ブルガリアにおけるツァーリ
![]()
By Alphonse Mucha – http://russianculture.files.wordpress.com/2010/12/car_simeon_bulharsky_48x405m.jpg, Public Domain, Link
ブルガリアにおけるツァーリの使用のルーツは第一次ブルガリア帝国にさかのぼります。第一次ブルガリア帝国は7世紀から11世紀のあいだに存在していた帝国。バルカン半島にて勢力を広げました。東ローマの対抗馬としても頭角をあらわしたブルガリア。東ローマ帝国の文化の影響を強く受けるに至ります。
ブルガリアは東ローマ侵攻時にツァーリの称号を取得
ブルガリアでツァーリの称号が使われるようになったのは東ローマ帝国に進攻したことがきっかけ。シメオン1世は和平交渉をする過程で皇帝の称号を得たことから、ツァーリという呼び名が使われ始めました。シメオン1世はブルガリア帝国の興隆期をもたらした人物。自分のことを「ローマ人とブルガリア人の皇帝」と位置づけました。
シメオン1世は生前、外征に外征を重ねます。ブルガリアの南方にあるギリシア方面、北アフリカにあるファーティマ朝まで足を延ばしました。セルビアに侵攻に進攻した際、仲裁に入ったのがローマ教皇。ここでも撤退の条件として皇帝の称号を使うことを約束させます。
ソ連の一部になるまでツァーリという称号を使用
それ以降、イヴァン・アセン2世の時代に最盛期となった第二次ブルガリア王国、第一次世界大戦そして第二次世界大戦を経験しているブルガリア王国に至るまで、ツァーリという称号が使われ続けました。第二次世界大戦が終わったあと国民投票が実施され、王政は廃止されました。
ブルガリアの最後のツァーリとなったのがシメオン2世。このときの彼の年齢はたったの9歳でした。シメオン2世はエジプトに亡命。ブルガリアはソ連の共和国のひとつになりました。名称もブルガリア人民共和国となり、ツァーリという呼称が使われることもなくなりました。
日本にはツァーリは存在するの?
日本には皇室という伝統があります。そのため、王政を敷く際に広く使われていたツァーリという称号が浸透していてもおかしくないのですが、日本で使われたことはありません。それは一体どうしてなのでしょうか。
日本の天皇はエンペラー?
日本の天皇は英語にするとエンペラーと訳されます。またドイツ語で訳されるときは、ツァーリと語源が同じカイザーが使用されました。となると、ロシア語にする場合はツァーリとするのが自然な流れになるでしょう。しかしながらツァーリはもちろんカイザーも天皇を表現するにはどうしても違和感があります。
この違和感の原因のひとつとなるのが、ツァーリやカイザーの語源がカエサルであること。カエサルは、個人名であると同時に、後継者というニュアンスがあります。そのため、その派生語であるツァーリやカイザーも同様。最高権力者を意味するあけであり、本来は皇帝を意味する称号ではありませんでした。
血統ではなく政治的な連続性を意味するツァーリ
ロシア語には、皇帝を意味する称号としてインペラートルが存在しています。こちらの英語訳はエンペラー。つまり日本の天皇は、歴史的にカエサルの後継者ではないので、ツァーリよりもインペラートルのほうがニュアンスとしては近いと言えるでしょう。
ヨーロッパの国々がこだわったのはローマ帝国の後継者となること。本来のヨーロッパの皇帝はオーストリアのハプスブルク家、ドイツのホーエンツォレルン家、ロシアのロマノフ家の3家のみ。ツァーリは皇帝という血統的な意味ではなく、あくまでその地の支配者である、政治的な意味のもと使われてきました。
こちらの記事もおすすめ

ヨーロッパを席巻した随一の名門王家「ハプスブルク家」を歴女がわかりやすく解説
日本の天皇をカエサルの後継者と呼んだらさすがに違和感しかありません。日本はローマ帝国の栄光とは歴史的に無縁だからです。けれどエンペラーが適切かというとそれも微妙。エンペラーというと、領土を超えて広域なエリアを支配し、多様な民族を束ねている印象があります。日本の天皇が政治的に権力を持った時代はありますが、支配していた領土や民族は限定的。やはり天皇は天皇としか表現できない気がしますね。
ツァーリは国家の歴史を説明するうえで欠かせない称号
ツァーリは、単なる最高権力者というポジションをあらわすだけではなく、国家の歴史を説明するうえで欠かせない称号として使われ続けました。ヨーロッパは古代から勢力争いが過酷。国や権力を維持するために優れた人物を養子に迎えることが当たり前に行われていました。そのため血統的な連続性を説明することは不可能。だからこそ自分の立場の正当性を証明するために権力者たちはツァーリという称号にこだわったのです。ヨーロッパの歴史の特異性を理解するうえで欠かせない用語と言ってもいいでしょう。



