
1946年の新円切替はどのように行われた?実施した内閣やその背景を2024年の新紙幣発行とともに行政書士試験合格ライターが簡単にわかりやすく解説
3.証紙を発行
新円切替により従来の紙幣を銀行に預金させ、代わりに新しい紙幣を流通させる予定となっていました。しかし、計画は前倒しで実行されたため、新紙幣の準備が間に合いませんでした。そこで、新紙幣が準備できるまでの緊急対策として、証紙を発行することにしたのです。旧紙幣に証紙を貼付することで、それも新紙幣と見なすものでした。
証紙は10円から1000円までの4種類が発行され、全国の金融機関に配布されました。手作業で1枚1枚紙幣に証紙を貼る、徹夜の作業が行われていたそうです。それらの証紙貼付銀行券と呼ばれたものは、新紙幣が広く流通するようになった1946(昭和21)年の10月末まで使用されました。
1.小銭が貯め込まれる
新円切替で当局が狙っていたのは、市中に出回る金融量を減らすことでした。金融量を減らせば貨幣の価値が上がるため、インフレーションが抑え込めるというわけです。しかし、旧紙幣が使えていた間は、むしろ市民の消費が増えてしまいました。なぜなら、旧紙幣を使えるうちに使ってしまおうという意識が働いたからです。
さらに、1円以下の紙幣や硬貨は新円切替の対象外となったため、それらを手元に貯め込もうとする市民が続出しました。たとえば、タバコ屋で7円のタバコを買うのに10円札を出して、1円札3枚をお釣りにもらう人が列を作ったそうです。そういったことも重なって、次々と店がお釣りを出せなくなる事態が発生しました。
2.財産税法の制定
新円切替の目的が、インフレーションの抑制だったことは間違いないでしょう。しかし、それ以外にも目的があったのではないかと指摘する意見もあります。それは、財産税法を施行することです。財産税法も、新円切替と同じ1946(昭和21)年に制定されました。新円切替からおよそ半年後のことでした。
財産税法とは、1946年3月3日時点で所有していた預貯金や不動産などに、1回限りで税を課したものです。課税価額に応じて、最高90%の財産税が課せられました。そのため、新円切替によって預貯金が強いられる状況になったのは、もとから財産税の財源を確保するためだったと考察する人もいます。
渋沢栄一・津田梅子・北里柴三郎が新紙幣の肖像に
2019年4月、日本の政府が2024年から紙幣のデザインを変えると発表しました。2023年9月現在、2024年の7月に新紙幣の発行開始が予定されています。具体的な日時は明らかになっていません。現行の紙幣は2004年からの発行だったので、20年ぶりに紙幣が変わることになったのです。
新しい1万円札の肖像に、500もの企業設立に関わった渋沢栄一が選ばれました。5000円札には女子教育の先駆者となった津田梅子、1000円札には「近代日本医学の父」として知られる北里柴三郎が選ばれています。3人とも、明治時代以降に日本の近代化で大きく貢献した人物です。
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紙幣を刷新する理由
2024年まで使われる予定の現行紙幣が2004年から発行されたように、日本ではおよそ20年おきに紙幣を刷新しています。その最も大きな理由が偽造防止です。これまでも、紙幣を刷新するたびに最新鋭の印刷技術が導入されていました。2024年発行予定の新紙幣にも、3Dホログラムなどが導入される予定です。
2024年発行予定の新紙幣に明治時代以降の偉人が肖像に採用されるのは理由があります。やはり、偽造防止が最たる理由です。肖像に採用された3人に偉大な業績があったのはもちろんですが、3人とも精密な写真が残されています。そのような写真のほうが偽造防止に適しているため、明治時代以降の偉人3人が選ばれました。
新紙幣発行は新円切替とは無関係
2024年から新紙幣が発行される予定となっていますが、これを70年以上も前の新円切替と重ね合わせる意見もあるようです。中には、タンス預金やへそくりなどといったものが使えなくなるとか、預金封鎖が行われるといった予測まで見られます。しかし、それらの意見は憶測の域を超えません。
おそらくは、新型コロナの世界的流行やロシアのウクライナ侵攻、それらにともなう物価上昇などによる社会不安が原因となっているのでしょう。物価高が止まらないという点では、1946年と2023年は似ているともいえます。だからといって、2024年からの新紙幣発行は預金封鎖とはつながりません。あくまでも、偽造防止目的のデザイン一新です。
新円切替で紙幣は一新されたがインフレ対策として効果を発揮せず
1946年の新円切替により預金が封鎖され、新しい紙幣が発行されました。しかし、終戦直後のインフレーション対策としては、あまり効果を発揮しませんでした。それから78年後、2024年にも新紙幣の発行が予定されています。新円切替を連想する意見もあるようですが、偽造防止を目的として紙幣を刷新するのであって、新円切替とは一切関係ありません。