
すべての物質は、磁石の力によって何らかの磁気的性質を現すことは知っているな?これを「磁性」といい、いくつかの種類がありますが、中には温度によってその特性が変化するものもある。この記事では、磁石の力により自身も磁石になる物質の磁性「強磁性」の温度依存性を説明する「キュリー・ワイスの法則」に着目し、式の意味や導出の過程を深く掘り下げていく。
また、「キュリー・ワイスの法則」の元となった「キュリーの法則」についても、学生時代に磁気工学を学んでいたライターthrough-timeと一緒に解説していきます。
ライター/through-time
工学修士で、言葉や文学も大好きな雑食系雑学好きWebライター。学生時代、磁性の専攻していた経験と知識を生かし、キュリー・ワイスの法則について分かりやすく解説していく。
磁性と磁気モーメントについて
キュリー・ワイスの法則について解説する前に、物質が持つ磁性や、磁性を決める磁気モーメントについて説明します。
磁性とは

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磁石の力が作用する空間の状態を磁界(または磁場)、磁界によって物質が磁気を帯びる現象を磁化(または帯磁)といいます。あらゆる物質は磁化しますが、磁化の仕方や程度は物質によってさまざまです。これを磁性といいます。
強磁性:磁石につくほど強く磁化する性質
常磁性:磁石にはつかないものの、引き付けられるように弱く磁化する性質
反磁性:磁石に反発するように弱く磁化する性質
このほかに、反強磁性などがあります。
常磁性と反磁性は、磁界Hと物質内に誘発された磁化Iとの間にI=χHの式が成り立ちます。この比例定数χを磁化率(または帯磁率)といい、常磁性はχ > 0、反磁性はχ < 0です。
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磁気モーメントとは

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磁性を決めるのは、物質内の磁気モーメントです。磁気モーメントとは、磁石としての強さとその向き(S極からN極)を表すベクトル量で、磁石はもちろんのこと、ループ状の電流(円電流)、電子や分子、地球も磁気モーメントを持っています。
物質の磁性の担い手となるのは、電子に由来する2つの磁気モーメントです。1つは主に反磁性に寄与する軌道磁気モーメントで、原子核周りを回る電子が円電流を作ることから生じます。もう1つが、常磁性・強磁性・反強磁性に大きくかかわるスピン磁気モーメントで、電子に固有のものです。スピン磁気モーメントは軌道磁気モーメントよりずっと大きく、原子全体の磁気モーメントは、この2つの磁気モーメントの量子力学的総和になります。
各磁性のスピン磁気モーメント配列

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キュリー・ワイスの法則に関係するのは、スピン磁気モーメントがかかわる常磁性・強磁性・反強磁性です。
常磁性はスピン磁気モーメントの間に相互作用がありません。磁界がないとき、スピン磁気モーメントは自由に熱振動してバラバラの方向を向いています。磁界をかけると、スピン磁気モーメントが少しずつ磁界の方向を向くようになりますが、それでも熱振動の影響が大きく磁化は小さいです。
強磁性には隣り合うスピン磁気モーメントを同じ向きにそろえようとする相互作用があります。そのため、磁界をかけなくてもひとりでに大きな磁化を示します(自発磁化)。一方、反強磁性には隣り合うスピン磁気モーメントを互いに反対向きにそろえようとする相互作用があり、互いに打ち消し合うため磁界0のとき磁化も0で、また磁界をかけても大きな磁化は示しません。
キュリーの法則について

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常磁性を持つ物質(常磁性体)の多くは、磁化率χが絶対温度に反比例します。これをキュリーの法則といい、キュリー定数Cは物質に固有の値です。また、χの逆数と絶対温度Tのグラフは、T=0を通る直線になります。
キュリーの法則は、1895年キュリー夫人の夫であるピエール・キュリーが実験的に発見し、ポール・ランジュバンが1905年に最初の理論的説明を与えました。
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ランジュバン関数を使った導出

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最初、ランジュバンは古典統計力学を使って、キュリーの法則を導出しました。相互作用のない、一定の磁気モーメントMを持つ磁性原子N個の集団を仮定しましょう。それぞれの磁気モーメントはあらゆる方向をとりうることとして、磁界H、絶対温度Tのときの磁化Iを計算すると、ランジュバン関数という関数で表すことができます。
ランジュバン関数は大変複雑な関数ですが、極低温だったり強磁界だったりしない限り、Tに反比例する容易な式に近似でき、その結果磁化率χはTに反比例するというキュリーの法則を導き出せるのです。
ブリルアン関数を使った導出

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前項において、「磁気モーメントはあらゆる方向をとりうる」としましたが、実際は量子力学的な挙動を示し、とびとびの方向しか向きません。このとびとびの方向をJ,J-1,…,0,…,-(J-1),-Jとすると、磁気モーメントが向けるのは(2J+1)通りの方向に限られることになります。
このように量子力学的な修正を入れて出てくるのが、ランジュバン関数よりさらに複雑なブリルアン関数です。しかしこれもTに反比例する容易な式に近似できます。
キュリー・ワイスの法則の成り立ち

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強磁性を持つ物質(強磁性体)はスピン磁気モーメント間の相互作用が大変強いのですが、温度を上げていくにつれその相互作用は弱くなり、熱振動するようになります。そしてある温度を超えると、相互作用が熱振動に完全に負けてしまい、磁気モーメントがバラバラの方向を向くようになる、すなわち常磁性になってしまうのです。
このときの温度をキュリー温度(またはキュリー点)といい、物質に固有の値をとります。そして、強磁性体が常磁性になってからの挙動を表した式が、キュリー・ワイスの法則です。
反強磁性を持つ物質(反強磁性体)でも同じ現象が起こり、常磁性になるときの温度をネール温度(またはネール点)といいます。
ワイスの分子磁界理論

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1907年、ピエール・ワイスは強磁性体で自発磁化が形成される機構を初めて明らかにしました。ワイスは強磁性体の1個の磁気モーメントに着目し、これが一定方向を向くのは、周囲の「分子」の磁気モーメントが形成する分子磁界Hmがあるからと考えたのです。そして、この磁界は強磁性体の磁化Iに比例すると仮定し、比例定数ωをつけてHm=ωIとしました。
ワイスが磁界に置き換えたように、場に働いているさまざまな力を平均化する考え方を、平均場近似といいます。なお、位置によって働く力に差があるなど、場の「むら」が大きい場合、この近似は成立しません。
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