この記事では「朝駆けの駄賃」について解説する。

端的に言えば「朝駆けの駄賃」の意味は「かんたんにできる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「朝駆けの駄賃」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「朝駆けの駄賃」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「朝駆けの駄賃」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「朝駆けの駄賃」の意味は?

「朝駆けの駄賃(あさがけのだちん)」には、次のような意味があります。

朝早く走らせる馬は元気よく、少しくらいの荷物はなんとも思わないということ。たやすいことのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「朝駆けの駄賃」

この言葉は「物事が簡単である」ことをたとえて言う慣用表現です。「駄賃」とは「ついでの苦労で得られるちょっとしたお金」のこと。「価値が低いもの」とも言えるので、「メインの仕事ではなく、片手間に出来るような簡単なこと」というニュアンスで理解してください。

また、もしかすると似た言い回しを聞いたことがある人もいるでしょうか。「行き掛け(ゆきがけ)の駄賃」というものです。こちらは、「何かをするついでに、別のことも済ませてしまう」という意味の言葉。

「朝駆けの駄賃」はこれをもじってできたものとも言われていますが、語感がよく似ているために混同しないように注意してください。「行き掛け」とは「どこかへ行くついでに」という意味。では「朝駆け」はどのような意味でしょうか。想像してみながら、次の語源の項で確認してください。

「朝駆けの駄賃」の語源は?

次に「朝駆けの駄賃」の語源を確認しておきましょう。「駄賃」については先に述べましたが、もう一つ「荷物を運んだ時に得られる賃金」という意味もあります。これは、荷物を運ぶ馬のことを「駄馬(だば)」、またその荷物のことを「駄荷(だに)」と呼んだからです。

「朝駆け」は、その荷物を運ぶ馬などが文字通り「朝に走る」こと。まだ多くの仕事をしていない状態の馬は元気いっぱいであることが想像できますね。こうした解釈から、「朝に走る馬は活力があるので、荷物を簡単に運べる」という意味で使われるようになりました。

注意として、「行き掛けの駄賃」をもじったと言われるように、両者の意味は似ていて混同しやすい点があります。文脈的に「簡単なのでついでにやれてしまう」意味になることもありますが、「朝駆けの駄賃」はあくまで「簡単である」部分に重きが置かれていることを押さえてくださいね。

\次のページで「「朝駆けの駄賃」の使い方・例文」を解説!/

「朝駆けの駄賃」の使い方・例文

「朝駆けの駄賃」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.おじいちゃんにスマホの使い方を教えて欲しいと頼まれたのだが、僕にとってはそんなのは朝駆けの駄賃としか言いようがない。
2.全国大会に出場経験のある彼にとっては、うちのような弱小陸上部の朝練なんて、朝駆けの駄賃とでもいうべきものだったようだ。
3.中学生まで海外で暮らしていた彼女からしたら、クラス対抗の英語討論会なんてものは朝駆けの駄賃に過ぎないものだった。

「物事が簡単である、たやすい」というニュアンスが伝わりますでしょうか。この場合、「簡単」というのは単純な難易度の話だけではなく、「ある人にとっては難しいが、その人にとっては簡単だ」のように比較対象が登場する場合が多くあります。

たとえば例文の三番目なら、英語の討論が簡単なのではなく、英語を話せる彼女の特性や能力の高さについて述べることが文章の主旨になっていますね。逆に言えば、「僕たちにとっては難しい(が、彼女にとっては簡単だ)」ということが述べられている文脈でもあります。

英語の直訳のように意味をそのまま覚えようとするのではなく、何と何を比べてそれで何を言いたいのかに注目することで、理解度が深まり記憶に定着しやすくもなりますよ。

「朝駆けの駄賃」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

「朝駆けの駄賃」の類義語は「おちゃのこさいさい」を紹介します。

「おちゃのこさいさい」:たやすくできること

「おちゃのこさいさい」は、「たやすくできること」を意味する慣用表現です。割と耳にする言い回しかと思いますが、どうしてこんな意味になったのでしょうか。

「おちゃのこ」とは「お茶の子=お茶菓子」のことで、「お腹にたまらない」から。「簡単に消化できてしまう」とか「軽い」とかのニュアンスなのですね。「朝飯前(あさめしまえ)」などの慣用表現も、似た意味合いを持っていると言えるでしょう。

また、「さいさい」は、民謡などで使われる「お囃子(おはやし)言葉」で、リズムを良くするためのもの。こちらには特別な意味はありません。よく耳にするような言葉も、こんなふうにひも解いてみると面白いものですね。

\次のページで「「朝駆けの駄賃」の対義語は?」を解説!/

ラグビー部の彼らにとって、中華料理屋の特盛メニューを制覇するなんて、おちゃのこさいさいだった。

「朝駆けの駄賃」の対義語は?

「朝駆けの駄賃」の対義語には「大海を手で塞ぐ」を挙げてみます。

「大海を手で塞ぐ」:到底できないことをしようとする

「大海を手で塞ぐ」は「到底できないことをしようとする」ことをたとえた慣用表現です。これは読んで字のごとくでわかりやすいのではないでしょうか。海を手でせき止めることなんて、まず出来るはずがありませんね。「難易度が非常に高い・不可能である」というニュアンスが強く表れている表現です。

「~をしようなんて、大海を手で塞ぐようなものだ」と言った場合は、その無謀さに呆れていたり非難する意味合いを帯びてくることもあるでしょう。あまり好意的には使われない言葉と言ってもいいかもしれません。

なお「塞ぐ」は一般的には「ふさぐ」ですが、古い言い方では「せく(塞く)」と読むことも。余裕があれば覚えておくといいでしょう。

父親の残したかなりの負債を抱えた会社を一人でなんとかしようとするなんて大海を手で塞ぐようなもので、二代目社長は働き過ぎで体を壊してしまった。

「朝駆けの駄賃」の英訳は?

image by iStockphoto

「朝駆けの駄賃」の英訳は「a piece of cake」「a walk in the park」で表すことができます。

\次のページで「「a piece of cake」「a walk in the park」」を解説!/

「a piece of cake」「a walk in the park」

これらはどちらも「とても簡単であること、問題にもならないこと」を意味するフレーズです。

「a piece of cake」は直訳すれば「一切れのケーキ」。これを食べてしまうなんて「朝飯前!」というニュアンスでしょうか。「a walk in the park」なら「公園を散歩すること」ですから、こちらも「楽勝」ですね。会話でもさっと使えるような気軽な言い方で、ノリのよさも感じさせます。

長文読解のなかでもさらっと出てきたりもしますので、意識していないと「急にケーキの話が出てきた?」なんて混乱してしまうことがあるかも。頻出の表現のため、優先して覚えたいフレーズですよ。

・For her, traveling abroad alone was a piece of cake.
彼女にとって、外国を一人で旅することなんて朝飯前だった。

・Can you sing me a song?It's a walk in the park!
私に一曲歌えって?そんなの楽勝だよ!

「朝駆けの駄賃」を使いこなそう

この記事では「朝駆けの駄賃」の意味・使い方・類語などを説明しました。記事の中でも紹介しましたが、「簡単」という言い回しには色々なものがあります。挙げていないものであれば「屁のかっぱ」や「赤子の手をひねる」「ハードルが低い」など。

語源はわからず何となく聞いているような表現でも、不思議と文脈で意味が通じたりもしますね。自分も生活の中でささっと使ってみるのはいかがでしょうか。

" /> 【慣用句】「朝駆けの駄賃」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【慣用句】「朝駆けの駄賃」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「朝駆けの駄賃」について解説する。

端的に言えば「朝駆けの駄賃」の意味は「かんたんにできる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「朝駆けの駄賃」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「朝駆けの駄賃」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「朝駆けの駄賃」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「朝駆けの駄賃」の意味は?

「朝駆けの駄賃(あさがけのだちん)」には、次のような意味があります。

朝早く走らせる馬は元気よく、少しくらいの荷物はなんとも思わないということ。たやすいことのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「朝駆けの駄賃」

この言葉は「物事が簡単である」ことをたとえて言う慣用表現です。「駄賃」とは「ついでの苦労で得られるちょっとしたお金」のこと。「価値が低いもの」とも言えるので、「メインの仕事ではなく、片手間に出来るような簡単なこと」というニュアンスで理解してください。

また、もしかすると似た言い回しを聞いたことがある人もいるでしょうか。「行き掛け(ゆきがけ)の駄賃」というものです。こちらは、「何かをするついでに、別のことも済ませてしまう」という意味の言葉。

「朝駆けの駄賃」はこれをもじってできたものとも言われていますが、語感がよく似ているために混同しないように注意してください。「行き掛け」とは「どこかへ行くついでに」という意味。では「朝駆け」はどのような意味でしょうか。想像してみながら、次の語源の項で確認してください。

「朝駆けの駄賃」の語源は?

次に「朝駆けの駄賃」の語源を確認しておきましょう。「駄賃」については先に述べましたが、もう一つ「荷物を運んだ時に得られる賃金」という意味もあります。これは、荷物を運ぶ馬のことを「駄馬(だば)」、またその荷物のことを「駄荷(だに)」と呼んだからです。

「朝駆け」は、その荷物を運ぶ馬などが文字通り「朝に走る」こと。まだ多くの仕事をしていない状態の馬は元気いっぱいであることが想像できますね。こうした解釈から、「朝に走る馬は活力があるので、荷物を簡単に運べる」という意味で使われるようになりました。

注意として、「行き掛けの駄賃」をもじったと言われるように、両者の意味は似ていて混同しやすい点があります。文脈的に「簡単なのでついでにやれてしまう」意味になることもありますが、「朝駆けの駄賃」はあくまで「簡単である」部分に重きが置かれていることを押さえてくださいね。

\次のページで「「朝駆けの駄賃」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: