この記事では「鑑別所」と「少年院」の違いを見ていきます。みんな、どちらの言葉も聞いたことがあるんじゃないか。そして、この2つの施設を混同している人も多いんじゃないでしょうか。「鑑別所」と「少年院」がどのような施設なのか、少年事件がどのように進められるのか、また少年事件と成人事件の違いなどを元塾講師のyêuthuquáと一緒に詳しく解説していきます。

ライター/yêuthuquá

海外在住。現在の仕事を始める前は教育関係の仕事に従事。国内外を問わず身につけた知識や経験をもとにわかりやすくお届けする。

「鑑別所」と「少年院」の違い

image by iStockphoto

「鑑別所(正式には少年鑑別所)」も「少年院」も刑事事件を起こした未成年を収容する施設ですね。まずは、施設の名称にも使われている「少年」の定義を確認しておきましょう。この記事で扱う法令・少年法では満20歳未満の者が「少年」です。しかし、民法改正で2022年4月1日からは18歳で成年ですので18歳・19歳は未成年ではなくなりました。

しかし、少年法では引き続き18歳・19歳を少年として扱い、この18歳以上20歳未満の者を「特定少年」とし、17歳以下の少年とは異なる特例が定められています。「特定少年」についてはあとで詳しく説明しますね。

前置きが長くなりましたが、まずは「鑑別所」と「少年院」の違いを見ていきましょう。

「鑑別所」:少年審判の前・鑑別と指導方針を決定

「鑑別所」は各都道府県に設置された法務省管轄の施設で、少年審判の対象となる少年を観護し、その少年が非行事実を行ったかどうか、非行事実があればその内容について、さらに非行事実に影響を与えた少年の性格や生活環境などを鑑別(分析)し、少年が健全な成長・発展ができるための援助や保護を調べるのが目的です。

収容期間は原則2週間ですが、収容期間は1回の更新が認められるため最長で4週間となります。ただし、死刑・懲役・禁固刑に当たる罪を犯した場合は、さらに2回の延長が認められるので最長8週間まで収容できるようになるのです。

罰を受ける施設ではなく、少年を鑑別する施設ですが、外出は認められません。しかし、収容中は運動をする時間や勉強の指導を受ける時間なども設けられています。

少年法第8条
「家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。 検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。」(e-Gov法令検索)

少年法第9条
「前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。」(e-Gov法令検索)

少年法第17条
「家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二 少年鑑別所に送致すること。」(e-Gov法令検索)

法令に基づき、鑑別所では面接調査、心理調査、身体検査・健康診断、精神医学的審査・診療、行動観察、外部資料の収集が行われ、これらの調査をもとに判定会議が行われ、少年が非行に至った原因、再非行の可能性や危険性、更生に必要なことなどを審議します。

判定会議の結果は「鑑別結果通知書」として家庭裁判所に送られ、裁判所が少年に対する処分を決定する資料となるのです。「鑑別結果通知書」には、少年に対してどのような処分が相当なのか、という鑑別所の意見も記載されます。

\次のページで「「少年院」:少年審判の後・矯正教育と社会復帰」を解説!/

「少年院」:少年審判の後・矯正教育と社会復帰

「少年院」は少年審判における保護処分の一つとして家庭裁判所が「少年院送致」を決定した場合に、少年を収容し、再び非行に至らないよう矯正教育を施す施設です。「少年院」には第1種~第5種少年院の5種類があり、第4種少年院を除き、刑罰を科す施設ではなく、少年の更生を目的とした矯正教育を行います。

なお、第4種少年院については、少年審判ではなく、通常の刑事裁判で禁固刑以上が確定した少年が収容され、刑罰としての刑務作業を行いますので、他の4つの少年院と比べると刑務所に近い施設と言えるでしょう。

少年院法第1条
「この法律は、少年院の適正な管理運営を図るとともに、在院者の人権を尊重しつつ、その特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行うことにより、在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的とする。」(e-Gov法令検索)

「少年院」での矯正教育には、生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導があり、少年が社会生活に必要な知識や技能を習得させ、不良行為を行わないよう矯正し社会復帰できるよう指導を行うのが目的です。

なお、刑事裁判で実刑判決を受けて収容される第4種少年院を除き、少年院に収容された少年については前科はつきません。刑罰を与えるのが目的ではなく、矯正教育・社会復帰が目的ですからね。

少年事件の流れ

image by iStockphoto

「鑑別所」も「少年院」も不良行為を行った少年、またはそのおそれがある少年を収容する施設ですが、そのタイミングや目的が違っていました。まだ成年に達していないこともあり、どちらも刑罰を与えることを目的とはしていない点は共通しています。

しかし、少年事件は未成年(特定少年を含む)が対象となっているため分かりにくい部分もありますので、ここで少し詳しくみていきましょう。

成人事件との違い

成人が刑事事件を起こすと、刑事裁判で有罪・無罪の判決が出ますよね。有罪となれば、懲役や罰金などの刑罰が下され、罪を償うために刑罰に服すのは皆さんも知ってのとおりです。しかし、少年事件では原則として刑罰を科すことはありません。少年法第1条にも見られる通り、少年の改善更生と社会復帰が目的であり、犯罪行為、不良行為を行わないよう矯正し更生させることにあるからです。

刑罰を科すのではなく、教育的手段を講じて更生させることを主たる目的としている点で、少年事件が成人事件とは大きく違います。

\次のページで「少年事件における手続き」を解説!/

少年事件における手続き

少年事件において、罪を犯した少年を逮捕するのは成人と同じです。警察で取り調べを受けた後、検察官に送致。しかし、ここからが成人事件とは違う手続きとなります。成人事件では検察官が起訴・不起訴を決定しますが、少年事件ではすべて家庭裁判所に送致されるのです(全件送致主義)

送致後、裁判所は少年と面接を行い、観護措置とするかどうかの判断を下します。観護措置には収容観護(「鑑別所」送致)と在宅観護がありますが、観護措置となった場合は「鑑別所」への送致が一般的のようです。

観護措置となった少年で、その後、少年審判の開始が決まると、少年審判を受けることとなります。成人事件の裁判に当たるのがこの少年審判です。少年審判で、保護観察や少年院送致、児童自立支援施設送致、検察官送致などの処分が決定します。

観護措置や少年院送致の割合

少年事件において、「鑑別所」送致を含む観護措置の決定が下るのは、家庭裁判所に送致された少年全体の6~8パーセント前後。また、少年院に収容される割合は家庭裁判所に送致された少年のうち約3パーセント前後です。

少年が罪を犯すと「少年院」に送られる、というイメージを持っている人も多いと思いますが、罪を犯した少年で「少年院送致」となるのはごく一握り。少年院送致を含む保護処分となるのは全体の約25パーセント前後です。

実際には多くの少年が不処分、審判不開始となり、元の生活に戻っていきます。これは少年犯罪に寛容というわけではなく、家庭裁判所による調査や面接、審判の過程で行わる教育的措置により、再非行の可能性が低いためなのです。

「特定少年」に関する特例

image by iStockphoto

民法改正により、2022年4月1日から18歳以上20歳未満(18歳・19歳)は法律上は成人として扱われますが、18歳・19歳は「特定少年」として少年法が適用。しかし、家庭裁判所で検察官送致(刑事裁判の対象)となった場合は、原則として20歳以上の成人と同じ扱いとし、17歳以下の少年とは異なります。例えば、17歳以下の有期懲役刑の上限は15年ですが、「特定少年」は成人と同じ30年が上限となるわけです。

また、民法改正前、16歳以上の少年が犯罪行為で被害者を死亡させた罪に問われている場合は、検察官送致となり刑事裁判の対象となっていましたが、「特定少年」については死刑・無期または1年以上の懲役・禁固となる事件が検察官送致の対象として追加となりました。

さらに実名報道ですが、「特定少年」のときに犯した事件については起訴された場合、実名・顔写真の報道が一部認められることとなっています。

「鑑別所」と「少年院」の違いはタイミングと目的

「鑑別所」と「少年院」の違いは、そのタイミングと目的にあります。「鑑別所」は少年審判の前に少年を鑑別し、矯正教育が必要かどうかを判断する施設で、「少年院」は少年審判の後に、矯正教育による更生と社会復帰を目的に少年を収容する施設です。少年の犯罪に対しては、成人の犯罪のように刑罰を科すのではなく、少年の更生と社会復帰が何よりも重要だということなのでしょうね。

" /> 簡単で分かりやすい「鑑別所」と「少年院」の違い!少年事件の流れや成人事件との違いも元塾講師が詳しく解説! – Study-Z
雑学

簡単で分かりやすい「鑑別所」と「少年院」の違い!少年事件の流れや成人事件との違いも元塾講師が詳しく解説!

この記事では「鑑別所」と「少年院」の違いを見ていきます。みんな、どちらの言葉も聞いたことがあるんじゃないか。そして、この2つの施設を混同している人も多いんじゃないでしょうか。「鑑別所」と「少年院」がどのような施設なのか、少年事件がどのように進められるのか、また少年事件と成人事件の違いなどを元塾講師のyêuthuquáと一緒に詳しく解説していきます。

ライター/yêuthuquá

海外在住。現在の仕事を始める前は教育関係の仕事に従事。国内外を問わず身につけた知識や経験をもとにわかりやすくお届けする。

「鑑別所」と「少年院」の違い

image by iStockphoto

「鑑別所(正式には少年鑑別所)」も「少年院」も刑事事件を起こした未成年を収容する施設ですね。まずは、施設の名称にも使われている「少年」の定義を確認しておきましょう。この記事で扱う法令・少年法では満20歳未満の者が「少年」です。しかし、民法改正で2022年4月1日からは18歳で成年ですので18歳・19歳は未成年ではなくなりました。

しかし、少年法では引き続き18歳・19歳を少年として扱い、この18歳以上20歳未満の者を「特定少年」とし、17歳以下の少年とは異なる特例が定められています。「特定少年」についてはあとで詳しく説明しますね。

前置きが長くなりましたが、まずは「鑑別所」と「少年院」の違いを見ていきましょう。

「鑑別所」:少年審判の前・鑑別と指導方針を決定

「鑑別所」は各都道府県に設置された法務省管轄の施設で、少年審判の対象となる少年を観護し、その少年が非行事実を行ったかどうか、非行事実があればその内容について、さらに非行事実に影響を与えた少年の性格や生活環境などを鑑別(分析)し、少年が健全な成長・発展ができるための援助や保護を調べるのが目的です。

収容期間は原則2週間ですが、収容期間は1回の更新が認められるため最長で4週間となります。ただし、死刑・懲役・禁固刑に当たる罪を犯した場合は、さらに2回の延長が認められるので最長8週間まで収容できるようになるのです。

罰を受ける施設ではなく、少年を鑑別する施設ですが、外出は認められません。しかし、収容中は運動をする時間や勉強の指導を受ける時間なども設けられています。

少年法第8条
「家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。 検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。」(e-Gov法令検索)

少年法第9条
「前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。」(e-Gov法令検索)

少年法第17条
「家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二 少年鑑別所に送致すること。」(e-Gov法令検索)

法令に基づき、鑑別所では面接調査、心理調査、身体検査・健康診断、精神医学的審査・診療、行動観察、外部資料の収集が行われ、これらの調査をもとに判定会議が行われ、少年が非行に至った原因、再非行の可能性や危険性、更生に必要なことなどを審議します。

判定会議の結果は「鑑別結果通知書」として家庭裁判所に送られ、裁判所が少年に対する処分を決定する資料となるのです。「鑑別結果通知書」には、少年に対してどのような処分が相当なのか、という鑑別所の意見も記載されます。

\次のページで「「少年院」:少年審判の後・矯正教育と社会復帰」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: