この記事では「草鞋を穿く」について解説する。

端的に言えば「草鞋を穿く」の意味は「旅に出ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「草鞋を穿く」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「草鞋を穿く」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「草鞋を穿く」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「草鞋を穿く」の意味は?

「草鞋を穿く(わらじをはく)」には、次のような意味があります。

1 旅に出る。
2 罪を犯したばくち打ちなどが、土地を離れる。「長の―・く」
3 売買の時などに、値段を偽って上前をはねる。
「草履の売人うりてにわらぢはくあり」〈滑・膝栗毛・八〉

出典:デジタル大辞泉(小学館)「草鞋を穿く」

この言葉は、「旅行に出発する」「(ばくち打ちなどが)土地を離れる」ことを意味する慣用表現です。「草鞋(わらじ)」については次の語源の項で詳しく解説しますが、どんなイメージを持つ言葉なのか想像しながら読んでみてください。知らなかった人は画像検索するのもいいでしょう。

なお、上記引用の三番目「値段を偽って高くする」というものもあるのですが、こちらは載っている辞書、載っていない辞書それぞれが存在していて、他の意味ほどはメジャーではないようです。

というのも三番目の用法は、引用に記載あるとおり『東海道中膝栗毛』という書物の中で、「下駄をはく(はかせる)」という慣用表現をもじって使われた、いわばパロディのようなもので、正式な使い方としては定着しなかったと思われます。

意味も「下駄をはく」と同じのため、そちらを先に覚えておけばいいでしょう。今回の記事では、一・二番目について主に解説していきます。

「草鞋を穿く」の語源は?

次に「草鞋を穿く」の語源を確認しておきましょう。「草鞋」とは、藁(わら)で編んだ履物のことで、今でいう靴の代わりに使われていました。時代劇で旅人などが履いているのを見たことがあるかもしれませんね。

藁はイネやムギなどの茎を乾燥させたものですから、それなりに丈夫でも、あまり裕福なイメージを持たれるものではありませんでした。そのため、金銭的に余裕がない庶民や、旅人のものとしての意味が定着したようです。「わずかな旅費」を意味する「草鞋銭(わらじせん)」という言葉もあったりします。

「草鞋を穿く」が、「ばくち打ちが土地を離れる」という意味も持っているのは、そうした「流れ者(定住するところがない人のこと)」の寂しい・貧しいニュアンスを含んでいるのでしょう。「旅」も連想させる「草鞋」で、荒れた土地を歩いていく人々の姿を想像しながら読んでみましょう。

\次のページで「「草鞋を穿く」の使い方・例文」を解説!/

「草鞋を穿く」の使い方・例文

「草鞋を穿く」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・大学卒業と同時に、自分探しのために草鞋を穿いて海外に行った彼なのだが、今はなんだかんだで定住する場所と仕事を見つけられたそうだ。
・会ったこともないのだが、ぼくの遠い親戚には競馬で山ほどの借金を作って勘当され、今は草鞋を穿いているおじさんがいるらしい。
・草鞋を穿いてばかりいないで、いつか脱ぐことも考えないといつまでも根無し草になってしまうぞと、若い頃苦労した父は子供によく言っている。

「旅に出る」というニュアンスが伝わりますでしょうか。語源の項で説明した「草鞋」のイメージで読んでみてください。物寂しい・孤独な感じがあるため、リッチな旅行に行くことを表現するのには使いにくいでしょう。

「ばくち打ちが罪を犯して~」というのもあまり現代では使われず、例文二番目のように「ばくちによる借金で、同じ場所にいられなくなった」くらいになるでしょうか。この言葉が生まれた時代、どんな使われ方をしていたのか想像してみるのもいいでしょう。

なお、他にも「草鞋」を使った言葉としては「二足の草鞋」という慣用句もあります。これは「二つの職業を兼業する」という意味の慣用句なのですが、実は「ばくち打ちが十手を持つ(=警備の仕事などをする)」という背景から生まれた言葉でした。こちらも覚えておきましょう。

「草鞋を穿く」の類義語は?違いは?

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「草鞋を穿く」の類義語として「浮草のような」を紹介します。

「浮草のような」:一つのところに落ち着かない生活をしていること

これは「頼りなく不安定であること」「一つのところに落ち着かない生活をしていること」をたとえた言葉です。

「浮草」は言葉のとおり「水に浮いている草」を総称して言ったもので、ふらふらと流されやすいためにこのような意味の表現として使われるようになりました。そのような状態を「地に足がついていない」と言ったりもしますね。

これには「旅に出る」という意味はないのですが、「草鞋を穿く」の持つイメージから紹介しました。理由があってひとつのところ定住できない人のことなどを「根無し草」と呼んだりもしますよ。

\次のページで「「草鞋を穿く」の対義語は?」を解説!/

いつまでも就職しないで浮草のような生き方をしていたら、それがメディアで取り上げられて有名人になってしまい、世の中何があるかわからないものだ。

「草鞋を穿く」の対義語は?

「草鞋を穿く」の対義語は「草鞋を脱ぐ」があります。

「草鞋を脱ぐ」:旅行を終える

こちらは「旅行を終える」という意味の慣用表現です。「穿く」と「脱ぐ」でも対比になっているように、「草鞋を穿く」とセットで覚えてしまうのがいいでしょう。

長い旅が終わって、やれやれと靴を脱ぐ感じが想像できるでしょうか。この言葉にはそうした安心感も含まれているようです。完全に旅行が終わってもいいですし、「旅館などに落ち着く」という意味合いでも使うことができます。

長い旅路で疲れた旅人が、ほっとひと息ついているイメージで使ってみると理解が深まるでしょう。

片道数時間の突発弾丸旅行だったが、目的の宿について草鞋を脱いでゆっくりしていたら、やっと異国の地にいることが実感できるようになってきた。

「草鞋を穿く」の英訳は?

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「草鞋を穿く」の英訳は「go walkabout」で表すことができます。

「go walkabout」:放浪の旅に出る

これは「放浪の旅に出る」という意味のフレーズです。「walkabout」に「walk」が入っていることからもわかるように、主に「徒歩旅行」を意味するもので「草鞋を穿く」のイメージに近いと言えるのではないでしょうか。

単純に「旅に出る」のであればお馴染みの「travel」「trip」もありますが、それだと「観光旅行」の意味合いも入ってきます。単語で表したいのであれば「journey(travelと比べて比較的長い旅を意味する)」「odyssey(放浪冒険旅行を意味する)」を選べると慣用句の意味合いをより正確に表せるでしょう。

\次のページで「「草鞋を穿く」を使いこなそう」を解説!/

My older brother who went walkabout came back for the first time in ten years.
草鞋を穿いていた兄が、十年ぶりに帰ってきた。

「草鞋を穿く」を使いこなそう

この記事では「草鞋を穿く」の意味・使い方・類語などを説明しました。「旅」とひと口に言っても、楽しい旅行から、つらい旅まで色々な意味があるもの。

「草鞋を穿いて」出掛けなければならない旅路は、足も痛くなりやすく全てが順調ではないかもしれません。そんな旅人は、いつか「草鞋を脱いで」心から休める場所を求めて旅を続けるのかもしれません。

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【慣用句】「草鞋を穿く」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「草鞋を穿く」について解説する。

端的に言えば「草鞋を穿く」の意味は「旅に出ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「草鞋を穿く」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「草鞋を穿く」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「草鞋を穿く」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「草鞋を穿く」の意味は?

「草鞋を穿く(わらじをはく)」には、次のような意味があります。

1 旅に出る。
2 罪を犯したばくち打ちなどが、土地を離れる。「長の―・く」
3 売買の時などに、値段を偽って上前をはねる。
「草履の売人うりてにわらぢはくあり」〈滑・膝栗毛・八〉

出典:デジタル大辞泉(小学館)「草鞋を穿く」

この言葉は、「旅行に出発する」「(ばくち打ちなどが)土地を離れる」ことを意味する慣用表現です。「草鞋(わらじ)」については次の語源の項で詳しく解説しますが、どんなイメージを持つ言葉なのか想像しながら読んでみてください。知らなかった人は画像検索するのもいいでしょう。

なお、上記引用の三番目「値段を偽って高くする」というものもあるのですが、こちらは載っている辞書、載っていない辞書それぞれが存在していて、他の意味ほどはメジャーではないようです。

というのも三番目の用法は、引用に記載あるとおり『東海道中膝栗毛』という書物の中で、「下駄をはく(はかせる)」という慣用表現をもじって使われた、いわばパロディのようなもので、正式な使い方としては定着しなかったと思われます。

意味も「下駄をはく」と同じのため、そちらを先に覚えておけばいいでしょう。今回の記事では、一・二番目について主に解説していきます。

「草鞋を穿く」の語源は?

次に「草鞋を穿く」の語源を確認しておきましょう。「草鞋」とは、藁(わら)で編んだ履物のことで、今でいう靴の代わりに使われていました。時代劇で旅人などが履いているのを見たことがあるかもしれませんね。

藁はイネやムギなどの茎を乾燥させたものですから、それなりに丈夫でも、あまり裕福なイメージを持たれるものではありませんでした。そのため、金銭的に余裕がない庶民や、旅人のものとしての意味が定着したようです。「わずかな旅費」を意味する「草鞋銭(わらじせん)」という言葉もあったりします。

「草鞋を穿く」が、「ばくち打ちが土地を離れる」という意味も持っているのは、そうした「流れ者(定住するところがない人のこと)」の寂しい・貧しいニュアンスを含んでいるのでしょう。「旅」も連想させる「草鞋」で、荒れた土地を歩いていく人々の姿を想像しながら読んでみましょう。

\次のページで「「草鞋を穿く」の使い方・例文」を解説!/

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