この記事では「龍」と「ドラゴン」の違いについてみていきます。どちらもファンタジー映画やゲームなんかによく出てくる格好いい生き物ですね。違いはずばりそれぞれが生まれた場所のようですが、なぜ龍と書いてドラゴンと読むのか、龍と竜は同じなのかなど、調べてみるといろいろ興味深い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、歴史的な背景も含めて、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「龍」と「ドラゴン」に違いはあるのか

「龍」と「ドラゴン」と聞いて、どのような生き物を想像しますか?空を飛ぶ巨大な蛇?それとも口から火を吹く大トカゲ?これらはどちらも正解なのですが、両者は果たしてまったく同じものなのでしょうか。ここでは龍とドラゴンはどう違うのか、そしてなぜ龍とドラゴンは互いの訳語になったのかを、詳しく解説していきます。

「龍」とは?

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「龍」とは、東洋の神話や伝説上の生き物を指します。日本では古くは高松塚古墳やキトラ古墳の壁画に龍の姿が見られ、神話の八岐大蛇(やまたのおろち)退治も有名です。寺院に祀られていることもありますね。中国では龍は崇拝の対象であり、鳳凰・麒麟・霊亀などと並ぶ瑞獣(吉兆として現れる霊妙な獣)でもあります。また特に5つの爪を持つ龍は皇帝の権力と強さのシンボルでした。

龍は海や湖に棲むとされていて、水神の使い、または水神そのもの(龍王)として扱われます。現在でも豊漁を祈願するお祭りや雨乞いなど、雲を起こして雨を呼ぶという龍への信仰は各地で根付いていますね。

中国で東を守護する聖獣も「龍」、インドの神様ナーガも「龍」と訳されることから、日本でいう「龍」とは東洋の龍のイメージが重なったものと考えてよさそうです。

龍の姿は?

龍はそもそも想像上の生き物ですが、その姿形をイメージするためによく引用されるものに「三停九似(さんていきゅうじ)」という説があります。

これは「首から腕の付け根、腕の付け根から腰、腰から尾までの三つの部分の長さがそれぞれ等しい」、そして「角はシカに、頭はラクダに、眼はオニ(またはウサギ)に、項(うなじ)はヘビに、腹はミズチに、鱗はサカナに、爪はタカに、掌(てのひら)はトラに、耳はウシに、それぞれ似ている」というものです。

また口元に長い髭をはやしていて、背には81枚の堅い鱗を持ち、4本の足には3〜5本の指がある、とも言われています。龍の外見、特に顎に関しては、実在のワニ(揚子江ワニなど)の影響もあると見られていますよ。

「ドラゴン」とは?

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「ドラゴン」に相当するギリシア語のドラコーンとラテン語のドラコは、いずれもヘビを指す単語です。このことからもわかるように、ドラゴンはヘビに起源を持つ西洋の想像上の生き物

キリスト教ではドラゴンは「黙示録の獣」に代表されるように災厄をもたらす邪悪の象徴とされていたため、悪魔と同一視されたり邪悪な生き物として描かれることが多く、さらにいうなら討伐の対象でした。聖人や英雄によるドラゴン退治の伝説は民話にも数多く残されていて、その中でドラゴンは残虐で恐ろしく、時には口から炎や毒の息を吐いて人間を脅かす存在です。

ドラゴンの姿は?

ドラゴンは悪の化身とされていたため、醜悪な姿で描かれる事が多かったようです。13世紀に描かれたドラゴンは、首と尾は細く胴体が太い緑色のツチノコのような姿で、脚は前脚の2本のみ、背中ではなく前脚の付け根からコウモリに似た翼が生えていました。

その後数世紀の間ブラッシュアップを重ねた現在のドラゴンは概ね、「巨大な体は爬虫類のような堅い鱗に覆われ、背中にはコウモリのような翼を持ち、恐竜に似た尻尾は長く、恐ろしい牙と鋭い爪を持っている」という姿で描かれています。

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龍とドラゴンは元々は同じものだった?

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古くは東洋だけでなく西洋にもヘビを神格化した蛇神信仰はありました。ヘビは脱皮や冬眠をすることから不老不死や再生の象徴と考えられていたからです。

しかし一神教であるキリスト教がその勢力を強めるにつれ、土着の信仰は迫害されるようになってしまいます。そしてメソポタミア神話からユダヤ教を経て「ドラゴン=悪」というイメージを強固に持っていたキリスト教徒たちは、「全能なる唯一神(の信徒)によって悪が打ち倒される」という、ドラゴン退治の物語を絵画や本によって広めていきました。そうすることで土着の宗教文化を取り込み、キリスト教徒にとって都合のいい物語に書き換えてしまったのです。

一方で東洋や南米など、キリスト教が浸透しきらなかった国々では蛇や龍への信仰が続きました。元々は同じく蛇を神として奉っていたのに、まったく違う道を辿ることになったわけですね。

なぜ混同されてしまったのか

蛇神信仰を本源とする両者には多くの共通点があります。

・想像上の生き物である。
・古くから知られ、長い歴史を持つ。
・巨大である。
・爬虫類に似ている。
・人間にはかなわない超常的な力を持っている。

このようにいくつもの共通点があることから、「ドラゴン」の訳語に「龍」、「龍」の訳語に「ドラゴン」と当ててしまったことが、混同の原因なのでしょう。しかし考えてみると想像上の生き物なのに、それもとても遠い所で生まれた2つのものが、多くの共通点を持っているというのはとても不思議な気がしますね。

「竜」とは何が違うの?

「竜」は「龍」の異体字です。「龍=東洋の龍」「竜=西洋のドラゴン」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、これは画数の多い「龍」にかわって「竜」の使用がすすめられたのが比較的最近のことで、新しく入ってきた言葉に「竜」の字が当てられることが多かったためです(「恐竜」など)。

使われ方に多少の違いはあれど、漢字としては意味に違いはありません。現在は常用漢字である「竜」を使うのが一般的ですが、この記事では「龍」で統一してあります。

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「龍」と「ドラゴン」はまったくの別物!

東洋で生まれた「龍」と、西洋で生まれた「ドラゴン」はまったく別の物でしたね。ざっくりとまとめると、龍は縁起の良い力の象徴で「雲を起こして雨を降らせる、巨大なヘビに似た想像上の生き物」、そしてドラゴンは悪の象徴で「炎や毒の息を吐き、翼を持つ大型のトカゲに似た想像上の生き物」ということになります。これだけ違いを知れば、小説や映画などで出てきても、もうどっちがどっち?と迷うことはありませんね。最後になりますが、この記事が曖昧だった言葉の理解の助けになれば幸いです。

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簡単でわかりやすい!「龍」と「ドラゴン」の違いとは?「竜」との違いや成り立ちも雑学マニアが詳しく解説

この記事では「龍」と「ドラゴン」の違いについてみていきます。どちらもファンタジー映画やゲームなんかによく出てくる格好いい生き物ですね。違いはずばりそれぞれが生まれた場所のようですが、なぜ龍と書いてドラゴンと読むのか、龍と竜は同じなのかなど、調べてみるといろいろ興味深い点があるみたいです。今回はそんな2つの違いを、歴史的な背景も含めて、雑学マニアの田坂と一緒に解説していきます。

ライター/田坂バーシル

子供の頃から本の虫で、些細な事柄も調べずにはいられない性質。小説、漫画はもちろん、歴史、芸術、宗教、宇宙、アンダーグラウンドまで興味は尽きないようだ。今日も文字の大海原に驚きとときめきを求める雑学マニア。

「龍」と「ドラゴン」に違いはあるのか

「龍」と「ドラゴン」と聞いて、どのような生き物を想像しますか?空を飛ぶ巨大な蛇?それとも口から火を吹く大トカゲ?これらはどちらも正解なのですが、両者は果たしてまったく同じものなのでしょうか。ここでは龍とドラゴンはどう違うのか、そしてなぜ龍とドラゴンは互いの訳語になったのかを、詳しく解説していきます。

「龍」とは?

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「龍」とは、東洋の神話や伝説上の生き物を指します。日本では古くは高松塚古墳やキトラ古墳の壁画に龍の姿が見られ、神話の八岐大蛇(やまたのおろち)退治も有名です。寺院に祀られていることもありますね。中国では龍は崇拝の対象であり、鳳凰・麒麟・霊亀などと並ぶ瑞獣(吉兆として現れる霊妙な獣)でもあります。また特に5つの爪を持つ龍は皇帝の権力と強さのシンボルでした。

龍は海や湖に棲むとされていて、水神の使い、または水神そのもの(龍王)として扱われます。現在でも豊漁を祈願するお祭りや雨乞いなど、雲を起こして雨を呼ぶという龍への信仰は各地で根付いていますね。

中国で東を守護する聖獣も「龍」、インドの神様ナーガも「龍」と訳されることから、日本でいう「龍」とは東洋の龍のイメージが重なったものと考えてよさそうです。

龍の姿は?

龍はそもそも想像上の生き物ですが、その姿形をイメージするためによく引用されるものに「三停九似(さんていきゅうじ)」という説があります。

これは「首から腕の付け根、腕の付け根から腰、腰から尾までの三つの部分の長さがそれぞれ等しい」、そして「角はシカに、頭はラクダに、眼はオニ(またはウサギ)に、項(うなじ)はヘビに、腹はミズチに、鱗はサカナに、爪はタカに、掌(てのひら)はトラに、耳はウシに、それぞれ似ている」というものです。

また口元に長い髭をはやしていて、背には81枚の堅い鱗を持ち、4本の足には3〜5本の指がある、とも言われています。龍の外見、特に顎に関しては、実在のワニ(揚子江ワニなど)の影響もあると見られていますよ。

「ドラゴン」とは?

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「ドラゴン」に相当するギリシア語のドラコーンとラテン語のドラコは、いずれもヘビを指す単語です。このことからもわかるように、ドラゴンはヘビに起源を持つ西洋の想像上の生き物

キリスト教ではドラゴンは「黙示録の獣」に代表されるように災厄をもたらす邪悪の象徴とされていたため、悪魔と同一視されたり邪悪な生き物として描かれることが多く、さらにいうなら討伐の対象でした。聖人や英雄によるドラゴン退治の伝説は民話にも数多く残されていて、その中でドラゴンは残虐で恐ろしく、時には口から炎や毒の息を吐いて人間を脅かす存在です。

ドラゴンの姿は?

ドラゴンは悪の化身とされていたため、醜悪な姿で描かれる事が多かったようです。13世紀に描かれたドラゴンは、首と尾は細く胴体が太い緑色のツチノコのような姿で、脚は前脚の2本のみ、背中ではなく前脚の付け根からコウモリに似た翼が生えていました。

その後数世紀の間ブラッシュアップを重ねた現在のドラゴンは概ね、「巨大な体は爬虫類のような堅い鱗に覆われ、背中にはコウモリのような翼を持ち、恐竜に似た尻尾は長く、恐ろしい牙と鋭い爪を持っている」という姿で描かれています。

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