この記事では一神教と多神教の違いについてみていきます。日本人のなかには家の宗教は何か、と聞かれてもなかなか答えられない者も多いようです。しかし、世界では宗教をもとに争いも起きている。一神教と多神教の違いを知ることは世界のなかの日本を知って、よりよく生活していくために重要な知識だと言えるんです。今回は一神教と多神教の違いを、定義から確認しつつ、宗教学に造詣が深く、自分もクリスチャンである高校教師ライターの源シタゴウと一緒に解説していきます。

ライター/源シタゴウ

大学時代は宗教学を受講するとともに、『ブッダの生涯』や『イエスの生涯』を読んで感銘を受ける。特に長崎県の「遠藤周作記念館」を訪れるほどの遠藤周作ファン。

大まかな一神教と多神教の違いとは?

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一神教と多神教と言われても、神様の数が違う程度しかわからないのではないでしょうか。とはいえ、両者の違いを理解することは、多文化社会が進む世の中で適切なコミュニケーションをとるために、不可欠な知識です

知らないがために人間関係を壊してしまったり、最悪、危害を加えられたりすることも。まず、辞書でそれぞれの定義を確認しておきましょう。

一神教
ただ一つの神だけの存在を認め、それを信仰の対象とする宗教。唯一神教。単一(拝一)神教、交替神教などに区別される。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など。

多神教
多数の神の存在を認め、これを崇拝する宗教体系。原始宗教や古代宗教の形態は大多数がこれに属する。諸神はそれぞれに個体的性格をもち、文化が進むにつれて職能神として明確に意識され、また神々の関係も整理され、パンテオン(万神廟)を形成することが多い。

出典:精選版 日本国語大辞典

一神教は宇宙を創る神に対する絶対的信仰

一神教とは一人の神を信仰する宗教ですので、その神は唯一無二の存在となります。全てを創造する神に対する絶対的な信仰。それこそが一神教の特徴です。

例えば、旧約聖書『創世記』には、キリスト教の神=ヤハウェは6日間で天地を創造する様子が描かれています。天地を創り、人間を創った存在が唯一神なのです。これは後ほど述べる多神教の神々と性格とはまるで異なっていると言えます。

多神教は宇宙に創られる神々に対する緩やかな敬愛

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一方の多神教とは、様々な性格を持った神々に対する尊敬もしくは敬愛のような信仰が特徴です。それは多くの神々が太陽や森林、大河など豊かな自然環境を擬人化したものと言えるものだからでしょう。私たちの生活を成り立たせてくれる自然に感謝の念や祈願をささげたいという人間の欲求が生み出した存在。それこそが多神教の神々だったのです。

何日も日照りが続いたり、洪水が何度も発生したりするという自然環境のあり方を反映するかのように、多神教の神々は様々な性格を持っています。陽気な神様、荒々しい神様、気まぐれな神、好色な神。

ギリシャ神話では、主神ゼウスは気が多く好色な神であったり、その妻のヘーラーは嫉妬深い神であったりと、誰一人として完璧な神はおらず、どこかに欠点があるのです。そういった欠点も含めてギリシャの人々は神々を敬っていると言ってよいでしょう。

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一神教と多神教はなぜ生まれた?

次に、一神教と多神教が生まれた背景を見ていきましょう。先ほど述べてきたように、多神教の神々と一神教の神々は単に数の問題だけではなく、同じ神とは思えないほど性格が異なります。多神教の神々は私たち人間と同様に欠点だらけ。だからこそ人気があるともいえるのです。

それに対して、一神教の神は絶対的な信頼を寄せられる完璧な存在でなければなりません。キリスト教の神に欠点はあり得ないのです。では、多神教と一神教はなぜ生まれたのでしょうか。

一神教の起源

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まず、一神教がなぜ生まれたのか、説明していきましょう。一神教の起源は二つの説があります。

・アニミズム的多神観から単一神教をへて一神教へと発展する、とする説(進化説)
・原始的な至上者信仰から多神観へ退化する、とする説(原始一神観説 )

出典:ブリタニカ百科事典

二つの説とも多神教との関係が説明されている点がポイントです。要するに、一神教が先なのか多神教が先なのか、という問題になります。このことは様々な角度から論証されてきましたが、紀元前の中国王朝やゾロアスター教などの古い宗教で多神教的な信仰がなされていた、ということを考えれば、多神教から一神教へ変化してきたとするのが妥当でしょう。

つまり、人間の生活に深く関係する自然に対する畏敬の念が神々を生み出し、徐々に一神教化してきたと考えられそうです。

多神教の起源

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多神教の起源はやはり自然崇拝(アニミズム)と言っていいでしょう。日本は無宗教の国だとされていますが、世界価値観調査によると、無宗教は63%となっています。しかし残りの28.4%が仏教となっていますので、この層を冠婚葬祭の時だけ宗教に頼る葬式仏教徒だと考えれば、ほとんどの日本人は無宗教です。

しかし、無宗教=無神論者とは言えません。日本には古くから山岳信仰や河川信仰など身近な自然に対する素朴な信仰が存在します。日本人は自分の周囲の様々なものに神性を見出してきたからこそ、八百万の神という言葉も存在するわけです。

一神教と多神教の例

ここでは、一神教と多神教にそれぞれどのような宗教があるのか、紹介していきます。

一神教の例:キリスト教、イスラム教

まず、一神教の例としてはキリスト教とイスラム教が挙げられます。キリスト教は唯一無二の絶対神であるヤハウェを信仰する宗教。たまに勘違いされますが、イエス=キリストは神ではなく、救世主としてこの世に遣わされた存在ですね。つまり、神の御子になります。

一方のイスラム教の神はアッラー。実はアッラーはヤハウェと同一の神なのです。ともに同一の神を崇めながら、なぜ異なる宗教なのかというと、イエス=キリストとムハンマドの扱いの問題となります。

キリスト教の解釈ではイスラム教を開いた預言者ムハンマドは単なる一預言者か、悪くすると偽預言者として扱われ、一方でイスラム教ではイエス=キリストは重要な預言者ではあるが、人間にすぎない、とされるのです。

多神教の例:道教、ヒンズー教

続いて多神教の例を見ておきましょう。多神教の代表としては道教とヒンズー教が挙げられます。まず、道教というのは中国の三大宗教の一つであり、不老長寿を理想とする宗教です。

道教の神々は元始天尊をはじめ、多くの神々が存在しますが、日本では斉天大聖(孫悟空)が有名ですね。『西遊記』の登場人物である斉天大聖が無敵の暴れん坊というべきキャラクターであることからわかるように、道教の神々は人間臭い神が多いと言えるでしょう。ヒンズー教の神々も同様で、シヴァ神とヴィシュヌ神が広く知られていますが、破壊神とされるシヴァ神は暴風雨の、ヴィシュヌ神は太陽の象徴とされ、いずれも多面的な性格をもちます。

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一神教は万物を創る絶対神を信じ、多神教は万物から創られた神々を敬う

今まで見てきたことからわかるのは、一神教と多神教の違いは、単なる神の数の違いではないということです。一神教の神は絶対的な神であり、人々は自分の救済を願いますが、人間の生活とは隔絶した、近寄りがたい存在。

一方の多神教の神々は様々な性格を持ち、欠点もあるところが親しみやすい存在なのです。その多神教の神々の起源は人間の周囲の様々な事物=万物から生まれたのでしたね。一方の一神教の神は天地をはじめ、あまねく万物を創り出す創造神です。一神教を奉じる人々は誠心誠意、絶対神を信じ、多神教を奉じる人々は神々に畏敬の念を抱いてきた、と言えるでしょう。

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3分でわかる一神教と多神教の違い!起源や成り立ちもクリスチャンの高校教師がわかりやすく解説!

この記事では一神教と多神教の違いについてみていきます。日本人のなかには家の宗教は何か、と聞かれてもなかなか答えられない者も多いようです。しかし、世界では宗教をもとに争いも起きている。一神教と多神教の違いを知ることは世界のなかの日本を知って、よりよく生活していくために重要な知識だと言えるんです。今回は一神教と多神教の違いを、定義から確認しつつ、宗教学に造詣が深く、自分もクリスチャンである高校教師ライターの源シタゴウと一緒に解説していきます。

ライター/源シタゴウ

大学時代は宗教学を受講するとともに、『ブッダの生涯』や『イエスの生涯』を読んで感銘を受ける。特に長崎県の「遠藤周作記念館」を訪れるほどの遠藤周作ファン。

大まかな一神教と多神教の違いとは?

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一神教と多神教と言われても、神様の数が違う程度しかわからないのではないでしょうか。とはいえ、両者の違いを理解することは、多文化社会が進む世の中で適切なコミュニケーションをとるために、不可欠な知識です

知らないがために人間関係を壊してしまったり、最悪、危害を加えられたりすることも。まず、辞書でそれぞれの定義を確認しておきましょう。

一神教
ただ一つの神だけの存在を認め、それを信仰の対象とする宗教。唯一神教。単一(拝一)神教、交替神教などに区別される。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など。

多神教
多数の神の存在を認め、これを崇拝する宗教体系。原始宗教や古代宗教の形態は大多数がこれに属する。諸神はそれぞれに個体的性格をもち、文化が進むにつれて職能神として明確に意識され、また神々の関係も整理され、パンテオン(万神廟)を形成することが多い。

出典:精選版 日本国語大辞典

一神教は宇宙を創る神に対する絶対的信仰

一神教とは一人の神を信仰する宗教ですので、その神は唯一無二の存在となります。全てを創造する神に対する絶対的な信仰。それこそが一神教の特徴です。

例えば、旧約聖書『創世記』には、キリスト教の神=ヤハウェは6日間で天地を創造する様子が描かれています。天地を創り、人間を創った存在が唯一神なのです。これは後ほど述べる多神教の神々と性格とはまるで異なっていると言えます。

多神教は宇宙に創られる神々に対する緩やかな敬愛

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一方の多神教とは、様々な性格を持った神々に対する尊敬もしくは敬愛のような信仰が特徴です。それは多くの神々が太陽や森林、大河など豊かな自然環境を擬人化したものと言えるものだからでしょう。私たちの生活を成り立たせてくれる自然に感謝の念や祈願をささげたいという人間の欲求が生み出した存在。それこそが多神教の神々だったのです。

何日も日照りが続いたり、洪水が何度も発生したりするという自然環境のあり方を反映するかのように、多神教の神々は様々な性格を持っています。陽気な神様、荒々しい神様、気まぐれな神、好色な神。

ギリシャ神話では、主神ゼウスは気が多く好色な神であったり、その妻のヘーラーは嫉妬深い神であったりと、誰一人として完璧な神はおらず、どこかに欠点があるのです。そういった欠点も含めてギリシャの人々は神々を敬っていると言ってよいでしょう。

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