日本には本当にたくさんの「名字」があるよな。田中、佐藤、鈴木、山田、中村…。中には下水流(しもずる)のような「これ何て読むんだ!?」って「名字」もあるよな。ただ、「みょうじ」には「苗字」という漢字表記もある。あれ、意味は同じでいいのか?ひょっとして違うのか…?

俺もさすがに不安になってきたぜ。ここは言葉に詳しい人間に聞いてみることにしよう。

というわけで、今回は「名字」と「苗字」の違いについて、言葉に詳しい院卒日本語教師の"むかいひろき"と一緒に解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に言葉の違いについて分かりやすく解説していく。

「名字」と「苗字」に違いはない?

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では、早速「名字」と「苗字」の違いについて考えていきましょう。…と言いたいところですが、現在「名字」と「苗字」の意味や使用場面に違いは一切ありません。ある場面で「苗字」と書いたらよくない…といったことも一切ありませんのでご安心ください。

では、なぜ2つの表記があるのでしょうか。一説には、最初に生まれたのは「名字」の方で平安時代ごろから「なあざな」という読みで使われ始めました。一方の「苗字」は江戸時代に誕生した表記です。「苗」は遠い子孫や末裔という意味があるため、「代々家が続きますように」という願いを込めて、武士が「苗字」という表記を使い始め広まったと考えられています。

第二次世界大戦後、政府が定めた当用漢字表の「苗」の字に「みょう」の読みが当てられなかったことから、現代では「名字」の表現がより使われるようになったとも言われていますね。

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日本人全員が正式に「名字」を名乗ったのは明治維新以降

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この「名字」を日本人全員が正式に名乗ったのはいつでしょうか?実は意外に新しく、日本人全員が正式に名字を名乗ることになったのは1875年(明治8年)の「平民苗字必称義務令」によります。江戸時代まで公式に名字を名乗ることができたのは武士や貴族などの特権階級だけでしたが、この政令により庶民も名字を正式に名乗ることになったのです。

ただ、明治維新より前の日本人の庶民が名字を持っていなかったわけではありません。庶民が公式に名字を名乗ることが江戸時代に許されなくなっただけで、実際には名字を名乗り使用していたそうですね。

「名字」を表す他の表現!「姓」「氏」とは?

「名字」を表す日本語のその他の表現は「苗字」だけではありませんよね。「姓」や「氏」が思い浮かんだ人もいるのではないでしょうか。実はこの「姓」や「氏」の歴史を見てみるととても興味深いですよ。

「姓」:現在では「名字」と同じ!ただ古代では…

「姓」は現在では「せい」と読みますよね。まず、現在では「名字」と同じ意味で使用され違いはありません。ただ、古代では違ったのです。

古代では「姓」は「かばね」と読み、有力な豪族の称号として用いられていました。この「姓」には「臣(おみ)」「連(むらじ)」「君(きみ)」「首(おびと)」などがあり、「蘇我馬子」のように氏(名字)と名前の間に表記し、氏の尊卑を表すようになりました。この「姓(かばね)」の制度は平安時代後期以降は実質的に意味をなさなくなってしまいましたが、形式的に貴族や武家の間で明治4年までは存続していたそうです。

「氏」:現在では「名字」と同じ!武士の世界ではちょっと複雑?

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「氏」は「し」「うじ」と読みます。現在では「し」と読んで「名字」と同じ意味で使われていますよね。「氏名」の「氏」はまさに「氏」が「名字」として使われている好例です。

この「氏」は平安時代には現在の「名字」と同じような意味を指すようになります。ただ、ここからややこしいのが武家社会における「氏」です。武士たちは「源」や「平」といった「氏」の他に、そこから枝分かれした細かい家族集団を区別するために、地名などを用いて「名字」を名乗り始めました。たとえば室町幕府初代将軍の足利尊氏は、「氏」を使用した場合「源尊氏」となりますが、「名字」を使用した場合は「足利尊氏」となります。

つまり、「氏」と「名字」が異なるという事態が明治維新までは当たり前のように存在していたのです。

「名字」と「苗字」の違いは、ありません!

今回は「名字」と「苗字」の違いについて解説しました。ずばり、「名字」と「苗字」の間に意味の違いや使用場面の違いは一切存在しません。どちらを使っても問題はないのです。「名字」は平安時代ごろに誕生し、「苗字」は江戸時代の誕生したと推測されていますが、そのような違いしかありません。余談ですが、「苗字」の「苗」の字はくさかんむりの下は「由」ではなく「田」ですので、間違えないようにしましょう。

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雑学

簡単に分かる「名字」と「苗字」の違い!「姓」・「氏」との違いも院卒日本語教師が分かりやすく解説

日本には本当にたくさんの「名字」があるよな。田中、佐藤、鈴木、山田、中村…。中には下水流(しもずる)のような「これ何て読むんだ!?」って「名字」もあるよな。ただ、「みょうじ」には「苗字」という漢字表記もある。あれ、意味は同じでいいのか?ひょっとして違うのか…?

俺もさすがに不安になってきたぜ。ここは言葉に詳しい人間に聞いてみることにしよう。

というわけで、今回は「名字」と「苗字」の違いについて、言葉に詳しい院卒日本語教師の”むかいひろき”と一緒に解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に言葉の違いについて分かりやすく解説していく。

「名字」と「苗字」に違いはない?

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では、早速「名字」と「苗字」の違いについて考えていきましょう。…と言いたいところですが、現在「名字」と「苗字」の意味や使用場面に違いは一切ありません。ある場面で「苗字」と書いたらよくない…といったことも一切ありませんのでご安心ください。

では、なぜ2つの表記があるのでしょうか。一説には、最初に生まれたのは「名字」の方で平安時代ごろから「なあざな」という読みで使われ始めました。一方の「苗字」は江戸時代に誕生した表記です。「苗」は遠い子孫や末裔という意味があるため、「代々家が続きますように」という願いを込めて、武士が「苗字」という表記を使い始め広まったと考えられています。

第二次世界大戦後、政府が定めた当用漢字表の「苗」の字に「みょう」の読みが当てられなかったことから、現代では「名字」の表現がより使われるようになったとも言われていますね。

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