この記事では「顧客」と「お客様」の違いについてみていきます。どちらの言葉も、店などの利用者のことを指すだけに、その使い分けに迷う人もいて当然でしょう。今回はその違いについて、漢字の難し「顧客」の読み方から、たまにネットなどで目にすることのある「顧客様」はおかしいのかまで、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

「顧客」は「こきゃく」と読む!

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まずはじめに、字が難しく、読み方を知らない人もいるであろう「顧客」の読み方を教えましょう。「顧」は一字で、音読みだと「コ」、訓読みでは「顧みる」「かえりみる」と読む字であり、「顧客」「こきゃく」と読みます。

顧客とお客様のざっくりした違い

今度は「顧客」「お客様」のざっくりした違いについて説明しましょう。「顧客」「お客様」店などの利用者のことを指す言葉ですが、「顧客」「ビジネスにおいて会社内や取引相手などとの間で使う言葉」であるのに対し、「お客様」「店側などが、その店の客本人に対して使う呼び方」だという違いがあります。

顧客とお客様の漢字をていねいに説明

ここまで、お客を意味する「顧客」「お客様」という言葉について、「顧客」はビジネスにおいて会社内や取引相手などとの間で使い、「お客様」は店側などが、客本人に対して使うという違いがあることは説明しましたね。ここからは言葉に対する理解を深めるために、それぞれに使われている漢字について、ていねいに説明したいと思います。

「客」はやってきて足をとめてくれる人

まず、「顧客」「お客様」の両方に使われている「客」という字について説明しましょう。「客」という字の「宀(うかんむり)」に関しては家や屋根をあらわしています。その下に使われている「各」の成り立ちについては諸説ありますが、たとえば「人の足が石に躓いている様子」、あるいは「神様が祈りに対して応え、降りてくる様子」をあらわしているなどといったものです。

ただ、「『何かがやってきて足を止める、とどまる』というような意味をあらわす」と考えられている点は、おおむね共通しています。よって、「客」という漢字はこのようなパーツで構成されているので、「自分たちの家や屋根、つまり店にやってきて足を止めてくる人」である「きゃく」という意味を持つようになりました。

「顧みる」と「省みる」の違いと例文

つづいて、「顧客」「顧」という字について説明したいと思います。さきほど、「顧」「顧みる」と送りがなをふって「かえりみる」と読むことは説明しましたね。「かえりみる」という読みの漢字は他に「省みる」がありますが、「省みる」は「反省」という単語に使うように、「過去を振り返った上で反省する」というニュアンスを持ちます。

それに対し、「顧みる」は単に「ものごとについて過去を振り返る」という意味です。また、「ものごと過去を振り返る」ということは、それだけそのことが気にかかっているという事ですよね?ですから、「ものごとに対して思いをめぐらせる」「深く考える」といった意味も持っています。「かえりみる」を使った文章で

・彼は危険をかえりみずに、車にひかれそうになっている子どもを助けた。

のような使い方をされているものを目にしたことはありませんか?この場合の「かえりみず」「『危険』というものに対し、思いをめぐらせたり、深くかんがえたりしない」という意味なので、漢字にするときには「顧みず」の方を使います。そして、「顧」をつかった「ご愛顧」という言葉に聞き覚えはありませんか?

ご愛顧いただいている皆様へ、感謝の気持ちをこめてキャンペーンを実施します。

などと使われますが、この言葉は「愛情」などの「愛」と、「思いをめぐらせる」「深く考える」意味の「顧」を合わせて「ひいきにしたり、目をかけること」を意味します。そして、「顧客」とはこのように、自分たちの店や会社などを「愛顧」してくれる「客」、つまり「ひいきにしてくれるお客さん」のことを言うのです。

「省みる」……過去を振り返って反省すること
「顧みる」……単に過去を振り返ること・ものごとを深く考えたり、思いめぐらせること
「愛顧」……お客さんが店や会社・企業などをひいきにすること

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「お客様」の「お」は漢字で書くと「御」

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今度は「お客様」に使われている「お」について説明しましょう。「お客様」は、すべて漢字で書くなら「御客様」と書くことができますが、すべて漢字で書くと読み手に堅い印象を与えてしまうためか、一般的には「お客様」あるいは「お客さま」と書かれることの多い言葉です。

「御」のように、言葉のあたまについて意味を付け加える言葉を「接頭辞」と呼ぶのですが、中でも「御」付いた言葉に尊敬の意味を付け加え、特に優れていたり、最上のものを意味します。

「様」は、距離をとることで敬意をあらわす

名前の後につける「様」敬意をあらわすことは多くの方が知ってると思いますが、その由来はご存じでしょうか?一説によると、もともとは「それ」や「その」などを意味する、指示語の「さ」と、「状態」をあらわす言葉である「ま」を合わせたものではないかと考えられ、直訳するなら「そちらの辺り」といった意味の言葉です。しかし、「そちらの辺り」という意味の「様」がなぜ敬意をあらわすようになったのでしょうか?

今でも初対面の方をいきなり呼び捨てにするのは失礼にあたりますよね?同じように、昔も名前を直接呼びつけるのは失礼と考えられており、「〇〇様」、つまり「〇〇の辺り(にいらっしゃる方)」のように、あえて距離感を感じさせる呼び方をすることで敬意をあらわしたと考えられています。ただし、戦国時代では逆に呼び捨てが最上級の敬意をあらわした場合もあり、必ずしも、どの時代もこの感覚が共通していたわけではないようです。

「顧客様」はおかしいの?

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インターネットで「顧客」「お客様」などを調べると、サジェスト、つまり予測変換などに「顧客様」と出てくることがあります。しかし、「顧客様」という言い方は、おそらく「顧客」と「お客様」の「お客」の音が近いせいか生まれた言い間違いであり、多くの人が違和感を覚える言い回しですので、みなさんも間違えないように気をつけてください。

「顧客」は仕事仲間、「お客様」は客に対して使う!

今回の説明で、「顧客」「ビジネスにおいて会社内や取引相手などとの間で使う言葉」であり、「お客様」「客本人に対して使う言葉」だということや、それぞれの言葉に対する理解も深めていただけたかと思います。また、さきほども言ったように「顧客様」という言い回しは間違いですので、今回説明した「顧客」「お客様」を上手く使いわけるようにしましょう。

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簡単でわかりやすい!顧客とお客様の違いとは?顧客様はおかしいの?読み方や使い分けも現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「顧客」と「お客様」の違いについてみていきます。どちらの言葉も、店などの利用者のことを指すだけに、その使い分けに迷う人もいて当然でしょう。今回はその違いについて、漢字の難し「顧客」の読み方から、たまにネットなどで目にすることのある「顧客様」はおかしいのかまで、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

「顧客」は「こきゃく」と読む!

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まずはじめに、字が難しく、読み方を知らない人もいるであろう「顧客」の読み方を教えましょう。「顧」は一字で、音読みだと「コ」、訓読みでは「顧みる」「かえりみる」と読む字であり、「顧客」「こきゃく」と読みます。

顧客とお客様のざっくりした違い

今度は「顧客」「お客様」のざっくりした違いについて説明しましょう。「顧客」「お客様」店などの利用者のことを指す言葉ですが、「顧客」「ビジネスにおいて会社内や取引相手などとの間で使う言葉」であるのに対し、「お客様」「店側などが、その店の客本人に対して使う呼び方」だという違いがあります。

顧客とお客様の漢字をていねいに説明

ここまで、お客を意味する「顧客」「お客様」という言葉について、「顧客」はビジネスにおいて会社内や取引相手などとの間で使い、「お客様」は店側などが、客本人に対して使うという違いがあることは説明しましたね。ここからは言葉に対する理解を深めるために、それぞれに使われている漢字について、ていねいに説明したいと思います。

「客」はやってきて足をとめてくれる人

まず、「顧客」「お客様」の両方に使われている「客」という字について説明しましょう。「客」という字の「宀(うかんむり)」に関しては家や屋根をあらわしています。その下に使われている「各」の成り立ちについては諸説ありますが、たとえば「人の足が石に躓いている様子」、あるいは「神様が祈りに対して応え、降りてくる様子」をあらわしているなどといったものです。

ただ、「『何かがやってきて足を止める、とどまる』というような意味をあらわす」と考えられている点は、おおむね共通しています。よって、「客」という漢字はこのようなパーツで構成されているので、「自分たちの家や屋根、つまり店にやってきて足を止めてくる人」である「きゃく」という意味を持つようになりました。

「顧みる」と「省みる」の違いと例文

つづいて、「顧客」「顧」という字について説明したいと思います。さきほど、「顧」「顧みる」と送りがなをふって「かえりみる」と読むことは説明しましたね。「かえりみる」という読みの漢字は他に「省みる」がありますが、「省みる」は「反省」という単語に使うように、「過去を振り返った上で反省する」というニュアンスを持ちます。

それに対し、「顧みる」は単に「ものごとについて過去を振り返る」という意味です。また、「ものごと過去を振り返る」ということは、それだけそのことが気にかかっているという事ですよね?ですから、「ものごとに対して思いをめぐらせる」「深く考える」といった意味も持っています。「かえりみる」を使った文章で

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