今回のテーマは最も身近な物質、水と氷です。

喫茶店に行くとほぼ必ず出てくる水。水には氷が浮いているな。氷が沈んでいるのを見たことがある人はいないでしょう。実は水は特別な物質で、液体よりも固体の方が体積が大きく、密度が小さい。だから氷は水に浮く。

今回はそんな物質と密度の関係について説明する。解説は化学系科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

小学生の時、自由研究で氷について調べていたリケジョ。実験大好き仕事大好き職場大好きの化学系科学館職員。

水と密度

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コップの水に浮く氷、海に浮かぶ流氷。氷は水に浮かびます。これは皆さんご存知ですね。ではなぜ氷は水に浮くのでしょうか。これは「氷の密度は水の密度よりも小さいから」です。ではまず、密度について確認しましょう。

物質の質量を体積で割ったものをいう。すなわち密度は単位体積当りの質量である。単位としては、キログラム毎立方メートル(kg/m3)、グラム毎立方センチメートル(g/cm3)、ポンド毎立方フィート(lb/ft3)など種々ある。
(引用:コトバンク『密度』)

密度の単位のひとつがg/cm3であることからわかるように、密度とは「1立方㎝あたりの主さは何gか」というものです。その計算式は「質量(g)÷1cm3」で、例えば水はの質量は1cm3あたり1gであり、その密度は1g/cm3となります。水と氷の関係は

水の方が密度が大きい、又は体積が小さい

と表現できるのです。つまり密度が小さいという事は同じ体積だけど軽い、つまり中身がスカスカな状態になります。ちなみに純物質の場合、密度は固有の値となりその物質が何かを特定する手掛かりとなるので、ぜひ確認してみてくださいね。密度についてはこちらの記事も読んでくださいね。

固体、液体とはどんなもの?

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次に水と氷の違いを確認しましょう。ふたつの違いは液体固体か、ということです。そんなの見たらわかる、と思う人もいるでしょう。では液体と固体は何が違うのでしょうか。ポイントは粒子の並びにあります。

液体とは流動的で形が変わることができる、分子や原子が緩く結びついた状態です。一方固体とは原子や分子が規則的に並んだ、原子や分子がしっかりと結びついて動くことのできない状態のことをいいます。つまりコップを倒すとこぼれる水が液体、硬い氷が固体なのです。さらに水は蒸発すると、気体になります。

実は珍しい、液体より固体の密度が小さいもの

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最も身近な物質の水ですが、実はほとんどの物質で密度は固体>液体>気体の順で小さくなります。水のように液体>固体>気体の物質は珍しいのです。さらに先ほど純物質の場、合密度は固有のものと説明しましたが温度でも異なります。水の密度が最も大きくなるのは4℃の時なのです。

0℃ 0.999841 g/cm3
3℃ 0.999965 g/cm3
4℃ 0.999973 g/cm3
5℃ 0.999965 g/cm3
10℃  0.999700 g/cm3

わずかな違いですが、4℃の時が最も密度が大きいのですね。これはなぜでしょうか。ポイントは水素結合です。

\次のページで「水の密度のポイントは「水素結合」だった」を解説!/

水の密度のポイントは「水素結合」だった

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それでは水の密度のポイント、水素結合を解説します。そもそも水素結合とはどんなものでしょうか。水素結合とは極性分子(電荷の偏りがある分子)に含まれた正の電荷を帯びた水素原子が、負の電荷を帯びた他の分子内の陰性原子と電気的に引き合う結合のことです。

電気陰性度の高いF(フッ素)、O(酸素)、N(窒素)。これらと水素が共有結合したとき、電気陰性度の高いF、O、Nの方にその電子が引っ張られます。例えば水の場合、水素はプラス、酸素はマイナスに帯電するのです。さて、人の目にはわかりませんが、コップ1杯の水の中に水分子はたくさん入っています。そしてこのコップの中の隣り合う水分子同士の間に、帯電した水素原子と酸素原子によって生まれる静電引力が水素結合なのです。

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水素結合は金属結合やイオン結合よりは弱いですが、それでもその存在によって分子同士の結びつきは強くなるのです。この水素結合は、沸点にも影響を与えています

水(H2O)                        100℃
硫化水素(H2S)     -60.7℃
セレン化水素(H2Se) -41.25℃

水や硫化水素、セレン化水素はその構造が似ています。同族元素の水素化化合物は、分子量が大きいほど沸点が高くなります。それなのになぜ一番分子量の小さな水の沸点は高いのでしょうか。これも水素結合の影響なのです。分子同士の結びつきが強い、ということは分子同士が離れづらいということ。水分子同士が離れづらいから、水の沸点は高いのです。

水素結合と縁が深い物質

水素結合といえば、次の物質を覚えておくとよいでしょう。

アンモニア(NH3
フッ化水素(HF)
水(H2O)

電気陰性度って?極性分子って何?

電気陰性度って?極性分子って何?

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ここで先ほど登場した電気陰性度極性分子ついて解説します。電気陰性度とは「共有結合をつくっている原子の電子を引き付けあう力」のことです。例えば水素分子は同じ電気陰性度同士の分子なので、電荷の偏りは生じません。一方、塩化水素HC)のように電気陰性度が異なる原子からできた分子には電荷の偏りが生じます。電気陰性度の差が大きいほど、分子の偏りは大きくなるのです。

極性分子とは結合に極性があり、分子全体を見た時に電荷に偏りがある分子のことで水(H2O)塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)などがあります。一方、水素や酸素のそのような単体の分子や、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)のように結合に極性があっても分子全体でその偏りを打ち消しあっているものを無極性分子というのです。

水素結合と水

水素結合はわかりましたか?それではいよいよ水素結合と水・氷の密度の関係について解説します。コップの中の水にも水素結合ができていることは、先ほど解説しましたね。

氷は水分子が規則正しく並び、水素結合を作って正四面体構造をつくります。一方、液体の水は分子がバラバラです。そのため、分子同士の隙間に入り込んでぎゅうぎゅうに詰まった状態となります。そのため、水の方が密度が大きくなるのです。密度と水についてはこちらの記事もおすすめですよ。

流氷の秘密

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最後に海水が凍ってできる流氷の雑学をご紹介します。日本の網走などで見られる流氷。これはオホーツク海の海水が凍ってできるのです。

流氷のメカニズム

オホーツク海の表面は、アムール川の水が流れ込み塩分濃度が低くなっています。そして冷やされた表面は密度が大きい(重たい)ので沈み、下にあった暖かい水と入れ替わるのです。ところで塩分の少ない水(元表面にあって冷やされた海水)と塩分の多い水(下にあった暖かい水)を比べると重たいのはどちらでしょうか。正解は塩分の多い水です。

そのため塩分濃度の低い層は冷えて密度が大きくなっても、高塩分水よりも下に行くことはありません。そのため、流氷は低塩分の層が凍ってできるのです。というわけで、流氷は海水が凍ってできた割にはあまりしょっぱくありません

氷はなぜ浮くのか?ポイントは密度にあった

水に浮かんだ氷。このポイントは、水と氷の密度の差です。同じ体積の氷と水では水の方が重くなります。これは水分子が氷になるときは水素結合によって規則正しく並ぶのに対し、液体の時は水分子が隙間に入り込んでしまうからです。

多くの物質の密度は固体>液体>気体となります。一番身近な物質である水が液体>固体>気体となるのはなんだか不思議ですね。

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化学物理理科

氷はなぜ水に浮くの?実は簡単なその理由を化学系科学館職員がわかりやすく解説

今回のテーマは最も身近な物質、水と氷です。

喫茶店に行くとほぼ必ず出てくる水。水には氷が浮いているな。氷が沈んでいるのを見たことがある人はいないでしょう。実は水は特別な物質で、液体よりも固体の方が体積が大きく、密度が小さい。だから氷は水に浮く。

今回はそんな物質と密度の関係について説明する。解説は化学系科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

小学生の時、自由研究で氷について調べていたリケジョ。実験大好き仕事大好き職場大好きの化学系科学館職員。

水と密度

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コップの水に浮く氷、海に浮かぶ流氷。氷は水に浮かびます。これは皆さんご存知ですね。ではなぜ氷は水に浮くのでしょうか。これは「氷の密度は水の密度よりも小さいから」です。ではまず、密度について確認しましょう。

物質の質量を体積で割ったものをいう。すなわち密度は単位体積当りの質量である。単位としては、キログラム毎立方メートル(kg/m3)、グラム毎立方センチメートル(g/cm3)、ポンド毎立方フィート(lb/ft3)など種々ある。
(引用:コトバンク『密度』)

密度の単位のひとつがg/cm3であることからわかるように、密度とは「1立方㎝あたりの主さは何gか」というものです。その計算式は「質量(g)÷1cm3」で、例えば水はの質量は1cm3あたり1gであり、その密度は1g/cm3となります。水と氷の関係は

水の方が密度が大きい、又は体積が小さい

と表現できるのです。つまり密度が小さいという事は同じ体積だけど軽い、つまり中身がスカスカな状態になります。ちなみに純物質の場合、密度は固有の値となりその物質が何かを特定する手掛かりとなるので、ぜひ確認してみてくださいね。密度についてはこちらの記事も読んでくださいね。

固体、液体とはどんなもの?

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次に水と氷の違いを確認しましょう。ふたつの違いは液体固体か、ということです。そんなの見たらわかる、と思う人もいるでしょう。では液体と固体は何が違うのでしょうか。ポイントは粒子の並びにあります。

液体とは流動的で形が変わることができる、分子や原子が緩く結びついた状態です。一方固体とは原子や分子が規則的に並んだ、原子や分子がしっかりと結びついて動くことのできない状態のことをいいます。つまりコップを倒すとこぼれる水が液体、硬い氷が固体なのです。さらに水は蒸発すると、気体になります。

実は珍しい、液体より固体の密度が小さいもの

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最も身近な物質の水ですが、実はほとんどの物質で密度は固体>液体>気体の順で小さくなります。水のように液体>固体>気体の物質は珍しいのです。さらに先ほど純物質の場、合密度は固有のものと説明しましたが温度でも異なります。水の密度が最も大きくなるのは4℃の時なのです。

0℃ 0.999841 g/cm3
3℃ 0.999965 g/cm3
4℃ 0.999973 g/cm3
5℃ 0.999965 g/cm3
10℃  0.999700 g/cm3

わずかな違いですが、4℃の時が最も密度が大きいのですね。これはなぜでしょうか。ポイントは水素結合です。

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