この記事では「暴行」と「傷害」の違いについてみていきます。どちらも誰かが他人に暴力をふるった事件が報道される時などによく耳にする言葉ですが、似たようなシチュエーションで使われるだけに、その違いは何かを聞かれると答えに困る人も少なくないでしょう。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

暴行と傷害のざっくりした違い

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まずは「暴行」と「傷害」のおおまかな違いについて説明しましょう。「暴行」「他人に暴力など、乱暴なことをすること」を意味するのに対し、「傷害」「他人を傷つけたり、怪我をおわせること」を意味します。

暴行と傷害の漢字を説明

ここからは暴行傷害に使われている漢字について説明します。

「暴」は動物の死体を乾かす様

まずは「暴」の字について説明しましょう。「暴」の上部分にある「日」は、見た形のまま太陽のことです。その下にある「共」の部分は、両手をあわらす形が変化したものと言われています。そして下部分の「氺」は動物の死体を開いたものだと考えられることから、「暴」という字は両手で動物の死体を開いて太陽にさらし、乾かしている様子から成り立った字ではないかと言われているのです。

ですから、「暴」という字は、その行動の野蛮であらあらしい様子から「あばれる」「あらす」という意味や、「動物の死体を開く」イメージから「隠れているものを公にする」という「あばく」意味などを持つようになりました。

「行」は十字路の形が原形

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「行」という字の意味に関しては多くの方がおわかりでしょうが、その成り立ちについてはご存じですか?もともとは十字路を表していたものが変化して「行」という形に変化したものです。そして、人がその十字路を「いく」姿から「いく」意味を持つようになりました。また、「おこなう」といった意味については、目的地に向かって行く姿から、目的に向かって動く、つまり行動を「おこなう」といったかたちで、意味が派生していったようです。

このように「暴行」「あばれる」「あらす」といった「暴」という字と、「おこなう」意味の「行」を組み合わせたものなので「暴力的な行動」を意味します。

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「傷」は矢が当たって人が傷つく様子

次は「傷」という字について説明しましょう。「傷」の右側の「昜」は太陽を表していて、その上の「ノ」と横棒を組み合わせたような形は「人」を表していたものだと考えられています。

そして正式な字ではないものの、その右側の部分と「矢(やへん)」と組み合わせた、人が矢を受けて傷つく様子から生まれ「きず」を意味する字があったのですが、その「矢」の代わりに「にんべん」を使うようになったところから「傷」という字が「きず」という意味するようになりました。

「害」は邪魔をして傷つけること

今度は「害」という漢字について説明しましょう。「害」の「ウかんむり」は「盾」や、かぶせて使えるものをあらわし、一番下の「口」は「くち」ではなく「あたま」を意味する形が変化したのではないかと考えられています。そして「ウかんむり」と「口」の間にある、漢字の「主」に似た形をしたものは、元は「切れこみをつける」意味を持つ形で、そこから「途中でたち切る」つまり「邪魔をする」というイメージになりました。

ですから「害」という字は、もとは「あたま」を「盾」などで防いで「邪魔をする」ことを表すもので、そこから「邪魔する」ことで相手を「傷つける」という連想がされ、「害」という字に「そこなう」という意味や読みが生まれたのではないかなどと考えられています。

暴行罪と傷害罪に違いはあるの?

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ここまで「暴行」「傷害」という言葉の違いについて説明してきましたが、ニュースなどで報じられる「暴行罪」「傷害罪」にはどのような違いがあるのでしょうか?結論をお教えしますと、「暴行罪」と「傷害罪」の違いも、「暴行」と「傷害」という言葉の違いと同じように他人に暴力をふるった場合には「暴行罪」他人に怪我や外傷を与えてしまった場合には「傷害罪」になります。

ですので、他人に暴力をふるって怪我になった場合は「傷害罪」ですが、軽いビンタなどで外傷として残らないほどのものだった場合、「暴行罪」が適応されるのです。ただし、法律用語としての「暴行罪」は一般に使う「暴行」という言葉よりも適応される範囲が広く、例えば一般的に「暴力」というと「殴る」や「蹴る」といった行為が思い浮かびますよね。しかし、人を押したり、突いたり、服をひっぱるなどの行為にも「暴行罪」は適応されるので注意が必要です。

暴行罪で警察は動かない?

さきほど「暴行罪」「傷害罪」の違いについてご説明しましたが、れっきとした犯罪であるにも関わらず、「暴行罪」では警察が動かないことがあるといわれます。というのも、「暴行罪」は他人に外傷にならない程度の暴力行為をはたらいたときに適応されるのでしたね。

ですから傷跡なども残らず、目撃者がいなかったり、防犯カメラなどで記録されていなかった場合、証拠となるものが何もないので警察も動くことができません。よって、暴行罪で警察が動かないことがあると言われるのは、何も怠慢でサボっているわけではなく、動くための十分な証拠が無い場合に動くことができないのです。

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暴行は「乱暴をすること」で傷害は「傷つけること」!

「暴行」「他人に暴力など、乱暴なことをすること」を意味し、「傷害」「他人傷をつけたり、怪我をおわせること」を意味することや、それぞれの漢字の意味、そして「暴行罪」と「傷害罪」の違いなど、理解していただけたでしょうか。

今回は暴力に関する言葉を扱いましたが、みなさんのこれからの生活は、そのような他人を傷つけたり、傷つけられたりとは無縁なものであるようお祈りしています。

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簡単でわかりやすい!暴行と傷害の違いとは?漢字の意味や暴行罪・傷害罪の違いも現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「暴行」と「傷害」の違いについてみていきます。どちらも誰かが他人に暴力をふるった事件が報道される時などによく耳にする言葉ですが、似たようなシチュエーションで使われるだけに、その違いは何かを聞かれると答えに困る人も少なくないでしょう。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

暴行と傷害のざっくりした違い

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まずは「暴行」と「傷害」のおおまかな違いについて説明しましょう。「暴行」「他人に暴力など、乱暴なことをすること」を意味するのに対し、「傷害」「他人を傷つけたり、怪我をおわせること」を意味します。

暴行と傷害の漢字を説明

ここからは暴行傷害に使われている漢字について説明します。

「暴」は動物の死体を乾かす様

まずは「暴」の字について説明しましょう。「暴」の上部分にある「日」は、見た形のまま太陽のことです。その下にある「共」の部分は、両手をあわらす形が変化したものと言われています。そして下部分の「氺」は動物の死体を開いたものだと考えられることから、「暴」という字は両手で動物の死体を開いて太陽にさらし、乾かしている様子から成り立った字ではないかと言われているのです。

ですから、「暴」という字は、その行動の野蛮であらあらしい様子から「あばれる」「あらす」という意味や、「動物の死体を開く」イメージから「隠れているものを公にする」という「あばく」意味などを持つようになりました。

「行」は十字路の形が原形

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「行」という字の意味に関しては多くの方がおわかりでしょうが、その成り立ちについてはご存じですか?もともとは十字路を表していたものが変化して「行」という形に変化したものです。そして、人がその十字路を「いく」姿から「いく」意味を持つようになりました。また、「おこなう」といった意味については、目的地に向かって行く姿から、目的に向かって動く、つまり行動を「おこなう」といったかたちで、意味が派生していったようです。

このように「暴行」「あばれる」「あらす」といった「暴」という字と、「おこなう」意味の「行」を組み合わせたものなので「暴力的な行動」を意味します。

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