この記事では「浴衣」の男女での違いについてみていきます。夏に着る和服というのはわかるが、柄やサイズ以外に違いがあるようには見えないよな。ですがよく見ると脇の部分が縫われていなかったり、着こなし方が違うなどいろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、和服の用語から確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「浴衣」は男女でどう違うの?

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浴衣は基本的な形は男女とも同じですが、仕立てに違いがあります。具体的には身丈の長短、繰り越しの有無、身頃と袖の縫い合わせ、袖付けなどです。それぞれの理由について詳しく解説していきましょう。

「女性の浴衣」:身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い

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女性ものの浴衣の特徴は、「身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い」の4つです。

身丈が長い:「身丈(みたけ)」とは襟のつけ根から裾までの背筋の長さのことです。女性の浴衣は「おはしょり(腰周りをたくし上げる部分)」を作って着るので、自分の身長と同じくらいの丈の浴衣を着ます。ですので男性ものよりも身丈が長くなっていることが多いのです。着付けに少し手間がかかりますが、ある程度浴衣の長さを調整することができるというメリットがあります。
繰り越しがある:女性は着付けの際に「衣紋を抜く(衿の後ろを首から放して間をあけて着る)」ので、女性ものは仕立ての時点で襟肩明(えりかたあき)を後身頃(うしろみごろ)側へずらして縫われています。これを「繰り越し」といいます。
身八つ口と袖の振りが開いている:女性ものには脇下部分に「身八つ口(みやつぐち)」という縫い合わされていない部分があります。また「袖の振り(身八つ口と向かい合う部分)」も開いています。
袖付けが短い:「袖付け(袖と身頃を縫い合わせている部分)」が男性ものに比べて短いです。袖付けは洋服でいうとアームホールに当たりますね。

「男性の浴衣」:身丈が短い・繰り越しがない・身八つ口と袖の振りがない・袖付けが長い

男性ものの浴衣には「身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い」という特徴があります。

身丈が短い:男性の浴衣はおはしょりを作らずに「対丈(ついたけ:身の丈と同じ長さの布で仕立てられている)」で着るので、女性ものよりも短くなっています。着付けは簡単ですが、女性に比べるとジャストサイズの浴衣しか着られないというデメリットもあります。
繰り越しがない:男性は、女性のように衣紋を抜くことをしません。ですので男性ものは繰り越しがなく、襟肩明の部分がまっすぐ縫われています。
身八つ口と袖の振りがない:男性ものの身八つ口と袖の振りは縫い合わされていて、袂(たもと)にポケットのように物を入れることができるようになっています。
袖付けが長い:袖付けが女性ものに比べて長くなっています。身八つ口がなくても十分通気性がよさそうですね。

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浴衣の着こなし方

夏、浴衣を着ることはありますか?着付けが大変そうだから敬遠している、着るけれど夏祭りや花火大会の時にだけ、という方も多いのではないでしょうか。普段あまり着ない浴衣だからこそ、いざという時には素敵に着こなしたいもの。ポイントをご紹介します。

男女の浴衣の共通点:「右前」

ボタンのある洋服で身頃を見ると、男性は左が外側、女性は右が外側になっていますね。けれど和装では男女に違いはなく、どちらも左が外側になります。和装ではこれを「右前」と表現しますよ。これは自分から見て右側の衿が先に肌に触れるということです。もし着付けの時にどちらかわからなくなってしまったら、「右手がさっと懐に入る」ほうだと覚えると間違えませんね。

なお、「左前」は生きている人の逆ということから、「死装束(亡くなった方に最後に着せる服)」の意味があるので注意しましょう。

帯の種類と結び方

女性ものの浴衣用の帯には「半幅帯(小袋帯・単衣帯)、兵児帯、作り帯」などがあります。いずれも胸下の高い位置で帯を結びますよ。結び方には、文庫、片流し、一文字、蝶結び、都結びなどがあり、結び方を変えることで雰囲気を変えて楽しめます。

半幅帯(はんはばおび):袋帯の半分の4寸幅の帯の総称。
 ┗小袋帯(こぶくろおび):2枚の生地の両端を縫いあわせて袋状にした帯。表と裏の柄行きが異なるのでリバーシブルに使える。また浴衣だけでなく着物にも使用できる。
 ┗単衣帯(ひとえおび):1枚仕立てで厚みがなく軽やかな帯。小袋帯よりも涼しい。
兵児帯(へこおび):幅が広く柔らかい帯。扱いやすく、ふんわりと結びやすい。カジュアルな雰囲気。
作り帯:胴に巻きつける部分と、背中に来る飾りの部分が分かれている帯。簡単に着付けられるので浴衣初心者や子ども向き。

男性用の帯は「角帯、兵児帯」の2種類。女性の帯よりも幅が細いのが特徴です。男性は臍下の位置に少し前下がりにして帯を結びます。文庫、貝の口、浪人流し、片わな結びなどの結び方がありますよ。

角帯(かくおび):2つ折りで硬く仕立てた帯。
兵児帯:幅が広く柔らかい帯。扱いやすく、ふんわりと結びやすい。カジュアルな雰囲気。

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浴衣の着付けに必要なもの

ここまで読んで「浴衣を着てみたい!」と思っても、何がいるのかわからないという人もいるのではないでしょうか。着付けに必要なものをまとめました。

【必ず必要なもの】
・浴衣
・帯
・下駄やサンダル
・肌着
・カゴバッグや巾着または信玄袋
・(女性のみ)腰ひも 2本
・(女性のみ)伊達締め

【あると便利なもの・場合によって必要なもの】
・(女性のみ)帯板(前板)
・(女性のみ)コーリンベルト(ワンタッチベルト)
・タオル(細身の方は体型を補正するため)

浴衣は元々湯上がり着として作られたものですので1枚で着ても問題ありませんが、女性は薄い色の浴衣を着ると下着が透けてしまうので、肌着を用意したほうがよいでしょう。浴衣と帯はセットで売っているものもたくさんありますが、別で揃えて色や柄の合わせ方を楽しむこともできます。また巾着や扇子などの小物を変えるだけでもずいぶん印象が変わりますよ。

浴衣の豆知識

ちょっと役立つ浴衣の豆知識をご紹介します。

おはしょりは何のためにするの?

江戸中期以降、女性は「御引き摺り」といって裾の長い仕立ての着物を着ていました。しかし次第に動きやすい着方を求めるようになり、腰紐で長さを調節するようになったのがおはしょりの始まりと言われています。現代でも芸者さん・舞妓さんの姿に御引き摺りを見ることができますね。

また女性の場合は衣紋を抜くと後ろの裾が下がり、逆に前はバストで持ち上がるので裾が上がってしまいます。おはしょりには、裾を揃えるためにこの前後のずれを調整する、という役割もあるのです。

身八つ口は何のためにあるの?

身八つ口は女性の帯幅が広くなり、また胸高に帯をするようになったために上腕部の動きが制限されてしまうことから、手の動作を楽にするための工夫であったといわれています。授乳時に開口部として使われることもあったようです。

現在は着付けの際ここから手を差し入れて調整しますが、一番大切な役割は袖付けを変える(年齢や体型の変化に応じて袖付けを変えることがある。袖付けが短いほど若い人向け、長いほど年配者向け)際に「内揚げ(帯の下になる位置にあらかじめ施しておく縫いこみ部分)」が帯の位置から見えてしまわないようにすること。

この身八つ口からはインナーが見えてしまうことがあるため、見えにくい動作を心がけるなど注意する必要があります。具体的には、腕を肩より上にあげない、脇から腕を離さない、袂を押さえながら手を伸ばすなどです。しっかりと着付けをすることと、下着のように見えないインナーを選ぶこともポイントですよ。

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「温泉浴衣」とは何が違うの?

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旅館やホテルで用意されている浴衣を「温泉浴衣」「旅館浴衣」または「ホテル浴衣」と呼びます。旅館やホテルで業務用として使用されることを前提としていて、耐久性・効率性・コストに優れた比較的新しい浴衣です。温泉浴衣と普通の浴衣の大きな違いは以下の6点が挙げられます。

1.仕立て:浴衣が「本仕立て」であるのに対し、温泉浴衣は「寝間着仕立て(リネン仕立て)」で作られている。
2.サイズの種類:浴衣は身丈や裄丈を測って選ぶが、温泉浴衣はほとんどの場合3〜4サイズしか用意されていない。
3.衿の幅:浴衣の衿は約7cmだが温泉浴衣の衿は5cmほどしかなく、芯が入ってないため柔らかい。
4.袖の形:筒袖で袂がないことが多い。筒袖は乾きやすくゴミが溜まらないので、毎日洗濯する温泉浴衣に向いている。
5.:温泉浴衣の帯は細く柔らかいので、締めやすく着崩れしにくい。
6.着付けが簡単:温泉浴衣は男女兼用でおはしょりを作る必要がなく、羽織って左右を合わせ帯で締めるだけで着られる。

ちなみに寒い季節になると羽織が浴衣と一緒に用意されていることがありますね。これは防寒用に浴衣の上に着るもので「茶羽織」や「半てん」といいますよ。

浴衣の男女の違いは着こなしの違いによって生まれた

男女の浴衣は着こなし方に違いがあり、そこから仕立てにも違いが生まれたことがわかりました。どちらもそれぞれの魅力を高めるための工夫だといえますね。浴衣は和服の一種ではありますが元々は湯上がりにリラックスウェアとして着られていたもの。縁日や夕涼みなど、夏の着物として気軽に楽しめるといいですね。最後になりますが、この記事で些細な疑問を解決するお手伝いができたら幸いです。

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簡単でわかりやすい!「浴衣」の男女の違いとは?「温泉浴衣」との違いや着こなしのポイントも雑学マニアが詳しく解説

この記事では「浴衣」の男女での違いについてみていきます。夏に着る和服というのはわかるが、柄やサイズ以外に違いがあるようには見えないよな。ですがよく見ると脇の部分が縫われていなかったり、着こなし方が違うなどいろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、和服の用語から確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「浴衣」は男女でどう違うの?

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浴衣は基本的な形は男女とも同じですが、仕立てに違いがあります。具体的には身丈の長短、繰り越しの有無、身頃と袖の縫い合わせ、袖付けなどです。それぞれの理由について詳しく解説していきましょう。

「女性の浴衣」:身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い

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女性ものの浴衣の特徴は、「身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い」の4つです。

身丈が長い:「身丈(みたけ)」とは襟のつけ根から裾までの背筋の長さのことです。女性の浴衣は「おはしょり(腰周りをたくし上げる部分)」を作って着るので、自分の身長と同じくらいの丈の浴衣を着ます。ですので男性ものよりも身丈が長くなっていることが多いのです。着付けに少し手間がかかりますが、ある程度浴衣の長さを調整することができるというメリットがあります。
繰り越しがある:女性は着付けの際に「衣紋を抜く(衿の後ろを首から放して間をあけて着る)」ので、女性ものは仕立ての時点で襟肩明(えりかたあき)を後身頃(うしろみごろ)側へずらして縫われています。これを「繰り越し」といいます。
身八つ口と袖の振りが開いている:女性ものには脇下部分に「身八つ口(みやつぐち)」という縫い合わされていない部分があります。また「袖の振り(身八つ口と向かい合う部分)」も開いています。
袖付けが短い:「袖付け(袖と身頃を縫い合わせている部分)」が男性ものに比べて短いです。袖付けは洋服でいうとアームホールに当たりますね。

「男性の浴衣」:身丈が短い・繰り越しがない・身八つ口と袖の振りがない・袖付けが長い

男性ものの浴衣には「身丈が長い・繰り越しがある・身八つ口と袖の振りが開いている・袖付けが短い」という特徴があります。

身丈が短い:男性の浴衣はおはしょりを作らずに「対丈(ついたけ:身の丈と同じ長さの布で仕立てられている)」で着るので、女性ものよりも短くなっています。着付けは簡単ですが、女性に比べるとジャストサイズの浴衣しか着られないというデメリットもあります。
繰り越しがない:男性は、女性のように衣紋を抜くことをしません。ですので男性ものは繰り越しがなく、襟肩明の部分がまっすぐ縫われています。
身八つ口と袖の振りがない:男性ものの身八つ口と袖の振りは縫い合わされていて、袂(たもと)にポケットのように物を入れることができるようになっています。
袖付けが長い:袖付けが女性ものに比べて長くなっています。身八つ口がなくても十分通気性がよさそうですね。

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