この記事ではダンゴムシとワラジムシの違いについてみていきます。2つとも名前から「昆虫の仲間」であると思われがちですが、じつは彼らは昆虫よりも「エビやカニ」に近いぞ。異なる進化の過程をたどってきたみたいです。そのうち体が丸められないワラジムシは、「ダンゴムシの偽物」という不名誉な覚えられ方をしている。今回はそんな「足の多い虫」の違いを、見分け方も含めて、大学で生物学を学んだライター2scと一緒に解説していきます。

ライター/2sc

理系の大学院に通うかたわら、ライターとして活動。技術から生活までさまざまな知識を、科学の視点で解説する。この記事では「陸に上がったエビの仲間」である、ダンゴムシとワラジムシの違いについてわかりやすく解説していく。

ダンゴムシとワラジムシを大まかに比較

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ダンゴムシとワラジムシは、どちらも「節足動物」の一種。体を覆う硬い殻(外骨格)と、節で分かれた胴体(体節)をもっています。両者は名前に「虫」とつきますが、カブトムシやチョウなど「昆虫」とは別物。かれらの正体について、以下みていきましょう!

陸上で繁栄した甲殻類「ワラジムシ」

等脚類の一種「ワラジムシ」は、昆虫ではなくエビの仲間です。エビやカニなど甲殻類(節足動物門甲殻亜門)の、1グループが等脚類。そのうち陸に上がったものが、ワラジムシなど「ワラジムシ亜目」なのです。

ワラジムシ亜目の特徴は、体の8割を占める長い胸部。7つに分かれた節(体節)に、それぞれ1対ずつ、計14本の脚をもちます。そして各体節の背中側に、鎧のような「背板」を備えているのが特徴です。

そんなワラジムシ亜目の筆頭「ワラジムシ」は、「小判状の体と無数の脚をもつ虫」と形容できます。頭と胸と腹が分かれていて、胸に3対・計6本の脚をもつ「昆虫」とは異なる虫です。そんなワラジムシは日本全国に生息。とくに北海道から東北まで、北日本に多く分布しています。ワラジムシが好むのは、植木鉢や石の裏など、湿った暗い場所。風呂場やトイレに出没するため「便所虫」として嫌われています。

「ダンゴムシ」はワラジムシの一種

「ダンゴムシ」は、ワラジムシ亜目に分類される、ワラジムシの一種。じつはワラジムシ亜目のうち、オカダンゴムシ科とコシビロダンゴムシ科とハマダンゴムシ科の3グループが「ダンゴムシ」と例外的に呼ばれるのです。湿った暗い場所を好む点では、ダンゴムシも同様。ただ分布が違っていて、ダンゴムシは関東以南に多く生息しています。

そのうち日本で多くみられるのは、オカダンゴムシ科のオカダンゴムシ。じつはヨーロッパ原産の外来種です。オカダンゴムシは乾燥に強いため、都市部に多く生息しています。対して在来のコシビロダンゴムシとハマダンゴムシはそれぞれ、山の中と浜辺に分布。普段目にすることはありません。この記事では、そんなダンゴムシとワラジムシの見分け方を紹介していきます。

\次のページで「ダンゴムシとワラジムシの具体的な違い4点」を解説!/

ダンゴムシとワラジムシの具体的な違い4点

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ここではダンゴムシとワラジムシを分ける、4つの違いについて紹介します。両者ともにワラジムシ亜目で、「小判状の体」と「14本の脚」をもつ生き物。ですがダンゴムシとワラジムシとでは「動き」が違います。さらに細部の見た目が違うため、容易に判別可能。以下ダンゴムシとワラジムシの、見分け方についてみていきましょう!

違い1.防御の手段

ダンゴムシとワラジムシとでは、身を守る手段が違います。見分けたいときは指でつついてみましょう。つつかれると背板を曲げて丸くなるのは、おなじみダンゴムシ。対してワラジムシは、背板の構造上、丸くなれません。その代わりに、つつかれるとお尻から粘液を分泌します。

また丸くなれないワラジムシでは、ダンゴムシよりも動きが速いのも特徴。彼らが潜む植木鉢や石を裏返すと、走って逃げていきます。

違い2.背中まわりの見た目

ダンゴムシとワラジムシでは、背中まわりの見た目にも細かな違いが。ダンゴムシの体では、背板が盛り上がっているため、厚みがあります。彼らが綺麗に丸くなれるのはこのため。そして背板に光沢があるのも特徴です。

対してワラジムシは、狭い場所に潜りやすい、薄い体をもちます。ダンゴムシと違って、艶のない背板をもつのも特徴。虫眼鏡で拡大してみると、その表面が鮫肌のようにざらついていることがわかります。

違い3.お尻の見た目

お尻の周りに注目すれば、ダンゴムシとワラジムシは簡単に見分けられます。まずおなじみダンゴムシのお尻には、目立つ突起物がありませんよね。対してワラジムシのお尻には、尾肢(びし)と呼ばれる突起が2本、生えているのです。

違い4.食べるもの

ダンゴムシとワラジムシとでは、食べるものがすこし違います。ダンゴムシは、なんでも食べる雑食性。ウリや豆など野菜類やパンジーなど花卉類(かきるい)、ミミズや昆虫などの死骸まで食べてしまうのです。対してワラジムシは草食性。野菜くずや落ち葉など、腐りかけの植物を好みます。

\次のページで「ダンゴムシとワラジムシについてもっと詳しく」を解説!/

ダンゴムシとワラジムシについてもっと詳しく

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ここからはダンゴムシとワラジムシについて、より詳しく掘り下げていきます。まずはわたしたち人間との関係について解説。さらにワラジムシ亜目の進化についても、大学で生物学を学んだライターならではの雑学を紹介します!

ダンゴムシ/ワラジムシと人間の関係性

ダンゴムシとワラジムシは、「害虫」として認知されています。一見無害そうな彼らを嫌うのは、おもに農家の人たち。ダンゴムシもワラジムシも、野菜類や果実類の新芽を食害する「農業害虫」なのです。また「不快害虫」としての側面も無視できません。家の玄関に大量発生することがあるのです。湿り気を好むため、しばしば風呂場でも目撃されます。

一方でダンゴムシ/ワラジムシは、自然界に欠かせない存在です。野外いたるところで、落ち葉や虫の死骸が跡形もなく片付いているのは、彼らのおかげ。ダンゴムシ/ワラジムシは、生物由来のごみを食べて土に還す「分解者」なのです。またカルシウムを豊富に含む「ホソワラジムシ」は、爬虫類の餌として販売されています。このようにダンゴムシ/ワラジムシは、人の役に立つ「益虫」でもあるのです。

ダンゴムシ/ワラジムシの進化と呼吸器官

わたしたちが「虫」と呼ぶ生き物のほとんどは、陸棲の節足動物。もともとは海に住んでいて、進化の過程で陸に上がってきた4つのグループからなります。それがカブトムシなど「昆虫類」とムカデなど「多足類」、クモやサソリなど「鋏角類」、そしてダンゴムシやワラジムシなど「等脚類」です。それぞれ別々に上陸したため、呼吸器官が違います。たとえば昆虫は「気門・気管」、クモは「書肺」を採用しているのです。

そしてダンゴムシ/ワラジムシが採用しているのは「白体」という呼吸器官。表皮が体内に陥没・枝分かれして、肺のような構造をとっています。そんな白体がついているのは、腹側のお尻あたり。ダンゴムシ/ワラジムシを裏返すと、名前通り白くなっている箇所があるはずです。

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ワラジムシ亜目のうち、丸くなれるのが「ダンゴムシ」

ワラジムシとダンゴムシはどちらも、等脚類ワラジムシ亜目に分類される「エビやカニの仲間」です。「虫」と呼ばれるワラジムシ/ダンゴムシは、昆虫とは無縁。その証拠に等脚類と昆虫類とでは、発達させてきた呼吸器官が違います。また足の本数や体のつくりが違うのも特徴です。そんな等脚類ワラジムシ亜目のうち、体を丸めることができるグループだけを「ダンゴムシ」と総称します。

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簡単でわかりやすい!ダンゴムシとワラジムシの違いとは?見分け方や進化の歴史も大学で生物を学んだライターが詳しく解説

この記事ではダンゴムシとワラジムシの違いについてみていきます。2つとも名前から「昆虫の仲間」であると思われがちですが、じつは彼らは昆虫よりも「エビやカニ」に近いぞ。異なる進化の過程をたどってきたみたいです。そのうち体が丸められないワラジムシは、「ダンゴムシの偽物」という不名誉な覚えられ方をしている。今回はそんな「足の多い虫」の違いを、見分け方も含めて、大学で生物学を学んだライター2scと一緒に解説していきます。

ライター/2sc

理系の大学院に通うかたわら、ライターとして活動。技術から生活までさまざまな知識を、科学の視点で解説する。この記事では「陸に上がったエビの仲間」である、ダンゴムシとワラジムシの違いについてわかりやすく解説していく。

ダンゴムシとワラジムシを大まかに比較

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ダンゴムシとワラジムシは、どちらも「節足動物」の一種。体を覆う硬い殻(外骨格)と、節で分かれた胴体(体節)をもっています。両者は名前に「虫」とつきますが、カブトムシやチョウなど「昆虫」とは別物。かれらの正体について、以下みていきましょう!

陸上で繁栄した甲殻類「ワラジムシ」

等脚類の一種「ワラジムシ」は、昆虫ではなくエビの仲間です。エビやカニなど甲殻類(節足動物門甲殻亜門)の、1グループが等脚類。そのうち陸に上がったものが、ワラジムシなど「ワラジムシ亜目」なのです。

ワラジムシ亜目の特徴は、体の8割を占める長い胸部。7つに分かれた節(体節)に、それぞれ1対ずつ、計14本の脚をもちます。そして各体節の背中側に、鎧のような「背板」を備えているのが特徴です。

そんなワラジムシ亜目の筆頭「ワラジムシ」は、「小判状の体と無数の脚をもつ虫」と形容できます。頭と胸と腹が分かれていて、胸に3対・計6本の脚をもつ「昆虫」とは異なる虫です。そんなワラジムシは日本全国に生息。とくに北海道から東北まで、北日本に多く分布しています。ワラジムシが好むのは、植木鉢や石の裏など、湿った暗い場所。風呂場やトイレに出没するため「便所虫」として嫌われています。

「ダンゴムシ」はワラジムシの一種

「ダンゴムシ」は、ワラジムシ亜目に分類される、ワラジムシの一種。じつはワラジムシ亜目のうち、オカダンゴムシ科とコシビロダンゴムシ科とハマダンゴムシ科の3グループが「ダンゴムシ」と例外的に呼ばれるのです。湿った暗い場所を好む点では、ダンゴムシも同様。ただ分布が違っていて、ダンゴムシは関東以南に多く生息しています。

そのうち日本で多くみられるのは、オカダンゴムシ科のオカダンゴムシ。じつはヨーロッパ原産の外来種です。オカダンゴムシは乾燥に強いため、都市部に多く生息しています。対して在来のコシビロダンゴムシとハマダンゴムシはそれぞれ、山の中と浜辺に分布。普段目にすることはありません。この記事では、そんなダンゴムシとワラジムシの見分け方を紹介していきます。

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