この記事では軍刀と日本刀の違いについてみていきます。2つの違いについてきかれたとき、日本刀は古い時代のもの、軍刀はもっと新しい時代のもの…なんてなんとなくイメージする人も多いんじゃないか?じつは、軍刀はその種類によって日本刀の仲間とされたりされなかったりするんです。
今回はそんな軍刀と日本刀の違いを、扱い方や作り方・美術的価値といったポイントごとにくらべながら、雑学好きライターのかみかわかなえと一緒に解説していきます。

ライター/かみかわかなえ

雑学好きライター。刀剣や武将が好きで地元の博物館や歴史的名所にせっせと足を運んでいる。推し刀剣は日光一文字。

軍刀と日本刀ってどんなもの?

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突然ですが「小竜景光(こりゅうかげみつ)」という刀をご存じですか?有名な刀鍛冶である備前長船景光(びぜんおさふねかげみつ)による刀で、彼の作ったものの中でも最高の出来といわれている日本刀です。

皇室に献上された小竜景光を明治天皇が気に入られ、軍刀とされたなんて話もあるほど。明治天皇はとても刀がお好きでたくさんの刀をコレクションされていたそうですから、そんな方に気に入られる小竜景光は本当に素晴らしい刀なのだということが伝わってきますよね。

ところで、日本刀であった刀を軍刀にする、というのはどういうことなのでしょうか?そもそも、日本刀と軍刀の違いとは一体なんでしょう?

結論から述べますと、軍刀には日本刀とまったく同じもの・そうでないものがあります。これらの違いは「日本刀と軍刀ってどんなものなのか?」ということがわかると理解しやすいですよ。まずはそちらからみていきましょう。

軍刀は軍事用の刀剣

軍刀とは、日本軍で使用された軍事用の刀剣のことです。明治時代、海外のやり方を取り入れて軍事力を強化しよう!という動きのなかで導入されました。軍刀には戦闘用のもののほか儀礼用のものも含まれ、陸上での戦闘が少ない海軍ではとくに儀礼用としての役割が大きかったそうです。

導入当初の軍刀は「サーベル式軍刀」というもの。柄(つか・手で握る部分)には手を守るために「ナックルガード(護憲・ごけん)」と呼ばれるものがついており、D字型になっているのが特徴です。サーベルは、現在でも自衛隊が儀礼用の剣として使用していますよ。

しかし、軍刀は時代や使う人の階級によってさまざまな種類があり、それぞれに特徴が異なっています。そのため日本刀の一種として認定される軍刀もあれば、認定されないものもあるというわけですね。

日本刀は日本特有の方法で作られた刀剣

日本刀とは、一般的に「たたら製鉄」という方法で作られた「玉鋼(たまはがね)」を使い「折り返し鍛錬(おりかえしたんれん)」「焼き入れ」などといった日本特有の方法でつくられた刀剣類のことをいいます。軍刀の中にもこの条件にあてはまるものがあり、そういったものは日本刀の一種として扱われることが多いです。具体例についてはのちほど解説しますね。

たたら製鉄は、明治時代の廃刀令など時代の変化にともなう日本刀需要の低下によって、一時消滅の危機にありました。しかし、戦争がはじまり軍刀の需要が高まると復興され、現在まで受け継がれています。

違いその1.使い方

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ここからは軍刀と日本刀の具体的な違いについてみていきましょう。明治政府が海外から導入した軍刀ですが、当時の日本人は日本刀との使い方の差に大苦戦したそうです。一体どんな違いがあったのでしょうか?

なお、さきほどお伝えした通り、軍刀には時代や使う人の階級によってさまざまな種類があります。これからご紹介することがすべての軍刀にあてはまるわけではないため注意してくださいね。それでは一緒に見ていきましょう!

\次のページで「両手で使うか片手で使うか」を解説!/

両手で使うか片手で使うか

日本刀は基本的に両手で使います。理由はその重さのせい。日本刀1振の重さは平均1.5kgで、片手でふるうには負担が大きかったんですね。ただし、馬に乗っているときなどは片手で刀を持っていました。刀が重いことを利用して、すれ違いざまに敵を切っていたようです。

一方、明治時代に導入された当初のサーベル式軍刀は片手で使うもの。ヨーロッパでは片手に剣を持ち、もう片方の手に盾を持つというスタイルが一般的であったためですね。両手持ちの日本刀に慣れていた日本人は、片手持ちの軍刀の扱いにかなり苦労したそうです。

「日本独自の軍刀」の誕生

1886(明治19)年になると、不慣れなことによる軍刀の扱いにくさを解消するために日本独自の軍刀が誕生しました。外装はサーベル式のまま、刀身は使い慣れた日本刀を採用したものです。

日本独自の軍刀が生まれた背景には、片手剣の扱いにくさのほか、西南戦争(せいなんせんそう)によって刀剣の価値が再認識されたということもあります。西南戦争とは、明治新政府と、西郷隆盛(さいごうたかもり)を中心とした新政府に反乱を持つ士族たちの戦い。この戦いにおいて活躍した政府側の「警視庁抜刀隊」が剣術を基礎とする部隊であったことにより、剣術の価値が再認識されました。

軍刀はその後も変化していき、1935(昭和10)年には太刀型の外装なども登場しています。

違いその2.素材

日本刀と軍刀の素材の違いをみていきましょう。日本刀作りには伝統的な手法による素材が欠かせない一方で、軍刀は戦時中の武器需要にこたえるため、さらに実用性を高めるためにまた違った素材が使われています。

日本刀の素材は玉鋼

日本刀の素材は、玉鋼と呼ばれる鉄の一種です。アニメやゲームで耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?鉄は含まれている炭素の量で呼び名が変わります。玉鋼は炭素の量が1~1.5%のもののことです。玉鋼を作るためには、たたら製鉄という日本古来の製鉄技術が欠かせません。たたら製鉄では、砂鉄や木炭、粘土製の炉などを用いて純度の高い鉄を精製します。

\次のページで「軍刀の素材は様々」を解説!/

軍刀の素材は様々

軍刀には日本刀と同じく玉鋼を使用したものもありますが、それ以外にもステンレスや洋鋼で出来たものがあります。戦時中は大量生産の必要にせまられながらも、民間から日本刀などの寄付を募るほど物資が不足していました。そのため、軍刀は玉鋼にこだわらず様々な素材を使って生産されていたんですね。

軍刀に使用されていたステンレスですが、こちらには玉鋼よりもさびにくいという利点があります。風雨にさらされる野外での戦闘や、塩の被害を受けやすい海軍の刀としても有用でした。

違いその3.作り方

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続いて、日本刀と軍刀の作り方の違いについてみていきましょう。日本刀作りでは伝統的方法が、軍刀作りでは効率性が大事なポイントですよ。

日本刀は伝統的な方法

日本刀作りには「折り返し鍛錬」「造り込み(つくりこみ)」「焼き入れ」など数多くの工程がありますが、ざっくりまとめると玉鋼を熱し、熱いうちに叩いて形を作り、冷却するという作業です。その中でも代表的な工程が「折り返し鍛錬」。玉鋼の中の不純物を均一にするため、熱した金属を槌で叩いて伸ばし、折って叩いて…と作業を繰り返します。

また、日本刀の特徴としてよくあげられるのが「折れず、曲がらず、よく切れる」というもの。この特徴を実現させるため、日本刀は外側が硬い鋼、内側が柔らかい鋼という二重構造になっています。この2つの鋼を一体化させる作業が「造り込み」です。

「焼き入れ」は、炉の中で高温に熱した刀を水に入れて急激に冷やし、硬くする作業。この温度の見極めが難しく、高すぎると刀身に亀裂が走り、低すぎると十分な硬度が得られません。

軍刀は機械生産されたものもあり

軍刀には日本刀と同じ作り方の物もありますが、機械で大量生産されたものもあります。機械製の軍刀の質は、ものによってさまざま。切れ味や耐久性に難があるものもあれば、日本刀に劣らないレベルのものもあったようです。

伝統的な方法で作られた軍刀「靖国刀(やすくにとう)」

日本刀と同じ方法で作られた軍刀の代表的存在ともいえるのが「靖国刀」です。主に陸軍向けに作られていたこの刀は、作業場が靖国神社の境内にあったことからその名がつきました。この刀を作ろうとしたことがきっかけとなり「たたら製鉄」は消滅を免れたという経緯があります。

\次のページで「違いその4.美術的価値」を解説!/

違いその4.美術的価値

武器として使われることがなくなった現代の刀において、美術的価値は重要な要素の1つ。購入や所持が許可されるかどうかにも影響しますよ。最後に、日本刀と軍刀の美術的価値の違いについてみていきましょう。

現在の日本刀は「美術品」

現在個人の購入や所有が認められている日本刀は、美術品として扱われています。美術的価値が認められないものは武器ですから、銃刀法の規制対象になってしまうんですね。日本刀が美術品として扱われるのは現在に限った話ではなく、むかしから刃紋や姿の美しさはその刀の評価に大きく影響していました。

軍刀は「美術品」と認められないことも

一方で、軍刀には刃紋などの美術的要素がないものもあります。そういったものの所持が認められるかどうかは、各自治体の審査員の判断次第。認められない場合は所持できませんので注意しましょう。軍刀の中には、シンプルに武器としての役割のみを求められたものもあったということですね。

「伝統的な美術品」と「効率性を追求した武器」

軍刀には日本刀の一種であるものとそうでないものがありました。軍刀と日本刀を比較したとき、軍刀は戦争中の高い需要にこたえるため機能をシンプルに抑え、より効率的な生産体制をとられたものといえるでしょう。

それに対し日本刀の生産には時間や技術が必要です。しかし日本刀によって培われてきた剣術は日本人の武器となり、伝統的方法によって生み出されたその美しさは現在でも私たちを魅了し続けています。

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文化・歴史雑学

簡単でわかりやすい!軍刀と日本刀の違いは?軍刀は所持できない?雑学好きライターが詳しく解説

この記事では軍刀と日本刀の違いについてみていきます。2つの違いについてきかれたとき、日本刀は古い時代のもの、軍刀はもっと新しい時代のもの…なんてなんとなくイメージする人も多いんじゃないか?じつは、軍刀はその種類によって日本刀の仲間とされたりされなかったりするんです。
今回はそんな軍刀と日本刀の違いを、扱い方や作り方・美術的価値といったポイントごとにくらべながら、雑学好きライターのかみかわかなえと一緒に解説していきます。

ライター/かみかわかなえ

雑学好きライター。刀剣や武将が好きで地元の博物館や歴史的名所にせっせと足を運んでいる。推し刀剣は日光一文字。

軍刀と日本刀ってどんなもの?

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突然ですが「小竜景光(こりゅうかげみつ)」という刀をご存じですか?有名な刀鍛冶である備前長船景光(びぜんおさふねかげみつ)による刀で、彼の作ったものの中でも最高の出来といわれている日本刀です。

皇室に献上された小竜景光を明治天皇が気に入られ、軍刀とされたなんて話もあるほど。明治天皇はとても刀がお好きでたくさんの刀をコレクションされていたそうですから、そんな方に気に入られる小竜景光は本当に素晴らしい刀なのだということが伝わってきますよね。

ところで、日本刀であった刀を軍刀にする、というのはどういうことなのでしょうか?そもそも、日本刀と軍刀の違いとは一体なんでしょう?

結論から述べますと、軍刀には日本刀とまったく同じもの・そうでないものがあります。これらの違いは「日本刀と軍刀ってどんなものなのか?」ということがわかると理解しやすいですよ。まずはそちらからみていきましょう。

軍刀は軍事用の刀剣

軍刀とは、日本軍で使用された軍事用の刀剣のことです。明治時代、海外のやり方を取り入れて軍事力を強化しよう!という動きのなかで導入されました。軍刀には戦闘用のもののほか儀礼用のものも含まれ、陸上での戦闘が少ない海軍ではとくに儀礼用としての役割が大きかったそうです。

導入当初の軍刀は「サーベル式軍刀」というもの。柄(つか・手で握る部分)には手を守るために「ナックルガード(護憲・ごけん)」と呼ばれるものがついており、D字型になっているのが特徴です。サーベルは、現在でも自衛隊が儀礼用の剣として使用していますよ。

しかし、軍刀は時代や使う人の階級によってさまざまな種類があり、それぞれに特徴が異なっています。そのため日本刀の一種として認定される軍刀もあれば、認定されないものもあるというわけですね。

日本刀は日本特有の方法で作られた刀剣

日本刀とは、一般的に「たたら製鉄」という方法で作られた「玉鋼(たまはがね)」を使い「折り返し鍛錬(おりかえしたんれん)」「焼き入れ」などといった日本特有の方法でつくられた刀剣類のことをいいます。軍刀の中にもこの条件にあてはまるものがあり、そういったものは日本刀の一種として扱われることが多いです。具体例についてはのちほど解説しますね。

たたら製鉄は、明治時代の廃刀令など時代の変化にともなう日本刀需要の低下によって、一時消滅の危機にありました。しかし、戦争がはじまり軍刀の需要が高まると復興され、現在まで受け継がれています。

違いその1.使い方

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ここからは軍刀と日本刀の具体的な違いについてみていきましょう。明治政府が海外から導入した軍刀ですが、当時の日本人は日本刀との使い方の差に大苦戦したそうです。一体どんな違いがあったのでしょうか?

なお、さきほどお伝えした通り、軍刀には時代や使う人の階級によってさまざまな種類があります。これからご紹介することがすべての軍刀にあてはまるわけではないため注意してくださいね。それでは一緒に見ていきましょう!

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