会社を誰かに受け継ぐときに「継承」や「承継」といった言葉を耳にすることがあるよな。「継承」や「承継」はどちらも何かしらを誰かに受け継ぐときに使う言葉ですが、厳密な意味は違うみたいです。
今回はこの違いについて、言葉の使い方にこだわるビジネス文書熟練者の西風と一緒に解説していきます。

ライター/西風

企業にて10年以上にわたりビジネスパーソンとの交流や企画書・論文作成を経験。現在は後進育成にも注力。文章のわかりやすさはもちろん、言葉の意味や使い方にもこだわり、わかりやすく正確な情報をお届け。

「継承」と「承継」の違いとは?

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「継承」と「承継」は、いずれも前の代から何かしらのものを受け継ぐときに用いられる言葉です。しかし、「継承」と「承継」は漢字の構成だけでなく、意味も似ているため、「正確な違いがわからない」「会社を受け継ぐときにはどちらが正しい?」と思う方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、「継承」と「承継」の違いについて説明します。会社などの事業を受け継ぐときにはどちらが正しいかもあわせて解説。成功させるポイントについても紹介しますよ。この記事を読めば、「承継」と「継承」の違いについて理解できるだけでなく、事業を受け継ぐときの助けになるでしょう。ぜひ最後までお読みください。

「継承」は具体的なものを受け継ぐこと

「継」という漢字は、あとを受け継ぐことを意味しています。「承」は前のものを受け継ぐという意味を持つ漢字です。この2つの漢字から成り立つ「継承」には、以下のような意味があります。

前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと。承継。「伝統芸能を—する」
引用:デジタル大辞泉

「継承」は財産や権利などの具体的なものを受け継ぐ意味合いが強い言葉です。辞書の例文にある伝統芸能は具体的な技術であるため、「継承」という言葉が用いられています。

「承継」は抽象的なものを受け継ぐこと

「継承」とは漢字の前後が違うだけの言葉である「承継」。「承継」の意味を辞書で調べると、以下のように表されています。

前の代からのものを受け継ぐこと。継承。「権利を—する」「伝統を—する」
引用:デジタル大辞泉

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「承継」には、理念や思想など抽象度の高いものを受け継ぐといった意味があります。ここが、具体的なものを受け継ぐ「継承」と大きく異なる点です。辞書の例文にある伝統は、具体的なものがなく抽象度が高い言葉のため、「承継」という言葉が用いられています。

事業は「承継」するもの! 承継により受け継ぐ3要素

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事業を受け継ぐときには、事業「承継」が正しい使われ方です。財産や権利だけでなく、事業に関する理念や思想といった抽象度の高いものが受け継がれるため、「承継」が使われると理解するとよいでしょう。また、「承継」は、権利や義務を引き継ぐといった法律用語としても使用される言葉です。そのため、法律上の話もあわせて事業を受け継ぐことを表すならば、事業「承継」という言葉が正しいといえるでしょう。

ここからは、事業「承継」で受け継ぐ3つの要素を説明します。

要素その1:経営を「承継」する

事業「承継」では、会社経営を受け継ぎます。具体的には、会社の経営権を後継者に受け継ぐことです。会社の経営権は、後継者への株式譲渡によって受け継がれます。なお、経営権と保有株式の関係は以下のとおりです。

・2分の1超の株式保有:株主総会の普通決議を単独決定できる発言権を取得
・3分の2超の株式保有:株主総会の特別決議を単独決定でき、決議成立可能

株式を3分の2以上保有していれば、経営権を完全に確立している状態といえるでしょう。なお、事業「承継」後も従来の方針を引き継ぎ一貫した経営がなされるためには、事業を受け継ぐ後継者が重要なポイントです。そのため、後継者の選定や育成は、事業「承継」を考える経営者にとって重要な役割であることを認識して取り組む必要があります。

要素その2:資産を「承継」する

事業「承継」では、経営に関する資産を受け継ぎます。具体的には、経営者が保有する株式や不動産・設備といった資産、資金などです。

株式については先ほど説明したとおりで、少なくとも2分の1を超える株式を受け継がなければ、経営権を持つことはできません。また、資産が大きければ、相続税や贈与税も高額になるため、後継者のためにも専門家へ相談しながら事業「承継」の検討をすすめましょう。

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要素その3:知的財産を「承継」する

事業「承継」では知的財産も受け継ぎます。知的財産とは、経営理念や特許、ノウハウ、技術、人脈といった無形の資産です。これら知的財産は、事業を今後もうまくいかせるために必要なものばかり。知的財産の引き継ぎには時間がかかるものが多くありますが、経営者はもれなく後継者へと受け継ぐことが重要です。

事業「承継」の後継者選びにおける3つの選択肢

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事業「承継」を成功させ、今後も事業を一貫してうまく運営させるためには、後継者選びが重要です。ここでは、後継者選びにおける3つの選択肢を紹介します。

選択肢その1:親族内「承継」

親族内「承継」とは、子どもや兄弟などの親族に事業を受け継いでもらう方法です。親族内「承継」は、中小企業によく見られます。親族であれば、事業「承継」に関する話し合いが十分にできるため、事業「承継」の失敗が少ないといえるでしょう。

一方で、経営者が親族への事業「承継」を断るケースや、親族が事業を受け継ぐことを断るケースも存在します。そのような場合には、次に説明する社内「承継」という方法を検討するとよいでしょう。

選択肢その2:社内「承継」

社内「承継」とは、自社の役員や社員に事業を受け継いでもらう方法です。親族に「承継」を断られた場合や、親族以上に任せられる後継者が社内にいる場合に、社内「承継」が選択されます。社内「承継」では、社内にいた人間が後継者になるため、会社や事業に関してよく理解していることが多いです。そのため、親族内「承継」よりも、スムーズに「承継」がすすむこともあります。

選択肢その3:M&A

M&Aとは、自社を他社に買い取ってもらい、他社の下で事業を継続させていく方法です。親族内「承継」や社内「承継」でよい後継者がいない場合や、M&Aをすることにより事業がより発展する場合などにM&Aが選択されます。M&Aの場合、他社の現経営者が後継者になるケースが多いため、安定した経営への信頼度は高いといえるでしょう。

事業「承継」を成功させる!ポイント3選

ここまで、事業「承継」を成功させるには後継者が大切であることを説明しました。ここでは、事業「承継」を成功させるためのポイントを、後継者選定以外で3つ紹介します。

ポイントその1:情報漏えい防止の徹底

事業「承継」を行う場合、情報漏えいには十分気をつけましょう。とくにM&Aで事業「承継」する場合には大切な要素です。情報漏えいが起こると、たとえば以下のようなことが想定されます。

\次のページで「ポイントその2:後継者へのしっかりとした引き継ぎ」を解説!/

・従業員の不安を招く
・取引先との取引に支障が発生する
・上記の結果、M&Aができなくなる

事業「承継」を成功させたいなら、情報漏えい対策は必須です。そのため、事業「承継」に関する情報を知る関係者を最低限に絞りましょう。また、事業「承継」に関する交渉が長引くほど情報漏えいリスクも高まるため、早期に交渉を決着させることも大切です。

ポイントその2:後継者へのしっかりとした引き継ぎ

経営者のノウハウをしっかりと後継者へ引き継ぎしましょう。経営者の経営知識やノウハウなくして、経営を円滑に継続させることはできません。後継者を早期に選定し、自社や同業他社で経験を積ませたり、さまざまな役職を経験させたりすることで、従業員や取引先との信頼関係を構築しながら経営者のノウハウも受け継いでもらうとよいでしょう。

ポイントその3:専門家に相談

事業「承継」を考える際には、専門家に相談するとよいでしょう。税務や法務などの検討も必要ですし、M&Aを検討する場合には、自社の条件にあった買取先を見つけることが必要です。とくにM&Aを行う場合には、M&A仲介会社へ相談するのも有効な手段。仲介会社に相談すれば、最適な事業売却先の提案を受けられたり、交渉を代わりに行ってくれたりします。

専門家に相談すれば、経営者は自社の経営に集中しつつ、M&Aの最適なパートナー選びに関する検討をすすめられるでしょう。

受け継ぐものの具体性によって異なると認識しよう

「継承」と「承継」の違いについてくわしく見てきました。2つとも前の代の人から何かしらを受け継ぐという意味では同じですが、「継承」は具体的なものを、「承継」は抽象度の高いものを受け継ぐ点が異なります。また、事業を受け継ぐときには、事業「承継」と表現されることも確認しました。事業「承継」を成功させるには後継者が重要であり、その他にも情報漏えいの対策をすることや専門家に相談することがポイントであることがわかりました。同じような意味の言葉でもそれぞれ詳細は異なる…くわしく調べるほどに日本語の面白さを感じずにはいられませんね。

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雑学

3分で簡単にわかる「継承」と「承継」の違い!事業を引き継ぐときはどちらが正しい?成功させるポイントもビジネス文書熟練者が詳しく解説!

会社を誰かに受け継ぐときに「継承」や「承継」といった言葉を耳にすることがあるよな。「継承」や「承継」はどちらも何かしらを誰かに受け継ぐときに使う言葉ですが、厳密な意味は違うみたいです。
今回はこの違いについて、言葉の使い方にこだわるビジネス文書熟練者の西風と一緒に解説していきます。

ライター/西風

企業にて10年以上にわたりビジネスパーソンとの交流や企画書・論文作成を経験。現在は後進育成にも注力。文章のわかりやすさはもちろん、言葉の意味や使い方にもこだわり、わかりやすく正確な情報をお届け。

「継承」と「承継」の違いとは?

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「継承」と「承継」は、いずれも前の代から何かしらのものを受け継ぐときに用いられる言葉です。しかし、「継承」と「承継」は漢字の構成だけでなく、意味も似ているため、「正確な違いがわからない」「会社を受け継ぐときにはどちらが正しい?」と思う方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、「継承」と「承継」の違いについて説明します。会社などの事業を受け継ぐときにはどちらが正しいかもあわせて解説。成功させるポイントについても紹介しますよ。この記事を読めば、「承継」と「継承」の違いについて理解できるだけでなく、事業を受け継ぐときの助けになるでしょう。ぜひ最後までお読みください。

「継承」は具体的なものを受け継ぐこと

「継」という漢字は、あとを受け継ぐことを意味しています。「承」は前のものを受け継ぐという意味を持つ漢字です。この2つの漢字から成り立つ「継承」には、以下のような意味があります。

前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと。承継。「伝統芸能を—する」
引用:デジタル大辞泉

「継承」は財産や権利などの具体的なものを受け継ぐ意味合いが強い言葉です。辞書の例文にある伝統芸能は具体的な技術であるため、「継承」という言葉が用いられています。

「承継」は抽象的なものを受け継ぐこと

「継承」とは漢字の前後が違うだけの言葉である「承継」。「承継」の意味を辞書で調べると、以下のように表されています。

前の代からのものを受け継ぐこと。継承。「権利を—する」「伝統を—する」
引用:デジタル大辞泉

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