この前ニュースを見ていたら、逮捕されていた芸能人が「起訴猶処分を受けて釈放された」とアナウンサーが言っていた。これは検察官が起訴しない不起訴と何が違うのでしょう?そこで今回は起訴猶予と起訴との違いをはっきりさせよう。ニュースの出来事と法律のつながりを、法学部卒ビジネスライターのホンゴウ・タケシと一緒に解説していきます。

ライター/ホンゴウ・タケシ

関西の某大学法学部法律学科したビジネスライター。「日本は法が治める国」という考えから、法が私たちの生活にどうつながっているのかを、わかりやすく解説していく。

そもそも起訴とは?

image by PIXTA / 94368199

最初に結論を言います。「起訴猶予」とは検察官による「不起訴」処分となった理由の一つです。不起訴、つまり起訴をしなければ、罪を犯しても裁判を行うことはありません。今回のテーマである「起訴猶予と起訴との違い」を解説する前に、事件発生から起訴までの流れを通じて、そもそも起訴とは何なのかを整理しましょう。

事件発生から検察官送致(送致)までの流れ

事件発生後、容疑者(被疑者)を逮捕して、逃亡や共犯者・証拠の隠滅を防ぎます。警察では、被疑者の身柄が拘束できる48時間以内に、送致するかどうかを判断しなければなりません。

逮捕状を発付するには裁判官の承認が必要です。逮捕には、裁判所への出頭を確保するため被疑者の身柄拘束や、鑑定留置(心神や身体を鑑定するために病院などで拘束)などを目的とすることもあります。これらの目的もなく、また被疑者を身柄拘束する必要もない場合は、在宅で捜査を行い、被疑者の逮捕は行いません。この場合、捜査書類と証拠物のみを検察官に送致します(書類送検)。

逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。逮捕状を提示するのが通常逮捕です。現行犯逮捕は私たち一般人にも逮捕権があります。急を要する場合の逮捕は緊急逮捕です。これは逮捕状はなくとも、懲役三年以上の罪を犯したことに疑いない十分な理由があるときに行います。ただし、逮捕後速やかに逮捕状を請求し、被疑者への提示が必要です。

送致から起訴までの流れ

逮捕の後、24時間以内に被疑者の勾留か釈放かを判断します。調査のために引き続き身柄拘束が必要と判断されると、検察官が裁判所に勾留請求を行いますが、勾留期間は最大20日間です。その間に起訴・不起訴の判断がなされ、起訴されると刑事裁判になります。

被疑者在宅で調査を行う場合、起訴までの期限に規定はありません。複雑な事件だと調査開始から起訴まで1年以上もかかることもありますが、一般的には数ヶ月程度で起訴・不起訴の判断が下されます。

起訴後の勾留期間は2ヶ月。その後も勾留継続の必要があれば1ヶ月ごとに更新可能です。ただし起訴後に裁判所から保釈が認められれば、保釈金を納めると身柄が解放されます。

\次のページで「起訴するために検察に必要なこと(起訴条件)」を解説!/

起訴するために検察に必要なこと(起訴条件)

image by iStockphoto

起訴には、検察官から起訴状の提出が必要です。起訴状には次の内容が記載されています。

・被告人の氏名その他人定事項
・公訴事実
・罪名および罰条

このうち公訴事実とは、検察官が思い描いた犯罪事実の要点となります。

箇条書きではなく、いつどこで誰が何をどうしたかを、検察官が物語のようにまとめたものです。これは、起訴状にある「罪名」が成立するのに必要十分な事実でなければなりません。審判の対象は、検察官が訴状に記載した公訴事実だけです。公訴事実に書かれていないことを裁判で取り上げることはできません。なお、この公訴事実の立証責任は、検察官側にあります。

「起訴猶予」とは検察による「不起訴」処分の一つ

image by iStockphoto

不起訴処分とは検察が起訴を断念することです。しかし、不起訴処分となる理由は、先に述べた「起訴猶予」以外に、いくつかあります。ここでは、その理由を見ていきましょう。

「起訴猶予」による不起訴処分

不起訴処分のうち、一番多い理由が「起訴猶予」で64.7%(2021年検査等統計調査)。

不起訴処分とは、刑事訴訟法第二百四十八条「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」とあるように、被疑者が罪を犯したことは明らかであるが、起訴して裁判を受けさせるまでの必要はないと検察官が判断した場合に適用されます。具体的判断基準例は次の通りです。

・被疑者の性格:素行、学歴、経歴、前科前歴の有無、常習性の有無
・被疑者年齢:若年・老年、学生
・被疑者の境遇:生活環境、家庭状況、職業、交友関係、監督者の有無
・犯罪の軽重:法定刑の軽重、被害の程度
・犯罪の情状:犯罪の動機・原因・方法・手口、利得の有無、被害者との関係、社会に与えた影響
・犯罪後の情状:反省の有無、謝罪・被害弁償・示談の有無、被害感情、身元引受人の有無

\次のページで「「嫌疑不十分」による不起訴処分」を解説!/

「嫌疑不十分」による不起訴処分

「嫌疑不十分」は不起訴処分全体の21.6%。嫌疑不十分とは、被疑者が罪を犯した嫌疑はあるが、裁判で有罪とする証拠が不十分なときに適用される不起訴処分のひとつです。嫌疑不十分で不起訴処分となった場合には再逮捕されることはありません。しかし、嫌疑不十分のため処分保留で一旦釈放となった場合は、新たに証拠が出てくると再逮捕・起訴される可能性があります。

「嫌疑なし」による不起訴処分

不起訴処分のうち1.9%が「嫌疑なし」による不起訴処分。捜査機関が集めた証拠には犯罪を証明するものがなかったため、犯罪の容疑そのものがなかったという検察の判断による不起訴処分です。容疑者は無実であり、捜査が間違っていた可能性があります。

その他理由による不起訴処分

これらの理由以外で不起訴処分になる場合は次の通りです。その合計は不起訴処分の11.8%にあたります。

・被疑者が死亡、または少年、犯罪時に心神喪失状態であった場合
・国際協定により我が国に第1次裁判権がない場合
・親告罪での訴えがない場合、及び取り消された場合
・交通違反で反則金の通知を受け、期間内に反則金の納付した場合
・同一事実につき既に公訴が提起されている場合
・犯罪後の法令により刑が廃止された場合
・時効が成立した場合
・大赦があり、被疑事実が大赦に係る罪の場合、など

前科と前歴の違い

image by iStockphoto

被疑者が不起訴となっても、捜査の対象になった経歴として「前歴」が残ります。これは「前科」と混同されるので整理しましょう。

不起訴となっても「前歴」はつく

前歴とは、捜査機関から犯罪の容疑をかけられ、捜査対象になった経歴のことです。

前歴の記録は、検察庁の「犯歴記録」、警察庁の「前歴簿」に残ります。軽微な犯罪に対し、微罪処分として送致せずに警察で事件を終結する場合にも前歴は残るのです。前歴があったとしても、日常生活で不利になることはありません。ただし、「起訴猶予」で不起訴になったのちに、別の事件を起こすと「反省していない」として厳しく評価される場合があります。なお、交通違反の免許停止・取消処分時の「前歴」と異なるので分けて考えましょう。

\次のページで「有罪判決なってつく「前科」」を解説!/

有罪判決なってつく「前科」

裁判で有罪判決を受けた場合につくのが前科です。こちらは罰金刑の判決であったとして前科としての記録が残ります。前科があると、別の裁判で審理を受ける際に、厳しく評価されるでしょう。またパスポートやビザ(査証)の取得や、海外旅行時に入国審査が厳しくなる場合があります。また前科があると、公務員など一部の職業につくことはできません。

身に覚えないことで逮捕・検挙されたら、すぐに弁護士に連絡を

日本では検察が起訴した事件の有罪率は99.97%です。もし皆さんが身に覚えないことで逮捕・検挙されたら、検察で起訴されるまでの期間内に、いかに対処するかが重要になります。万一そのような事態に巻き込まれたら、すぐに弁護士に連絡を取るべきでしょう。もちろん巻き込まれない事が第一ですが。

" /> 簡単でわかりやすい!起訴猶予と不起訴との違いとは?起訴までの流れとともに法学部卒ライターが詳しく説明 – Study-Z
雑学

簡単でわかりやすい!起訴猶予と不起訴との違いとは?起訴までの流れとともに法学部卒ライターが詳しく説明

この前ニュースを見ていたら、逮捕されていた芸能人が「起訴猶処分を受けて釈放された」とアナウンサーが言っていた。これは検察官が起訴しない不起訴と何が違うのでしょう?そこで今回は起訴猶予と起訴との違いをはっきりさせよう。ニュースの出来事と法律のつながりを、法学部卒ビジネスライターのホンゴウ・タケシと一緒に解説していきます。

ライター/ホンゴウ・タケシ

関西の某大学法学部法律学科したビジネスライター。「日本は法が治める国」という考えから、法が私たちの生活にどうつながっているのかを、わかりやすく解説していく。

そもそも起訴とは?

image by PIXTA / 94368199

最初に結論を言います。「起訴猶予」とは検察官による「不起訴」処分となった理由の一つです。不起訴、つまり起訴をしなければ、罪を犯しても裁判を行うことはありません。今回のテーマである「起訴猶予と起訴との違い」を解説する前に、事件発生から起訴までの流れを通じて、そもそも起訴とは何なのかを整理しましょう。

事件発生から検察官送致(送致)までの流れ

事件発生後、容疑者(被疑者)を逮捕して、逃亡や共犯者・証拠の隠滅を防ぎます。警察では、被疑者の身柄が拘束できる48時間以内に、送致するかどうかを判断しなければなりません。

逮捕状を発付するには裁判官の承認が必要です。逮捕には、裁判所への出頭を確保するため被疑者の身柄拘束や、鑑定留置(心神や身体を鑑定するために病院などで拘束)などを目的とすることもあります。これらの目的もなく、また被疑者を身柄拘束する必要もない場合は、在宅で捜査を行い、被疑者の逮捕は行いません。この場合、捜査書類と証拠物のみを検察官に送致します(書類送検)。

逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。逮捕状を提示するのが通常逮捕です。現行犯逮捕は私たち一般人にも逮捕権があります。急を要する場合の逮捕は緊急逮捕です。これは逮捕状はなくとも、懲役三年以上の罪を犯したことに疑いない十分な理由があるときに行います。ただし、逮捕後速やかに逮捕状を請求し、被疑者への提示が必要です。

送致から起訴までの流れ

逮捕の後、24時間以内に被疑者の勾留か釈放かを判断します。調査のために引き続き身柄拘束が必要と判断されると、検察官が裁判所に勾留請求を行いますが、勾留期間は最大20日間です。その間に起訴・不起訴の判断がなされ、起訴されると刑事裁判になります。

被疑者在宅で調査を行う場合、起訴までの期限に規定はありません。複雑な事件だと調査開始から起訴まで1年以上もかかることもありますが、一般的には数ヶ月程度で起訴・不起訴の判断が下されます。

起訴後の勾留期間は2ヶ月。その後も勾留継続の必要があれば1ヶ月ごとに更新可能です。ただし起訴後に裁判所から保釈が認められれば、保釈金を納めると身柄が解放されます。

\次のページで「起訴するために検察に必要なこと(起訴条件)」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: