今回のテーマは宗教と哲学の違いについてです。どちらも人類が何千年も続けている営みですが、一方で現実離れしたイメージもあり「難しい」「怪しげ」「近寄りがたい」と思われがちなジャンルなのも確かです。両者の特徴などを雑学好きライター・ねぼけねこと一緒に解説していきます。

ライター/ねぼけねこ

法学部出身。某大組織での文書作成・広報部門での業務に10年以上従事し、IT・プログラミング分野の歴史にも詳しい。

宗教と哲学の違いをざっくり解説

まず最初に、宗教と哲学の違いについてざっくり説明します。宗教と哲学は「目に見えないもの」に向き合う人間の姿勢のことで、この点が、宗教と哲学は似ていると言えるでしょう。宗教が向き合うのは「神」などの絶対的なもので、哲学が向き合うのは「真理」などの概念です。

また、歴史的に見れば両者は全く無関係ではなく、ヨーロッパの中世以前は宗教と哲学は深く結びついていました。宗教家も哲学者も、信仰する宗教上の教義を土台にして哲学的に思考していたと言っていいでしょう。

宗教と哲学を分けようという考えや主張が有力になってきたのが、ルネサンス期以降のことでした。そう主張した哲学者の代表格が有名なルネ・デカルトで、大成者がカントです。

宗教:絶対的な存在を信じる

image by iStockphoto

まず宗教は、絶対的な存在を信じ、それをよりどころにする営みあるいは制度のことを指します。宗教にはさまざまな種類がありますが、いずれにせよ神や仏などの人間の理解を超えた存在や法則を信仰することが共通の特徴と言ってもいいでしょう。そうすることで、世の中の苦悩から解放されようとするのが宗教だと言えます。

もともと原始の人間は、万物に神が宿っているとする汎神論(アニミズム)の世界観で生きていました。現在、宗教と聞いて多くの人がイメージするようなタイプの制度が生まれたのは、今から一万二千年前のメソポタミアだとされています。

哲学:物事の本質を探求する

一方の哲学は、絶対的な存在を信じることから始めるのではなく、まずは「自分の頭で物事の本質を探究する」ことを信条とする営みです。絶対的なものへの信仰が最初に来る宗教とは、正反対の営みだと言えるでしょう。

しかし宗教と哲学は密接な関係にあり、歴史的にはもともと土台を同じくするものでした。「自分の頭で考える」という、いわば人間中心主義的なスタイルは、人類の長い歴史で言えば近代以降の比較的新しいものだと言えるでしょう。

こうしたスタイルの哲学は、信仰だけではなく、自分の主観や感情、偏見、先入観などをまず排除します。そして客観的・論理的な視点から物事の本質を突き止めていこうとするのです。

\次のページで「宗教と哲学の価値観は?」を解説!/

宗教と哲学の価値観は?

ここまでで、宗教と哲学の特徴と違いを解説しました。次に、宗教と哲学の価値観の違いを見ていきましょう。ここで言う価値観とは「人生で何を重要視するか」「何が最も良いことと考えるか」という意味に考えて下さい。

宗教は、神や悟りの境地などの絶対的なものに対する信仰をよりどころにします。よって、宗教を信じる人にとっては、そうした信仰こそが価値観の土台となっているでしょう。一方、哲学はそうした絶対的なものを前提としません。

よって哲学は、何かをよりどころにせず自分の頭で思考すること自体が価値観の土台となります。あるいは、そうして考えて得られた真理や思想体系を価値観の基本とすることになるでしょう。

宗教:信仰に基づき人生の意味を見出す

絶対的なものに対する信仰を土台として人生の意味を見出そうとするのが、宗教的価値観です。もともと宗教は信仰が基本にあるので、人生で重要視するものや、最も良いものが、信仰するものと一致する形になるのは当然と言えるでしょう。

例えば、敬虔なクリスチャンなら『聖書』をその価値観の基本とするかも知れません。また仏教徒ならいわゆる「仏の教え」がそれに該当するでしょう。

強い信仰心を持っていなくとも、私たちは気付かないうちに特定の宗教的な価値観や生活習慣の中で生きているものです。人生の意味を見失った時の宗教的なよりどころというのは意外と身近にあり、いざというときにはっきりした「信仰」という形で支えになるのだと言えます。

哲学:物事の本質の探究を目的とする

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一方、絶対的なものへの信仰ではなく、あくまでも自分で物事の本質を探究することを目的とするのが、哲学的価値観です。よって、哲学にとって人生で最も大切なことは、まず自分で考えて探し当てなければなりません。

もっとも、普段から物事を自分の頭で考えてみる癖がある人は、ごく普通にこうした姿勢で物事に臨んでいるものです。よって、宗教的なものや他人から与えられたものをよりどころにせず、人生で大切なものを自分で考えて見つけようとする人は、気付かないうちに哲学的価値観の中にいると言えるでしょう。

哲学は必ずしも学問として完成した体系を指すのではありません。自分で物事の本質を考える態度が哲学なのだとも言えます。

\次のページで「宗教と哲学にとっての真理は?」を解説!/

宗教と哲学にとっての真理は?

ここまでで、宗教と哲学の価値観を解説しました。次に、宗教と哲学にとって真理とは何なのかを見ていきましょう。宗教では、絶対的な存在に従ったり自分の心を浄化したりすることで真理に近づくことができると考えます。

一方、哲学にとっての真理は思考によって導き出されるものです。論理や証拠に基づいて考えていくことで、目に見えない真理を発見しようとします。

宗教:神や悟りの境地

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宗教は、神や悟りの境地など絶対的なものへの信仰から始まるので、世界の根本と言える「真理」は最初から決まっていると言えるでしょう。例えば神は万物の創造者であり支配者でもあります。また、仏教における「仏」も、本来はそれが現象の真相であり法則です。

宗教にとって、真理は信仰することで得られるもので、そしてその真理は永遠不変で普遍的だと言えます。宗教は、信仰によってその普遍的真理からの恩恵を受ける営みなのです。

哲学:思考によって導き出された物事の本質

哲学にとっての真理は、思考によって導き出された物事の本質のことです。よって「真理は人の考え方によって異なる」とも言えますし、そのように「人によって異なることが真理だ」とも言えるでしょう。しかし、そこから先もさらに深く考えるのが、まさに哲学的思考なのだと言えます。

そのように考えると、哲学的真理などというものは「無い」と言いたくなりますし、哲学という営みは「無駄」だと思えるかも知れません。実際そう考える哲学者も昔からいました。

「真理」について考えることを注意深く避けようとする考え方もありますが、いずれにせよ何かの答えを求めて考えようとするとき、どうしても人間は哲学的真理を目指してしまうと言えます。

宗教と哲学にとっての幸福とは?

次に、宗教と哲学にとっての「幸福」について解説しましょう。宗教にとっては、神などの絶対的なものをよりどころにすることそのものが人間にとっての幸福だと言えます。あるいは、そうすることで人生の苦悩から解放された状態も幸福だと言えるでしょう。

一方「自分の頭で考える」ことを良しとする哲学にとっては、思い込みや偏見にとらわれずに物事を考えて、そうして得られた真理と一致することが幸福だと言えます。

分かりやすく言えば、哲学的思考によって「人間にとって幸福とは○○である」という結論が出たなら、まさにその状態に至ることが幸福だということです。もちろんその場合、「幸福とは何か」という主題を先に考えなければなりません。

宗教:絶対的なものとの一致

宗教にとっての幸福は、信仰する絶対的なものに従ったり、それに対して言動を一致させたりすることだと言えます。なぜそれが幸福につながるかというと、一般的な宗教が説く「こうすれば幸せになれる」という教えは、意外と論理的で理に適っているからです。

宗教の特徴は、絶対的なものを信じる「信仰」にありますが、信仰は何もないところから急に湧いてはきません。その宗教の教えが人間の文化や生活習慣、道徳的価値観と矛盾しないことも大切な条件です。

それを踏まえた上で、宗教はさらにお金などでは解決できない人生の深い苦悩の解決策も示してくれます。これらの内容に心から納得することで、信仰による幸福も生まれてくると言えるでしょう。

\次のページで「哲学:真理との一致」を解説!/

哲学:真理との一致

哲学にとっての幸福は、自分の頭で考えてたどり着いた「幸福とは○○である」という真理に、生き方や言動などを一致させることだと言えるでしょう。哲学にとって大切なのは、大切なものや真理を自分の頭で考えて探り当てることだからです。

このように見ていくと、宗教と哲学はとても似ているように見えます。「幸福とは神を信仰することである」と哲学的思考を経てたどり着いたなら、そこでは宗教も哲学も一致しているからです。このように、実は「幸福」以外のさまざまなテーマでも、哲学的思考と宗教的思考が一致することは少なくありません。

最初に述べた通り、哲学と宗教はもとは根っこが同じだったことが、このことからも察せられるでしょう。

宗教は信仰を、哲学は思考を重んじる

宗教は、絶対的なものへの信仰によって成り立ちます。一方、哲学は自らの思考を頼りにして真理を探り当てようとする営みです。双方は正反対のようですが、歴史的には宗教と哲学の根っこは同じだと言えます。

どちらも絶対的なもの(神や真理)に近づいていく営みで、人類は何千年も前からこれを続けてきました。お金などでは解決できない人生上の問題が、これらをよりどころにして解決に近づくことも少なくありません。

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簡単でわかりやすい!宗教と哲学の違いは?価値観や真理・幸福についての考え方も雑学好きライターが詳しく解説

今回のテーマは宗教と哲学の違いについてです。どちらも人類が何千年も続けている営みですが、一方で現実離れしたイメージもあり「難しい」「怪しげ」「近寄りがたい」と思われがちなジャンルなのも確かです。両者の特徴などを雑学好きライター・ねぼけねこと一緒に解説していきます。

ライター/ねぼけねこ

法学部出身。某大組織での文書作成・広報部門での業務に10年以上従事し、IT・プログラミング分野の歴史にも詳しい。

宗教と哲学の違いをざっくり解説

まず最初に、宗教と哲学の違いについてざっくり説明します。宗教と哲学は「目に見えないもの」に向き合う人間の姿勢のことで、この点が、宗教と哲学は似ていると言えるでしょう。宗教が向き合うのは「神」などの絶対的なもので、哲学が向き合うのは「真理」などの概念です。

また、歴史的に見れば両者は全く無関係ではなく、ヨーロッパの中世以前は宗教と哲学は深く結びついていました。宗教家も哲学者も、信仰する宗教上の教義を土台にして哲学的に思考していたと言っていいでしょう。

宗教と哲学を分けようという考えや主張が有力になってきたのが、ルネサンス期以降のことでした。そう主張した哲学者の代表格が有名なルネ・デカルトで、大成者がカントです。

宗教:絶対的な存在を信じる

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まず宗教は、絶対的な存在を信じ、それをよりどころにする営みあるいは制度のことを指します。宗教にはさまざまな種類がありますが、いずれにせよ神や仏などの人間の理解を超えた存在や法則を信仰することが共通の特徴と言ってもいいでしょう。そうすることで、世の中の苦悩から解放されようとするのが宗教だと言えます。

もともと原始の人間は、万物に神が宿っているとする汎神論(アニミズム)の世界観で生きていました。現在、宗教と聞いて多くの人がイメージするようなタイプの制度が生まれたのは、今から一万二千年前のメソポタミアだとされています。

哲学:物事の本質を探求する

一方の哲学は、絶対的な存在を信じることから始めるのではなく、まずは「自分の頭で物事の本質を探究する」ことを信条とする営みです。絶対的なものへの信仰が最初に来る宗教とは、正反対の営みだと言えるでしょう。

しかし宗教と哲学は密接な関係にあり、歴史的にはもともと土台を同じくするものでした。「自分の頭で考える」という、いわば人間中心主義的なスタイルは、人類の長い歴史で言えば近代以降の比較的新しいものだと言えるでしょう。

こうしたスタイルの哲学は、信仰だけではなく、自分の主観や感情、偏見、先入観などをまず排除します。そして客観的・論理的な視点から物事の本質を突き止めていこうとするのです。

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