今回は「水銀」がテーマです。

水銀は特殊な元素です。それは金属元素で唯一、常温で液体だからです。水銀といえば正確に温度が測れると、温度計に使われていた。しかし今はもう使われていない。それはなぜか。

それでは水銀について周期表マニアの科学館職員、たかはしふみかが解説します。

ライター/たかはし ふみか

本と実験が好きな、図書館司書資格を持つ化学系科学館職員。普段から化学や工作の本を読んでいる。ページを自分の手でめくれる紙の本が好き

水銀とはどんな?

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水銀は原子番号80の金属元素です。金属というと金や銀、鉄やアルミなどがありますね。これらの金属と水銀の決定的な違いは、水銀は常温で液体であるという事です。ちなみに常温で液体の元素自体、水銀以外は臭素(Br)しかありません。

周期表から見た水銀

周期表から見た水銀

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それではまず、水銀という元素の特徴を確認してみましょう。

元素記号 Hg
原子番号 80
状態(常温) 銀のような光沢を持つ液体
発見 紀元前500年
名前の由来 hydrargyrum(水+銀)
融点 -38.83℃

水銀は英語でmercuryマーキュリーと言います。マーキュリーとは、ローマ神話のメルクリウスが由来です。ちなみにマーキュリーとは水星のことでもあります。

水銀が液体なのは融点が低いから

常温で液体なのは、融点が常温より低く沸点が常温より高いからです。その融点は-39℃、沸点は357℃になります。水は融点が0℃でそれより低いと氷に、高いと液体になりますね。水銀も融点より高い温度では液体となるのです。

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水銀は薬だった?意外な過去

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続いて、薬として活用されてきた水銀の歴史を紹介していきます。

水銀は不老不死の薬だった?

現在は猛毒として知られている水銀。ですが、古代は不老不死の薬として信じられていたのです。その薬を「仙丹」と言います。また外科治療、さらには梅毒の治療にも使われていました。梅毒の治療に水銀が用いられたという最初の記録は1496年ですが、もっと昔から用いられていたという説もあります。

身近だった水銀

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さらに水銀は赤チンという消毒液としても使われていました。赤チンとはその名も「マーキュクロム液」と言い、有効成分として有機水銀二ナトリウム化合物を含んでいます。赤チンという名の通り、暗赤褐色をしているのです。

しかし1950年代に水銀を原因とした水俣病が発生しました。そして1973年に水銀を含む廃液の排出を防ぐため、赤チンの国内での製造が中止となったのです。ただし需要があったことから、海外から原料を輸入して2020年まで製造していました。

水俣条約の発効

2017年、水銀及び水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する国際条約、水銀に関する水俣条約が発効されました。これは人が排出する水銀にから人の健康や環境を守るためのものです。これは英語で「the Minamata Convention on Mercury」。水俣病がどれだけ世界に影響を与えたかがわかりますね。

水銀の毒性について

先ほど水俣病の話をしましたように、水銀と聞いてまず思い浮かぶのが水俣病やその毒性でしょう。水銀は毒物及び劇物取締法によって毒物に分類されています。毒物とは致死量(摂取・被ばくすると死に至る量)2g以下の物質のことです。水銀中毒の主な症状として中枢神経や腎臓に障害をもたらすことがあげられます。また、高濃度の水銀にさらされると脳に障害を受け、最悪の場合死に至るケースもあるのです。

水銀は大きく金属水銀、有機水銀化合物、無機水銀系化合物の3つに分類されます。特に毒性が強いのが有機水銀系化合物と無機水銀系化合物で、このふたつの違いは炭素-水銀の結合の有無です。

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金属水銀の毒性

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体温計などに使われているのが、金属水銀です。金属水銀そのものを摂取しても、消化器官からは吸収されずそのまま排出されるためそこまで人体に影響はないと言われています。しかし水銀は気化しやすく蒸気を吸ってしまった場合、呼吸器や神経系に影響が与えられてしまうのです。

そのため、もし温度計などを割って水銀を漏らしてしまった場合は、速やかに適切な処置をする必要があります。

最も毒性の強い有機水銀化合物

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水銀の中で最も毒性が強いのが有機水銀。その中でもさらに毒性が強いのがメチル水銀で、水俣病・新潟水俣病の原因となった物質です。ちなみにメチル水銀という物質があるわけではなく、水銀原子とメチル基が結びついた化合物の総称で、塩化メチル水銀臭化メチル水銀などがあります。

水俣病は熊本県水俣湾周辺で発生した水銀による公害病です。1945年頃からメチル水銀を含む工場排水が水俣湾に排水されました。そして水銀が海水からプランクトン、プランクトンを食べた魚や貝へと食物連鎖によって濃縮され、その魚や貝を人間が食べたことで水俣病が発生したのです。2021年6月までに水俣病患者と認められたのは約2300人でした。水俣病発生の経緯は以下のようになります。

1945年頃
メチル水銀を含む排水が水俣湾へ排出されるようになる
1949年頃
水俣湾で海産物が採れなくなる
1954年
水俣湾の魚を食べた猫が死ぬという報道が流れる
その後12人が水俣病の症状を発生し、5人が亡くなる
1956年
原因不明の病気として水俣病が保健所から発表される

有機水銀についてはこちらの記事もどうぞ。

鳥居の色にもなった無機水銀化合物

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無機水銀化合物として硫化水銀HgS)、酸化水銀HgO)、塩化水銀HgCl2)などがあげられます。硫化水銀は赤色の色素として使われ、神社の鳥居着力にも使われていました。自然界に存在する水銀のほとんどはこの硫化水銀として存在しています。

水銀で温度を測れるのはなぜ?その歴史としくみ

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それでは水銀温度計について解説していきます。

\次のページで「水銀温度計の歴史」を解説!/

水銀温度計の歴史

水銀を使った体温計が開発されたのは1866年。時間はかかるものの、正確に体温が測れると活用されていました。しかし水銀は猛毒であり、その蒸気を吸うことは人体に大変危険です。そのため、やがてアルコールや灯油を使った体温計が使われるようになりました。そして現在では、デジタルタイプの体温計が主流となっています。

熱膨張と温度計

物質は温められると熱膨張し、体積が変わります。これは粒子の熱運動が激しくなるためです。この性質を利用して作られたのが体温計、温度計です

多くの物質は温めると大きくなりますが、なかには小さくなるものもあります。例えば水の体積が最も小さくなるのは約4℃の時。それよりも低い温度に水を冷やすと、体積は大きくなります。水と体積の関係についてはこちらの記事でどうぞ。

温度計の仕組み

先ほど解説したように、温まった物質は熱膨張によって体積が増加します。温度計や体温計にはその膨張率に合わせて目盛りが振ってあるのです。体温計は脇に挟むと、その体温で温められて水銀が膨張します。温度によって膨張する体積は決まっているため、目盛りを読めば何度かわかるのです。

なぜ水銀を使っていたの?

なぜ体温計に水銀が使われていたのでしょうか。水銀は熱膨張率が安定していて、温度と体積が比例関係にあります。さらに金属である水銀は熱伝導率が良い為、正確に熱を測ることができるのです。

水銀と同じ原理のアルコールを使った体温計もあります。しかし膨張率が水銀よりも10倍以上あるため、体温計が大きくなり精度も下がってしまうのです。また、こちらは透明なため着色する必要があります。

実は薬だった過去も?体温計でおなじみの水銀

水俣病のイメージが強い水銀。実際毒物に指定されていて、その扱いは注意が必要です。そんな水銀ですが過去には薬として使われていました。日本でもつい数年前まで水銀の化合物が消毒薬として使われていたのです。

今では考えられませんが、不老不死の薬とも考えられていた時代もありました。水銀は唯一常温で液体の金属です。銀色に輝くその不思議な性質によって、そのようなイメージをもあれていたのかもしれませんね。

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化学理科

簡単でわかりやすい水銀温度計の仕組み!歴史や毒性も周期表マニアの科学館職員が詳しく解説

水銀温度計の歴史

水銀を使った体温計が開発されたのは1866年。時間はかかるものの、正確に体温が測れると活用されていました。しかし水銀は猛毒であり、その蒸気を吸うことは人体に大変危険です。そのため、やがてアルコールや灯油を使った体温計が使われるようになりました。そして現在では、デジタルタイプの体温計が主流となっています。

熱膨張と温度計

物質は温められると熱膨張し、体積が変わります。これは粒子の熱運動が激しくなるためです。この性質を利用して作られたのが体温計、温度計です

多くの物質は温めると大きくなりますが、なかには小さくなるものもあります。例えば水の体積が最も小さくなるのは約4℃の時。それよりも低い温度に水を冷やすと、体積は大きくなります。水と体積の関係についてはこちらの記事でどうぞ。

温度計の仕組み

先ほど解説したように、温まった物質は熱膨張によって体積が増加します。温度計や体温計にはその膨張率に合わせて目盛りが振ってあるのです。体温計は脇に挟むと、その体温で温められて水銀が膨張します。温度によって膨張する体積は決まっているため、目盛りを読めば何度かわかるのです。

なぜ水銀を使っていたの?

なぜ体温計に水銀が使われていたのでしょうか。水銀は熱膨張率が安定していて、温度と体積が比例関係にあります。さらに金属である水銀は熱伝導率が良い為、正確に熱を測ることができるのです。

水銀と同じ原理のアルコールを使った体温計もあります。しかし膨張率が水銀よりも10倍以上あるため、体温計が大きくなり精度も下がってしまうのです。また、こちらは透明なため着色する必要があります。

実は薬だった過去も?体温計でおなじみの水銀

水俣病のイメージが強い水銀。実際毒物に指定されていて、その扱いは注意が必要です。そんな水銀ですが過去には薬として使われていました。日本でもつい数年前まで水銀の化合物が消毒薬として使われていたのです。

今では考えられませんが、不老不死の薬とも考えられていた時代もありました。水銀は唯一常温で液体の金属です。銀色に輝くその不思議な性質によって、そのようなイメージをもあれていたのかもしれませんね。

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