この記事では「石英」と「ガラス」の違いについて掘り下げていきます。どちらも二酸化ケイ素SiO2が主成分の素材で、無色透明で硬さがあるのが特徴ですが、各々の構造や特性を比べてみると、まるで違うことが分かる。
今回はそんな似て非なる2つについて、学生時代、固体物理学を学んでいたライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、石英とガラスの違いについて分かりやすく解説していく。

石英とガラスの違いは?

ときに光を優しく透かし、ときに光を受けてキラキラ輝く石英ガラス。どちらも同じ二酸化ケイ素でできている上、無色透明で違いが分かりにくいと思われがちですが、実は構造や特性が全く異なっているのです。

二酸化ケイ素について

まずは両者の主成分である二酸化ケイ素について解説しましょう。ケイ素Siの酸化物で化学式はSiO2シリカ無水ケイ酸とも呼ばれます。自然界では石英として存在していることが一般的です。また、地球の表層の約6割が二酸化ケイ素を含む鉱物によって構成されています。

二酸化ケイ素はさまざまな用途があり、身近なのは乾燥剤のシリカゲルです。ほかにも化粧品や薬、意外なところでは食品添加物にも使われていますが、体内でほとんど消化吸収されることなく排出されます。

石英とは

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石英クオーツ)は、二酸化ケイ素の共有結合結晶で、地球上の多くの岩石を構成する造岩鉱物です。砂にも多く含まれており、砂場などを探すとキラキラ光る石英の小さな粒(ケイ砂)を見つけることができます。砂漠や砂丘の砂は石英の占有率が高く、リビア砂漠やカラハリ砂漠は9割以上が石英です。

六角柱状に大きく成長し、かつ透明度の高いもの水晶と呼ばれます。

石英および水晶はほかの物質と混ざらない特性があるため、無色透明ないし白色であることが多いです。が、不純物や放射線の影響で色がつくことがあり、色や外観により紫水晶アメシスト)や黄水晶シトリン)、煙水晶スモーキークオーツ)などの名前が付けられています。

結晶について

結晶を辞書で調べると、下のように書いてあります。

\次のページで「石英の用途」を解説!/

原子・分子・イオンなどが規則正しく立体的に配列されている固体物質。日常的には単結晶をさすが、多結晶をさすこともある。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「結晶」

結晶は周期的な構造を持っており、その物性も結晶構造に大きく影響を受けます。石英三方晶系という、六角柱に似た結晶構造を持つため、六角柱状に成長するのです。

石英の用途

石英は天然に産出される二酸化ケイ素であるため、ガラスをはじめとする工業製品の原材料になります。

また、結晶には劈開というある特定方向へ割れやすい性質がありますが、石英には劈開がありません。そのため複雑で緻密な加工がしやすく、大きな結晶である水晶は彫刻や印鑑などの素材に用いられます。粉末は水晶末と呼ばれる日本画用岩絵具です。

ほかにも、光学用品や電子部品には、天然水晶を種にして作った人工水晶が使われています。特に有名なのは、水晶振動子と呼ばれる水晶片に一定の電圧をかけて精度の高い周波数を発振させる素子で、クオーツ時計は水晶振動子を使っていることがその名の由来です。

玉髄(ぎょくずい)について

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石英の種類の1つに、玉髄ぎょくずい)があります。カルセドニーともいい、微細な粒状もしくは繊維状の半透明の石英が集まって、緻密に固まったもの潜晶質構造)です。玉髄もまた色や模様によっていろいろな名前がつけられており、美しいものは宝飾品として扱われます。

・紅玉髄(べにぎょくずい):微量の酸化鉄により赤色や橙色になったもの。カーネリアン
・緑玉髄(りょくぎょくずい):微量のニッケルにより緑色になったもの。クリソプレーズ
・瑪瑙(めのう):色や透明度が異なる層状の縞模様を持つもの。アゲート。特に平行な縞模様を持つものはオニキスといいます。
・碧玉(へきぎょく):不純物を相当量含んで不透明になったもの。ジャスパー

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ガラスとは

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ガラスは二酸化ケイ素を主成分とするアモルファス非晶質固体です。石英と異なり、二酸化ケイ素単体とは限りません。

原子が規則的に配列する結晶と違って、アモルファス原子や分子が液体に似た不規則な状態で固化しています。そのため、ガラス原料を高温で溶かした後は、結晶化が起こらないよう液体状態からすばやく冷却しなければなりません。しかし、急冷の際に表面に非常に細かい傷がついてしまい、これがガラスの割れやすさの原因となります

ガラスは成形や加工がしやすいため、その用途は日常生活はもとより工業や科学の分野まで広がっており、例を挙げると光ファイバーハードディスクドライブの円盤プラッタ)などもガラスです。

ガラスの種類と用途

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ガラスの種類は非常に多く、組成や製造法などで分類されます。

・ソーダ石灰ガラス:コップや瓶、窓ガラスなど、最も広く利用されているガラスです。二酸化ケイ素や酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カルシウム(CaO)を主成分としています。
・ホウケイ酸ガラス:ソーダ石灰ガラスにホウ酸(B2O3)を添加することで作られるガラスです。耐熱性・耐薬品性に優れていることから、ビーカーやフラスコなどの理化学器具や台所用品などに使われます。パイレックスもこのガラスの一種です。
・石英ガラス:二酸化ケイ素の純度が高いガラスで、溶融石英シリカガラスとも。耐食性・耐熱性・透明度に優れていることから、光学機器や半導体製造関連の部品に用いられます。光ファイバーの材料です。

天然ガラスについて

ここまで説明したガラスは全て人工的に作られたものですが、自然に生じたガラスも存在します。

代表的な天然ガラスが黒曜石オブシディアン)です。噴出されたマグマが急激に冷えたもので、火山ガラスとも呼ばれます。閃電岩または雷管石フルグライト)はケイ砂に雷が落ちた際にできる、別名「雷の化石」です。テクタイトは隕石の衝撃によって溶けた石が上空に飛散して急冷されたもので、有名なテクタイトにモルダバイトがあります。

リビアングラスはリビア砂漠で見つかる天然のガラスです。テクタイト同様に隕石によるものと考えられていますが、起源はいまだはっきりしていません。

石英とガラスの見分け方

これまで述べた通り、石英とガラスはそれぞれ結晶アモルファスという全く異なる構造を持っています。そのため、各々の特徴に着目すれば、形や大きさが同じでも容易に見分けることができるのです。

\次のページで「硬さで見分ける方法」を解説!/

硬さで見分ける方法

19世紀初頭、フリードリッヒ・モースは硬さの異なる10種類の鉱物を選び出し、柔らかい順に番号を振って鉱物の硬さの尺度としました。これがモース硬度で、1が柔らかい滑石10が硬いダイヤモンドです。

は結晶で非常に硬いためモース硬度7、対するガラス5なので、互いをこすり合わせて傷がついた方がガラスとなります。また、10段階から15段階に修正した修正モース硬度においても、石英8石英ガラス7です。

なお、モース硬度はあくまでも「ひっかいたときの傷のつきにくさ」を相対的に示すもので、衝撃に強いか否かを表すものではありません。また、傷がつく判定方法なので、購入前の商品などで試すのは絶対にやめましょう。

複屈折で見分ける方法

Calcite.jpg
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ある種の物質を通して見た像が2重になる現象複屈折といいます。結晶の方向によって光の屈折率が異なるために、結晶の中で光が2つの光線に分かれてしまうことで起こる現象です。複屈折が顕著なのは写真の方解石ですが、石英にも起こり、たとえば髪の毛1本を石英もしくはガラス越しに見てみると、石英の場合は髪の毛が2本、ガラスの場合は1本に見えます

石英とガラスの違いは結晶かアモルファスか

石英とガラスはその構造に違いがあり、石英は結晶ガラスはアモルファスであることを解説しました。

特性が大きく異なる2つの素材ですが、どちらが本物どちらが偽物というわけではなく、石英には石英の、ガラスにはガラスの良さがあります。鑑賞用や装飾品として楽しみたいのなら石英、気軽に使いたいのならガラスと、使い分けするのもいいですね。

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3分で簡単にわかる!石英とガラスの違いとは?構造や見分け方も工学系院卒ライターがわかりやすく解説!


この記事では「石英」と「ガラス」の違いについて掘り下げていきます。どちらも二酸化ケイ素SiO2が主成分の素材で、無色透明で硬さがあるのが特徴ですが、各々の構造や特性を比べてみると、まるで違うことが分かる。
今回はそんな似て非なる2つについて、学生時代、固体物理学を学んでいたライターthrough-timeと一緒に解説していきます。

ライター/through-time

工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代の経験と知識を生かし、石英とガラスの違いについて分かりやすく解説していく。

石英とガラスの違いは?

ときに光を優しく透かし、ときに光を受けてキラキラ輝く石英ガラス。どちらも同じ二酸化ケイ素でできている上、無色透明で違いが分かりにくいと思われがちですが、実は構造や特性が全く異なっているのです。

二酸化ケイ素について

まずは両者の主成分である二酸化ケイ素について解説しましょう。ケイ素Siの酸化物で化学式はSiO2シリカ無水ケイ酸とも呼ばれます。自然界では石英として存在していることが一般的です。また、地球の表層の約6割が二酸化ケイ素を含む鉱物によって構成されています。

二酸化ケイ素はさまざまな用途があり、身近なのは乾燥剤のシリカゲルです。ほかにも化粧品や薬、意外なところでは食品添加物にも使われていますが、体内でほとんど消化吸収されることなく排出されます。

石英とは

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石英クオーツ)は、二酸化ケイ素の共有結合結晶で、地球上の多くの岩石を構成する造岩鉱物です。砂にも多く含まれており、砂場などを探すとキラキラ光る石英の小さな粒(ケイ砂)を見つけることができます。砂漠や砂丘の砂は石英の占有率が高く、リビア砂漠やカラハリ砂漠は9割以上が石英です。

六角柱状に大きく成長し、かつ透明度の高いもの水晶と呼ばれます。

石英および水晶はほかの物質と混ざらない特性があるため、無色透明ないし白色であることが多いです。が、不純物や放射線の影響で色がつくことがあり、色や外観により紫水晶アメシスト)や黄水晶シトリン)、煙水晶スモーキークオーツ)などの名前が付けられています。

結晶について

結晶を辞書で調べると、下のように書いてあります。

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