この記事では「竜巻」と「台風」の違いについてみていきます。どちらも渦を巻いて強風を吹かせるイメージがあるよな。違いはずばりそれぞれの規模のようですが、発生メカニズムや語源など、調べてみるといろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、定義も確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「竜巻」と「台風」はどう違うの?

「台風」と「竜巻」の大きな違いはその規模です。「竜巻」が直径数十m〜数百mほどであるのに対し、「台風」は強風域の半径が数百キロメートルに及びます。またどちらも強い風をともなう気象現象ですが、発生するメカニズムにも違いがありますよ。それでは2つの違いを詳しく解説していきましょう。

「竜巻」:渦巻き状の局地的な上昇気流

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「竜巻」は積乱雲(入道雲)の下で発生する局地的な空気の渦巻きで、トルネードとも呼ばれますね。地面付近の空気の渦が積乱雲の上昇気流と結び付いて発生する場合と、積乱雲の上昇気流の中にできた渦が地面に向かって漏斗状に垂れて着地・着水して発生する場合とがあります。柱状の形が竜が天空に昇るさまを想像させることからこの名がつきました。

竜巻の規模は台風と比べるとはるかに小さく寿命も短いのですが、発生予測が難しく、突如現れて猛烈な風を巻き起こすのが特徴です。季節を問わず発生しますが、日本では特に9月に多く観測されます。

つむじ風とはどう違うの?

竜巻と似た現象につむじ風があります。竜巻が積乱雲をともなって渦を巻くのに対し、旋風は雲をともないません。地表付近で温められた大気が渦を巻いて立ち上る突風のことで、大きなものは塵旋風(じんせんぷう)ともいいます。雲が少なく風が強い晴天時に突如発生することが多く、予測は困難です。直径は数m〜数十m、上端の高度は数十m〜100m程度と竜巻に比べ小型で、数十秒〜数分で消えてしまいます。

「台風」:日本付近で熱帯低気圧が発達したもの

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「台風」は熱帯低気圧が発達したもので、明確な定義がありますよ。多くは赤道付近の海上で発生し、日本には8月から9月にかけて接近します。

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

(出典:気象庁ホームページ)

「最大風速が17m/s」とは、1秒間に17メートルの速さで風が進むことを意味しています。つまり台風とは、以下の3要件を満たすものです。

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・熱帯低気圧である。
・北西太平洋または南シナ海に存在する。
・域内の最大風速が17m/s以上である。

「タイフーン」「ハリケーン」「サイクロン」とは何が違うの?

台風と似た気象現象に「タイフーン」「ハリケーン」「サイクロン」があります。この4つは熱帯低気圧が発達したものですので仲間と言えますね。台風は日本基準の定義ですが、あとの3つは世界基準の定義で、低気圧の中心が存在する地域によって分けられているのです。

台風:東経180度より西の北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速(10分間平均)が17m/s以上になったもの。
タイフーン(Typhoon):北西太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が33m/s以上のもの。
ハリケーン(Hurricane):北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および東経180度より東の太平洋に発生した熱帯低気圧で、最大風速(1分間平均)が33m/s以上のもの。ハリケーンは最大風速によってカテゴリー1〜5に分けられる。この地域で台風と同規模(最大風速が17m/s)になったものは「トロピカル・ストーム」。
サイクロン(Cyclone):狭義ではベンガル湾、インド洋および太平洋南部で発生した熱帯低気圧。台風と同規模(最大風速が17m/s以上)のものは「サイクロニック・ストーム」、ハリケーンのカテゴリー1と同規模(最大風速が33m/s以上)のものは「シビア・サイクロニック・ストーム」。サイクロンは広義では低気圧の総称。

竜巻と台風の豆知識

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竜巻と台風に関する、ちょっと役立つ豆知識をご紹介します。

竜巻の予兆

竜巻は突如発生するため、予測をするのが難しいとされています。周囲の天気が以下のように変化してきた場合には積乱雲が近づいている兆しなので、竜巻や突風が発生しやすい状況にあるということです。注意してください。

\次のページで「竜巻の規模の表し方:藤田スケール」を解説!/

・太陽を遮る真っ黒い雲が近づき、周囲が急に暗くなる。
・雷鳴が聞こえてくる。
・急に冷たい風が吹き出す。
・大粒の雨や雹(ひょう)が降り出す。

発達した積乱雲の付近では、竜巻だけでなく「ダウンバースト」や「ガストフロント」と呼ばれる突風による被害もあります。竜巻とともにこれらの突風にも注意が必要です。積乱雲の接近に気づいたら頑丈な建物の中に退避して窓から離れるなどして危険を避けましょう。それでも屋外で活動せざるを得ない時には、スマホなどから気象庁ホームページの「竜巻発生確度ナウキャスト」を確認するとよいでしょう。

竜巻の規模の表し方:藤田スケール

竜巻やダウンバーストなどの現象は水平規模が小さいため、風速の実測値を得ることが困難でした。このため、1971年にシカゴ大学の藤田哲也博士によって、突風により発生した被害の状況から風速を大まかに推定する藤田スケール、通称「Fスケール」が考案されました。

その後、定義される風速と被害想定がより実際と近くなるよう改良され、アメリカでは2007年から改良藤田スケール「EFスケール」が、日本では2016年から日本版改良藤田スケール「JEFスケール」が用いられているんですよ。

JEFスケールでは30種類の被害指標を用いて、JEF0〜JEF5までの6段階で分類しており、被害が大きいほどJEFの値が大きく風速も強かったことを示します。日本ではこれまでJEF4以上の竜巻は観測されておらず、竜巻の規模が大きいとされるアメリカでもEF5はめったに発生しません。

■ JEF0(25〜38m/s):
・木造の住宅において、目視でわかる程度の被害、飛散物による窓ガラスの損壊が発生する。比較的狭い範囲の屋根ふき材が浮き上がったり、はく離する。
・園芸施設において、被覆材(ビニルなど)がはく離する。パイプハウスの鋼管が変形したり、倒壊する。
・物置が移動したり、横転する。
・自動販売機が横転する。
・コンクリートブロック塀(鉄筋なし)の一部が損壊したり、大部分が倒壊する。
・樹木の枝(直径2cm〜8cm)が折れたり、広葉樹(腐朽有り)の幹が折損する。

■ JEF1:(39~52m/s):
・木造の住宅において、比較的広い範囲の屋根ふき材が浮き上がったり、はく離する。屋根の軒先又は野地板が破損したり、飛散する。
・園芸施設において、多くの地域でプラスチックハウスの構造部材が変形したり、倒壊する。
・軽自動車や普通自動車(コンパクトカー)が横転する。
・通常走行中の鉄道車両が転覆する。
・地上広告板の柱が傾斜したり、変形する。
・道路交通標識の支柱が傾倒したり、倒壊する。
・コンクリートブロック塀(鉄筋あり)が損壊したり、倒壊する。
・樹木が根返りしたり、針葉樹の幹が折損する。

■ JEF2(53〜66m/s):
・木造の住宅において、上部構造の変形にともない壁が損傷(ゆがみ、ひび割れ等)する。また、小屋組の構成部材が損壊したり、飛散する。
・鉄骨造倉庫において、屋根ふき材が浮き上がったり、飛散する。
・普通自動車(ワンボックス)や大型自動車が横転する。
・鉄筋コンクリート製の電柱が折損する。
・カーポートの骨組が傾斜したり、倒壊する。
・コンクリートブロック塀(控壁のあるもの)の大部分が倒壊する。
・広葉樹の幹が折損する。
・墓石の棹石が転倒したり、ずれたりする。

■ JEF3(67〜80m/s):
・木造の住宅において、上部構造が著しく変形したり、倒壊する。
・鉄骨系プレハブ住宅において、屋根の軒先又は野地板が破損したり飛散する、もしくは外壁材が変形したり、浮き上がる。
・鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等の手すりが比較的広い範囲で変形する。
・工場や倉庫の大規模な庇において、比較的狭い範囲で屋根ふき材がはく離したり、脱落する。
・鉄骨造倉庫において、外壁材が浮き上がったり、飛散する。
・アスファルトがはく離・飛散する。

■ JEF4(81〜94m/s):
・工場や倉庫の大規模な庇において、比較的広い範囲で屋根ふき材がはく離したり、脱落する。

■ JEF5(95m/s〜):
・鉄骨系プレハブ住宅や鉄骨造の倉庫において、上部構造が著しく変形したり、倒壊する。
・鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等の手すりが著しく変形したり、脱落する。

(出典:気象庁ホームページ)

台風の語源

諸説ありますが、東洋の台風・颱風と西洋のタイフーンの音が似ているのは偶然ではないようです。

1.ギリシャ神話の怪物「τυφων (Typhon)」が英語の「typhoon」となり、東洋に伝わった。
2.アラビア語で嵐を意味する「طوفان (tufan)」が東洋に伝わり「颱風」となり、英語では「typhoon」となった。
3.台湾や中国に「大風:激しい風」「颱風:台湾付近の風」という言葉があり、それがヨーロッパで音写され「Typhoon」となった。

日本では明治の終わり頃に当時の中央気象台長だった岡田武松氏が、気象用語に中国語の「颱風(たいふう)」を用いてから一般的になり、その後常用漢字を用いて「台風」となりました。

台風のアジア名

2000年から、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である「台風委員会」により、台風にアジア名をつけることになりました。同領域内で用いられている固有の名前(加盟国などが提案した名前)140個を順番につけ、概ね5年から6年で一周してその後1番目に戻ります。日本からは以下の星座名に由来する10個の名前が提案されました。

\次のページで「台風が渦を巻くしくみ」を解説!/

・コイヌ = Koinu
・ヤギ = Yagi
・ウサギ = Usagi
・カジキ = Kajiki
・コト = Koto
・クジラ = Kujira
・コグマ = Koguma
・コンパス = Kompasu
・トカゲ = Tokage
・ヤマネコ = Yamaneko

星座名を提案したのは、中立的な名称であること、自然の事物であること、大気現象である台風とイメージ上の関連がある天空にあり、かつ人々に親しまれていることが理由だそうです。

またアジア名として採用するには、アルファベット9文字以内であること、音節が少なく発音しやすいこと、他の加盟国・地域の言語で感情を害するような意味を持たないこと、といった条件もあるとか。ただ日本からは見えず、日本語でもないコンパス座が入っているのは少し不思議ですよね。

台風が渦を巻くしくみ

台風はぐるぐると渦を巻いていますが、その渦がどちらに巻いているかわかりますか?人工衛星からの画像を見てみると、北半球の台風(ハリケーンも含む)の渦は全て反時計回りになっています。これは地球の自転によって大気の動きに「コリオリの力」が加わるためです。コリオリの力とは、北半球では進行方向に対して右寄りの力が加わるというもの。

気圧の低い台風の中心に向かって周囲の風が吹き込むとき、その風はコリオリの力によって右に曲げられるため、台風付近では反時計回りに風が吹くのです。

一方で、南半球でできる熱帯低気圧のサイクロンは反対の時計回りになっています。これは北半球と南半球で正反対の力が働くからですね。

「竜巻」と「台風」は親子のようなもの!

ざっくりまとめると、竜巻は「局地的な空気の渦巻き」で、台風は「発達した熱帯低気圧」ということになりますね。日本の竜巻の約3分の1は直接、あるいは間接的に台風に関連して発生すると言われています。これは台風が接近すると大気の状態が不安定になり、竜巻が発生しやすい条件が整ってしまうためです。そういう意味で竜巻と台風は親子関係にあると言えるかもしれません。

規模は違えどどちらも注意が必要な気象現象ですので、警報や天気予報に注意して危険を避けてくださいね。最後になりますが、この記事で曖昧だった日本語を理解するお手伝いができたら幸いです。

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簡単でわかりやすい!「竜巻」と「台風」の違いとは?竜巻の規模を表す「藤田スケール」も雑学マニアが詳しく解説

この記事では「竜巻」と「台風」の違いについてみていきます。どちらも渦を巻いて強風を吹かせるイメージがあるよな。違いはずばりそれぞれの規模のようですが、発生メカニズムや語源など、調べてみるといろいろ面白い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、定義も確認しつつ、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「竜巻」と「台風」はどう違うの?

「台風」と「竜巻」の大きな違いはその規模です。「竜巻」が直径数十m〜数百mほどであるのに対し、「台風」は強風域の半径が数百キロメートルに及びます。またどちらも強い風をともなう気象現象ですが、発生するメカニズムにも違いがありますよ。それでは2つの違いを詳しく解説していきましょう。

「竜巻」:渦巻き状の局地的な上昇気流

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「竜巻」は積乱雲(入道雲)の下で発生する局地的な空気の渦巻きで、トルネードとも呼ばれますね。地面付近の空気の渦が積乱雲の上昇気流と結び付いて発生する場合と、積乱雲の上昇気流の中にできた渦が地面に向かって漏斗状に垂れて着地・着水して発生する場合とがあります。柱状の形が竜が天空に昇るさまを想像させることからこの名がつきました。

竜巻の規模は台風と比べるとはるかに小さく寿命も短いのですが、発生予測が難しく、突如現れて猛烈な風を巻き起こすのが特徴です。季節を問わず発生しますが、日本では特に9月に多く観測されます。

つむじ風とはどう違うの?

竜巻と似た現象につむじ風があります。竜巻が積乱雲をともなって渦を巻くのに対し、旋風は雲をともないません。地表付近で温められた大気が渦を巻いて立ち上る突風のことで、大きなものは塵旋風(じんせんぷう)ともいいます。雲が少なく風が強い晴天時に突如発生することが多く、予測は困難です。直径は数m〜数十m、上端の高度は数十m〜100m程度と竜巻に比べ小型で、数十秒〜数分で消えてしまいます。

「台風」:日本付近で熱帯低気圧が発達したもの

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「台風」は熱帯低気圧が発達したもので、明確な定義がありますよ。多くは赤道付近の海上で発生し、日本には8月から9月にかけて接近します。

熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。

(出典:気象庁ホームページ)

「最大風速が17m/s」とは、1秒間に17メートルの速さで風が進むことを意味しています。つまり台風とは、以下の3要件を満たすものです。

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