この記事ではラピスラズリとアズライトの違いについて踏み込んでいきます。どちらも鮮やかな青が美しい鉱物で、青色顔料の原料としても使われていたが、鉱物的には全く異なる。また、アズライトがラピスラズリの代用とされていたこともあったようです。今回はこの2つの「青」について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、ラピスラズリとアズライトの違いについて詳しく解説していく。

ラピスラズリとは

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星々がきらめく夜空をそのまま閉じ込めたような宝石で、鮮烈な青色ウルトラマリンの原料にもなったラピスラズリ。同じく青色顔料の原料である鉱物にアズライトがあります。まずはラピスラズリについて解説しましょう。

ラピスラズリ(lapis lazuli)は、不透明かつ鮮やかな深青色や藍色を呈する半貴石です金色の細かい粒状のパイライト(黄鉄鉱)や、白い筋状のカルサイト(方解石)を内包することもあります。日本では12月の誕生石ですが、9月の誕生石として定めている国も。

語源は「lazhward(ラーズワルド)の石」を意味するラテン語で、lazhwardはアフガニスタンにあるラピスラズリの産地・サリサング鉱山の古い呼び名です。和名は瑠璃(るり)

ラピスラズリの特徴

ラピスラズリは複数の鉱物が混ざった鉱物です。主成分はラズライト(青金石)を始めとする以下の4種類の鉱物で、すべてが方ソーダ石グループに属しています。

ラズライト(lazurite):(Na,Ca)8(AlSiO4)6(SO4,S,Cl)2
 青金石(せいきんせき)。鮮やかな青色の要因となる鉱物です。ラピスラズリの25~40%を占めています。
ソーダライト(sodalite):Na4Al3(SiO4)3Cl
 方ソーダ石(ほうソーダせき)。ナトリウム(ソーダ)を多く含む鉱物です。
アウイン(haüyne): (Na,Ca)4-8Al6Si6(O,S)24(SO4,Cl)1-2
 藍方石(らんほうせき)。鮮やかな青色の鉱物です。特定方向に割れやすい性質(へき開)を有します。
ノゼアン(nosean):Na8Al6Si6O24(SO4) H2O
 黝方石(ゆうほうせき)。「黝」はあおぐろいという意味です。

このほか、副成分としていくつかの微量鉱物が混じっています。代表的な副成分が、ラピスラズリの白い筋にあたるカルサイト(方解石)、そして金色の粒にあたるパイライト(黄鉄鉱)です。ラピスラズリには硫黄が多く含まれており、これが鉄と結合してパイライトを形成します。

ラピスラズリの主な産地は、名前の由来となった鉱山があるアフガニスタン、チリ、ロシアです。

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ラズライトとラズーライト

天藍石(てんらんせき)も「ラズライト」の名を持つ鉱物です。英語表記はlazulite。語源は「青い石」を意味するドイツ語「lazurstein」とされていますが、「天上、天国」を意味するアラビア語という説もあります。その名の通り、青く澄み渡った空のような色の石です。

天藍石の化学組成はMgAl2(PO4)2(OH)2青金石とは全く異なり、ラピスラズリにも含まれていません。しかし青金石の英語のスペルがlazu“r”iteであるのに対し、天藍石はlazu“l”iteで、カタカナ表記にすると同じ「ラズライト」になる上、どちらも美しい青色の鉱物であるため、しばしば混同されてしまうのです。

両者を区別するために、天藍石の方をラズーライトと呼ぶこともあります。

ラピスラズリの歴史

ラピスラズリは古来より世界中で愛された宝石です。古代エジプトにおいては、ファラオや王族、神官などの祭司階級しか身に着けられなかったとされ、ツタンカーメンの墓所からもラピスラズリの宝飾品が多数見つかっています。また、薬や化粧品としても用いられていました。

日本では瑠璃と呼ばれ、仏教における七種の宝「七宝(しちほう)」の1つとされています。奈良の正倉院に収められている宝物の中にも、ラピスラズリが使われたものがいくつかあり、特にラピスラズリの飾りがついた牛革製のベルト「紺玉帯(こんぎょくのおび)」が有名です。

サファイアの語源で「青」を意味するラテン語「sapphirus(サッピルス)」やギリシャ語「sappheiros(サピロス)」は、実はラピスラズリを指しているといわれています。

「海を越える」ウルトラマリン

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中世ヨーロッパにおいて、ラピスラズリは青色の顔料「ウルトラマリン(ultramarine)」の原料として珍重されました。ウルトラマリンは「海を越える」という意味で、ラピスラズリが産地のアフガニスタンから地中海を超えて輸入されたことにちなみます。

ラピスラズリから抽出できる量は2~3%程度とほんのわずかな上、当時ラピスラズリ自体も大変高価だったため、ウルトラマリンは絵画の中でも聖母マリアやキリストのローブなど重要な箇所にのみ使われていました。そんな貴重な青を好んで用いたのがオランダの画家ヨハネス・フェルメールで、「真珠の耳飾りの少女」や「牛乳を注ぐ女」に使われたウルトラマリンは今なお鮮やかな青さを湛え、フェルメール・ブルーとも呼ばれています。

19世紀に安価な合成ウルトラマリンが発明されると、天然ウルトラマリンの需要は減少し、現在では歴史的絵画や建物の修復・再現などに使われるのみです。

アズライトとは

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アズライト(azurite)は鮮明な青色が美しい鉱物です。名前の由来は前述のlazhwardで、和名は藍銅鉱。特徴的な色と名前から、ラピスラズリやラズライト(青金石)、ラズーライト(天藍石)と混同されることがありますが、鉱物的に全く異なります。

アズライトの特徴

アズライトは銅の鉱物で、化学組成はCu3(CO3)2(OH)2です。同じく銅の鉱物であるマラカイト(孔雀石、 Cu2CO3(OH)2に混じって産出されることが多いですが、その産出量はマラカイトに比べて少なくなっています。産地はモロッコ、アメリカ、中国、ロシア、フランスなどです。

アズライトは大変不安定な鉱物で、時間経過とともに大気中の水分と反応して炭酸が抜け、安定したマラカイトに変わってしまいます。逆にマラカイトがアズライトに変わることはありません。

アズライトはパワーストーンなどに用いられることがありますが、硬度が低い上、保存環境によってはマラカイトに変質して緑色に変わってしまうため、注意が必要です。

\次のページで「「青が群れ集まる」群青」を解説!/

銅のサビ「緑青(ろくしょう)」の主成分はマラカイトと同じです。かつて緑青やマラカイトは猛毒であると思われていましたが、現在では毒性がないことが分かっています。

「青が群れ集まる」群青

アズライトの粉末は天然岩絵具「岩群青(いわぐんじょう)」で、現在でも日本画に使われている顔料です。群青には「青の集まり」「青が群がったような」という意味があり、群青色はこの岩群青の色を指しています。なお、群青色の英語はultramarineです。

アズライトは産出量が少ない上に、マラカイトと混じっていることが多く精製が難しいため、かつて日本では、マラカイトを原料とする「岩緑青」の10倍の値段で岩群青が取引されていました。

一方中世ヨーロッパでは、アズライトは高価なラピスラズリの代替品でした。アズライトを原料とする青色顔料が絵画に多用されましたが、前述の通りアズライトは大気中の水分と反応してマラカイトに変わってしまうため、このころの絵画の中には、空や海など青く塗られていた箇所が緑色になっているものが多数あります。

ラピスラズリとアズライトは全く違うが、どちらも美しい青

ラピスラズリとアズライトは、どちらも顔料の原料に使われるほど鮮明な青を呈するものの鉱物的には全く異なること、かつてヨーロッパでは高価なラピスラズリの代替としてアズライトが使われていたことを解説しました。また、ラズライトやラズーライトについても詳しく説明しています。

今日まで、さまざまな鉱物が絵の具として使われてきました。鉱物と色の関係を調べてみると、いろいろ面白い発見がありますよ。

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3分で簡単にわかるラピスラズリとアズライトの違い!ラズライトとの違いや顔料としての使い方も工学系院卒ライターがわかりやすく解説!

この記事ではラピスラズリとアズライトの違いについて踏み込んでいきます。どちらも鮮やかな青が美しい鉱物で、青色顔料の原料としても使われていたが、鉱物的には全く異なる。また、アズライトがラピスラズリの代用とされていたこともあったようです。今回はこの2つの「青」について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、ラピスラズリとアズライトの違いについて詳しく解説していく。

ラピスラズリとは

image by iStockphoto

星々がきらめく夜空をそのまま閉じ込めたような宝石で、鮮烈な青色ウルトラマリンの原料にもなったラピスラズリ。同じく青色顔料の原料である鉱物にアズライトがあります。まずはラピスラズリについて解説しましょう。

ラピスラズリ(lapis lazuli)は、不透明かつ鮮やかな深青色や藍色を呈する半貴石です金色の細かい粒状のパイライト(黄鉄鉱)や、白い筋状のカルサイト(方解石)を内包することもあります。日本では12月の誕生石ですが、9月の誕生石として定めている国も。

語源は「lazhward(ラーズワルド)の石」を意味するラテン語で、lazhwardはアフガニスタンにあるラピスラズリの産地・サリサング鉱山の古い呼び名です。和名は瑠璃(るり)

ラピスラズリの特徴

ラピスラズリは複数の鉱物が混ざった鉱物です。主成分はラズライト(青金石)を始めとする以下の4種類の鉱物で、すべてが方ソーダ石グループに属しています。

ラズライト(lazurite):(Na,Ca)8(AlSiO4)6(SO4,S,Cl)2
 青金石(せいきんせき)。鮮やかな青色の要因となる鉱物です。ラピスラズリの25~40%を占めています。
ソーダライト(sodalite):Na4Al3(SiO4)3Cl
 方ソーダ石(ほうソーダせき)。ナトリウム(ソーダ)を多く含む鉱物です。
アウイン(haüyne): (Na,Ca)4-8Al6Si6(O,S)24(SO4,Cl)1-2
 藍方石(らんほうせき)。鮮やかな青色の鉱物です。特定方向に割れやすい性質(へき開)を有します。
ノゼアン(nosean):Na8Al6Si6O24(SO4) H2O
 黝方石(ゆうほうせき)。「黝」はあおぐろいという意味です。

このほか、副成分としていくつかの微量鉱物が混じっています。代表的な副成分が、ラピスラズリの白い筋にあたるカルサイト(方解石)、そして金色の粒にあたるパイライト(黄鉄鉱)です。ラピスラズリには硫黄が多く含まれており、これが鉄と結合してパイライトを形成します。

ラピスラズリの主な産地は、名前の由来となった鉱山があるアフガニスタン、チリ、ロシアです。

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