この記事では「月と鼈」について解説する。

端的に言えば「月と鼈」の意味は「全く異なっていること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「月と鼈」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「月と鼈」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「月と鼈(つきとすっぽん)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「月と鼈」の意味は?

「月と鼈」には、次のような意味があります。

月もスッポンも同じように丸いが、比較にならないほどその違いは大きいこと。二つのものがひどく違っていることのたとえ。提灯に釣鐘。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「月と鼈」

これは「二つのものを比べて、両者があまりに違っていること」をたとえたことわざです。「鼈(すっぽん)」は、動物のカメの一種。それと空に浮かぶ月を比べているわけですから、「そもそも全然違うものである」「比べものにならない」状態ですね。

注意としては、どちらかがより優れているというような優劣つけるニュアンスはない点。比較する文脈によりそのような意味合いを帯びやすいのですが、正確には両者がかけ離れている場合に用いられる、ということを押さえてください。

「鼈」は非常に難しい単語で、一般的な試験では出題されることはほぼありません。使用される単語としては「鼈甲(べっこう)」などがあります。眼鏡のフレームなどに使われるものですが、実際にカメの甲羅を加工した非常に高価なものです。知らない人は画像検索などもしてみてくださいね。

「月と鼈」の語源は?

次に「月と鼈」の語源を確認しておきましょう。実はこの言葉の由来ははっきりしておらず、強いて言えば「月」も「鼈」も丸いという共通点があるため、美しいものと汚いもので比較されるようになったのでは、と言われています。

比較対象としてはあまりにかけ離れているため、「鼈」は「朱盆」(しゅぼん=赤く塗られたお盆。円形が多い)が、なまったのではという説も。確かに、艶のある紅いお盆だったら、何となく月と比べてしまうのもわかるかもしれません。

いずれにしても、空に美しく浮かぶ月を見上げながら鼈や朱盆を思い浮かべているとしたら、それはそれで風流さのある風景とも言えますね。そんな風景を、違いがありすぎて空しいと感じるかどうかは人それぞれですが、このことわざが生まれた背景も想像してみながら使ってみたいものです。

\次のページで「「月と鼈」の使い方・例文」を解説!/

「月と鼈」の使い方・例文

「月と鼈」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・自分が部下を持つようになってわかったが、上司と部下では責任も仕事の内容も違い過ぎて比べようのない、まさに月と鼈だった。
・ウェブサイト運営者とコメント投稿ユーザーは立場が月と鼈すぎて、大抵お互いの要求がかみ合わずとんちんかんなことになってしまったりする。
・あの兄弟は性格だけでなく価値観についても月と鼈としか言いようがなく、気の毒なことに子供の頃からまったく仲が良くなかったらしい。

「両者が全く異なっている」というニュアンス伝わりますでしょうか。「比べるまでもない」「次元が違う」くらいスケールが大きい話でもいいですが、「そんなにまで違うんだよ!」という話者の大きな感情が表れているかもしれません。この表現が登場した場合は、何が対比されているのかに注目してみましょう。

「全然違う」のがポイントとも書きましたが、比較する「理由」は最低限あったほうがいいでしょう。例文のように「同じ会社」「ウェブサイトの話」「兄弟」などのように。もともと比べる理由もないものだったら、「違っていて当たり前」になってしまいますね。

昔はこの表現を縁談の辞退に使うこともあったそうで、相手をうつくしい「月」と褒め、自分たち(の子供)を「鼈」とへりくだることで波風を立てないようにしていたとか。そのたびに引き合いに出される「鼈」もかわいそうですが、これも日本らしさが表れている話と言えるかもしれません。

「月と鼈」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

「月と鼈」の類義語は「雲泥の差(うんでいのさ)」などが挙げられます。

雲泥の差:比較にならないほど大きな差がある

これは「比較にならないほど大きな差がある」ことを意味する慣用表現です。中国の歴史書『後漢書』に見られる言葉で、国に仕える高官が地方に住む隠者に対して送った手紙で、自身と相手をたとえた際に使った表現と言われています。

「雲」と「泥」で、特に泥は相手のことを下に見ているように思えてしまうかもしれませんが、そのような意味はなく、ただ「立場が違う」ことを表していたそう。言い換えれば「天」と「地」のようなもので、あくまでも対比の語句だったわけですね。

現在の日本語の表現としても、どちらが良い・悪いはありません。とにかく「両者がとてもかけ離れている」という意味合いをしっかり押さえるようにしましょう。

\次のページで「「月と鼈」の対義語は?」を解説!/

彼らの育った環境は雲泥の差とも言えるものだったが、両者とも今や日本を代表するスーパープレイヤーとして活躍している。

「月と鼈」の対義語は?

「月と鼈」の対義語は「どんぐりの背比べ」がいいでしょう。

どんぐりの背比べ:どれもこれも似たようなものであって、大したものではない

これは「どれもこれも似たようなものであって、大したものではない」という意味のことわざです。どんぐりは見た目も大きさも似たようなものであるため、このように言われるようになったそう。平易な表現のため、子供の頃から耳にしたことがある人も多いでしょう。

用法のポイントとして、「大したものではない」という意味に重きが置かれており、程度が高くないことに対して使われます。とても高価で価値のある二つを比べた場合に使うのには、やや不向きと言えるでしょう。

たとえば人と人を比べる場合でも、「両方とも大したことがない」のようにその人たちを低く見るニュアンスにも。人に対して使うのはあまりおすすめはできない表現ですね。

幼い時の勉強や運動での競争なんてものは、大人になってから思えば、どれもこれもどんぐりの背比べとしか言いようのないものだった。

「月と鼈」の英訳は?

image by iStockphoto

「月と鼈」の英訳は「chalk and cheese」で表すことができます。

\次のページで「chalk and cheese:月と鼈」を解説!/

chalk and cheese:月と鼈

これはそのまま「月と鼈」を表すことができる慣用表現で、「chalk(白亜質の地層のこと)」と「cheese(乳製品のチーズ)」の見た目がよく似ていることから言われるようになったものです。ここでの「chalk」は、つづりは同じですが黒板に書くための「白墨」ではないので要注意。

地質のことを指す場合、特にイングランド南部にある海岸の絶壁を想定して言われており、画像検索をしてみるとわかりますが、本当に切り立った崖でチーズのかたまりを切り落とした断面にも見えます。

日本人には馴染みがないものですが、英語圏ではそれだけで通じるほど有名ということもわかって面白い表現です。知らずに「白墨とチーズ?」なんて思ってしまうと誤訳をしてしまうかもしれません。楽しみながら覚えて欲しい言葉です。

She and her sister look alike, but their personalities are like chalk and cheese,
彼女と彼女の姉は見た目は似ているのに、性格は月と鼈だ(まったく異なっている)。

「月と鼈」を使いこなそう

この記事では「月と鼈」の意味・使い方・類語などを説明しました。類義語のところで紹介しきれませんでしたが、似た意味の表現として「提灯に釣り鐘(ちょうちんにつりがね)」や「瓢箪(ひょうたん)に釣り鐘」といったものもあります。

どれもぶら下がっていたり、形が似ていることから言われたそうですが、そんな風に当時の人たちは言葉遊びをして楽しんでいたのかもしれません。「共通点はあるけれど全然違うもの」、みなさんの周りにもあるでしょうか。

" /> 【ことわざ】「月と鼈」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【ことわざ】「月と鼈」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「月と鼈」について解説する。

端的に言えば「月と鼈」の意味は「全く異なっていること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「月と鼈」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「月と鼈」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「月と鼈(つきとすっぽん)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「月と鼈」の意味は?

「月と鼈」には、次のような意味があります。

月もスッポンも同じように丸いが、比較にならないほどその違いは大きいこと。二つのものがひどく違っていることのたとえ。提灯に釣鐘。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「月と鼈」

これは「二つのものを比べて、両者があまりに違っていること」をたとえたことわざです。「鼈(すっぽん)」は、動物のカメの一種。それと空に浮かぶ月を比べているわけですから、「そもそも全然違うものである」「比べものにならない」状態ですね。

注意としては、どちらかがより優れているというような優劣つけるニュアンスはない点。比較する文脈によりそのような意味合いを帯びやすいのですが、正確には両者がかけ離れている場合に用いられる、ということを押さえてください。

「鼈」は非常に難しい単語で、一般的な試験では出題されることはほぼありません。使用される単語としては「鼈甲(べっこう)」などがあります。眼鏡のフレームなどに使われるものですが、実際にカメの甲羅を加工した非常に高価なものです。知らない人は画像検索などもしてみてくださいね。

「月と鼈」の語源は?

次に「月と鼈」の語源を確認しておきましょう。実はこの言葉の由来ははっきりしておらず、強いて言えば「月」も「鼈」も丸いという共通点があるため、美しいものと汚いもので比較されるようになったのでは、と言われています。

比較対象としてはあまりにかけ離れているため、「鼈」は「朱盆」(しゅぼん=赤く塗られたお盆。円形が多い)が、なまったのではという説も。確かに、艶のある紅いお盆だったら、何となく月と比べてしまうのもわかるかもしれません。

いずれにしても、空に美しく浮かぶ月を見上げながら鼈や朱盆を思い浮かべているとしたら、それはそれで風流さのある風景とも言えますね。そんな風景を、違いがありすぎて空しいと感じるかどうかは人それぞれですが、このことわざが生まれた背景も想像してみながら使ってみたいものです。

\次のページで「「月と鼈」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: