この記事では「蘇る」と「甦る」の違いについてみていきます。どちらも「よみがえる」と読む言葉ですが、それらの違いは何かと聞かれると説明に困る人もいて当然でしょう。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

蘇ると甦るのざっくりした違い

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まず、はじめに「蘇る」「甦る」の意味について説明しましょう。これらの言葉はどちらも「死んだ人や生き物がふたたび生き返ること」「一度勢いを失って衰えたものが、ふたたび息をふきかえすこと」などを意味する言葉で、正直意味の上では違いのない言葉です。

ですが、同じ意味の言葉でも使われ方が違ったり、使われ方が決まっている場面があったりするので、今回はそれをていねいに説明したいと思います。

「よみがえる」の語源

では、「よみがえる」という言葉の語源について説明しましょう。「よみがえる」とは元々「黄泉の国から帰る」ことが由来です。「黄泉の国」とは死んだ後に行くことになると考えられていた世界のことで、日本最古の歴史書である「古事記」にも「黄泉國(よみのくに、よもつくに)」と記されています。

その死後の世界から現世へと帰ってくることを意味するので、「よみがえる」生き返ることをあらわすのです。

「蘇」と「甦」の漢字をていねいに説明

「よみがえる」がどうして「死んだ人や生き物が生き返ること」を意味するかについては知っていただけたかと思いますが、ここからはその「よみがえる」の漢字として使われている「蘇」「甦」という字について説明したいと思います。

「蘇」は関係ないものを二つ並べている

はじめに「蘇」の字を説明しましょう。「蘇」の下の部分は「魚」と「禾(イネなどの植物)」を並べたものです。魚とイネには何の関連性もなさそうですよね?このように「魚」と「イネ」は何の縁もなく関係もない、つまり「離れている」や「隙間の空いている」といった意味をあらわしています。そして、草かんむりは「並んだ植物」をあらわすと考えられているので、「蘇」「並んだ草の中に隙間が空いている様子」をあらわしているのです。

そして、そこから「詰まっていた喉に隙間が空いて息が通る」ことが連想され、「蘇」という字に「よみがえる」という意味がついたのではないかという説や、「蘇」の音読みが「ソ」であることから、同じ「ソ」の音読みを持つ「遡る(さかのぼる)」と同じく逆行するようなイメージを持ち、「死んだ状態からさかのぼる」、つまり「生き返る」意味になったのではないかという説がこの字の成り立ちとして考えられています。

「甦」はあらためて生きる

つぎに「甦」について説明しましょう。左側の「更」は「丙」と「攴」という形が組み合わさったものが変化していったものと考えられ、「丙」は両方に張り出したものを表し、「攴」はそれを左右に引っ張っている様子だと考えられます。そして「どんどん引っ張る力を加えていく様」や「たるんだものを引き締めなおす」イメージから「あらためる」や「さらに」などの意味を持つようになったようです。

そんな「更」と、文字通り「生きる」という意味の「生」の字を組み合わせて出来ているため、「甦」「あらためて生きる」つまり「よみがえる」という意味になったのでしょう。

\次のページで「「蘇」と「甦」の使い分け」を解説!/

「蘇」と「甦」の使い分け

さきほど「蘇」と「甦」という漢字の成り立ちやそれぞれを構成するのパーツの意味について説明しましたが、「蘇」「甦」はおなじ「よみがえる」でもシチュエーションによってはどちらの漢字が使われるか分かれる場合があります。そこで、ここからはそのことについて説明しましょう。

医療分野では「蘇」が使われる

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意識をなくして倒れている人がいる場合に行われる医療行為に、心臓マッサージや人工呼吸などがありますよね?この、心臓マッサージや人工呼吸といった行為のことを医学用語では「心肺蘇生法」と言いますが、字を見てもらえばわかるように「蘇」の字の方が使われています。

「甦生」という言葉も同じように「そせい」と読み、意味も同じ単語ですが、このように医療分野で使われる「蘇生」は「蘇」の字の方であり、「甦」の字は使われません。

死者は蘇り、衰えたものは甦るもの?

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「蘇る」と「甦る」の使い分けかたについて、「死んだ人や生き物が生き返ること」に対しては「蘇る」を、「一度勢いを失って衰えたものが、ふたたび息をふきかえすこと」に対しては「甦る」を使う傾向がある、と言われることがありますが、どれだけ信憑性があるかは疑わしいように思えます。ただ、さきほど説明したように、医療分野では「蘇」の方が使われているために、人や生き物が生き返ることに関しては「蘇」を使うというイメージが生まれたのかもしれません。

よって、ご自身で漢字で書きたい場合は基本的にどちらを書いても問題ありません。ただし、「蘇る」も「甦る」も日常で使う目安とされる漢字ではない常用外の漢字ですので、新聞や報道、公的な文章などでは漢字ではなく、ひらがなが使われています。

蘇ると甦るはどちらをつかっても問題ない!

説明してきたように、「蘇る」「甦る」はどちらも「死んだ人や生き物がふたたび生き返ること」や「一度勢いを失って衰えたものが、ふたたび息をふきかえすこと」といった意味を持ち、医療分野では「蘇」が使われるもののそれ以外の使われ方に大差はなく、特別な理由でもない限りどちらを使って大丈夫です。

ですので、文字の字面や好みでどちらを使うか決めたり、自分なりのこだわりを持って場面場面で使い分けるようにするのもいいかもしれません。

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簡単でわかりやすい!蘇ると甦るの違いとは?言葉の由来から使い分けまで現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「蘇る」と「甦る」の違いについてみていきます。どちらも「よみがえる」と読む言葉ですが、それらの違いは何かと聞かれると説明に困る人もいて当然でしょう。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

蘇ると甦るのざっくりした違い

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まず、はじめに「蘇る」「甦る」の意味について説明しましょう。これらの言葉はどちらも「死んだ人や生き物がふたたび生き返ること」「一度勢いを失って衰えたものが、ふたたび息をふきかえすこと」などを意味する言葉で、正直意味の上では違いのない言葉です。

ですが、同じ意味の言葉でも使われ方が違ったり、使われ方が決まっている場面があったりするので、今回はそれをていねいに説明したいと思います。

「よみがえる」の語源

では、「よみがえる」という言葉の語源について説明しましょう。「よみがえる」とは元々「黄泉の国から帰る」ことが由来です。「黄泉の国」とは死んだ後に行くことになると考えられていた世界のことで、日本最古の歴史書である「古事記」にも「黄泉國(よみのくに、よもつくに)」と記されています。

その死後の世界から現世へと帰ってくることを意味するので、「よみがえる」生き返ることをあらわすのです。

「蘇」と「甦」の漢字をていねいに説明

「よみがえる」がどうして「死んだ人や生き物が生き返ること」を意味するかについては知っていただけたかと思いますが、ここからはその「よみがえる」の漢字として使われている「蘇」「甦」という字について説明したいと思います。

「蘇」は関係ないものを二つ並べている

はじめに「蘇」の字を説明しましょう。「蘇」の下の部分は「魚」と「禾(イネなどの植物)」を並べたものです。魚とイネには何の関連性もなさそうですよね?このように「魚」と「イネ」は何の縁もなく関係もない、つまり「離れている」や「隙間の空いている」といった意味をあらわしています。そして、草かんむりは「並んだ植物」をあらわすと考えられているので、「蘇」「並んだ草の中に隙間が空いている様子」をあらわしているのです。

そして、そこから「詰まっていた喉に隙間が空いて息が通る」ことが連想され、「蘇」という字に「よみがえる」という意味がついたのではないかという説や、「蘇」の音読みが「ソ」であることから、同じ「ソ」の音読みを持つ「遡る(さかのぼる)」と同じく逆行するようなイメージを持ち、「死んだ状態からさかのぼる」、つまり「生き返る」意味になったのではないかという説がこの字の成り立ちとして考えられています。

「甦」はあらためて生きる

つぎに「甦」について説明しましょう。左側の「更」は「丙」と「攴」という形が組み合わさったものが変化していったものと考えられ、「丙」は両方に張り出したものを表し、「攴」はそれを左右に引っ張っている様子だと考えられます。そして「どんどん引っ張る力を加えていく様」や「たるんだものを引き締めなおす」イメージから「あらためる」や「さらに」などの意味を持つようになったようです。

そんな「更」と、文字通り「生きる」という意味の「生」の字を組み合わせて出来ているため、「甦」「あらためて生きる」つまり「よみがえる」という意味になったのでしょう。

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