この記事ではアブラボウズとバラムツの違いについてみていきます。2つとも「身に多量の脂を蓄えた魚」というイメージがあるよな。じつは食べられるのはアブラボウズだけなんです。これには脂の成分の違いが関係しているらしいのです。今回はそんな「全身が脂身の深海魚」の違いを、見分け方も含めて大学で生物を学んだライター2scと一緒に解説していきます。

ライター/2sc

理系の大学院に通うかたわら、ライターとして活動。技術から生活までさまざまな知識を、科学の視点で解説する。この記事では「全身が脂身の深海魚」である、アブラボウズとバラムツの違いについてわかりやすく解説していく。

「アブラボウズ」と「バラムツ/アブラソコムツ」を大まかに比較

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Totti - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

まずはアブラボウズとバラムツの大まかな違いについて解説していきます。両者ともに脂身の多い深海魚なのですが、分類上は全く別の魚です。ここからは分類が近い魚についても一部確認しながら、その違いをみていきましょう。以下を読むだけで、馴染みの薄いアブラボウズ/バラムツがどのような魚なのかイメージできるはずです。

「アブラボウズ」はカサゴ目の高級魚

「アブラボウズ」はカサゴ目ギンダラ科に分類される深海魚。北太平洋一帯に生息していて、日本近海でも水深1,000m辺りでみられます。体長1.5m前後とカサゴ目最大級の体をもつのが特徴です。

その身には近縁のギンダラ同様、多量の脂肪が蓄積。名前通り「脂の乗った高級魚」として日本各地に流通しています。たとえば神奈川県では「オシツケ」、北海道では「アブラメ」などと呼ばれ、愛されてきました。

「バラムツ/アブラソコムツ」はスズキ目の毒魚

「バラムツ」は日本近海に生息している、スズキ目サバ亜目クロタチカマス科の深海魚。こちらも体長1.5m前後と大型の魚です。その最大の特徴は、身に蓄えた特殊な脂肪。バラムツは人間が消化できない蝋状の脂質をもっており、日本の法律で「販売禁止の毒魚」に指定されています。またクロタチカマス科には「アブラソコムツ」という大型の深海魚も存在。こちらも蝋状の脂質をもつ毒魚なのです。

以下この記事では、高級魚「アブラボウズ」と毒魚「バラムツ/アブラソコムツ」の違いについて徹底解説。釣り上げたときの見た目から、切り身の特徴まで見分け方等をお伝えします。

「アブラボウズ」と「バラムツ/アブラソコムツ」の具体的な違い

Lepidocybium flavobrunneum NOAA.jpg
Allen Shimada, NOAA NMFS OST - http://www.photolib.noaa.gov/htmls/fish2590.htm, パブリック・ドメイン, リンクによる

ギンダラ科の「アブラボウズ」とクロタチカマス科の「バラムツ/アブラソコムツ」とでは、具体的な違いが3つ存在。とくに顔つきや体など、見た目が大きく異なっています。以下食味や脂の成分の違いも含めて、詳しくみていきましょう。

違い1.見た目

アブラボウズとバラムツ/アブラソコムツとでは、顔つきや色など見た目が違います。まず「アブラボウズ」はハタやアイナメに似た、幅広の大きな頭部をもつ魚。実際に唇が目立つその顔つきから、「沖アイナメ」なる異名を冠しているのです。そして灰色基調で白い斑点がついた体も特徴のひとつ。その色合いや大きな頭部から、「クエの偽装」に用いられていた過去があります。

対してバラムツ/アブラソコムツの頭部は、いくぶんかシャープ。ともにカツオやカンパチのような流線形の頭部をもっています。その頭部に「金色に光る目」がついているのも両者共通の特徴です。さらにバラムツとアブラソコムツの間にも違いが存在。バラムツ限定で、名前の由来になった「棘のついた鱗」が付属します。そしてアブラソコムツでは、尾の付け根(尾柄部)の上下に突起がみられるのです。

違い2.脂の成分

バラムツ/アブラソコムツは、食品衛生法で流通が禁じられている「食べられない魚」です。なぜならその身に、人間が消化できない「ワックスエステル」という「蝋状の脂質」を多く含んでいるから。身を大量に食べた場合、脂混じりの下痢が出たり、皮膚から脂が漏れたり(皮膚漏症)と健康被害が生じてしまうのです。

一方アブラボウズは「オリーブオイルに近い脂質」を多量に含んでいます。その身には「オレイン酸からなる脂肪分」が50%も含まれているのです。そんなアブラボウズの身は、人が食べてもある程度安全。とはいえ脂質を多量に含んでいるので、食べ過ぎると腹痛の原因となってしまいます。アブラボウズの摂取は、ほどほどにしておきましょう。

違い3.切り身の特徴

アブラボウズの切り身は脂質を多量に含んでいるのに「上品な食味」です。よく締まったその身を噛み締めると、脂の甘みが楽しめます。

対してバラムツ/アブラソコムツの身は例えるなら、「ギトギトした大トロ」といえるでしょう。マグロのような酸味と、口に入れると溶け出す脂が特徴的。とくにアラブソコムツは脂を多く含んでいて、その切り身は血合いすらない「純白」となっているのです。

「アブラボウズ」と「バラムツ/アブラソコムツ」の食べ方

image by iStockphoto

ここからはアブラボウズとバラムツ/アブラソコムツについて、より詳しい雑学を紹介していきます。日本で食べられているのはアブラボウズだけ。しかし海外では、バラムツ/アブラソコムツも一部食べられているのです。高級魚から毒魚まで、食べ方をみていきましょう。

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アブラボウズはれっきとした「高級魚」

「アブラボウズ」は切り身1kgあたりに、2,000円前後の値が付く高級魚。その脂の乗った白身は、煮付け・焼き物・揚げ物・刺身など幅広い料理に適しています。ほかにも神奈川県の三浦半島では、アブラボウズを酒粕や味噌に漬け込んだ「粕漬け・味噌漬け」が地元の名物として愛されてきました。

そんなアブラボウズですが、食べ過ぎは厳禁。一日の摂取量は生食で60g、加熱済みでも120g程度にとどめましょう。

バラムツや仲間のアブラソコムツも海外では食用に

食べると脂混じりの便が漏れてしまう「バラムツ/アブラソコムツ」も、海外の一部地域では食用魚です。台湾ではバラムツ/アブラソコムツの卵巣が、ボラの卵巣同様「からすみ」に加工されています。実はボラでもバラムツ/アブラソコムツでも、卵巣にはワックスエステルが豊富。塩漬け・乾燥の工程で水分を抜いた卵巣は、ワックスエステルに由来する濃厚な風味をもつ「からすみ」となるのです。

また海外の寿司屋では「ホワイトツナ」なる商品名で、生のアブラソコムツを提供していることがあります。味こそ名前通り「大トロ」に似ているホワイトツナですが、その正体は毒魚です。下痢や皮脂漏症など健康被害をきたす恐れがあるので、ホワイトツナを食べるのはやめておきましょう。

「アブラボウズ」は高級魚で「バラムツ」は毒魚

アブラボウズもバラムツも、全身が脂身でできている深海魚です。しかし一般に食用となるのは、脂の成分がオリーブオイルに近いアブラボウズだけ。バラムツや近縁のアブラソコムツの身には、人間が消化できないワックスエステルが含まれているのです。そのため食べると下痢など健康被害が生じる「毒魚」として、日本の法律で流通が禁止されています。

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雑学

簡単でわかりやすい!アブラボウズとバラムツの違いとは?アブラソコムツとの違いも生物系ライターが詳しく解説

アブラボウズはれっきとした「高級魚」

「アブラボウズ」は切り身1kgあたりに、2,000円前後の値が付く高級魚。その脂の乗った白身は、煮付け・焼き物・揚げ物・刺身など幅広い料理に適しています。ほかにも神奈川県の三浦半島では、アブラボウズを酒粕や味噌に漬け込んだ「粕漬け・味噌漬け」が地元の名物として愛されてきました。

そんなアブラボウズですが、食べ過ぎは厳禁。一日の摂取量は生食で60g、加熱済みでも120g程度にとどめましょう。

バラムツや仲間のアブラソコムツも海外では食用に

食べると脂混じりの便が漏れてしまう「バラムツ/アブラソコムツ」も、海外の一部地域では食用魚です。台湾ではバラムツ/アブラソコムツの卵巣が、ボラの卵巣同様「からすみ」に加工されています。実はボラでもバラムツ/アブラソコムツでも、卵巣にはワックスエステルが豊富。塩漬け・乾燥の工程で水分を抜いた卵巣は、ワックスエステルに由来する濃厚な風味をもつ「からすみ」となるのです。

また海外の寿司屋では「ホワイトツナ」なる商品名で、生のアブラソコムツを提供していることがあります。味こそ名前通り「大トロ」に似ているホワイトツナですが、その正体は毒魚です。下痢や皮脂漏症など健康被害をきたす恐れがあるので、ホワイトツナを食べるのはやめておきましょう。

「アブラボウズ」は高級魚で「バラムツ」は毒魚

アブラボウズもバラムツも、全身が脂身でできている深海魚です。しかし一般に食用となるのは、脂の成分がオリーブオイルに近いアブラボウズだけ。バラムツや近縁のアブラソコムツの身には、人間が消化できないワックスエステルが含まれているのです。そのため食べると下痢など健康被害が生じる「毒魚」として、日本の法律で流通が禁止されています。

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