この記事ではアスベストと石綿の違いについて掘り下げていきます。といっても両者に違いはなく、どちらも「繊維状の鉱物」を指しているが、実は単一の鉱物ではなく複数の種類があるようです。そのほか、アスベスト問題やアスベストの代替材について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、アスベストと石綿の違いについて詳しく解説していく。

アスベストと石綿の違い

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結論から言うと、両者に違いはありません「アスベスト」は天然に産出する繊維状鉱物の総称で、綿のように軽く柔らかいために「石綿(いしわた、せきめん)」の和名がつけられました

日本での呼称「アスベスト」はオランダ語のasbestから来ており、英語ではasbestos(アスベストス)です。語源は「消滅せざるもの」を意味するギリシャ語で、火を近づけても燃えないことに由来します。

アスベストの特徴

アスベストは化学的に安定しており、不燃性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などさまざまな特性を有しています。加工しやすい上に安価なため、世界中で長く使われてきました。日本はアスベストをほぼ輸入に頼っており、これまで1000万t以上が輸入・消費されています

アスベスト繊維の直径は0.02~0.35μm程度で、髪の毛の5000分の1です。そのため、繊維が空気中に飛散しても肉眼では確認できず、気づかないうちに吸引して肺の奥深くまで入り込んでしまうことに。

アスベスト自体に毒性はありませんが、その安定性があだとなり、繊維がいつまでも肺に残って胸膜や肺細胞を刺激し続けます。その結果、じん肺や肺線維症、肺がん、中皮腫などの重篤な病気を引き起こし、人間を死に至らしめるのです

アスベストの歴史

アスベストは燃えない繊維として古来より重宝されていました。古代エジプトではミイラの体を包む布、古代ローマではランプの芯などに使われています。古代中国では、貢ぎ物としてアスベスト製の布が入ってきており、火に投げ入れると汚れだけが燃えてきれいになることから、「火ですすぐ布」という意味の「火浣布(かかんぷ)」と呼ばれていました。

日本においては、平安時代の物語「竹取物語」の中に、決して燃えない「火鼠の皮衣」が登場しますが、これがアスベストであるといわれています。また、江戸時代の学者平賀源内は、秩父山中で偶然アスベストを発見し、これで織った布に火浣布の名を付けました。

アスベストの用途

アスベストの用途は多岐にわたり、建築資材、電気製品、自動車、家庭用品など3000種類以上といわれています。

日本では8~9割が建材に使用され、セメントと混ぜたものを吹き付け施工するほか、外装材や屋根材、床材などに加工されています。特に1960年代の高度成長期には、ビルの高層化や鉄骨構造化にともない大量に使われました。鉄骨材は熱に弱く、火災時に強度が落ちて建物が倒壊する恐れがあるため、耐火耐熱性に優れたアスベストが必要不可欠だったのです。

建材以外にも、煙突などの低圧管や上下水道用の高圧管、パイプラインなどで継ぎ目から液体が漏れるのを防ぐシール材などに用いられています。なお、代替品がない一部のシール材については、2006年のアスベスト全面禁止後も製造・使用が認められていましたが、代替技術の目星がついた2012年からは完全に製造・使用禁止となっています

意外な用途として、人工雪(フェイクスノー)があります。かつてハリウッド映画業界では綿で作られた人工雪を使っていましたが、火災の危険性を指摘されたため、不燃性のアスベストを代替としました。1939年に公開された映画「オズの魔法使」においても、雪が降るシーンに用いられています。

アメリカの一般家庭でもクリスマス装飾などに使われており、世代を超えて受け継がれたり、アンティークショップで売られたりしているものは注意が必要です

アスベスト問題について

世界中で重宝されたアスベストでしたが、20世紀に入ると人体への有害性が徐々に分かってきます。そして1970年代、アスベスト製品生産やアスベスト吹き付けなどの建設作業に携わっていた人の健康被害が明るみになり、「魔法の鉱物」から一転、「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになるのです

日本においても、アスベストにかかわる作業者やその家族に多くの死亡者が出た上、過去にアスベスト製品を生産していた工場周辺の住民までもが健康被害を受けていたことが明らかになりました。

アスベスト製品がほぼ全廃された現在でも、禁止前に建てられた建造物を解体する際にアスベストが飛散することが問題になっており、また自然災害で壊れた建物のアスベスト被害も確認されています

アスベストの種類

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アスベストに定義される鉱物は6種類で、蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライトなど)の2つに大別されます。

1. クリソタイル(chrysotile)

蛇紋石系。化学組成はMg3Si2O5(OH)4で、蛇紋石の一種です。絹糸状で柔らかく、繊維1本1本は白色に見えますが、集まったものは緑か黄色みがかかっています。語源も「金色の髪」を意味するギリシャ語です。別名は白石綿、温石綿

最も一般的な種類で、世界中で使用されたアスベストの9割以上を占めています日本では2004年から原則使用禁止

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2. クロシドライト(crocidolite)

角閃石系。化学組成Na2(Fe2+3Fe3+2)Si8O22(OH)2リーベック閃石が繊維状になったものです。針状に尖っており、クリソタイルのような柔らかさはありません。含有する鉄により灰色がかった青から暗青色を示し、別名は青石綿

耐熱性はクリソタイルや後述のアモサイトに比べて低いですが、耐酸性や強度が大変高いため、吹き付け材のほか耐酸性の製品や高圧管に使用されました。発がん性が最も強く(クリソタイルの500倍)、日本では1995年から製造・使用とも禁止されています

3. アモサイト(amosite)

角閃石系。化学組成は(Mg,Fe)7Si8O22(OH)2で、マグネシウムと鉄の比率によりカミングトン閃石グリュネ閃石になります。別名は茶石綿

クリソタイルやクロシドライトと比べ耐熱性に優れており、吹き付け材のほか各種断熱保温材に使われました。クロシドライトの次に発がん性が強く(クリソタイルの100倍)、こちらも1995年から製造・使用とも禁止されています

4. その他のアスベスト

このほか、角閃石系のアンソフィライト(直閃石綿)トレモライト(透角閃石綿)アクチノライト(緑閃石綿)がありますが、どれも日本では大規模な工業利用がされなかったため、不純物として混入することはあっても多くは存在しないと思われていました。しかし2008年、保育園などの公共施設からトレモライトが大量に検出されたことから、これら3種類もアスベスト調査(建築物のアスベストの有無を調べる調査)の対象になっています。

また、繊維状のウィンチャイトおよびリヒテライトはアスベストの定義には該当しませんが、ばく露防止等の取扱いが必要です。

アスベストの代替材

アスベストに代わる材料として、さまざまな鉱物繊維が生み出されました。代表的な3つを紹介します。

\次のページで「ロックウール:岩綿」を解説!/

ロックウール:岩綿

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スラグや玄武岩を高温で溶解し強い遠心力で吹き飛ばす、いわゆる「綿あめ」的な製法で繊維状にしたものです。繊維径は3~10μm。別名が岩綿のため、石綿(アスベスト)と混同されることがありますが、全くの別物です。耐火性や耐熱性、防音性に優れていることから、アスベストの代替材として広く用いられるようになりました。農業用の培地として使われることも。

発がん性はないとされていますが、海外では国によって判断が分かれています。

スラグは鉱石から鉄を取り出す際に生じる、いわば残りかすです。鉱滓(こうさい)ともいいます。

グラスウール、セラミックファイバー

ロックウール同様、綿あめの製法で廃ガラスを綿状にした素材がグラスウールです。断熱材及び吸音材として用いられており、繊維径は3〜9μm。基本的に発がん性はありませんが、細かい形状のマイクログラスウールに関しては可能性があるとされています。

セラミックファイバーはアルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)を主成分とする繊維の総称です。特記すべきはその耐熱温度で、ロックウールやグラスウールが450~600 ℃であるのに対し、セラミックファイバーは1000 ℃以上あります。鉄鋼・窯業・石油などの高温工業界において使われていますが、種類によっては繊維径が2~4μmと細いために発がん性が疑われており、生産中止になったものも。

アスベストと石綿は全く同じ「時限爆弾」

アスベストと石綿は全く同じですが、アスベストには複数の種類があること、またアスベスト問題や代替材について解説しました。建造物解体によるアスベストの排出量は、2030年ごろにピークを迎えるといわれています。また、アスベストの廃棄についても問題になっており、アスベスト問題は全く終わりが見えないのが実情なのです。

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雑学

簡単にわかるアスベストと石綿の違い!ロックウールとの違いやアスベスト問題も工学系院卒ライターがわかりやすく解説!

この記事ではアスベストと石綿の違いについて掘り下げていきます。といっても両者に違いはなく、どちらも「繊維状の鉱物」を指しているが、実は単一の鉱物ではなく複数の種類があるようです。そのほか、アスベスト問題やアスベストの代替材について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、アスベストと石綿の違いについて詳しく解説していく。

アスベストと石綿の違い

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結論から言うと、両者に違いはありません「アスベスト」は天然に産出する繊維状鉱物の総称で、綿のように軽く柔らかいために「石綿(いしわた、せきめん)」の和名がつけられました

日本での呼称「アスベスト」はオランダ語のasbestから来ており、英語ではasbestos(アスベストス)です。語源は「消滅せざるもの」を意味するギリシャ語で、火を近づけても燃えないことに由来します。

アスベストの特徴

アスベストは化学的に安定しており、不燃性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などさまざまな特性を有しています。加工しやすい上に安価なため、世界中で長く使われてきました。日本はアスベストをほぼ輸入に頼っており、これまで1000万t以上が輸入・消費されています

アスベスト繊維の直径は0.02~0.35μm程度で、髪の毛の5000分の1です。そのため、繊維が空気中に飛散しても肉眼では確認できず、気づかないうちに吸引して肺の奥深くまで入り込んでしまうことに。

アスベスト自体に毒性はありませんが、その安定性があだとなり、繊維がいつまでも肺に残って胸膜や肺細胞を刺激し続けます。その結果、じん肺や肺線維症、肺がん、中皮腫などの重篤な病気を引き起こし、人間を死に至らしめるのです

アスベストの歴史

アスベストは燃えない繊維として古来より重宝されていました。古代エジプトではミイラの体を包む布、古代ローマではランプの芯などに使われています。古代中国では、貢ぎ物としてアスベスト製の布が入ってきており、火に投げ入れると汚れだけが燃えてきれいになることから、「火ですすぐ布」という意味の「火浣布(かかんぷ)」と呼ばれていました。

日本においては、平安時代の物語「竹取物語」の中に、決して燃えない「火鼠の皮衣」が登場しますが、これがアスベストであるといわれています。また、江戸時代の学者平賀源内は、秩父山中で偶然アスベストを発見し、これで織った布に火浣布の名を付けました。

アスベストの用途

アスベストの用途は多岐にわたり、建築資材、電気製品、自動車、家庭用品など3000種類以上といわれています。

日本では8~9割が建材に使用され、セメントと混ぜたものを吹き付け施工するほか、外装材や屋根材、床材などに加工されています。特に1960年代の高度成長期には、ビルの高層化や鉄骨構造化にともない大量に使われました。鉄骨材は熱に弱く、火災時に強度が落ちて建物が倒壊する恐れがあるため、耐火耐熱性に優れたアスベストが必要不可欠だったのです。

建材以外にも、煙突などの低圧管や上下水道用の高圧管、パイプラインなどで継ぎ目から液体が漏れるのを防ぐシール材などに用いられています。なお、代替品がない一部のシール材については、2006年のアスベスト全面禁止後も製造・使用が認められていましたが、代替技術の目星がついた2012年からは完全に製造・使用禁止となっています

意外な用途として、人工雪(フェイクスノー)があります。かつてハリウッド映画業界では綿で作られた人工雪を使っていましたが、火災の危険性を指摘されたため、不燃性のアスベストを代替としました。1939年に公開された映画「オズの魔法使」においても、雪が降るシーンに用いられています。

アメリカの一般家庭でもクリスマス装飾などに使われており、世代を超えて受け継がれたり、アンティークショップで売られたりしているものは注意が必要です

アスベスト問題について

世界中で重宝されたアスベストでしたが、20世紀に入ると人体への有害性が徐々に分かってきます。そして1970年代、アスベスト製品生産やアスベスト吹き付けなどの建設作業に携わっていた人の健康被害が明るみになり、「魔法の鉱物」から一転、「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになるのです

日本においても、アスベストにかかわる作業者やその家族に多くの死亡者が出た上、過去にアスベスト製品を生産していた工場周辺の住民までもが健康被害を受けていたことが明らかになりました。

アスベスト製品がほぼ全廃された現在でも、禁止前に建てられた建造物を解体する際にアスベストが飛散することが問題になっており、また自然災害で壊れた建物のアスベスト被害も確認されています

アスベストの種類

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アスベストに定義される鉱物は6種類で、蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライトなど)の2つに大別されます。

1. クリソタイル(chrysotile)

蛇紋石系。化学組成はMg3Si2O5(OH)4で、蛇紋石の一種です。絹糸状で柔らかく、繊維1本1本は白色に見えますが、集まったものは緑か黄色みがかかっています。語源も「金色の髪」を意味するギリシャ語です。別名は白石綿、温石綿

最も一般的な種類で、世界中で使用されたアスベストの9割以上を占めています日本では2004年から原則使用禁止

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