この記事では鋳造と鍛造と違いについて踏み込んでいきます。鋳造は「ちゅうぞう」、鍛造は「たんぞう」と読み、どちらも金属加工の方法ですが、その工程や出来上がった製品の特徴は全く違うようです。人類が金属を手にした数千年前から行われているこれら2つの加工法を、学生時代に金属工学を学んだ工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。金属工学を学んだ経験を生かし、鋳造と鍛造の違いについて詳しく解説していく。

鋳造(ちゅうぞう)とは

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鋳造(ちゅうぞう)は金属加工法のひとつで、融点より高い温度に熱して溶かした金属材料を、特定の形状の型に流し込んで冷やし固めるものです。英語でcasting「鋳る(いる)」ともいい、鋳造に使う型鋳型(いがた)鋳造した品鋳物(いもの)と呼ばれます。

鋳造の特徴

鋳造のメリットは、製法にもよりますがとにかく形状や大きさ、材料、生産数の自由度が高いことです。ただし鍛造と比べて強度がないほか、製品内部に空洞ができたり、溶かした金属が鋳型を充填しきれず欠けができたりするデメリットもあります。そのため、かつて鋳物は割れやすいと思われていました。

鋳造産業は特に自動車とのかかわりが深く、多くの部品が鋳造製品です。ほかにも船舶、鉄道、飛行機、産業機械などの部品や、身近なところではフライパンや鍋などの調理器具や、マンホールのふたが鋳造技術で作られています。

鋳造の歴史

鋳造の歴史は古く、紀元前3600年ごろ、メソポタミアで青銅を鋳造したのが始まりとされています。銅とスズの合金である青銅は銅よりも融点が低く、木炭を使った原始的な炉でも溶かすことができたのです。また、炉に風を送る道具「鞴(ふいご)」が発明されたことで、より高い温度を得ることができ、融点の高い鉄も溶かせるようになりました。

鋳造技術が日本に伝えられたのは弥生時代後半に相当する紀元前4世紀ごろで、青銅と鉄、両方がもたらされたといわれています。

奈良・東大寺の大仏像は奈良時代に鋳造されたものです。まず木材で骨組みを作り、木や縄、粘土で原型の仏像を作ります。その後粘土で型をとり、出来上がった鋳型に500tもの銅を流し込んで完成させました。

\次のページで「鋳造の種類」を解説!/

鋳造の種類

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鋳造は鋳型の素材や製法によって分類されます。代表的な4つを紹介しましょう。

砂型鋳造:古代から続く製法

鋳型の材料に砂を使う方法です。古来より行われている製法で、現在でも少ない数を作ったり、量産前の試作をしたりするときに用いられています。木材で木型と呼ばれる原型を作り、固まる砂でこれの型を取って、鋳型(砂型)とするものです。

初期費用が安い短い期間で製作できる複雑な形状や大きな形状に対応できる砂を再利用できるなどのメリットがある一方、砂の粗さにより表面にざらつきがある寸法精度に乏しい木型の耐久性が乏しい砂型を毎回壊さなくてはならないなどのデメリットもあります。

現在は砂型を造る3Dプリンターも登場し、より複雑な形状の製品も鋳造できるようになりました。

石膏鋳造:美術工芸品に最適

鋳型に石膏を使う方法です。粘土やシリコンなどで原型を作った後、上から石膏で塗り固めて鋳型を作成します。緻密な凹凸も正確に再現できる上、砂型に比べ表面のざらつきが小さいため、量産の試作のほか、ブロンズ像などの美術工芸品に用いられる製法です。ただし量産には不向きで、コストもかかります。

金型鋳造:最も量産向き

金属製の鋳型を使う方法です最も量産に向いていますが、金型製作などの初期コストが高いデメリットもあります

代表的な金型鋳造が、ダイカスト(ダイキャスト)です。金属を流し込む際に圧力をかけるこの製法は、寸法精度に優れた製品を短時間で大量生産できる上、表面が綺麗に仕上がることから、自動車部品に多く使用されてきました。使用する金属材料はダイカスト用合金(アルミ合金・亜鉛合金・マグネシウム合金など)です。

金型技術の向上やダイカスト用合金の開発により、スマートフォンなどの最先端機器から、身近な日用品にいたるまで、さまざまな製品がダイカストで作られています。なお、英語のdie castingのdieは「型」という意味です。

ロストワックス精密鋳造:ジュエリー製作に欠かせない製法

鋳型ではなく、原型の材料にワックスを用いた方法です。蜜蝋などのワックス素材で原型を作った後、周囲を砂や石膏で固めます。その後ワックスを溶かして除去し(ロストワックス)、鋳型を作るものです。寸法精度が非常に高いこの製法は、古くは仏像の鋳造に用いられていました。現在でも芸術作品のほか、指輪などの繊細なジュエリーを作るときに用いられます。

鍛造(たんぞう)とは

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鍛造(たんぞう)とは、金属材料をハンマーやプレスで叩いて圧力を加え、強度を高めつつ成形していく加工法のことです。古くから武具や農具、金物などを作る技法として用いられていました。金属を叩く作業を「鍛える(きたえる)」というため、この製法を「鍛造」といいます。英語でforging

\次のページで「鍛造の特徴」を解説!/

鍛造の特徴

原子や分子、イオンが規則正しく配列している固体を結晶といいます。固体の金属や合金の多くはさまざまな向きを持つ結晶の粒(結晶粒)の集合体であり、そのままでは変形しやすいのですが、鍛造により結晶粒内のゆがみや欠陥を整えたり結晶粒を微細化したりすると、強度が高くなるのです。鍛造はほかにも、内部の空洞をつぶす、不純物を除去するという目的もあります。

鍛造のメリットは何と言ってもその高い強度です。また、薄くしても強度を保てることから、軽量化しやすいことも挙げられます。一方、複雑な形状を作るのが難しく成形にも時間がかかることがデメリットです。

現在、日本の鍛造品の約65%は自動車部品として使われています。身近なところでは、ペンチなどの工具や和包丁などの強度を要するものが鍛造品です。

鍛造の歴史

鍛造の歴史は鋳造よりもさらに古く、人間が金属を利用し始めた紀元前4000年にはすでに鍛造が行われていました。古代エジプトやメソポタミアでは、自然に産出した金や銀、銅のほか、鉄を多く含む隕石を叩いたり押しつぶたりして加工していたといわれています。

炭を使い鉄鉱石から鉄を取り出す技術が生まれたのは、紀元前15世紀ごろのヒッタイト王国(現在のトルコ北西部)で、鉄の鍛造技術もここで発明されました。製鉄や鍛造の技術はやがて世界中に伝わり、鉄器時代の到来となるのです。

現代では、鉄のほかにもチタン、アルミ合金、タングステンなど、さまざまな金属や合金の鍛造製品が作られています。

鍛造の種類(型による分類)

鍛造は、型を使う型鍛造と使わない自由鍛造の2つに大別できます。

\次のページで「鍛造の種類(加工温度による分類)」を解説!/

型鍛造
鍛造用金型を用い、材料を押し潰して加工する方法です。寸法精度の高い製品を短時間で成形することができますが、金型製作などの初期コストが高価になるため、大量生産に向いています。
自由鍛造
金型は用いず、鍛造用の台(金敷)の上で材料を動かしたり回転させたりしながら、ハンマーやプレスで力を加えて目的の形状に加工する方法です。日本刀の製作が分かりやすい例でしょう。初期コストは安いですが熟練の技を要し、大型工業部品や農機具、指輪など、少量生産の製品に向いています。

鍛造の種類(加工温度による分類)

鍛造は加工する温度によっても、分類されます。

熱間鍛造
金属はある温度以上に加熱すると柔らかくなり、結晶のゆがみや欠陥が整います。これを「再結晶」といい、材料を再結晶温度以上に熱して行う鍛造が熱間鍛造です。加工性が高く、大型部材や高強度材料、もろい材料の加工に向いています。
冷間鍛造
材料を加熱せず常温で鍛造します。熱による変形が少ないため寸法精度が高く、表面も滑らかに仕上がる方法です。加熱に要するエネルギーや時間を節約できますが、加工に必要な力は熱間鍛造より大きくなります。
温間鍛造
熱間鍛造と冷間鍛造の中間、約300~900℃で加工します。熱間鍛造のように強度を高めながらも、冷間鍛造よりも小さい力で鍛造する方法です。
溶湯鍛造
鋳造と鍛造を融合した方法です。鋳型内の溶融金属が半凝固状態のうちに機械的方法で外部から圧力を加え、空洞などが発生するのを防ぎます。

鋳造(ちゅうぞう)は溶かして固める、鍛造(たんぞう)は叩いて鍛える

鋳造と鍛造の違いについて詳しく解説しました。耳なじみがなく、どちらかといえば工業的なイメージのある鋳造品や鍛造品ですが、実はあらゆるところに存在し、私たちの暮らしを支えています。鍋が鋳造、包丁やカトラリーが鍛造などと、身近な金属製品を調べてみるのも面白いですね。

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3分で簡単にわかる「鋳造」と「鍛造」の違い!読み方やそれぞれのメリット・デメリットも工学系院卒ライターがわかりやすく解説!

この記事では鋳造と鍛造と違いについて踏み込んでいきます。鋳造は「ちゅうぞう」、鍛造は「たんぞう」と読み、どちらも金属加工の方法ですが、その工程や出来上がった製品の特徴は全く違うようです。人類が金属を手にした数千年前から行われているこれら2つの加工法を、学生時代に金属工学を学んだ工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。金属工学を学んだ経験を生かし、鋳造と鍛造の違いについて詳しく解説していく。

鋳造(ちゅうぞう)とは

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鋳造(ちゅうぞう)は金属加工法のひとつで、融点より高い温度に熱して溶かした金属材料を、特定の形状の型に流し込んで冷やし固めるものです。英語でcasting「鋳る(いる)」ともいい、鋳造に使う型鋳型(いがた)鋳造した品鋳物(いもの)と呼ばれます。

鋳造の特徴

鋳造のメリットは、製法にもよりますがとにかく形状や大きさ、材料、生産数の自由度が高いことです。ただし鍛造と比べて強度がないほか、製品内部に空洞ができたり、溶かした金属が鋳型を充填しきれず欠けができたりするデメリットもあります。そのため、かつて鋳物は割れやすいと思われていました。

鋳造産業は特に自動車とのかかわりが深く、多くの部品が鋳造製品です。ほかにも船舶、鉄道、飛行機、産業機械などの部品や、身近なところではフライパンや鍋などの調理器具や、マンホールのふたが鋳造技術で作られています。

鋳造の歴史

鋳造の歴史は古く、紀元前3600年ごろ、メソポタミアで青銅を鋳造したのが始まりとされています。銅とスズの合金である青銅は銅よりも融点が低く、木炭を使った原始的な炉でも溶かすことができたのです。また、炉に風を送る道具「鞴(ふいご)」が発明されたことで、より高い温度を得ることができ、融点の高い鉄も溶かせるようになりました。

鋳造技術が日本に伝えられたのは弥生時代後半に相当する紀元前4世紀ごろで、青銅と鉄、両方がもたらされたといわれています。

奈良・東大寺の大仏像は奈良時代に鋳造されたものです。まず木材で骨組みを作り、木や縄、粘土で原型の仏像を作ります。その後粘土で型をとり、出来上がった鋳型に500tもの銅を流し込んで完成させました。

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