この記事では「政令」と「省令」の違いを見ていきます。「政令」や「省令」は誰がどんな目的で制定するのでしょうか。法律とはどんな違いがあるのでしょうか。他にも規則のようなものがいろいろあるよな。そこで「政令」と「省令」の違いだけでなく、日本の法体系についても元塾講師のyêuthuquáと一緒に詳しく解説していきます。

ライター/yêuthuquá

海外在住。現在の仕事を始める前は教育関係の仕事に従事。国内外を問わず身につけた知識や経験をもとにわかりやすくお届けする。

「政令」と「省令」の違い

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法律を制定できるのは国会。これは皆さん知っていますよね。しかし、法律ではっきり示されてないものがあるのは知っていましたか。あとで例示しますが、法律の条文の中に「…は、政令で定める。」「…は、〇〇省令で定める。」のような記載が見られます

では、この「政令」「省令」の違い、それぞれの役割は何なのでしょうか。まずはこの「政令」と「省令」を掘り下げていきます。

「政令」:内閣が制定する命令

「政令」は、日本国憲法第73条6項に規定されている「内閣が制定する命令」のこと。「施行令」とも呼ばれ、憲法・法律を実施するにあたり、内閣が補助的に制定するルールです。ですから、「政令」は憲法・法律に反したものは定められませんし、義務や罰則を規定することも原則できません。「〇〇法施行令」という名称のものが「政令」です。

「政令」には「執行命令」と「委任命令」の2つがあります。「執行命令」とは憲法・法律の規定に沿って、より詳細な内容や手続きの方法を定めるものです。一方「委任命令」は法律の委任の範囲内で細かい事柄を定めており、委任の範囲内であれば罰則を設けることもできます。

後で例示しますが、法律だけでは実務は分かりにくいものが多いため、どのように実務に落とし込んでいくのか、という部分が必要です。そのために制定されるのが「政令」であり、次にあげる「省令」で実務部分の詳細を補っています。

日本国憲法第73条
「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」

日本国憲法第74条
「法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。」

(e-Gov法令検索)

「省令」:各省庁の大臣が発する命令

「省令」は各省庁の大臣が発する命令のこと。各省庁の大臣が担当する行政事務について法律・政令の施行、または法律・政令の委任に基づいてルールを定めるもので、「施行規則」とも呼ばれます。「政令」同様、憲法・法律に反しないよう定められますし、法律の委任がなければ義務や罰則を設けることはできません。「〇〇法施行規則」という名称のものが「省令」ですね。

また、一見すると「政令」と勘違いしてしまうのが「内閣府令」。これは内閣ではなく、内閣総理大臣が出す命令ですので、各省庁の大臣が発する「省令」と同等の扱いとします。

なお、「政令」の制定には内閣総理大臣およびすべての国務大臣の合意が必要ですが、「省令」は各省庁の大臣が個別に発することができる命令です。

\次のページで「「政令」・「省令」の具体的な例」を解説!/

国家行政組織法第12条
「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。
3 省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」(e-Gov法令検索)

「政令」・「省令」の具体的な例

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法令の施行にあたり、細かいルールや手続きなどを定めたものが「政令」や「省令」でしたね。ここでは、具体的な例を挙げて解説していきます。

「政令」の具体例その1:元号の決定

最近の出来事で、元号が平成から令和に変わりましたよね。これは元号法という法律の委任に基づいて内閣が「政令」で元号を定めたものです。

元号法(法律)
「1 元号は、政令で定める。
2 元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。」

平成31年政令第143号 元号を定める政令(政令)
「内閣は、元号法(昭和五十四年法律第四十三号)第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
元号を令和に改める。」

(e-Gov法令検索)

「政令」の具体例その2:労働者派遣法

もう一つ、労働者派遣法を見てみましょう。第35条4項では日雇い労働者の派遣は禁止されていますが、政令で定められた業務は例外とするというものです。以下、労働者派遣法と労働者派遣法施行令の一部抜粋で確認しましょう。内容を詳しく確認したい人はインターネットで法令をチェックしてみてください。

労働者派遣法第35条(法律)
「4 派遣元事業主は、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、(中略)その他の場合で政令で定める場合を除き、その雇用する日雇労働者について労働者派遣を行つてはならない。」

労働者派遣法施行令第4条(政令)
「法第35条の4第1項の政令で定める業務は、次のとおりとする。
一 電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守(これらに先行し、後続し、その他これらに関連して行う分析を含む。)又はプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。第十七号及び第十八号において同じ。)の設計、作成若しくは保守の業務
(以下略)」

(e-Gov法令検索)

\次のページで「「省令」の具体例:会社法」を解説!/

「省令」の具体例:会社法

次に、「省令」の具体例として会社法と会社法施行規則の抜粋で確認していきます。会社法に規定されている電磁的議決権の行使の時期について、会社法は法務省令・会社法施行規則にさだめられていますので、それを具体例として挙げておきますね。

会社法第76条(法律)
「電磁的方法による議決権の行使は、政令で定めるところにより、発起人の承諾を得て、法務省令で定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を、電磁的方法により当該発起人に提供して行う。」

会社法施行規則第14条(法務省令)
「法第七十六条第一項に規定する法務省令で定める時は、第九条第一号ハの行使の期限とする。」

(e-Gov法令検索)

日本の法体系

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最後に日本の法体系を見ていきます。「政令」「省令」のように法律以外にも、私たちが守るべき法がありますよね。どの法がどの法より上位にあるのか、日本の法の力関係を見ていきましょう。

1.日本国憲法

日本国憲法第98条に規定されいる通り、日本国憲法は「国の最高法規」であり、国内のすべての法令は憲法に違反することはできません。つまり日本国憲法はあらゆる法令の最上位に位置するものなのです。

なお、日本国憲法は1946年11月3日に公布、1947年5月3日に施行されました。現在の文化の日(11月3日)、憲法記念日(5月3日)として祝日となっていますね。

2.法律

法律は国会の議決を経て制定されるものです。日本国憲法第41条に国会は国の「唯一の立法機関」と規定されていますね。したがって、国会以外の機関が法律を制定することはできないのです。

しかし、法案の審議や決定にはどうしても時間を要しますので、国会から行政に対して限定的ではありますが立法権が委任されており、先述の「政令」や「省令」、後述する「条例」などがあります。

\次のページで「3.議員規則・最高裁判所規則」を解説!/

3.議員規則・最高裁判所規則

議員規則は衆議院・参議院の会議その他の手続き、内部規律に関するルールなどを定めたもので、最高裁判所規則は訴訟に関する手続きや弁護士、裁判所の内部規律に関するルールなどを定めたもので、法律の次に効力があります。先に説明した「政令」「省令」は、議員規則・最高裁判所規則の次に効力があると命令です。

4.条例

条例は地方自治体が独自に定めることができるルール。各地方自治体が住民に対して義務を課したり権利を制限したりすることが可能となりますが、憲法・法律の範囲内で定めなければならないですし、「政令」「省令」にも反することができません。

よく耳にするものに「迷惑防止条例」というのがありますね。いろいろな自治体が制定していますが、痴漢・盗撮行為の禁止、つきまといの禁止、不当な客引きの禁止などが定められています。

「政令」と「省令」の違いは命令者

「政令」は内閣が制定する命令、「省令」は各省庁の大臣が発する命令。「政令」は「施行令」とも呼ばれ、憲法・法律を実施するのに必要な細かい事柄や手続きなどのルールを定めたもので、「省令」は「施行規則」と呼ばれ、法律・政令の実施に必要な事柄や手続きを定めたものです。どちらも憲法・法律に反することはできません。日本の法体系も大枠ではありますが、ぜひ覚えておいてくださいね。

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雑学

簡単で分かりやすい「政令」と「省令」の違い!法律との違いや日本の法体系も元塾講師が詳しく解説!

この記事では「政令」と「省令」の違いを見ていきます。「政令」や「省令」は誰がどんな目的で制定するのでしょうか。法律とはどんな違いがあるのでしょうか。他にも規則のようなものがいろいろあるよな。そこで「政令」と「省令」の違いだけでなく、日本の法体系についても元塾講師のyêuthuquáと一緒に詳しく解説していきます。

ライター/yêuthuquá

海外在住。現在の仕事を始める前は教育関係の仕事に従事。国内外を問わず身につけた知識や経験をもとにわかりやすくお届けする。

「政令」と「省令」の違い

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法律を制定できるのは国会。これは皆さん知っていますよね。しかし、法律ではっきり示されてないものがあるのは知っていましたか。あとで例示しますが、法律の条文の中に「…は、政令で定める。」「…は、〇〇省令で定める。」のような記載が見られます

では、この「政令」「省令」の違い、それぞれの役割は何なのでしょうか。まずはこの「政令」と「省令」を掘り下げていきます。

「政令」:内閣が制定する命令

「政令」は、日本国憲法第73条6項に規定されている「内閣が制定する命令」のこと。「施行令」とも呼ばれ、憲法・法律を実施するにあたり、内閣が補助的に制定するルールです。ですから、「政令」は憲法・法律に反したものは定められませんし、義務や罰則を規定することも原則できません。「〇〇法施行令」という名称のものが「政令」です。

「政令」には「執行命令」と「委任命令」の2つがあります。「執行命令」とは憲法・法律の規定に沿って、より詳細な内容や手続きの方法を定めるものです。一方「委任命令」は法律の委任の範囲内で細かい事柄を定めており、委任の範囲内であれば罰則を設けることもできます。

後で例示しますが、法律だけでは実務は分かりにくいものが多いため、どのように実務に落とし込んでいくのか、という部分が必要です。そのために制定されるのが「政令」であり、次にあげる「省令」で実務部分の詳細を補っています。

日本国憲法第73条
「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」

日本国憲法第74条
「法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。」

(e-Gov法令検索)

「省令」:各省庁の大臣が発する命令

「省令」は各省庁の大臣が発する命令のこと。各省庁の大臣が担当する行政事務について法律・政令の施行、または法律・政令の委任に基づいてルールを定めるもので、「施行規則」とも呼ばれます。「政令」同様、憲法・法律に反しないよう定められますし、法律の委任がなければ義務や罰則を設けることはできません。「〇〇法施行規則」という名称のものが「省令」ですね。

また、一見すると「政令」と勘違いしてしまうのが「内閣府令」。これは内閣ではなく、内閣総理大臣が出す命令ですので、各省庁の大臣が発する「省令」と同等の扱いとします。

なお、「政令」の制定には内閣総理大臣およびすべての国務大臣の合意が必要ですが、「省令」は各省庁の大臣が個別に発することができる命令です。

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