この記事では「嵐」と「台風」の違いについてみていきます。どちらも暴風や豪雨のイメージがあるよな。違いはずばり気象用語かどうかのようですが、低気圧の種類や地域によって異なる呼び方など、調べてみるといろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、定義から確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「嵐」と「台風」はどう違うの?

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「嵐」と「台風」…どちらも荒れた天気を示す言葉ですが、その違いを明確に知っていますか? 春に吹くのが嵐で、夏から秋にかけて来るのが台風?いいえ、実は「嵐」は暴風を表す言葉であるのに対し、「台風」ははっきりと定義づけられた気象用語なのです。それでは詳しく解説していきましょう。

「嵐」:暴風の総称

「嵐」は気象用語ではなく、暴風の総称です。嵐を辞書でひいてみると以下のように書かれています。

(「嵐」の字は、中国では、山にたちこめるもや、または山のけはいの意)
1.荒く激しく吹く風。もとは山間に吹く風をいうことが多く、のち一般に、暴風・烈風をいう。
2.さらに広く、暴風雨。台風。

(出典:広辞苑)

「台風」:日本付近で発達した熱帯低気圧

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「台風」は気象用語であり、明確な定義が定められているものです。多くは赤道付近の海上で発生し、日本には8月から9月にかけて接近します。日本ではその年の1月1日以降に発生した順に番号をふって「台風○号」という呼び方をしますね。

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

(出典:気象庁ホームページ)

「最大風速が17m/s」とは、1秒間に17メートルの速さで風が進むことを意味しています。つまり台風とは、以下の3要件を満たすものです。

・熱帯低気圧である。
・北西太平洋または南シナ海に存在する。
・域内の最大風速が17m/s以上である。

台風の一生

気象庁によると台風の一生は、大きく「発生期・発達期・最盛期・衰弱期」の4段階に分けることができるそうです。

1.発生期:台風の多くは赤道付近の海上で発生します。海面水温が高い熱帯の海上では上昇気流が発生しやすく、この気流によって次々と発生した積乱雲(入道雲)がまとまって渦を形成するようになるのです。そして渦の中心付近の気圧が下がっていき発達すると熱帯低気圧となり、その中でもさらに風速が強まって17m/sを超えたものが台風と呼ばれます。
2.発達期:台風となってから、中心気圧が下がり勢力が最も強くなるまでの期間です。暖かい海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達していきます。発達期には中心気圧はどんどん下がり、中心付近の風速も急激に強くなっていくのです。
3.最盛期:台風の中心気圧が最も下がり、最大風速が最も強い期間です。台風の北上にともない中心付近の風速は徐々に弱まる傾向になりますが、逆に強い風の範囲は広がっていきます。
4.衰弱期:台風が日本に近づいて来ると、熱帯よりも海面水温が低いため海からの水蒸気の供給が減少し、熱帯低気圧や温帯低気圧に変わります。

日本に接近し北から寒気の影響が加わると、台風は寒気と暖気の境である「前線」をともなう「温帯低気圧」に変わります。また、台風が衰えて「熱帯低気圧」に変わる場合もありますが、この場合は最大風速が17m/s未満になっただけであり、強い雨が降ることがありますので、「温帯低気圧」、「熱帯低気圧」いずれの場合も消滅するまで油断はできません。

\次のページで「台風の勢力の示し方」を解説!/

台風の勢力の示し方

台風情報を見ると、台風は円形で表示されていますよね。この円は「暴風域」といって「風速25m/s以上の風が吹いているか、吹く可能性がある範囲」を示しているものです。さらに気象庁では、台風のおおよその勢力を発表する際の目安として、10分間平均の風速をもとに台風の「大きさ」と「強さ」 を使用しています。

強さの階級(最大風速)
強い:33m/s(64ノット)以上 〜 44m/s(85ノット)未満
非常に強い:44m/s(85ノット)以上 〜 54m/s(105ノット)未満
猛烈な:54m/s(105ノット)以上

大きさの階級(強風域(風速15m/s以上の風が吹いているか、吹く可能性がある範囲)の半径)
大型(大きい):500km以上 〜 800km未満
超大型(非常に大きい):800km以上

ただし強風域の半径が500km未満の場合には大きさを使用せず、最大風速が33m/s未満の場合には強さを使用しません。例えば「強い台風」と発表されている場合、その台風は「強風域の半径が500km未満で、中心付近の最大風速は33〜44m/s未満で暴風域をともなっている」ことを表しています。

低気圧の種類

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低気圧とは、気圧が低く周囲の空気や風を引き寄せている部分のこと。成り立ちなどによって細かく分類されるのですが、その中からいくつか紹介します。

「タイフーン」「ハリケーン」「サイクロン」とは何が違うの?

台風と似た気象現象に「タイフーン」「ハリケーン」「サイクロン」があります。この4つは熱帯低気圧が発達したものですので仲間と言えますね。台風は日本基準の定義ですが、あとの3つは世界基準の定義で、低気圧の中心が存在する地域によって分けられているのです。

台風:東経180度より西の北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速(10分間平均)が17m/s以上になったもの。
タイフーン(Typhoon):北西太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が33m/s以上のもの。
ハリケーン(Hurricane):北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および東経180度より東の太平洋に発生した熱帯低気圧で、最大風速(1分間平均)が33m/s以上のもの。ハリケーンは最大風速によってカテゴリー1〜5に分けられる。この地域で台風と同規模(最大風速が17m/s)になったものは「トロピカル・ストーム」。
サイクロン(Cyclone):狭義ではベンガル湾、インド洋および太平洋南部で発生した熱帯低気圧。台風と同規模(最大風速が17m/s以上)のものは「サイクロニック・ストーム」、ハリケーンのカテゴリー1と同規模(最大風速が33m/s以上)のものは「シビア・サイクロニック・ストーム」。サイクロンは広義では低気圧の総称。

地域によって呼び名が変わるので、日本付近で「台風○号」と呼ばれていたものが西に進んで「サイクロン」となることも。また最大風速については、日本では10分間の平均値であるのに対しアメリカでは1分間の平均値となっているため、同じ規模の熱帯低気圧でもおよそ2割程度ハリケーンのほうが大きく表現されます。

\次のページで「「爆弾低気圧」とはどう違うの?」を解説!/

「爆弾低気圧」とはどう違うの?

台風は熱帯低気圧の一種ですが、「爆弾低気圧」は温帯低気圧の一種です。従って台風と爆弾低気圧の最大の違いは、前線をともなっているかどうかになります。温帯低気圧とは、暖かい空気と冷たい空気がぶつかる際の上昇気流により、主に温帯で発生する前線をともなった低気圧のこと。爆弾低気圧はその中でも、短時間で爆発的に発達して台風並みの規模となるものを指していますよ。

正確な定義づけはまだですが、一般的に「12時間以上にわたって中心気圧が1時間あたり1hPa以上低下した温帯低気圧」とされているようです。ただし爆弾低気圧は正式な気象用語ではありませんので気象庁では使用せず、「急速に発達する/した低気圧」と表現しています。

この急速に発達した低気圧は、日本では10月から5月中旬にかけて多くみられ、日本海低気圧が日本海から北日本を通過する際に短時間で中心気圧を下げて、さらに三陸沖で猛烈に発達する例が多いようです。

天気に関する豆知識

天気予報などでよく耳にする言葉をご紹介します。

春一番とは?

立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)までの間に、日本海の低気圧に向けて広い範囲で「初めて」吹く、暖かく強い南よりの風。春の訪れを告げる優しい風かと思いきや、春一番が吹くと海上は大荒れになって海難事故が発生し、航空機の離発着にも影響が出るなど警戒の必要な風でもあるのです。

春一番が吹くと南風の影響で季節外れの暖かさとなりますが、低気圧の通過後は冬型の気圧配置となって寒さが戻り、日ごとの気温差が大きくなります。

メイストーム(5月の嵐)とは?

日本が暖かくなる4月後半から5月にかけて、広範囲で強い風が吹く気象現象です。この時期は大陸にある冬の名残の冷たい空気と、日本の南にある初夏の暖かい空気が日本海付近でぶつかり合い、低気圧が発生します。北日本を中心に台風並みの暴風や猛吹雪を引き起こし、沿岸では高波となることもあるので注意が必要です。

台風の場合は中心に近づくと風が強まりますが、メイストームは低気圧の中心から離れたところでも風が強く吹くため、非常に広い範囲に強風が吹くという特徴があります。このメイストームの一部はさきほど紹介した爆弾低気圧と同じものだと考えられていて、発生・発達の予測が難しいので、気象庁から警報や注意報が出されたらすぐに警戒するようにしましょう。

ちなみに5月13日はメイストームデーといって、別れ話を切り出すのに最適な日、別れ話を切り出していい日、とされていますよ。

「嵐」は「台風」を含む暴風雨の総称!

ざっくりまとめると、嵐は「(雨や雪、雷をともなった)暴風」のことで、台風は「日本付近にある最大風速が17m/s以上の熱帯低気圧」ということになりますね。そして「爆弾低気圧」は温帯低気圧が急激に発達したもので、台風は熱帯低気圧が発達したもの。従って「台風の影響で嵐になるおそれが…」という使い方はできますが、嵐の原因が必ずしも台風であるとは限らないわけです。

どちらも強風や豪雨をともなうことが多く注意が必要な気象現象ですので、予報や注意報に気をつけて危険を避けてくださいね。最後になりますが、この記事で曖昧だった日本語を理解するお手伝いができたら幸いです。

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簡単でわかりやすい!「嵐」と「台風」の違いとは?「爆弾低気圧」や「ハリケーン」も雑学マニアが詳しく解説

この記事では「嵐」と「台風」の違いについてみていきます。どちらも暴風や豪雨のイメージがあるよな。違いはずばり気象用語かどうかのようですが、低気圧の種類や地域によって異なる呼び方など、調べてみるといろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、定義から確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「嵐」と「台風」はどう違うの?

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「嵐」と「台風」…どちらも荒れた天気を示す言葉ですが、その違いを明確に知っていますか? 春に吹くのが嵐で、夏から秋にかけて来るのが台風?いいえ、実は「嵐」は暴風を表す言葉であるのに対し、「台風」ははっきりと定義づけられた気象用語なのです。それでは詳しく解説していきましょう。

「嵐」:暴風の総称

「嵐」は気象用語ではなく、暴風の総称です。嵐を辞書でひいてみると以下のように書かれています。

(「嵐」の字は、中国では、山にたちこめるもや、または山のけはいの意)
1.荒く激しく吹く風。もとは山間に吹く風をいうことが多く、のち一般に、暴風・烈風をいう。
2.さらに広く、暴風雨。台風。

(出典:広辞苑)

「台風」:日本付近で発達した熱帯低気圧

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「台風」は気象用語であり、明確な定義が定められているものです。多くは赤道付近の海上で発生し、日本には8月から9月にかけて接近します。日本ではその年の1月1日以降に発生した順に番号をふって「台風○号」という呼び方をしますね。

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

(出典:気象庁ホームページ)

「最大風速が17m/s」とは、1秒間に17メートルの速さで風が進むことを意味しています。つまり台風とは、以下の3要件を満たすものです。

・熱帯低気圧である。
・北西太平洋または南シナ海に存在する。
・域内の最大風速が17m/s以上である。

台風の一生

気象庁によると台風の一生は、大きく「発生期・発達期・最盛期・衰弱期」の4段階に分けることができるそうです。

1.発生期:台風の多くは赤道付近の海上で発生します。海面水温が高い熱帯の海上では上昇気流が発生しやすく、この気流によって次々と発生した積乱雲(入道雲)がまとまって渦を形成するようになるのです。そして渦の中心付近の気圧が下がっていき発達すると熱帯低気圧となり、その中でもさらに風速が強まって17m/sを超えたものが台風と呼ばれます。
2.発達期:台風となってから、中心気圧が下がり勢力が最も強くなるまでの期間です。暖かい海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達していきます。発達期には中心気圧はどんどん下がり、中心付近の風速も急激に強くなっていくのです。
3.最盛期:台風の中心気圧が最も下がり、最大風速が最も強い期間です。台風の北上にともない中心付近の風速は徐々に弱まる傾向になりますが、逆に強い風の範囲は広がっていきます。
4.衰弱期:台風が日本に近づいて来ると、熱帯よりも海面水温が低いため海からの水蒸気の供給が減少し、熱帯低気圧や温帯低気圧に変わります。

日本に接近し北から寒気の影響が加わると、台風は寒気と暖気の境である「前線」をともなう「温帯低気圧」に変わります。また、台風が衰えて「熱帯低気圧」に変わる場合もありますが、この場合は最大風速が17m/s未満になっただけであり、強い雨が降ることがありますので、「温帯低気圧」、「熱帯低気圧」いずれの場合も消滅するまで油断はできません。

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