すでに亡くなった人についてのドキュメンタリー番組なんかを見ていると、「享年」って言葉が使われていますね。そしてお墓に行くと「行年」という言葉が使われていたりする。それで生徒から質問を受けたんです。「享年」と「行年」の違いは何ですか?…ってな。

実はこの2つの違いはな、あるようでないような…。まあここから先は俺ではなくて言葉のプロに任せよう。

今回は「享年」と「行年」の違いを、言葉に詳しい院卒日本語教師の"むかいひろき"と一緒に解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「享年」と「行年」の違いは読み方だけ?

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「享年」と「行年」の違いは何ですか?…と聞かれたら、あなたはどう答えますか?なかなか答えにくい質問ですよね。そして「行年」の方は、そもそも何と読むのか怪しい人もいるかもしれません。まずは2つの意味や使い方をそれぞれ確認していきましょう。

「享年(きょうねん)」:死んだ時の年齢

まずは「享年」が国語辞典にどのように記載されているかを確認していきましょう。「享年」は次のような意味が国語辞典に掲載されています。

この世に生存した年数。死去したときの年齢。行年(ぎょうねん)。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「きょう‐ねん【享年】キャウー」

辞書によると「享年」は「死去したときの年齢」という意味の言葉です。その隣には「行年」とも書いてあり、この2つは同じ意味の言葉であることが分かります。「享年」は「天から享(う)けた年」という意を表し、簡単に言えば「天から授かった寿命」を表しているといえますね。

「享年」は寺院に入れるお墓や位牌で用いることが多く「享年九十三」といったように「歳」をつけない場合が多いです。ただ、「歳」をつけたからと言って間違いだというわけではなく、「享年九十三歳」としても全く問題ありません。

\次のページで「「行年(ぎょうねん)」:死んだ時の年齢」を解説!/

「行年(ぎょうねん)」:死んだ時の年齢

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次に「行年(ぎょうねん)」の辞書での意味を確認していきましょう。「享年」とは異なり、「行年」は辞書によっては掲載されていない場合もあります。「行年」は次のような意味が国語系の辞典に掲載されていました。

1.享年(きょうねん)に同じ。
2.こうねん。

出典:広辞苑 第7版(岩波書店)「ぎょう-ねん【行年】ギヤウ‥」

辞書によると「行年」は「享年」と同じ意味の言葉であることが分かります。「行年」は「この世に生まれてから何歳まで生きたか」という意を表しており、つまりは「死んだ時の年齢」という意味の言葉です。「行年」は霊園やお墓などで使用される場合が多く、「行年九十五歳」のように「歳」をつける場合が多いですね。ただ、「歳」をつけなくても誤りというわけではありません。

「享年」と「行年」の違いは、どこで用いられるか、「歳」がつくかつかないかの2つがありますが、「死んだ時の年齢」を表す点は共通しています。そして2つに違いはあると言ってもあくまで”傾向”の問題であり、ほとんど違いの無い言葉と考えてよいでしょう

「行年」にはかつて別の意味があった?

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さきほどの「行年」の辞書からの引用を見て気になった方もいるかもしれませんね。2番目の意味は何だと。実は「行年」には「こうねん」と読むもう一つの意味があるのです。いや、正確に言えばあったのです…ですね。

「行年(こうねん/ぎょうねん)」:年齢

「行年」が「こうねん」と読む場合の意味について、国語系の辞書の記述を確認してみましょう。「行年(こうねん)」には次のような意味が記載されています。

\次のページで「意味は同じで読みが違う!それが「享年」と「行年」!」を解説!/

(ギョウネンとも)生まれてこのかたの年。年齢。生年(しょうねん)。〈日葡辞書〉

出典:広辞苑 第7版(岩波書店)「こう-ねん【行年】カウ‥」

「行年」が「こうねん」と読む場合の意味は、「生まれて何年経ったか」つまりは「年齢」です。ただ、「年齢」のことを「行年(こうねん)」というのは現在では見かけませんよね。実は「行年(こうねん)」は古語なのです。『広辞苑』には古語も掲載されているため載っていたのですね。

ちなみに引用部分の「日葡辞書」というのは、江戸時代初めにイエズス会が長崎で発行した日本語-ポルトガル語の辞書のこと。つまり、戦国時代~江戸時代前期には「年齢」という意味で「行年(こうねん)」という言葉が存在していたことになります。

意味は同じで読みが違う!それが「享年」と「行年」!

今回は「享年」と「行年」の違いについて解説しました。「享年」と「行年」は使われる場所や使い方に若干の傾向の違いがありますが、基本的には同じ意味の言葉です。そして「行年」には別の読み方でさらに別の意味が存在することも解説しました。日本語には同じ読みや似たような読みでさらに意味まで似たような言葉のペアがたくさんあり、面白いですね。

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雑学

簡単に分かる「享年」と「行年」の違い!どっちを使ったほうがいい?院卒日本語教師が分かりやすく解説

すでに亡くなった人についてのドキュメンタリー番組なんかを見ていると、「享年」って言葉が使われていますね。そしてお墓に行くと「行年」という言葉が使われていたりする。それで生徒から質問を受けたんです。「享年」と「行年」の違いは何ですか?…ってな。

実はこの2つの違いはな、あるようでないような…。まあここから先は俺ではなくて言葉のプロに任せよう。

今回は「享年」と「行年」の違いを、言葉に詳しい院卒日本語教師の”むかいひろき”と一緒に解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「享年」と「行年」の違いは読み方だけ?

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「享年」と「行年」の違いは何ですか?…と聞かれたら、あなたはどう答えますか?なかなか答えにくい質問ですよね。そして「行年」の方は、そもそも何と読むのか怪しい人もいるかもしれません。まずは2つの意味や使い方をそれぞれ確認していきましょう。

「享年(きょうねん)」:死んだ時の年齢

まずは「享年」が国語辞典にどのように記載されているかを確認していきましょう。「享年」は次のような意味が国語辞典に掲載されています。

この世に生存した年数。死去したときの年齢。行年(ぎょうねん)。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「きょう‐ねん【享年】キャウー」

辞書によると「享年」は「死去したときの年齢」という意味の言葉です。その隣には「行年」とも書いてあり、この2つは同じ意味の言葉であることが分かります。「享年」は「天から享(う)けた年」という意を表し、簡単に言えば「天から授かった寿命」を表しているといえますね。

「享年」は寺院に入れるお墓や位牌で用いることが多く「享年九十三」といったように「歳」をつけない場合が多いです。ただ、「歳」をつけたからと言って間違いだというわけではなく、「享年九十三歳」としても全く問題ありません。

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