簡単でわかりやすい!豚の心臓と人間の心臓の違いとは?形や免疫の違いから移植まで生物学専攻ライターが詳しく解説
豚の心臓は人間に移植可能?
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豚から人間への、臓器移植の研究が着々と進んでいます。豚を活用することで、心臓や腎臓、膵島など各種の臓器を患者に届けられるのです。この記事では豚をドナーとする、心臓移植について詳しく解説。まずはじめに、なぜ生きた心臓を移植する必要があるのか、その理由についてみていきましょう!
心臓移植の重要性
心疾患の患者は移植までに、アメリカでは数ヶ月、日本ではなんと数年も待たねばなりません。患者数に対して、ドナーの人数が圧倒的に少ないのです。ではなぜ、心臓移植という処置が必要なのでしょうか?機械式の心臓を開発できれば、ドナー不足に悩む必要もありませんよね。
実際に心疾患の応急処置のなかには、補助人工心臓(VAD)の取り付けがあります。肝臓や眼と比べて心臓は、はたらきがシンプル。機械で置き換えることが可能なのです。しかし腹部に管を通して取り付けるVADでは、感染症のリスクを避けられません。ほかにも出血や血栓など、重篤な障害が生じます。よって生存率を高めるためには、生きた心臓の移植が不可欠なのです。
「豚の心臓」という選択肢
ドナーの不足に対する解決策として、豚の心臓を人間の患者に移植するという試みがなされています。豚と人間は心臓の大きさがほぼ同じ。さらに豚は強い繁殖力をもちます。そして移植での拒絶反応は、遺伝子操作で抑えることが可能。豚を使えば、移植を待つ患者に生きた心臓を届けられるのです。
異種移植における課題と解決策
豚の心臓を移植するうえで、人間との「抗原の違い」が重要。豚に固有な抗原を取り除かない限り、拒絶反応を抑えられません。そこで遺伝子操作によって、抗原を3つ失った「トリプルノックアウト」の豚が生み出されました。2022年1月に人間の患者へ移植された心臓も、このノックアウト豚由来。移植から2ヶ月経っても拒絶反応が起こらず、免疫の問題は解決できました。
しかし未だ問題は山積み。移植用の心臓には、豚由来の病原体が潜んでいます。たとえクリーンな環境で育てられた豚(指定病原体フリー/DPF)であっても変わりません。移植を受けた患者では、感染症への耐性が落ちています。これは患者が、免疫系を抑える薬を飲んでいるから。とくに心臓の損傷につながる、豚のサイトメガロウイルスをゼロにすることが今後の課題です。
「豚の心臓」と「人間の心臓」はまだまだ別物
種の違いを超えて、豚の心臓を人間に移植する試みがなされています。遺伝子工学の技術により、異種間での違いがなくなりつつあるのです。たとえば移植時の拒絶反応は、遺伝子操作によって抑えることができました。しかし豚と人間とでは、心臓の形状や寿命も違います。そして豚の心臓には、特有の病原体が潜んでいるのです。よって異種移植は、発展途上といえるでしょう。





