今回は、非核三原則について学んでいこう。

唯一の被爆国である日本だからこそ、非核三原則が生まれたのは当然といえるでしょう。ですが、非核三原則には矛盾があるという意見が多い。なぜそんな意見が出るのでしょうか。

非核三原則が生まれた背景や矛盾があるといわれる原因などを、日本史に詳しいライターのタケルと一緒に解説していきます。

ライター/タケル

資格取得マニアで、士業だけでなく介護職員初任者研修なども受講した経験あり。現在は幅広い知識を駆使してwebライターとして活動中。

非核三原則とは?

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まずは非核三原則とはどのようなものか、改めて押さえておきましょう。

「持たず、作らず、持ち込ませず」

日本においての「非核三原則」とは、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という内容の政策です「持たず」は日本が核兵器を所持しないこと「作らず」は日本で核兵器を製造しないこと「持ち込ませず」は海外から日本に核兵器を導入させないこと。以上の3つが「非核三原則」となります。

日本は世界で唯一の被爆国です1945(昭和20)年8月に広島と長崎に原子爆弾が投下されました。原爆により多くの犠牲者が出た経験のある日本は、特に核兵器に対して強い拒絶反応があるとされます。よって、日本が非核三原則を掲げていることは必然であるといえるでしょう。

元となったのは佐藤栄作の発言

1967(昭和42)年の衆議院予算委員会で当時の佐藤栄作首相が「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」を日本の政策であるという趣旨の発言をしました。翌年に行った施政方針演説で「核四政策」を表明した際にも、「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則が盛り込まれています。

佐藤首相は核廃絶・アメリカへの核抑止力依存・核エネルギーの平和利用に非核三原則を加えた4つの核政策を「4本柱」と例えたのです。そのスタンスは、佐藤内閣以降のすべての政権が継承しました。日本では、50年以上にわたり非核三原則が守られ続けています。

非核三原則が大きく関与した出来事

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では、非核三原則が大きく関与して起きた出来事には何があるのでしょうか。

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沖縄返還協定に非核三原則が盛り込まれる

終戦後の沖縄は、アメリカの統治下に置かれていました。1950年代より、沖縄の日本への復帰を要望する声が大きくなります。1969(昭和44)年に日米首脳会談が行われるとアメリカのニクソン大統領と日本の佐藤首相との間で協議され沖縄返還が合意に達したのです

1971(昭和46)年に沖縄返還協定が調印され翌年に沖縄が日本に復帰しました。その際に、政府は沖縄にも非核三原則を適用させるべきと判断。1971年に、衆議院で「非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議」を沖縄返還協定の付帯決議として議決させました

佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞

1974(昭和49)年、ノーベル平和賞を受賞したのは2人の政治家でした。1人は、アムネスティ・インターナショナルなどを創設した、アイルランド出身の国際政治家であるショーン・マクブライド。もう1人が佐藤栄作です。佐藤は非核三原則を提唱したことが認められてノーベル平和賞を受賞しました

非核三原則の提唱は、ノーベル平和賞に値することでしょう。しかし、佐藤のノーベル平和賞受賞を疑問に思う人が少なくはありませんその理由として多く挙がるのがアメリカによるベトナム戦争を佐藤が支持していたとされることです。後で紹介する「密約」も、受賞に反対する根拠として挙げられています。

核拡散防止条約の付帯決議

核拡散防止条約(NPT)は1968(昭和43)年に国連で採択された後に調印され1970(昭和45)年に発効しました。核兵器の保有を国連常任理事国に限定した上で、核兵器の他国への譲渡や非核保有国の核兵器製造などを禁止したものです。現在では、世界のほとんどの国が核拡散防止条約に参加しています。

1976(昭和51)年に日本は核拡散防止条約に批准しました条約の採択には付帯決議もされています。その中で、「非核三原則が国是として確立されていることにかんがみ、いかなる場合においても、これを忠実に遵守すること」という項目が加えられました。

日本の非核三原則にある矛盾とは?

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ところで、日本の非核三原則には矛盾があるという意見が多く聞かれます。果たして、矛盾とはいったいどのようなものでしょうか。

日本は核の傘に守られている

もちろん日本は核の保有や製造をしていません。そればかりか、日本国憲法第9条で戦争の永久放棄や戦力の不保持を宣言しています。今でも自衛隊と憲法9条の関係は議論されていますが、少なくとも主権を守るために国家を防衛するための組織は必要でしょう。

しかし、日本はアメリカの「核の傘」に守られているという現実があります。「核の傘」とは、核保有国が核の抑止力をもって非保有国の安全を維持することです。日本とアメリカは同盟関係なので、自ずからそのような状況になるのかもしれません。いずれにせよ、日本は非核三原則を掲げながら核の傘に守られているという矛盾があるのです。

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「持ち込ませず」が守られなかったという疑惑

「日本に核が持ち込まれていた」とする疑惑は昭和の時代より何度も浮上していました。そのたびに、当時の政府が密約の存在を否定しています。しかし、2009(平成21)年に民主党の鳩山由紀夫内閣が誕生すると、その対応が変わりました。岡田克也外務大臣が外務省に核に関する密約があったかどうかを調査させたのです

調査の結果密約があったことを確証する文書は見つかりませんでした。しかし、日米間で暗黙の了解があったと結論付けたのです。歴代内閣は、非核三原則を遵守すると声明を出し続けていました。ですが、核について暗黙の了解があった限りは、これまで日本に核は持ち込まれていないと断言できないでしょう。

日本は核兵器禁止条約に不参加

核兵器禁止条約は2017(平成29)年に国連で採択されると2020(令和2)年に批准国が50に到達。条約が発効する基準に達しました。それ以降も、核兵器禁止条約に批准する国が着々と増え続けています。しかし、日本は依然として核兵器禁止条約に参加していません

日本はNPT(核拡散防止条約)の枠組みで核軍縮に努めるという方針を取っています。もちろん、核の傘に守られているという事実があることもその原因です。確かに、核兵器禁止条約に核保有国が参加していないなどの事情も関係しているでしょう。それでも、日本が核兵器禁止条約にオブザーバーとして参加することを模索すべきかもしれません。

非核三原則と原子力発電所は矛盾するのか?

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ならば、非核三原則を国是とする日本で原子力発電所が稼働していることに矛盾はあるのでしょうか。

原発から核を製造することはありえない

日本は核兵器の製造が可能な国であるという認識もあります。なぜなら、日本は核兵器の材料となるプルトニウムを保有しているからです。原発の使用済み核燃料から取り出して再利用するという目的があるために、プルトニウムを保有してます。決して核兵器を製造するためのものではありません。

確かに日本は核兵器を作る能力があるのでしょう。しかし、原子力基本法では原子力利用を「平和の目的」に限定しています。また、日本が批准している核不拡散条約では非保有国の核兵器製造や取得を禁じているため日本で核兵器を製造することはありえません。たとえ製造能力があったとしても、法律や条約で核の製造は禁止されているのです。

東日本大震災以降は原発の稼働が慎重に

2011(平成23)年の東日本大震災により福島第一原発事故が発生して原発の稼働はより慎重になりました2012(平成24)年に環境省の外局として原子力規制委員会が設置され原子力利用の安全確保が図られます。また、震災前よりも厳格な規制基準が設けられました。

震災直後に日本のすべての原発は運転を停止審査基準を満たしたものから再稼働する運びとなりましたが地元自治体の反対などもあり震災前と同様の電力量を確保するまでに至っていません。2022年までに10基の原発が再稼働した一方で、それ以上の数の原発が廃炉となったのです。

\次のページで「日本の核政策と非核三原則の今後考えられる課題」を解説!/

日本の核政策と非核三原則の今後考えられる課題

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最後に、日本の核政策と非核三原則で課題になると考えられるものについて見ていくことにしましょう。

唯一の被爆国である日本のリーダーシップ

日本は憲法で戦争を永久に放棄すると宣言しました自衛隊を組織していますが建前上は戦争のための戦力を持っていません。そのため、国連平和維持活動(PKO)は、交戦するおそれがない場所でのものに限られます。また、軍隊を持たないと宣言したため、アメリカに国防を依存しているのも仕方のないことでしょう。

しかし、唯一の被爆国で非核三原則を提唱した日本だからこそ国際社会でリーダーシップを発揮すべきではないでしょうか。核の脅威を外交などのカードに利用する国が見受けられますが、それは核の脅威を知っているからに違いありません。日本には国際社会に核の脅威を正しく理解させる役目があって然るべきです

核共有を認めるか否か

2022(令和4)年から日本でも核共有に関する議論が高まりました核共有とは核を保有していない国が核保有国と共同で核を運用することです。一例として、ドイツ・イタリア・オランダ・ベルギー・トルコの5カ国は、自国内にアメリカが保有する核兵器を受け入れています。

岸田文雄首相は国会答弁などで「非核三原則や原子力基本法などから核共有を認めるのは難しい」とする見解を示しました。非核三原則を歴代内閣が非核三原則を継承し、なおかつ岸田首相が被爆地である広島を地元とするならば、そのような立場を取るのは当然でしょう。その一方で、日本が核の脅威に対する備えを急がねばならないのも事実といえます

非核三原則について議論の余地はある

非核三原則は唯一の被爆国である日本から生まれ、提唱した佐藤栄作にはノーベル平和賞が贈られました。日本の核政策は非核三原則に則ったものが踏襲されていますが、その一方で日本が核の傘に頼っているなど、矛盾があると言わざるをえません。原発の再稼働や核共有など、核政策を見直すべきとする意見もあります。現状では、非核三原則について議論の余地があるといえるでしょう。

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現代社会

日本の非核三原則は矛盾している?歴史や今後の課題などを行政書士試験合格ライターが簡単にわかりやすく解説

日本の核政策と非核三原則の今後考えられる課題

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最後に、日本の核政策と非核三原則で課題になると考えられるものについて見ていくことにしましょう。

唯一の被爆国である日本のリーダーシップ

日本は憲法で戦争を永久に放棄すると宣言しました自衛隊を組織していますが建前上は戦争のための戦力を持っていません。そのため、国連平和維持活動(PKO)は、交戦するおそれがない場所でのものに限られます。また、軍隊を持たないと宣言したため、アメリカに国防を依存しているのも仕方のないことでしょう。

しかし、唯一の被爆国で非核三原則を提唱した日本だからこそ国際社会でリーダーシップを発揮すべきではないでしょうか。核の脅威を外交などのカードに利用する国が見受けられますが、それは核の脅威を知っているからに違いありません。日本には国際社会に核の脅威を正しく理解させる役目があって然るべきです

核共有を認めるか否か

2022(令和4)年から日本でも核共有に関する議論が高まりました核共有とは核を保有していない国が核保有国と共同で核を運用することです。一例として、ドイツ・イタリア・オランダ・ベルギー・トルコの5カ国は、自国内にアメリカが保有する核兵器を受け入れています。

岸田文雄首相は国会答弁などで「非核三原則や原子力基本法などから核共有を認めるのは難しい」とする見解を示しました。非核三原則を歴代内閣が非核三原則を継承し、なおかつ岸田首相が被爆地である広島を地元とするならば、そのような立場を取るのは当然でしょう。その一方で、日本が核の脅威に対する備えを急がねばならないのも事実といえます

非核三原則について議論の余地はある

非核三原則は唯一の被爆国である日本から生まれ、提唱した佐藤栄作にはノーベル平和賞が贈られました。日本の核政策は非核三原則に則ったものが踏襲されていますが、その一方で日本が核の傘に頼っているなど、矛盾があると言わざるをえません。原発の再稼働や核共有など、核政策を見直すべきとする意見もあります。現状では、非核三原則について議論の余地があるといえるでしょう。

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