この記事では「自分」と「自身」の違いについてみていきます。それぞれの意味はなんとなく知っていても、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

自分と自身のざっくりした違い

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はじめに「自分」と「自身」のざっくりした違いを説明しましょう。といっても、「自分」「自身」、どちらも「おのれ」「自己」など言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉であり、正直意味的には大きな違いはありません。しかし、使われている漢字の意味や使い方にはかなり違いがあります。今回はそれをていねいに説明していきましょう。

漢字で見る自分と自身の違い

さきほど、「自分」「自身」がどちらも言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉で意味的には大きな違いはないものの、使われている漢字の意味にかなりの違いがあることを説明しましたよね。そこで、まずは「自分」と「自身」、それぞれを構成している漢字に着目していきたいと思います。

「自」は鼻をあらわす

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「自分」と「自身」に共通する「自」という漢字は、もともとは「鼻」のことをあらわしていました。みなさんもジェスチャーで自分のことを指し示すとしたら、人差し指で自分の鼻を指しませんか?同じように、昔の人は自分のことを指し示すときに親指で自分を指し示していたのです。

そこから「自」という字は自分、つまりおのれを指し示す意味でも使われるようになり、やがて、顔のパーツの「はな」を意味するためだけの「鼻」という字が新しく作られたことで、「自」という漢字から「鼻」という意味は失われていきました。ちなみに日本では、自分を指し示すときに鼻を指さすジェスチャーが一般的ですが、海外では自分の胸に手の平を当てるのが一般的です。

「分」は天から分け与えられた才能や性質

つぎに「分」という字を説明しましょう。「分」の下の部分にある「刀」はその見た目通り「かたな」を表しており、その「刀」でわけられた二つのものを表すのが上の部分の「八」になります。ですので「分」という字はもともと、一つのものを二つにする、つまりものを分けるという意味をあらわしているのです。

そして、才能や能力、資質などのことを天から分け与えられるものとして「天分」「才分」というように、「分」という字は「才能」「性質」という意味も持つようになりました。

ここまで「自」という字は、「おのれ」のことを指し示し、「分」という字が「才能」「性質」を意味することを説明しましたね。ですので漢字の意味から読み解くと、「自分」という言葉はもともと、「おのれの才能や資質」を意味していると言えます。

\次のページで「「身」は妊婦さんの姿」を解説!/

「身」は妊婦さんの姿

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つぎに「身」という漢字を説明しましょう。「身」はもともとお腹の大きな女性、つまり妊娠している人の姿を字にしたものだといいます。そこからどのように、「身」という字が人の「からだ」を意味するようになったかはわかりませんが、「身籠る(みごもる)」のような単語で使われることはあるものの、今では「身」という字だけで妊婦の意味をあらわすことはありません。

「自」という字が「おのれ」のことを指し示し、「身」という字が人の「からだ」を意味するのでしたね。ですので、「自身」を漢字の意味から読み解くと、もともとは「おのれの体」のことを指し示していたのかもしれません。

そう考えると、「自分」と「自身」は「自分自身」という一語で言われることもありますが、もしかしたら、「自分」は「おのれの才能や資質」という内面的な部分、「自身」は「おのれの体」という外面的な部分を指ししめす言葉だったのかもしれませんね。

自分と自身の使い方の違い

「自分」「自身」は、意味的にはそう違いがないものの、使い方にはかなり違いがあることをはじめに言いましたよね。ここからはそれをくわしく説明したいと思います。

自分と自身の共通する使い方

「自分」「自身」も「おのれ」や「自己」など、言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉でしたね。ですので、単に言葉の対象となったひと本人を指し示す使い方では、「自分」と「自身」、どちらも使われます。具体的に例文を見てみましょう。

そのことについてはご自分で判断してください。
そのことについてはご自身で判断してください。

どちらも自然な文に感じられますよね?このように、言葉の対象となったひと本人を指し示す使い方においては、「自分」と「自身」、どちらも使うことができます。

一人称の「自分」

「自分」と「自身」の違いについてはまず、「自分」は一人称として使うことができるのに対し、「自身」は一人称として使わないという違いがあります。次の例文を見てください。

\次のページで「代名詞を強調する「自身」」を解説!/

自分は中学時代、部活に一生懸命取り組んできました。
自身は中学時代、部活に一生懸命取り組んできました。

比べてみるとやはり「自身は」を使った文は不自然に感じませんか?このように、「自分」は「僕」や「私」などと同じように一人称として使うことができるのに対し、「自身」一人称として使うことはありません。

代名詞を強調する「自身」

「自分」と「自身」の使い方の違いとして、「自分」は一人称として使うのでしたね。それでは「自身」はどのように使われるのでしょうか。次の例文を見てください。

それが重要なことは、彼自身が一番わかっているでしょう。
それが重要なことは、彼自分が一番わかっているでしょう。

「彼自身が」という言い回しに対し、「彼自分が」という言い回しは不自然に感じませんでしたか?「自身」という言葉は「僕」「私」「君」「あなた」「彼」「彼女」などの代名詞のあとにつけて使われることがあります。このとき、たとえば先ほどの例文から「自身」を抜いた、

それが重要なことは、が一番わかっているでしょう。

\次のページで「自分と自身は使い方に違いがある!」を解説!/

という文も、自然で意味の通じる文ですが、単に「彼が」と言うよりも「彼自身が」の方が念押しをしている印象を受け、より強いイメージを受けませんか?このように、「自身」という言葉には、代名詞の後につくことで、直前の代名詞を強調する使い方があるのです。

自分と自身は使い方に違いがある!

今回説明したように、「自分」「自身」はどちらも「おのれ」や「自己」など、言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉であるものの、「自分」一人称として使うのに対し、「自身」代名詞の後につけることで、直前の代名詞を強調するという、使い方の違いがありましたね。これらを上手く使いわけて、どうかご自身の言葉の表現力を高めるのに役立ててください。

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簡単でわかりやすい!自分と自身の違いとは?漢字から使い方や例文まで現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「自分」と「自身」の違いについてみていきます。それぞれの意味はなんとなく知っていても、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

自分と自身のざっくりした違い

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はじめに「自分」と「自身」のざっくりした違いを説明しましょう。といっても、「自分」「自身」、どちらも「おのれ」「自己」など言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉であり、正直意味的には大きな違いはありません。しかし、使われている漢字の意味や使い方にはかなり違いがあります。今回はそれをていねいに説明していきましょう。

漢字で見る自分と自身の違い

さきほど、「自分」「自身」がどちらも言葉の対象となったひと本人を指し示す言葉で意味的には大きな違いはないものの、使われている漢字の意味にかなりの違いがあることを説明しましたよね。そこで、まずは「自分」と「自身」、それぞれを構成している漢字に着目していきたいと思います。

「自」は鼻をあらわす

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「自分」と「自身」に共通する「自」という漢字は、もともとは「鼻」のことをあらわしていました。みなさんもジェスチャーで自分のことを指し示すとしたら、人差し指で自分の鼻を指しませんか?同じように、昔の人は自分のことを指し示すときに親指で自分を指し示していたのです。

そこから「自」という字は自分、つまりおのれを指し示す意味でも使われるようになり、やがて、顔のパーツの「はな」を意味するためだけの「鼻」という字が新しく作られたことで、「自」という漢字から「鼻」という意味は失われていきました。ちなみに日本では、自分を指し示すときに鼻を指さすジェスチャーが一般的ですが、海外では自分の胸に手の平を当てるのが一般的です。

「分」は天から分け与えられた才能や性質

つぎに「分」という字を説明しましょう。「分」の下の部分にある「刀」はその見た目通り「かたな」を表しており、その「刀」でわけられた二つのものを表すのが上の部分の「八」になります。ですので「分」という字はもともと、一つのものを二つにする、つまりものを分けるという意味をあらわしているのです。

そして、才能や能力、資質などのことを天から分け与えられるものとして「天分」「才分」というように、「分」という字は「才能」「性質」という意味も持つようになりました。

ここまで「自」という字は、「おのれ」のことを指し示し、「分」という字が「才能」「性質」を意味することを説明しましたね。ですので漢字の意味から読み解くと、「自分」という言葉はもともと、「おのれの才能や資質」を意味していると言えます。

\次のページで「「身」は妊婦さんの姿」を解説!/

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