仕事を抱え込んでお腹が太くなるイメージで作られたのではないかと考えられています。「背」「任」はそれぞれこのような成り立ちを持つ字ですので、「背任」とは仕事に背くことを意味するのです。

横領はもともと押領だった

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今度は「横領」について説明しましょう。「おうりょう」は、今でこそ「横領」と書き、「他人の財産やものなどを自分のものにすること」を言いますが、平安時代ごろは「押領」と書き、もともとは「兵士を統率・監督する」といった意味の言葉でした。「押」という字は、単に「押す」という意味だけではなく、「押さえつける」イメージから発展して、「取りしまる」という意味も持つ字です。

「領」という字も「領主」や「領地」などの言葉に使われるように、「支配する」「取りしまる」という意味を持つので、そこから似た意味の言葉を重ねて「押領」になったのかもしれませんね。「兵士を統率・監督する」といった意味を持つ「押領」はやがて、「武力をつかうことで他人の領地や年貢などを奪い取ること」を意味するようになり、明治時代中期ごろに「横取りする」というニュアンスをこめて「横」を使い、「横領」と書くようになったようです。

判断が難しい法律における背任と横領

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ここまでの説明で、「背任」「横領」の言葉の意味の違いについては知っていただけたのではないでしょうか。ただし、言葉の意味を知っただけでは「背任」「横領」なのかを判断するのがどうしても難しい場合があります。それは法律の分野における「背任罪」「横領罪」かという判断です。

これらの判断は法律の専門家でも分かれるところですが、基本的には「与えられた仕事や任務にそむいて、損害を与えた場合」全般については「背任罪」が、その中でも「他人の物などを自分のものにした場合」について「横領罪」になり、「背任罪」「横領罪」の両方を満たす場合には、より刑罰の重い「横領罪」が課されるという考え方が有力とされています。とはいえ、ここまでの区別は日常生活を送る上ではすることはないでしょう。

\次のページで「任務に背くのが背任、他人のものを奪うのが横領!」を解説!/

任務に背くのが背任、他人のものを奪うのが横領!

今回の説明で、「背任」「与えられた仕事や任務にそむいて、損害を与えること」で、「横領」「他人の物や財産を自分のものにすること」であることや、法律の分野においては「背任罪」か「横領罪」かの判断が難しいことについて知っていただけたかと思います。いらぬ心配かと思いますが、みなさんはぜひ、背任や横領に手を染めることのない、人として正しい人生を送ってくださいね。

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簡単でわかりやすい!背任と横領の違いとは?読み方や背任罪・横領罪の違いも現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「背任」と「横領」の違いについてみていきます。どちらも、他人に金銭的な損害を与える行為について使われる言葉ですが、特に「背任」の方は普段耳にする機会も少ないせいか、読み方もわからないという人もいるようです。そこで今回はこれらの言葉について、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

背任と横領の読み方を説明

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まずはじめに、「背任」の読み方について説明しましょう。「背」は音読みで「ハイ」と読み、「任」は音読みで「ニン」と読む字なので、「背任」はどちらも音読みで「ハイニン」と読みます。ついでに「横領」の読みについても確認しておきましょう。「横」は音読みで「オウ」と読み、「領」は音読みで「リョウ」と読むので、「横領」も音読みで読んで「オウリョウ」と言います。

背任と横領のざっくりした違いとは?

次に、「背任」「横領」のざっくりした違いについて説明しましょう。「背任」とは、「与えられた仕事や任務にそむいて、損害を与えること」を意味するのに対し、「横領」とは、「他人の物や財産を自分のものにすること」を意味します。

背任と横領の違いを詳しく解説!

さきほど、「背任」「横領」の違いについて、「背任」「自分の仕事や任務にそむいて、損害を与えること」であるのに対し、「横領」「他人の物を自分のものにすること」だと説明しましたが、ここからはそれぞれの言葉に対する理解を深めるために、「背任」「横領」に使われている漢字やその語源に着目しながら、ていねいに説明していきたいと思います。

背任とは仕事に背くこと

まずはじめに、「背任」「背」について説明しましょう。「背」という字の上にある「北」は、「二人の人が背を向けあっている様子」を、下の「月」は「人の肉体」を意味し、そこから人の体の後ろ側を意味する「背」になりました。また、人は命令などに従いたくないときに、背中をみせて反抗の意思をあらわすことがありますよね?そこから、命令などに従わず、反対する意味の「そむく」という意味としても使われるのです。

つぎに「任」について説明します。「任」の右側の「壬」は、「糸を巻き取る道具」が元になっていて、「物の真ん中が太くなる」イメージを持つ形です。そのような「壬」と、「にんべん」とを組み合わせて作られた「任」は、任された仕事を抱え込んでお腹が太くなるイメージで作られたのではないかと考えられています。「背」「任」はそれぞれこのような成り立ちを持つ字ですので、「背任」とは仕事に背くことを意味するのです。

横領はもともと押領だった

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今度は「横領」について説明しましょう。「おうりょう」は、今でこそ「横領」と書き、「他人の財産やものなどを自分のものにすること」を言いますが、平安時代ごろは「押領」と書き、もともとは「兵士を統率・監督する」といった意味の言葉でした。「押」という字は、単に「押す」という意味だけではなく、「押さえつける」イメージから発展して、「取りしまる」という意味も持つ字です。

「領」という字も「領主」や「領地」などの言葉に使われるように、「支配する」「取りしまる」という意味を持つので、そこから似た意味の言葉を重ねて「押領」になったのかもしれませんね。「兵士を統率・監督する」といった意味を持つ「押領」はやがて、「武力をつかうことで他人の領地や年貢などを奪い取ること」を意味するようになり、明治時代中期ごろに「横取りする」というニュアンスをこめて「横」を使い、「横領」と書くようになったようです。

判断が難しい法律における背任と横領

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ここまでの説明で、「背任」「横領」の言葉の意味の違いについては知っていただけたのではないでしょうか。ただし、言葉の意味を知っただけでは「背任」「横領」なのかを判断するのがどうしても難しい場合があります。それは法律の分野における「背任罪」「横領罪」かという判断です。

これらの判断は法律の専門家でも分かれるところですが、基本的には「与えられた仕事や任務にそむいて、損害を与えた場合」全般については「背任罪」が、その中でも「他人の物などを自分のものにした場合」について「横領罪」になり、「背任罪」「横領罪」の両方を満たす場合には、より刑罰の重い「横領罪」が課されるという考え方が有力とされています。とはいえ、ここまでの区別は日常生活を送る上ではすることはないでしょう。

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