この記事では「質量」と「重量」の違いについて掘り下げていきます。どちらも「重さ」を表していると思われがちで、日常生活においても区別されることなく使われているが、実は物理量や単位が全く異なり、特に科学分野においては厳密に区別されなくてはならない。今回はこの2つの違いのほか、それぞれの単位について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。中高生時代、質量と重量の違いをなかなか理解できず苦労した経験から、それぞれの概念を分かりやすく丁寧に説明していく。

質量と重量の違い

ものの重さを表す言葉「重量」。一方「質量」という言葉は中学の理科から登場し、重量もしくは重さと異なるものとされています。実際、日常生活においては両者はほとんど区別されずに使われていますが、科学分野、計量分野においては、厳密に区別されなくてはいけません。2つの違いについて詳しく解説しましょう。

質量:不変の量

質量は物体そのものの量を表し、地球上でも月面上でも、どこで測定してもその値は変わりません。物体の動かしにくさの度合いでもあります。英語でmassです。

質量の大きさは上皿てんびんを用いて測ることができます。どんな重力下においても、物体の質量が同じならば、物体にかかる重力の大きさすなわち重量も同じになるからです。たとえば重力が地球上の1/6である月面上でも、質量600gの物体は600gの分銅と釣り合い、100gにはなりません。

質量を持つすべての物体の間に働く引力万有引力と言います。地球や月などの天体の重力は、この引力と自転による遠心力を合成したものです。また、天体の地表付近で物体を落とすと、重力によりその落下速度はどんどん速くなっていきます。この加速度を重力加速度といい、地球の重力加速度は約9.8m/s2(メートル毎秒毎秒)=1G(ジー)です。

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重量:重力によって変わる

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重量(または重さ)は物体が重力から受ける力の大きさを表し、質量に重力加速度を掛け合わせて求められます。ばねばかりをはじめ、それを利用した体重計やキッチンスケールなどは、この力を測定するものです。たとえば人が体重計に乗って示される値は、重力が人を引っ張る力の大きさとも言えます。英語でweightです。

重力が変われば、当然ですが重量も変わります。現在はあまり使われていませんが、力の単位kgf(キログラム重)を使って説明しましょう。

1kgfは質量1kgの物体が地球の重力から受ける力と定義されています。そのため、質量60kgの人が地球上で重量を測ると60kgfです。対して、重力が1/6の月面上では、重量は10kgfになります。

はかりが測るのは質量?重量?

「体重計は重量を測定しているのに、なぜ質量単位であるkgを使っているのか?」という疑問は当然出てくるでしょう。実際、体重計などの「はかり」が測定しているのが重量=力ならば、単位はkgではなく力の基本単位N(ニュートン)を使わなくてはなりません

しかし地球上で測定している限り、質量と重量は比例関係にあり、特に前述のkgfを使えば質量と重量はほぼ同じ数値を示します。そのため、「はかり」は「物体に作用する重力を利用して、その物体の質量を測定する計量器」と国際的にも定義され、表示単位にkgやgを使っているのです。

同じ地球上でも重量が変わる!

同じ地球上でも場所によって重力の大きさや向きが異なり、たとえば赤道上の重力は、以下の理由で北極南極と比べ1%ほど減少します。

地球の引力が小さい:地球は完全な球ではなく、両極側が少しつぶれた回転楕円体です。そのため地球の中心から地表までの距離は、両極と比べて赤道上の方が長く、結果的に引力が小さくなります。
自転による遠心力が大きい:自転軸からの距離が遠くなるほど遠心力は大きくなり、赤道上で最大になります。一方、両極の遠心力はほぼ0です。

重力はほかにも標高や周囲の地形、地下の構造などにも影響を受け、たとえば地下に密度の高い鉱床などがあると重力が大きくなります。さらに同じ場所であっても、月や太陽の引力、地殻変動などによって時間的に変わるのです

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質量と重量の基本的単位

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質量と重量は物理量が異なるため、単位も異なります。それぞれの単位について解説しましょう。

質量の単位

質量の基本的な単位kg(キログラム)で、SI単位系(国際単位系)で定められた7つの基本単位の1つです。このほか、SI単位系の質量単位としてkgの1000分の1のg(グラム)があります。

18世紀当時、1kgの定義は「水1Lの質量」でした。しかし水の体積は温度や気圧に依存することが分かり、1889年国際キログラム原器が当時のkg定義に基づいて作られます。以後130年間、この原器は世界中のはかりの基準として利用されたのです

原器は安定性と耐腐食性のあるプラチナとイリジウムの合金製で、二重になったガラス容器に保管されていました。が、それでも表面吸着などにより1年で1μg程度増加していると判明します。この不確かさをなくすため、2019年にkgの再定義がなされ、プランク定数h=6.062607015×10-34J・sに基づくことになったのです。

SI基本単位は長さm(メートル)質量kg(キログラム)時間s(秒)電流A(アンペア)温度K(ケルビン)物質量mol(モル)光度cd(カンデラ)の7つになります。また、プランク定数hは量子力学の基礎となるもので、光子の持つエネルギーと量子のエネルギーと振動数の比例定数です。

重量の単位

重量には力の単位を用います力の基本的な単位はSI単位系であるN(ニュートン)です。1N=1kg・m/s2で、「質量1kgの物体に1m/s2の加速を生じさせる力」を意味します。

また、前述のkgfまたはkgw(キログラム重、重量キログラム)は、質量と重量が同じ数値になるため関係性をイメージしやすく、以前は学校でも教えられていましたが、SI単位系が導入されてからはほとんど使われていません。1kgf=9.8Nで、質量60kgの人の重量は60kgf=588Nになります。fは力を意味する「force」、wは重さを意味する「weight」の頭文字です。

質量の単位いろいろ

生活に必要不可欠な質量の単位は、世界各国で独自の発展を遂げました。代表的な例として、日本とアメリカ・イギリスの単位を紹介しましょう。

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日本の単位(尺貫法)

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日本では古くから尺貫法という単位系が使われており、代表的な質量の単位として匁(もんめ)や貫(かん)があります。どちらも元はお金の単位で、一文銭1枚の質量が1匁=3.75gです。この一文銭の穴にひもを通して100枚で1本としたもの10本、一文銭1000枚分が1貫になります。すなわち1貫=1000匁=3.75kgです。

匁はタオル、貫は氷の単位として今でも使われています。また、現在の5円硬貨も一文銭と同じ1匁です

斤(きん)も尺貫法の質量単位で、薬用や茶用などさまざまな種類の斤がありました。中でも英斤(えいきん)と呼ばれる、1ポンド約454gに近い120匁(=450g)を1斤とする単位はパンの売買に用いられ、今でも食パンの計量単位として残っているのです。なお、現在の食パンの1斤は340g以上と定められています。

真珠は粒の大きさがさまざまなため、質量で取引されますが、このときに使われる単位momは日本の匁です。これは、世界で初めて真珠の養殖に成功したのが日本だったことに由来します。

アメリカ・イギリスの単位(ヤード・ポンド法)

アメリカやイギリスでは、ヤード・ポンド法の質量単位であるoz(オンス)とlb(ポンド)がよく使われます。1ozは約28.35g1lb=16ozで約454gです。

ポンドのlb表記は、ポンドが古代ローマにおいてlibra(リーブラ)と呼ばれていたことに由来します。リーブラはラテン語で「てんびん」という意味で、通貨単位としても使われており、ヨーロッパ各国に伝わってイタリアの通貨「リラ」、フランスの通貨「リーブル」となりました。

ポンドの上にはt(トン)がありますが、前述のメートルトンと異なる上、アメリカとイギリスで値が違い、アメリカの1tは2000lb=約907kgイギリスの1tは2240lb=約1016kgです。そのため、アメリカのトンはs.t.(ショートトン)、イギリスのトンはl.t.(ロングトン)と呼んで区別しています。

質量は不変、重量は重力によって変わる

質量は物体そのものの量でどこで測っても不変であるのに対し、重量は重力から受ける力の大きさであり、重力によって変わることを解説しました。

質量と重量の違いについては、普段の暮らしにおいて両者を区別することがほぼない上、重力や力の話も加わってくるため、大人でも理解するのはなかなか大変です。たとえば体重を測るとき「この値は、地球が自分を引っ張る力を表しているんだな」と想像するだけでも、理解が深まりますよ。

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簡単にわかる「質量」と「重量」の違い!単位や重力との関係も工学系院卒ライターがわかりやすく解説!

この記事では「質量」と「重量」の違いについて掘り下げていきます。どちらも「重さ」を表していると思われがちで、日常生活においても区別されることなく使われているが、実は物理量や単位が全く異なり、特に科学分野においては厳密に区別されなくてはならない。今回はこの2つの違いのほか、それぞれの単位について、工学系院卒ライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。中高生時代、質量と重量の違いをなかなか理解できず苦労した経験から、それぞれの概念を分かりやすく丁寧に説明していく。

質量と重量の違い

ものの重さを表す言葉「重量」。一方「質量」という言葉は中学の理科から登場し、重量もしくは重さと異なるものとされています。実際、日常生活においては両者はほとんど区別されずに使われていますが、科学分野、計量分野においては、厳密に区別されなくてはいけません。2つの違いについて詳しく解説しましょう。

質量:不変の量

質量は物体そのものの量を表し、地球上でも月面上でも、どこで測定してもその値は変わりません。物体の動かしにくさの度合いでもあります。英語でmassです。

質量の大きさは上皿てんびんを用いて測ることができます。どんな重力下においても、物体の質量が同じならば、物体にかかる重力の大きさすなわち重量も同じになるからです。たとえば重力が地球上の1/6である月面上でも、質量600gの物体は600gの分銅と釣り合い、100gにはなりません。

質量を持つすべての物体の間に働く引力万有引力と言います。地球や月などの天体の重力は、この引力と自転による遠心力を合成したものです。また、天体の地表付近で物体を落とすと、重力によりその落下速度はどんどん速くなっていきます。この加速度を重力加速度といい、地球の重力加速度は約9.8m/s2(メートル毎秒毎秒)=1G(ジー)です。

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