この記事では魚醬とナンプラーの違いについてみていきます。2つとも「醤油のような調味料」というイメージがあるよな。じつはナンプラーは魚醤の一種なんです。日本の魚醤とは製法が異なるので、独特の味になるみたいです。今回はそんな「魚由来の調味料」の違いを、大学で農学を専攻したライター2scと一緒に解説していきます。

ライター/2sc

理系の大学院に通うかたわら、ライターとして活動。技術から生活までさまざまな知識を、科学の視点で解説する。この記事では「魚から作られる調味料」である、魚醬とナンプラーの違いについてわかりやすく解説していく。

魚醬とナンプラーを大まかに比較

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まずは「魚醤」の定義について徹底解説。大豆由来の醤油と比較しつつ、その成り立ちをみていきます。そして魚醤の一種「ナンプラー」のルーツについても紹介。以下を読めば、なぜ魚から調味料が採れるのか、その理由がわかります!

魚醤は魚由来の醤油

「魚醤」は生の魚介類を塩で漬け込んで熟成させた食材の総称。食材を塩漬けにして作る「醤/ひしお」の一種で、「穀醤」の醤油とは区別されます。魚醤が豊富に含んでいるのは、うま味成分グルタミン酸。魚介類自身の消化酵素とバシラス属などの細菌が、タンパク質を分解してうま味成分に変えます。

魚醤に用いられる魚介類は多種多様。その見た目も、大豆の醤油に似たものから塩辛類までバラエティ豊かです。そのうち日本で「魚醤」と呼ばれるのは、イワシやハタハタなどの魚から取れる液状の調味料。ですがイカの塩辛やアンチョビ、シュリンプペーストも広義には「魚醤」に分類されます。その歴史は長く、古代ローマ時代には「ガルム」という魚醤が食べられていたのです。

ナンプラーはタイの魚醤

魚醤は世界各国で食べられています。そのうち東南アジア・タイには「ナンプラー」という魚醤が存在。トムヤンクン・ガパオライス・ナシゴレンなど、エスニック料理の味付けに用いられています。この「ナンプラー」は、中国からタイに移り住んだ華人によって、20世紀初頭に生み出された新しい調味料。その名残で「ナンプラー」は、中国の魚醤「魚露/ユイルウ」と同じく和訳すると「魚の水」となるのです。

以下この記事では、日本の魚醤とタイのナンプラーを比較。その風味などの、具体的な違いについて解説していきます。

日本の魚醬とナンプラーの具体的な違い3選

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一口に「魚醤」といえど、その製法は国によってまちまち。この記事では「ナンプラー」との比較を行うために、「日本の魚醤」について取り上げます。昔ながらの日本の魚醤と20世紀に生まれたナンプラーの作り方や味わいについて、違いをみていきましょう!

\次のページで「違い1.原材料」を解説!/

違い1.原材料

基本的に魚醤は「生魚の塩漬け」です。しかし日本の魚醤とタイのナンプラーとでは、原材料となる魚や調味料に違いが存在します。日本の魚醤の原材料は多種多様。イワシ類のほかにハタハタ・イカナゴ・アジ・サバ・イカが用いられるのです。対してナンプラーで主流の原材料はカタクチイワシ。さらに魚と塩のみからなる日本の魚醤と違って、ナンプラーでは砂糖が1%添加されるのです。

違い2.発酵期間

発酵にかける時間も違っていて、魚醤よりナンプラーのほうが短い期間で出荷されます。日本の魚醤が1年から3年もかけて発酵させた高級食材であるのに対して、ナンプラーは7ヶ月〜1年で出荷される大衆食材。発酵期間が2年を超えたナンプラーは超高級品なのです。そのためタイの国民は、ナンプラーを塩よりも多く消費しています。

違い3.風味

日本の魚醤は塩味が強く、クセは控えめ。対してナンプラーの風味には「魚の臭い」からなるクセがあるのが特徴。これは発酵期間の短さに由来します。ナンプラーでは、魚臭さが取れる前に瓶詰めが行われるのです。そんなクセの強いナンプラーは、タイ料理の味付けに欠かせない調味料。じつは代表的なタイ料理2,312種のうち1,265種に、ナンプラーが使用されているのです。

魚醤やナンプラーの仲間は世界中に

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「魚醤」に分類される調味料は、世界中に存在。醤油状のものから塩辛類まで、多岐にわたります。日本国内に限っても、地域ごとにスタイルの異なる魚醤が食べられてきたのです。以下では日本各地の、伝統的な魚醤を紹介。さらにナンプラーの仲間である、アジア一帯の魚醤についてもみていきましょう!

日本の魚醤はバラエティ豊か

日本各地では、多種多様な魚醤が発展。なかでも石川県の「いしる」と秋田県の「しょっつる」が有名です。ここに香川県の「いかなご醤油」も加えて「日本三大魚醤」と総称されています。

まず「いしる」のおもな原材料は、マイワシやウルメイワシなどイワシ類。ほかにスルメイカ・ピンサバ・アジが材料となることもあります。強い香りとうま味をもつ「いしる」は、貝焼きやいしる鍋など郷土料理に欠かせません。

秋田県の「しょっつる」は、世界的にみても変わり種。イワシ類ではなく、冬になると大量に取れるハタハタを原材料としているのです。この「しょっつる」は家庭の味でした。大豆由来の醤油が高級品だった時代には、その代用品として各家庭で「しょっつる」が作られていたのです。昔は桶にハタハタ・塩・麹を漬けこんでいたそう。量産化された今でも、郷土料理「しょっつる鍋」に欠かせません。

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魚醤はアジアに広く分布

「魚醤」はアジアのうち、海に面した地域に広く分布しています。具体的には、東アジア・東南アジアの各国で愛されているのです。例えば中国には「魚露/ユイルウ」、韓国には「エクジョ」という魚醤が存在します。そのうち韓国の「エクジョ」は、日本でもポピュラー。アミの塩辛と並んで、本場流キムチの味付けに用いられているのです。

タイ以外の東南アジア諸国でも、多様な魚醤文化が育まれています。なかでも代表的なのは、ナンプラーのルーツとなったベトナムの「ヌクマム」です。その原材料はカタクチイワシやムロアジ。含まれるタンパク質の量が多いほど、高級な「ヌクマム」であるとされています。ほかにはカンボジアの「トゥック・トレイ」という変わり種の魚醤も存在。その原材料はなんと、コイやライギョなど淡水魚なのです。

魚醤の一種ナンプラーはタイの家庭の味

タイ生まれの調味料「ナンプラー」は、魚介類を塩につけて作る「魚醤」の一種。日本の魚醤と比べて熟成期間が短いため、独特のクセがある風味をもちます。最短7ヶ月ほどで出荷可能、3回に分けて搾り取れるため、安価なのがナンプラーの長所。本場タイでは、塩よりも多く用いられる調味料なのです。ナンプラーに限らず各種魚醤は、強い「クセ」と「うま味」をもちます。まずは料理の隠し味に、使ってみましょう!

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簡単でわかりやすい!魚醬とナンプラーの違いとは?材料や風味・世界の魚醤も農学専攻ライターが詳しく解説

この記事では魚醬とナンプラーの違いについてみていきます。2つとも「醤油のような調味料」というイメージがあるよな。じつはナンプラーは魚醤の一種なんです。日本の魚醤とは製法が異なるので、独特の味になるみたいです。今回はそんな「魚由来の調味料」の違いを、大学で農学を専攻したライター2scと一緒に解説していきます。

ライター/2sc

理系の大学院に通うかたわら、ライターとして活動。技術から生活までさまざまな知識を、科学の視点で解説する。この記事では「魚から作られる調味料」である、魚醬とナンプラーの違いについてわかりやすく解説していく。

魚醬とナンプラーを大まかに比較

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まずは「魚醤」の定義について徹底解説。大豆由来の醤油と比較しつつ、その成り立ちをみていきます。そして魚醤の一種「ナンプラー」のルーツについても紹介。以下を読めば、なぜ魚から調味料が採れるのか、その理由がわかります!

魚醤は魚由来の醤油

「魚醤」は生の魚介類を塩で漬け込んで熟成させた食材の総称。食材を塩漬けにして作る「醤/ひしお」の一種で、「穀醤」の醤油とは区別されます。魚醤が豊富に含んでいるのは、うま味成分グルタミン酸。魚介類自身の消化酵素とバシラス属などの細菌が、タンパク質を分解してうま味成分に変えます。

魚醤に用いられる魚介類は多種多様。その見た目も、大豆の醤油に似たものから塩辛類までバラエティ豊かです。そのうち日本で「魚醤」と呼ばれるのは、イワシやハタハタなどの魚から取れる液状の調味料。ですがイカの塩辛やアンチョビ、シュリンプペーストも広義には「魚醤」に分類されます。その歴史は長く、古代ローマ時代には「ガルム」という魚醤が食べられていたのです。

ナンプラーはタイの魚醤

魚醤は世界各国で食べられています。そのうち東南アジア・タイには「ナンプラー」という魚醤が存在。トムヤンクン・ガパオライス・ナシゴレンなど、エスニック料理の味付けに用いられています。この「ナンプラー」は、中国からタイに移り住んだ華人によって、20世紀初頭に生み出された新しい調味料。その名残で「ナンプラー」は、中国の魚醤「魚露/ユイルウ」と同じく和訳すると「魚の水」となるのです。

以下この記事では、日本の魚醤とタイのナンプラーを比較。その風味などの、具体的な違いについて解説していきます。

日本の魚醬とナンプラーの具体的な違い3選

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一口に「魚醤」といえど、その製法は国によってまちまち。この記事では「ナンプラー」との比較を行うために、「日本の魚醤」について取り上げます。昔ながらの日本の魚醤と20世紀に生まれたナンプラーの作り方や味わいについて、違いをみていきましょう!

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