この記事では薙刀と槍の違いについてみていきます。どちらも昔の戦で使われた持ち手の長い武器ですが、どう使い分けていたのかよくわからないという人も多いんじゃないか?ぱっと見は似たような武器ですが、役割の違いからそれぞれ異なる歴史をたどっているんです。
今回はそんな薙刀と槍の違いを、長巻や矛との違いもおさえながら、刀剣大好きライターのかみかわかなえと一緒に解説していきます。

ライター/かみかわかなえ

刀剣大好きライター。刀剣や武将にハマり地元の博物館や歴史的名所にせっせと足を運んでいる。推し刀剣は日光一文字。

薙刀と槍ってどんなもの?

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薙刀(なぎなた)と槍(やり)は、どちらも日本の戦において使用された長柄武器(ながえぶき:持ち手の部分が長い武器)です。通常の刀よりもリーチが長いため、相手に近づき過ぎることなく攻撃を加えられるのが特徴。戦で重宝されました。

同じ長柄武器である薙刀と槍ですが、使い方や活躍した時期は異なっています。まずはそれぞれがどんな武器であるのかという点について、一緒に見ていきましょう。

薙刀とは?

薙刀とは、長い柄(え:手で握る部分)の先に「穂(ほ)」と呼ばれる反りのついた刃を付けた武器です。もとの漢字は「長刀」と書きました。しかし、時代が下ると打刀(うちがたな)を長刀と呼ぶようになったため、こちらは表記を「薙刀」と改め区別されるようになったそうです。

薙刀のサイズは時代や種類によって様々ですが、穂の長さは1尺~2尺(およそ30cm~60cm)、柄の長さは3尺~6尺(およそ90cm~180cm)程度のものが主に使われていました。

また、薙刀は長さや穂の形状によって「大薙刀」や「小薙刀」、「巴形薙刀(ともえがたなぎなた)」や「静形薙刀(しずかがたなぎなた)」などに分類されます。「大薙刀」はその名の通り大きい薙刀で、なかには穂のサイズだけで5尺(およそ150cm)に及ぶものもあったそうですよ。

槍とは?

槍とは、長い柄の先に「穂」と呼ばれる先のとがった刃をつけた武器です。刀身を穂と呼ぶのは薙刀と同様ですね。槍の穂の形状は様々ですが、両刃のものがほとんどです。

槍のサイズもまた時代や種類によって異なります。標準的な穂の長さは1尺~2尺(およそ30~60cm)程度。柄の長さは、柄の長い「長柄槍(ながえやり)」の場合1丈3尺~2丈(およそ4~6m)にもおよぶそうです。

槍は長さや穂の形状によって、薙刀よりも多くの分類が存在します。なかでも、「十文字槍(じゅうもんじやり)」は知っている方も多いのではないでしょうか?十文字槍は刀身が十字架上になっている槍で、「鎌槍(かまやり)」の一種です。ちなみに、十字架状ではなく片側にのみ鎌がついている槍も存在し、こちらは「片鎌槍(かたかまやり)」と呼ばれていますよ。

違いその1.使い方

薙刀と槍とはどんなものなのか、基本的な情報について確認しました。それでは、それぞれの違いを確認していきましょう。まずは使い方の違いについてです。どちらも長柄武器である薙刀と槍ですが、役割や得意分野は異なっていますよ。一緒に見ていきましょう!

薙刀:薙ぎ払う

薙刀の主な役割は薙ぎ払うことです。馬の上から敵を薙ぎ払ったり、振り回して使用します。さらに柄の端、つまり穂と反対側の先端に「石突(いしづき)」と呼ばれる半月形の金具を装着し、こちら側でも斬りつけられるようになっている薙刀も存在しますよ。

さらに、穂の先端で突いて攻撃したり、柄で打撃を加えることもできます。武器全体を使って多様な攻撃を仕掛けることが可能だったんですね。命のやり取りをする戦場において、様々な攻撃手段を1本で賄える薙刀は、大変心強い武器であったのではないでしょうか。

\次のページで「槍:突き刺す」を解説!/

槍:突き刺す

槍の主な役割は突き刺すことです。また、本体の重さを利用して叩く攻撃も有効でした。遠くから攻撃できることが長柄武器のメリットですが、接近戦になった場合は柄の握る位置を変えることで対処したようです。

違いその2.歴史

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薙刀と槍の使い方について確認しました。同じ長柄武器である薙刀と槍ですが、薙刀は薙ぎ払うもの、槍は突き刺すものだということがわかりましたね。どちらも強力な武器として重宝されていたようですが、同じ時代に使われていたのでしょうか?次に、薙刀と槍の歴史や、活躍した時期についてご紹介します。一緒に確認していきましょう!

薙刀の歴史

薙刀が登場したのは平安時代。活躍した時期は、南北朝時代~室町時代中期頃です。当時の戦闘方法は、馬上で一騎打ちをおこなう形が主流。相手と距離を取った状態で馬上から攻撃できる薙刀は、主力武器として使用されていました。

その後槍が台頭すると、薙刀は戦場で使われなくなります。一部の薙刀は脇差や打刀などほかの日本刀に作り替えられました。こういった刀は「薙刀直し」とよばれ、通常の日本刀とは少し違った特徴的な姿をしています。

また、「薙刀は女性が使う武器」というイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。薙刀は、他の武器よりも少ない腕力で大きなダメージを与えることが可能です。そのため、戦闘が盛んだった時代には城主不在のお城を守る女性の武器として活躍。平和な時代に入ってからは、女性の護身用武具や嫁入り道具として扱われました。現代では現代武道「なぎなた」として競技化されています。

槍の歴史

槍は旧石器時代から狩猟の道具として使用されていました。武器として登場するのは鎌倉時代中期以降、活躍するのは室町時代後期からです。室町時代後期には、戦闘方法が馬上での一騎打ちから足軽による集団戦に移行。攻撃範囲の広い薙刀は味方を巻き込むリスクから集団戦に向いておらず、槍が主力武器として使われるようになりました。

槍は味方を巻き込むリスクが低いことに加え、「突く」「叩く」といったシンプルな使い方のため、武術の訓練を積んでいない足軽でも簡単に扱えるというメリットがあったようです。現代の槍は「なぎなた」同様、現代武道「槍道(そうどう)」として競技化されています。

\次のページで「薙刀と長巻の違いは?」を解説!/

薙刀は薙ぎ払うための武器です。攻撃範囲が広く、南北朝時代~室町時代中期頃、馬上での一騎打ちで活躍しました。その後、一部は薙刀直しに。少ない力で攻撃ができるという特徴があり、女性が扱う武器としても浸透していきます。

槍は突き刺すための武器です。攻撃範囲は直線的で、室町時代後期から、足軽による集団戦で活躍しました。訓練を積んでいないものでも簡単に扱えるという特徴があります。

薙刀と長巻の違いは?

薙刀と似た武器はいくつか存在しますが、とくに似ているものが「長巻(ながまき)」です。長巻は大太刀から発展した武器と考えられているため、大きな太刀の柄を長く伸ばして、刀身と同じ長さにしたものをイメージしていただくとわかりやすいと思います。

銃刀法では薙刀に分類されており、薙刀との違いに明確な定義はありません。しかしまったく同じものではなく、いくつか違いが存在しています。たとえば、反り方の違い。薙刀は切っ先の反り具合が深いのに対し、長巻は浅くなっています。

また、薙刀は柄が刀身よりも長いのに対し、長巻は柄と刀身の長さがほぼ同じ。長巻はとても重いため薙刀のように振り回して攻撃することはできず、うまく扱うには訓練が必要でした。

槍と矛の違いは?

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「矛(ほこ)」は日本だけでなく、世界中で使用された武器です。日本神話にも登場するほど古くから存在しており、槍や薙刀のもとになったものであるといわれています。両刃に長い柄、という点では槍とよく似ていますが、両者には明確な違いがありますよ。

たとえば、構造の違い。どちらも長い棒と刃からなる武器ですが、槍が刀身の根元を柄に差して固定するのに対し、矛は刀身の根元が袋状になっており、そこに柄を差して固定します。柄に刃を差すのが槍、刃に柄を差すのが矛、というわけですね。

また「矛盾」という言葉の通り、矛は片手で使用し、もう一方の手に盾を持って戦うことがあったようです。それに対し、槍は両手で使用することが基本でした。さらに、槍が突き刺す武器であるのに対し、矛は斬る武器。矛の刀身は槍よりも丸みを帯びており、厚みがあります。

薙刀は切っ先の反りが深く、柄が刀身よりも長い形状。振り回して使用することが可能です。長巻は切っ先の反りが浅く、柄と刀身の長さがほぼ同じ。振り回して使用することは不可能です。ただし、薙刀と長巻の違いについて明確な定義はありません。

槍は柄に刀身の根元を差して固定します。基本的には両手で使用し、突き刺すための武器です。矛は刀身の根元に柄を差して固定します。基本的には片手で使用し、斬るための武器です。

薙刀も槍も強力な武器

今回は薙刀と槍の違いについて見ていきました。ともに長い柄と刃を持つ強力な武器ですが、個人戦か集団戦かという戦いの状況に応じて適している武器は変わります。そのため、どちらの方がより優れているか一概に判断することは難しいでしょう。

日本の歴史では薙刀が槍にとって代わられた形となっていますが、少ない力で強力な攻撃を加えられる薙刀は、その後女性が扱う武器として浸透していきました。

現代において、薙刀術や槍術は「なぎなた」「槍道」として受け継がれています。また、薙刀や薙刀直し、槍は博物館などで鑑賞することができますよ。打刀や太刀などの日本刀とはまた違った、長柄武器ならではの魅力を味わってみるのもおすすめです!

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文化・歴史雑学

3分で簡単にわかる薙刀と槍の違い!どっちが強い?矛との違いは?刀剣大好きライターが詳しく解説

この記事では薙刀と槍の違いについてみていきます。どちらも昔の戦で使われた持ち手の長い武器ですが、どう使い分けていたのかよくわからないという人も多いんじゃないか?ぱっと見は似たような武器ですが、役割の違いからそれぞれ異なる歴史をたどっているんです。
今回はそんな薙刀と槍の違いを、長巻や矛との違いもおさえながら、刀剣大好きライターのかみかわかなえと一緒に解説していきます。

ライター/かみかわかなえ

刀剣大好きライター。刀剣や武将にハマり地元の博物館や歴史的名所にせっせと足を運んでいる。推し刀剣は日光一文字。

薙刀と槍ってどんなもの?

image by iStockphoto

薙刀(なぎなた)と槍(やり)は、どちらも日本の戦において使用された長柄武器(ながえぶき:持ち手の部分が長い武器)です。通常の刀よりもリーチが長いため、相手に近づき過ぎることなく攻撃を加えられるのが特徴。戦で重宝されました。

同じ長柄武器である薙刀と槍ですが、使い方や活躍した時期は異なっています。まずはそれぞれがどんな武器であるのかという点について、一緒に見ていきましょう。

薙刀とは?

薙刀とは、長い柄(え:手で握る部分)の先に「穂(ほ)」と呼ばれる反りのついた刃を付けた武器です。もとの漢字は「長刀」と書きました。しかし、時代が下ると打刀(うちがたな)を長刀と呼ぶようになったため、こちらは表記を「薙刀」と改め区別されるようになったそうです。

薙刀のサイズは時代や種類によって様々ですが、穂の長さは1尺~2尺(およそ30cm~60cm)、柄の長さは3尺~6尺(およそ90cm~180cm)程度のものが主に使われていました。

また、薙刀は長さや穂の形状によって「大薙刀」や「小薙刀」、「巴形薙刀(ともえがたなぎなた)」や「静形薙刀(しずかがたなぎなた)」などに分類されます。「大薙刀」はその名の通り大きい薙刀で、なかには穂のサイズだけで5尺(およそ150cm)に及ぶものもあったそうですよ。

槍とは?

槍とは、長い柄の先に「穂」と呼ばれる先のとがった刃をつけた武器です。刀身を穂と呼ぶのは薙刀と同様ですね。槍の穂の形状は様々ですが、両刃のものがほとんどです。

槍のサイズもまた時代や種類によって異なります。標準的な穂の長さは1尺~2尺(およそ30~60cm)程度。柄の長さは、柄の長い「長柄槍(ながえやり)」の場合1丈3尺~2丈(およそ4~6m)にもおよぶそうです。

槍は長さや穂の形状によって、薙刀よりも多くの分類が存在します。なかでも、「十文字槍(じゅうもんじやり)」は知っている方も多いのではないでしょうか?十文字槍は刀身が十字架上になっている槍で、「鎌槍(かまやり)」の一種です。ちなみに、十字架状ではなく片側にのみ鎌がついている槍も存在し、こちらは「片鎌槍(かたかまやり)」と呼ばれていますよ。

違いその1.使い方

薙刀と槍とはどんなものなのか、基本的な情報について確認しました。それでは、それぞれの違いを確認していきましょう。まずは使い方の違いについてです。どちらも長柄武器である薙刀と槍ですが、役割や得意分野は異なっていますよ。一緒に見ていきましょう!

薙刀:薙ぎ払う

薙刀の主な役割は薙ぎ払うことです。馬の上から敵を薙ぎ払ったり、振り回して使用します。さらに柄の端、つまり穂と反対側の先端に「石突(いしづき)」と呼ばれる半月形の金具を装着し、こちら側でも斬りつけられるようになっている薙刀も存在しますよ。

さらに、穂の先端で突いて攻撃したり、柄で打撃を加えることもできます。武器全体を使って多様な攻撃を仕掛けることが可能だったんですね。命のやり取りをする戦場において、様々な攻撃手段を1本で賄える薙刀は、大変心強い武器であったのではないでしょうか。

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