今回は「ばれいしょ」と「じゃがいも」の違いを見ていきます。どちらの呼び名もよく登場するから別の品種と思われることも多いが、実は全く同じものを指す。ではなぜ2つの呼び名ができたのか。その理由は中国の文献や伝来元の土地の名前にあったんです。この先はグルメ好き主婦ライターのスズキアユミと一緒に詳細を解説していきます。

ライター/スズキアユミ

食べることが大好きな主婦ライター。週に2回は外食を楽しみ、近隣のお店を開拓している。高級料理よりも庶民派の手軽なものが好み。

「ばれいしょ」と「じゃがいも」の違いは呼び方だけ!

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「ばれいしょ」は「じゃがいも」の別名で、意味に違いはありません。ただ呼び方が違うだけです。他にも「ポテト」や「じゃがたらいも」など、同じ意味を指すいろいろな言葉が存在しています。なぜこのように多くの呼び名が存在するのでしょうか。その理由や使い分けについて解説していきます。

「ばれいしょ」は翻訳ミスだった?

ばれいしょは漢字で「馬鈴薯」と書き、中国語に由来するものです。ただし、中国で馬鈴薯は別の植物を指す言葉だったという説があります。

日本の本草学者である小野蘭山は、1808年に「耋筵小牘(てつえんしょうとう)」という本を刊行しました。この本の中で「馬鈴薯はじゃがいものことである」と解説されていたことから、じゃがいもとばれいしょは同じものとして広く認識されるようになります。この解説は1700年に刊行された中国の文献「松渓県志」を参考にしたものでした。「松渓県志」の中の「馬鈴薯」はマメ科の植物「ホドイモ」を意味していたという見方があり、小野蘭山の翻訳ミスだったのではないかという指摘も存在します。

一方で、1800年代の中国でじゃがいもが馬鈴薯と呼ばれている記録もあり、真相は定かではありません。

じゃがいもの別名いろいろ

じゃがいもには「ばいれいしょ」以外にも別名が存在します。納得できる別名から、初めて聞くような別名までさまざま。以下のようなものがその一例です。

・「ポテト」…英語でじゃがいもを指す言葉
・「じゃがたらいも」…ジャカルタ(旧名ジャガタラ)から伝来したことにより呼ばれたもの
・「にどいも」…1年に2度収穫できることから、「2度収穫できるいも」を表したもの
・「義太夫いも」…信州から種芋を持ち込んだ幸田善太夫という代官の名前に由来するもの
・「お助けいも」…飢饉に備えて生産することが勧められており、実際に役立ったことに由来するもの

「じゃがいも」・「ばれいしょ」・「ポテト」の使い分け

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全国的に呼ばれることの多い「じゃがいも」と「ばれいしょ」。この2つの表現は、学会や行政機関によって大まかに使い分けがされています。また、同じく見かけることの多い「ポテト」も私たちの生活の中で緩やかな使い分けがあるようです。

・「じゃがいも」…日本土壌微生物学会、日本植物学会、園芸学会で使用される
・「ばれいしょ」…農林水産省、日本植物防疫協会、日本作物学会、日本育種学会で使用される
・「ポテト」…料理のメニュー名や加工食品の商品名に使用される

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じゃがいもの歴史

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じゃがいもは南アメリカ大陸のアンデス山脈を原産地とする植物。15世紀ごろにヨーロッパに伝わり、日本には東南アジアを経由して16世紀ごろに伝えられました。世界、そして日本の食糧難を救った歴史をもつ興味深い食品です。

世界のじゃがいもの歴史

南アメリカ大陸で繁栄していたインカ帝国では、じゃがいもが主食として活用されていました。1570年ごろ、スペイン人が祖国へじゃがいもを持ち帰ったことで初めてヨーロッパに伝わり、1600年代前半に本格的な栽培が普及します。

1600年代前半のヨーロッパは戦争や飢饉が頻発していたため、安定した生産が見込めるじゃがいもの栽培が王の勅令によって推奨されました。その後、じゃがいもはアイルランドやイングランド、北アメリカ大陸、オーストラリア大陸にも伝えられ、世界的な普及が進むことになります。

日本のじゃがいもの歴史

日本にじゃがいもが伝来したのは1598年の長崎。ジャワ島のジャカルタ(旧名ジャガタラ)を経由し、オランダ人によって伝えられました。

最初は観賞用としての使用がメインでしたが、江戸時代後期には飢饉に備えてじゃがいもの栽培が推奨されるようになります。明治以降には北海道で本格的なじゃがいも栽培が開始し、現在まで続く一大産地へと成長。日本で生産されるじゃがいものうち、約80%が北海道産です。

じゃがいもの種類と使い分け

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じゃがいもは、全世界で2,000以上の種類があるといわれる多種多様な食品。日本で栽培されているのはそのうちの20種類ほどです。ここでは代表的な3種類を取り上げ、由来や味わいの特徴、調理時の使い分けをご紹介します。

1.男爵いも(だんしゃくいも)

男爵いもは東日本をメインに流通する種類で、日本の代表的なじゃがいもです。正式な品種名は「アイリッシュ・コブラー」ですが、川田龍吉という男爵が持ち込んだことから男爵いもと呼ばれるようになりました。

球形に近く、でこぼことした表面が特徴で、食感は粉質でほくほくとしています。煮くずれしやすいため、マッシュポテトやコロッケ、粉ふき芋にするのが最適。片栗粉の原料としても使用されます。

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2.メークイン

メークインは男爵イモに次いで流通量の多い種類で、主に西日本で消費されています。英語ではMay Queenと書き、春(5月ごろ)においしくなるという意味で命名されました。楕円形でなめらかな表面をしており、皮がむきやすいのが特徴です。粘りのある食感で煮くずれしにくく、煮物やシチューなどに向いています。

3.インカのめざめ

インカのめざめは2002年に日本で登録された新しい品種です。もっとも特徴的なのは味わいの強さと色合いで、さつまいものように濃厚な甘さと旨味があり、はっきりとした黄色をしています。質感は男爵いもとメークインの中間ほどで使い勝手がいいものの、生産量が少ないために他の種類と比べて高価な品種です。

じゃがいもを使い分けて楽しもう!

ばれいしょとじゃがいもは同じものを指すことが分かりました。今後、スーパーで「ばれいしょ」「じゃがいも」のどちらが書かれていても、悩まずに購入できますね。私たち消費者にとっては、呼び方以上においしさが重要。じゃがいも単体の味わいはもちろんのこと、料理がよりおいしく仕上がる種類を選びたいものです。品種による味わいの違いを知って、理想のじゃがいも料理を作ってみてくださいね

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「ばれいしょ」と「じゃがいも」の違いは呼び方だけ?名前の由来や品種の特徴もグルメ好きライターが簡単にわかりやすく解説

今回は「ばれいしょ」と「じゃがいも」の違いを見ていきます。どちらの呼び名もよく登場するから別の品種と思われることも多いが、実は全く同じものを指す。ではなぜ2つの呼び名ができたのか。その理由は中国の文献や伝来元の土地の名前にあったんです。この先はグルメ好き主婦ライターのスズキアユミと一緒に詳細を解説していきます。

ライター/スズキアユミ

食べることが大好きな主婦ライター。週に2回は外食を楽しみ、近隣のお店を開拓している。高級料理よりも庶民派の手軽なものが好み。

「ばれいしょ」と「じゃがいも」の違いは呼び方だけ!

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「ばれいしょ」は「じゃがいも」の別名で、意味に違いはありません。ただ呼び方が違うだけです。他にも「ポテト」や「じゃがたらいも」など、同じ意味を指すいろいろな言葉が存在しています。なぜこのように多くの呼び名が存在するのでしょうか。その理由や使い分けについて解説していきます。

「ばれいしょ」は翻訳ミスだった?

ばれいしょは漢字で「馬鈴薯」と書き、中国語に由来するものです。ただし、中国で馬鈴薯は別の植物を指す言葉だったという説があります。

日本の本草学者である小野蘭山は、1808年に「耋筵小牘(てつえんしょうとう)」という本を刊行しました。この本の中で「馬鈴薯はじゃがいものことである」と解説されていたことから、じゃがいもとばれいしょは同じものとして広く認識されるようになります。この解説は1700年に刊行された中国の文献「松渓県志」を参考にしたものでした。「松渓県志」の中の「馬鈴薯」はマメ科の植物「ホドイモ」を意味していたという見方があり、小野蘭山の翻訳ミスだったのではないかという指摘も存在します。

一方で、1800年代の中国でじゃがいもが馬鈴薯と呼ばれている記録もあり、真相は定かではありません。

じゃがいもの別名いろいろ

じゃがいもには「ばいれいしょ」以外にも別名が存在します。納得できる別名から、初めて聞くような別名までさまざま。以下のようなものがその一例です。

・「ポテト」…英語でじゃがいもを指す言葉
・「じゃがたらいも」…ジャカルタ(旧名ジャガタラ)から伝来したことにより呼ばれたもの
・「にどいも」…1年に2度収穫できることから、「2度収穫できるいも」を表したもの
・「義太夫いも」…信州から種芋を持ち込んだ幸田善太夫という代官の名前に由来するもの
・「お助けいも」…飢饉に備えて生産することが勧められており、実際に役立ったことに由来するもの

「じゃがいも」・「ばれいしょ」・「ポテト」の使い分け

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全国的に呼ばれることの多い「じゃがいも」と「ばれいしょ」。この2つの表現は、学会や行政機関によって大まかに使い分けがされています。また、同じく見かけることの多い「ポテト」も私たちの生活の中で緩やかな使い分けがあるようです。

・「じゃがいも」…日本土壌微生物学会、日本植物学会、園芸学会で使用される
・「ばれいしょ」…農林水産省、日本植物防疫協会、日本作物学会、日本育種学会で使用される
・「ポテト」…料理のメニュー名や加工食品の商品名に使用される

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