今回は「逆カルノーサイクル」について解説していきます。

逆カルノーサイクルは、数ある熱サイクルのうちの1つです。この用語は熱力学を学ぶと必ず目にするでしょう。実は、カルノーサイクルの理論がエアコンや冷蔵庫といった身近な家電製品にも応用されていることを知っているでしょうか。ぜひこの記事を読んで、逆カルノーサイクルについて理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

逆カルノーサイクルについて学ぼう!

今回の記事におけるメインテーマは「逆カルノーサイクル」です。この言葉は熱力学で用いられる専門用語ですよ。このように聞くと、逆カルノーサイクルの概念は多くの人にとって無縁の存在であるように思われますが、実は身近な技術を支える理論でもあります。

本記事では、最初に逆カルノーサイクルの概念を丁寧に説明しますよ。その後、逆カルノーサイクルと関係の深い「ヒートポンプ」という技術について深堀りしていきます。それでは、早速解説をはじめていきますね。

カルノーサイクルとは?

カルノーサイクルとは?

image by Study-Z編集部

頭文字に「逆」と付いているので、当然ながら「カルノーサイクル」という概念も存在します。最初は、このカルノーサイクルについて説明しますね。カルノーサイクルは最も理想的なエンジンにおける熱サイクルのことを指します。エンジンは熱エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です

最も理想的という表現を用いたのは、カルノーサイクルのエネルギー変換効率は理論上で最高のものではありますが、その効率を実現するエンジンが実在しないからですよ。つまり、カルノーサイクルは思考実験における仮想的な熱サイクルなのですね。

逆カルノーサイクルとは?

逆カルノーサイクルとは?

image by Study-Z編集部

逆カルノーサイクルは、カルノーサイクルのプロセスを逆運転させたものになります。したがって、逆カルノーサイクルはカルノーサイクルとは真逆の性質をもちますよ。逆カルノーサイクルでは、運動エネルギーから熱エネルギーに変換します

また、運動エネルギーが熱エネルギーに変換される現象には摩擦などがありますが、それと逆カルノーサイクルには違いはあるのでしょうか。実は、逆カルノーサイクルには、可逆性という特徴があります。この点が摩擦と逆カルノーサイクル大きな違いですよ。

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ヒートポンプについて学ぼう!

逆カルノーサイクルの理論を応用した技術にヒートポンプがあります。ヒートポンプについて学ぶと、逆カルノーサイクルの可逆性について理解を深めることができますよ。

このチャプターでは、ヒートポンプがない場合の熱移動について述べた後、ヒートポンプの役割と効率について学びます。これらを知ると、ヒートポンプのメカニズムについて詳しく説明することができるようになりますよ。

ヒートポンプがない場合における熱移動

まず、温度の違うA室とB室が壁を隔てて存在している状況を考えます。このとき、A室の温度が摂氏30度で、B室の温度が摂氏10度であると仮定しますね。AとBの間の壁に断熱性がない場合、A室とB室の温度変化はどのようになるでしょうか。

A室の温度がB室の温度よりも大きいので、A室からB室に熱エネルギーが移動しますよね。その結果、A室の温度は下がり、B室の温度は上がるのです。最終的には、A室とB室の温度は全く同じになりますよね。

以上の実験から、「何も装置がない場合、A室とB室の温度差は減少する方向に進み、最終的には温度差がなくなる」という重要な知見が得られるのです。

ヒートポンプの役割

では、次にヒートポンプをA室とB室の間に設置した場合について考えますね。ヒートポンプの役割は熱エネルギーを低温部分から高温部分に移動させることにあります。つまり、ヒートポンプはB室からA室に熱エネルギーを運ぶことができるのです。

このとき、A室の温度はさらに高くなり、B室の温度はさらに低くなります。つまり、ヒートポンプによって「A室とB室の温度差を増加させる方向に進ませ、温度差を広げること」が可能になるのですね。

\次のページで「ヒートポンプの効率」を解説!/

ヒートポンプの効率

ヒートポンプを稼働させるためには、運動エネルギーが必要になります。そして、ヒートポンプの効率は投入した「運動エネルギーの総量」と「移動させることができた熱エネルギーの総量」の比率で表現されますよ。この値が成績係数です。成績係数はCOPと呼ばれることもあります。

そして、先ほど説明した逆カルノーサイクルでは、成績係数が理論上最大の値をとりますよ。つまり、逆カルノーサイクルは理想的なヒートポンプの熱サイクルなのです。これは実在するヒートポンプの成績係数は、逆カルノーサイクルの成績係数よりも必ず小さくなることを意味します。

ヒートポンプの実用例

最後に、逆カルノーサイクルの理論によって成立しているヒートポンプが、どのような技術に応用されているかをご紹介します。ここでは、冷暖房機冷蔵庫給湯器といったヒートポンプが組み込まれている身近な機器について述べますよ。

ヒートポンプが活用されている技術を具体的に知ることで、逆カルノーサイクルの理論についての理解も深めることができるでしょう。ぜひ、最後まで記事を読んでみてくださいね。

エアコン:1台で冷房にも暖房にもなる万能機

image by iStockphoto

家庭に設置されているエアコンとはじめとする冷暖房機の多くはヒートポンプを利用していますよ。夏場に部屋の温度を下げたい場合は、ヒートポンプで部屋の熱エネルギーを外気に運びます。一方、冬場に部屋の温度を上げたい場合は、ヒートポンプで外気の熱エネルギーを室内に運びこむのです

ヒートポンプは運転の方式を変えるだけで、冷房にも暖房にもなることが最大の特徴ですよ。これによって、エアコン1つを設置するだけで、年中部屋の温度を快適な状態に保つことができるのですね。

冷蔵庫:多様なヒートポンプを搭載した機器

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冷蔵庫は食品を保存しておく庫内の熱エネルギーを、ヒートポンプによって外部に逃がしています。店舗などに設置させている大型の冷蔵庫は、逆カルノーサイクルに類似する熱サイクルを利用したヒートポンプが採用されていますよ。

一方で、家庭用の小型冷蔵庫では、熱電変換材料のような熱サイクル以外の新技術をヒートポンプとして採用しているものもあります。このことから、ヒートポンプの技術が日々進化していることも伺い知れますよね。

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エコキュート:省エネ技術を詰め込んだ給湯器

image by iStockphoto

エコキュートをはじめとするヒートポンプ給湯器は、ヒートポンプで外気の熱エネルギーをタンク内のお湯に送り込んでいます。実は、ヒートポンプ給湯器は省エネルギー技術として注目されていますよ。

ヒートポンプ給湯器が登場する前に存在した電気温水器に比べて、著しく省エネルギー性能が向上しているのです。同じだけの電気エネルギーで、電気温水器の約5倍のお湯を温めることができるのがヒートポンプ給湯器ですよ

逆カルノーサイクルについて学ぶ意義

この記事では、逆カルノーサイクルのメカニズムについて述べた後、それと関係性の深いヒートポンプという技術について説明しました。ヒートポンプは、省エネ技術として注目が集まっています。そして、今後も脱炭素の文脈で、ヒートポンプの需要はさらに高まっていくことでしょう。

このようなトレンド技術の基礎になっている逆カルノーサイクルについての知識を身に着けることは決して無駄になりません。ぜひこの機会に、逆カルノーサイクルについて学んでみてくださいね。

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熱力学物理理科

3分で簡単逆カルノーサイクル!省エネ技術であるヒートポンプとの関係性は?現役理系学生ライターが詳しくわかりやすく解説!

今回は「逆カルノーサイクル」について解説していきます。

逆カルノーサイクルは、数ある熱サイクルのうちの1つです。この用語は熱力学を学ぶと必ず目にするでしょう。実は、カルノーサイクルの理論がエアコンや冷蔵庫といった身近な家電製品にも応用されていることを知っているでしょうか。ぜひこの記事を読んで、逆カルノーサイクルについて理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

逆カルノーサイクルについて学ぼう!

今回の記事におけるメインテーマは「逆カルノーサイクル」です。この言葉は熱力学で用いられる専門用語ですよ。このように聞くと、逆カルノーサイクルの概念は多くの人にとって無縁の存在であるように思われますが、実は身近な技術を支える理論でもあります。

本記事では、最初に逆カルノーサイクルの概念を丁寧に説明しますよ。その後、逆カルノーサイクルと関係の深い「ヒートポンプ」という技術について深堀りしていきます。それでは、早速解説をはじめていきますね。

カルノーサイクルとは?

カルノーサイクルとは?

image by Study-Z編集部

頭文字に「逆」と付いているので、当然ながら「カルノーサイクル」という概念も存在します。最初は、このカルノーサイクルについて説明しますね。カルノーサイクルは最も理想的なエンジンにおける熱サイクルのことを指します。エンジンは熱エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です

最も理想的という表現を用いたのは、カルノーサイクルのエネルギー変換効率は理論上で最高のものではありますが、その効率を実現するエンジンが実在しないからですよ。つまり、カルノーサイクルは思考実験における仮想的な熱サイクルなのですね。

逆カルノーサイクルとは?

逆カルノーサイクルとは?

image by Study-Z編集部

逆カルノーサイクルは、カルノーサイクルのプロセスを逆運転させたものになります。したがって、逆カルノーサイクルはカルノーサイクルとは真逆の性質をもちますよ。逆カルノーサイクルでは、運動エネルギーから熱エネルギーに変換します

また、運動エネルギーが熱エネルギーに変換される現象には摩擦などがありますが、それと逆カルノーサイクルには違いはあるのでしょうか。実は、逆カルノーサイクルには、可逆性という特徴があります。この点が摩擦と逆カルノーサイクル大きな違いですよ。

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