この記事では「阿呆」と「馬鹿」の違いについてみていきます。どちらも人をののしる時の言葉で、意味もなんとなく知っているつもりでも、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

阿呆と馬鹿のざっくりした違い

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まずは「阿呆」と「馬鹿」のおおまかな意味について説明したいと思います。「阿呆」「馬鹿」はどちらも、愚かな人やもの、行為などを意味する言葉で、正直意味的には大きな違いはありません。しかし、「馬鹿」は主に関東圏で、「阿呆」関西圏で、相手をののしるというより、親しい間柄における気軽なツッコミ言葉などとしても使われることが多いという違いがあります。

阿呆と馬鹿の語源

「阿呆」「馬鹿」は、どちらも愚かな人やもの、行為などを意味する言葉であることを説明しましたが、ここからはそれぞれの言葉の理解を深めるために、その語源について着目して説明したいと思います。

「阿房」は宮殿の名前が語源?

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まずは「あほ(あほう)」の語源を紹介しましょう。「あほ」の漢字表記といえば「阿呆」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、「阿房」と書かれることもあるのです。そして、この「阿房」という言葉は古代中国の宮殿の名前「阿房宮(あぼうきゅう)」が由来ではないかと言われています。阿房宮は秦の始皇帝の時代に建設が進められたのですが、その宮殿は皇帝の力や権威を示すため、東西約700m、南北約120mほどもある非常に巨大なものでした。

この阿房宮はやがて項羽という人物によって焼かれたのですが、建物が全焼するまで3カ月もかかり、あきれるくらい馬鹿でかい建物だということから、あきれたり馬鹿げたことに対して「阿房」というようになり、それが「あほ」になったというのが一番多く語られる説です。また、このような大きな建物を建てたことで財政難におちいり、国が滅びたところから生まれたという説もあります。

「阿呆」は中国の方言?

つづいて、「阿呆」という字にまつわる語源について説明しましょう。 中国の江南地方には「まぬけ」「馬鹿」を意味する言葉で「阿呆(アタイまたはアータイ)」という言葉があり、これを禅僧が日本に伝え、その過程で発音も「アタイ」→「あはう」→「あほう」と変化したのではないかという説があります。

また、違った説も紹介しますね。「あほ」の漢字表記について近代以降は「阿呆」の方が多いものの、それ以前は「阿房」と書かれていることが多いのです。ですので、さきほど紹介した「阿房」に、「ぼんやりすること」「あきれる」「おろか」などの意味を持つ「呆」という字をあてたのではないかという説もあります。ここまで説明した語源の説の中では、阿房宮を燃やした逸話を語源とした説が語られることが一番多いですが、決定的な証拠となるものはないので、残念ながら正確な語源ははっきりしていません。

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「ばか」の語源はサンスクリット語?

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「馬鹿」つまり「ばか」の語源についても諸説あるのですが、その中でもっとも有力と言われているのがサンスクリット語が語源になったという説です。

サンスクリット語とは古代インドで使われていた言葉で、その中に「無知」「愚か」を意味する「moha」という言葉があるのですが、その「moha」を音写、つまり音を文字として記した「募何(ぼか)」「莫迦(ばくか)」が転じて「ばか」になったと考えられています。

「馬鹿」は中国の故事?

「馬鹿」の語源として多く語られるものに中国の昔の出来事が由来だという説もあります。それは、中国の秦という時代に、皇帝に仕えていた趙高という権力者が、自分に従う者と従わない者を見わけるため、皇帝に「馬が手に入りました」と言って、あえて「鹿」を献上しました。皇帝は当然「これは鹿ではないのか?」とたずねたのですが、それに対し趙高は自分の臣下たちに「これは馬だよな?」と確認の質問をしたのです。

趙高を恐れた者は「馬です」と答えたのですが、勇気のある正直者は「鹿です」と答えました。その後、趙高は「鹿です」と答えた臣下たちを、自分に従わない可能性があるとして全員殺したといいます。ただし、この話が語源だと考えると、意味としては趙高にとっての「鹿」と答えた臣下のように「取るにたらないもの」を指し示すという点や、「馬鹿」を中国語風に読むと「バーロー」となるなど、問題点が多くあるのです。

阿呆と馬鹿はどっちが上か

「阿呆」と「馬鹿」はどちらも人をののしる時に使う言葉ですが、どっちの方が上か、つまり、どちらの方がより人のことを愚かだとののしる言葉なのかという疑問を持ったことはありませんか?「阿呆」と「馬鹿」は、それぞれ具体的にののしる程度や具合が決まっているわけではないので、「こっちの方が上」と断言できるものではないのですが、はじめに説明したように、「馬鹿」は主に関東圏で、「阿呆」は関西圏で使われることが多い言葉です。

人は耳なじみのない言葉ほどキツい表現に感じる傾向があるので、関東出身の人にとっては「阿呆」の方が、関西出身の方にとっては「馬鹿」の方がキツく感じてしまうかもしれません。ですので、「阿呆と馬鹿はどっちが上か?」いう質問にあえて答えるならば、関東の人にとっては「阿呆」の方が、関西の人にとっては「馬鹿」の方が上と言えるかもしれませんね。

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阿呆は関西で、馬鹿は関東で主に使われる!

「阿呆」「馬鹿」は、どちらも愚かな人やもの、行為などを意味する言葉であるものの、「阿呆」主に関西で、「馬鹿」主に関東で使われることや、それぞれの語源についても知っていただけたかと思います。これらの言葉は親しい間柄では気軽に使われがちな言葉ですが、本質的な部分では人をののしる言葉でもあるので、どうか使い方に注意してコミュニケーションをとるように気をつけてください。

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雑学

簡単でわかりやすい!阿呆と馬鹿の違いとは?語源やどっちが上かまで現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「阿呆」と「馬鹿」の違いについてみていきます。どちらも人をののしる時の言葉で、意味もなんとなく知っているつもりでも、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や教育について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

阿呆と馬鹿のざっくりした違い

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まずは「阿呆」と「馬鹿」のおおまかな意味について説明したいと思います。「阿呆」「馬鹿」はどちらも、愚かな人やもの、行為などを意味する言葉で、正直意味的には大きな違いはありません。しかし、「馬鹿」は主に関東圏で、「阿呆」関西圏で、相手をののしるというより、親しい間柄における気軽なツッコミ言葉などとしても使われることが多いという違いがあります。

阿呆と馬鹿の語源

「阿呆」「馬鹿」は、どちらも愚かな人やもの、行為などを意味する言葉であることを説明しましたが、ここからはそれぞれの言葉の理解を深めるために、その語源について着目して説明したいと思います。

「阿房」は宮殿の名前が語源?

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まずは「あほ(あほう)」の語源を紹介しましょう。「あほ」の漢字表記といえば「阿呆」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、「阿房」と書かれることもあるのです。そして、この「阿房」という言葉は古代中国の宮殿の名前「阿房宮(あぼうきゅう)」が由来ではないかと言われています。阿房宮は秦の始皇帝の時代に建設が進められたのですが、その宮殿は皇帝の力や権威を示すため、東西約700m、南北約120mほどもある非常に巨大なものでした。

この阿房宮はやがて項羽という人物によって焼かれたのですが、建物が全焼するまで3カ月もかかり、あきれるくらい馬鹿でかい建物だということから、あきれたり馬鹿げたことに対して「阿房」というようになり、それが「あほ」になったというのが一番多く語られる説です。また、このような大きな建物を建てたことで財政難におちいり、国が滅びたところから生まれたという説もあります。

「阿呆」は中国の方言?

つづいて、「阿呆」という字にまつわる語源について説明しましょう。 中国の江南地方には「まぬけ」「馬鹿」を意味する言葉で「阿呆(アタイまたはアータイ)」という言葉があり、これを禅僧が日本に伝え、その過程で発音も「アタイ」→「あはう」→「あほう」と変化したのではないかという説があります。

また、違った説も紹介しますね。「あほ」の漢字表記について近代以降は「阿呆」の方が多いものの、それ以前は「阿房」と書かれていることが多いのです。ですので、さきほど紹介した「阿房」に、「ぼんやりすること」「あきれる」「おろか」などの意味を持つ「呆」という字をあてたのではないかという説もあります。ここまで説明した語源の説の中では、阿房宮を燃やした逸話を語源とした説が語られることが一番多いですが、決定的な証拠となるものはないので、残念ながら正確な語源ははっきりしていません。

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