この記事では「浮世絵」と「錦絵」の違いについてみていきます。どちらも昔の日本の絵のことだとはなんとなく知っていても、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や出版史について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

浮世絵と錦絵のざっくりした違い

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After 葛飾北斎 - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, リンクによる

まずは浮世絵と錦絵のおおまかな違いを説明します。一言でいうなら「浮世絵」とは江戸時代に描かれた庶民にむけた当時の生活の様子などの絵の総称のことで、「錦絵」とはその「浮世絵」のなかの一ジャンルです。

浮世絵って何?

はじめに「浮世絵」江戸時代に描かれた、庶民にむけた当時の生活の様子などの絵の総称であることは説明しましたが、ここからは「浮世絵」がどのようなものであるかをていねいに説明します。

浮世はもともと現実のこと

image by iStockphoto

まず、浮世絵の「浮世」について説明します。「浮世」とはもともと仏教的観点から、現実世界を「つらい世の中」とみなし、「つらい」つまり憂鬱な世界であることから「憂き世」だとしていました。ですので「現実」という意味「憂き世」という言葉を使っていたのです。そこから、「憂き世」にかわって中国の言葉で「はかない世の中」を意味する「浮世(ふせい)」という字があてられるようになり、宙に浮いているように定めのなく、はかない世の中を意味するようになりました。

しかし江戸時代になると単に「つらい世の中」ということだけを指すのではなく、「どうせつらい世の中ならいっそ浮かれて暮らそう」といった人生観が広まりました。そして「浮世」という言葉は、遊里や演劇といった娯楽から男女の仲など、当時の世の中のあらゆることを指すようになっていき、江戸時代における「現代風な」「好色」といった意味を持つようになりました。

\次のページで「浮世絵は江戸時代の風俗画」を解説!/

浮世絵は江戸時代の風俗画

「浮世」が江戸時代における「現代風な」や「好色」といった意味をもつことは説明しましたね。ですので、「浮世絵」とは、江戸時代に描かれた、当時の風俗、つまり暮らしぶりや流行などを描いた絵のことを指すのです。

また、現存数が少ない今でこそ貴重で美術品扱いされますが、その多くがあくまで庶民向けの出版物にすぎず、江戸時代当時は、安いものだとソバ一杯などと同じ程度の価格で手に入れることができたといいます。

浮世絵の種類

「浮世絵」とは、さきほど説明したように、江戸時代当時の風俗を描いた絵という非常に大きいくくりを指す言葉なので、何を描いたか、版画か肉筆画か、あるいは何色使われているかなどといった要素においてジャンル分けすることができます。ここからはそれについて説明していきましょう。

何を描いたか

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歌川広重 - http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/tokaido_hoeido/images/01_Nihombashi.jpg, パブリック・ドメイン, リンクによる

まずは「何を描いたか」でジャンル分けしたいと思います。みなさんは浮世絵と聞くと何をイメージしますか?おそらく葛飾北斎「富嶽三十六景」や、歌川広重「東海道五十三次」といった「風景画(名所絵)」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。また、歌舞伎役者を東洲斎写楽などが描いた「役者絵」も有名ではないかと思います。同じように人物を描いたものとしては、鈴木春信喜多川歌麿などが遊女や看板娘を描いた「美人画」がありました。

そのほかにも、ユーモアや笑いの要素がこめられた「戯画」や歌舞伎を題材にした「芝居絵」、花や鳥や虫などを題材にした「花鳥画」、性風俗を題材にした「春画」など、浮世絵にはさまざまなものをモチーフにした作品があります。

版画か肉筆画か

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菱川師宣 - Tokyo National Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる

浮世絵には、木の板に彫刻や細工をしてつくった版を使い、和紙に墨や色を刷った「版画」と、絵師が直接手書きで描いた「肉筆画」があります。「肉筆画」は「版画」のような大量生産ができないため、庶民には手の届かないものでした。有名な「版画」の作品は、葛飾北斎「富嶽三十六景」をはじめさまざまなものがあります。有名な「肉筆画」菱川師宣「見返り美人図」が代表的と言えるでしょう。

何色使われているか

浮世絵は何色使っているかによっても分類されることがあります。一番初めに登場した、墨一色で刷る技法によって作られた作品が「墨摺絵(すみずりえ)」です。やがて版画の彩色技術が発達し、墨の他に赤をはじめとする数色を重ねて刷られた作品が作られるようになりました。それが「紅摺絵(べにずりえ)」です。

そして、さらに技術が発達し、10色以上を使った作品を作ることも可能になりました。その非常にカラフルで精巧な浮世絵の版画作品こそ「錦絵」なのです。

\次のページで「錦絵はカラフルな浮世絵!」を解説!/

錦絵はカラフルな浮世絵!

江戸時代に描かれた風俗画である「浮世絵」には、さまざまな区別の仕方があり、その中の一ジャンルである、非常に色鮮やかで精巧な浮世絵版画「錦絵」であることを理解していただけたかと思います。

ひとくちに「浮世絵」といっても、時代や文化によって描かれたものや描かれ方など多種多様ですので、そういったところから掘り下げていくと、興味のない方でも浮世絵の魅力がわかるようになるかもしれません。

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簡単でわかりやすい!浮世絵と錦絵の違いとは?浮世の意味から代表作まで現役塾講師がわかりやすく解説

この記事では「浮世絵」と「錦絵」の違いについてみていきます。どちらも昔の日本の絵のことだとはなんとなく知っていても、いざその違いは何か聞かれると説明に困るこれらの言葉。今回はその違いについて、国語の講師でもある空野キノコと一緒に解説していきます。

ライター/空野きのこ

大学在学中から文学・国文法や出版史について本格的に学び、現在は小中学生に勉強を教えている講師。その知識と経験を活かし、言葉の雑学を中心に分かりやすく解説していく。

浮世絵と錦絵のざっくりした違い

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After 葛飾北斎投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, リンクによる

まずは浮世絵と錦絵のおおまかな違いを説明します。一言でいうなら「浮世絵」とは江戸時代に描かれた庶民にむけた当時の生活の様子などの絵の総称のことで、「錦絵」とはその「浮世絵」のなかの一ジャンルです。

浮世絵って何?

はじめに「浮世絵」江戸時代に描かれた、庶民にむけた当時の生活の様子などの絵の総称であることは説明しましたが、ここからは「浮世絵」がどのようなものであるかをていねいに説明します。

浮世はもともと現実のこと

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まず、浮世絵の「浮世」について説明します。「浮世」とはもともと仏教的観点から、現実世界を「つらい世の中」とみなし、「つらい」つまり憂鬱な世界であることから「憂き世」だとしていました。ですので「現実」という意味「憂き世」という言葉を使っていたのです。そこから、「憂き世」にかわって中国の言葉で「はかない世の中」を意味する「浮世(ふせい)」という字があてられるようになり、宙に浮いているように定めのなく、はかない世の中を意味するようになりました。

しかし江戸時代になると単に「つらい世の中」ということだけを指すのではなく、「どうせつらい世の中ならいっそ浮かれて暮らそう」といった人生観が広まりました。そして「浮世」という言葉は、遊里や演劇といった娯楽から男女の仲など、当時の世の中のあらゆることを指すようになっていき、江戸時代における「現代風な」「好色」といった意味を持つようになりました。

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